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AI WORLDーそれでも現実を選ぶー  作者: とっぽい
最終章 武道館ライブ

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第39話 紡ぐ未来

【天】

 ――武道館ライブ当日

『2.5次元☆電導娘。』の大きなホログラムが武道館前に映し出されている。人、人、人……相変わらず奏のアイドルユニットは大人気だ。


「いよいよだな」


 蓮がホログラムを見上げながら呟く。奏はすでに現地入りしていてライブの準備を始めている。蘭さんと虎もマネージャーを利用して先に現地入りをしていると連絡が入っていた。愛と翔さんはアイコーポへ再び行ってAWとの接続を試みると話していた。


「なんだか緊張してきたな」

「無理もない。誰かが失敗すると、世界の均衡が崩れる重大な仕事をするんだから」

「……いざ言葉にすると、とんでもないことをしようとしてるんだな、俺ら」


 蓮が言っていることは大げさではない。ライブが中止になれば、奏の言葉は誰にも届かない。そうなれば、人間とAIの入れ替わりは止まらない。……世界は静かにAIへ置き換わっていく。


「俺たち以外の人たちはどういう反応をするんだろう」

「さあ。人って言うのは多種多様だ。ただ、奏はAIと人間の架け橋だからな。奏が一番響く言葉をみんなに伝えられると思う」


 蓮はこういう時でもマイペース。でも、今はそれが心強い。


「それより、蓮。リュックなんて背負って大荷物じゃないか?」

「ふ……。保険というやつだ」

「……?」


【愛】

「またここに戻ってくるなんて」


 機械たちのファンの音が規則正しく聞こえる。あちこちに見えるモニターは意味不明な文字列や数列が並んでいる。そして。人一人入れる機械が、ドーム状の大きなハードディスクを中心として円状に並んでいた。数週間前と変わっているのは、人一人は入れる機械には誰も入っていないこと。ドーム状の大きなハードディスクに多くの人の意識が取り込まれているのだろう。翔さんは自分のノートパソコンとハードディスクを繋げて作業をしている。


「まさか、こんな形でここに戻ってくるとは思っていなかったな。……怖いか?」

「……ううん。私、もう覚悟は決めてる」

「いい顔つきになったな。愛ちゃん」

「翔さんもね」


 私と翔さんはにやりと微笑み合う。ここまで来るのに、AWのことAIのこと現実で生き続けるということ……悩んで、悩んで、悩み抜いた。一度はAWに逃げたいとも思った。お父さんの気持ちが痛いほど理解できた。……だけど、そんな経験をした上でも私は。両手の拳に力を入れる。そして、ドーム状の大きなハードディスクを見つめる。


「……待っててね。お父さん」


【虎】

「なぁー蘭。ライブってなんだ」

「歌って踊るキラキラしている子たちを眺める会かしら?」


 オレたちは武道館を一望できる三階の立見席と言うところに案内された。マネージャーとやらは、すっかりオレたちを怖がって言いなりになっていた。


「今日は立見席を貸し切っているので好きに使ってください!」

「いい子。……ところで。なんで嵐山管理者は私のクリニックに来たのかしら」

「はっ?! あ、あれは仕方なく、教えないと、家族が!」

「おどれ、言い訳ばっかりしやがって。ええ加減にせぇよ」


 蘭は車いすを漕ぎ、マネージャーを壁へ追いやる。車いすに乗ったままなのに、なんでそんな殺気出せるんだコイツは。慣れた手つきで注射器を出し、マネージャーの首元に針を這わせる。


「ライブ中も、助っ人してくれたら許してあげるかもね?」

「はいっ! よろこんで!」


 くぁー。オレは長い欠伸をする。……なんでオレ、ここにいるんだろう。嵐山とオレのAIと決着はついたし、天たちに関わる理由がもうないんだけどな。


「蘭は、何でまだ天たちを手伝ってるんだ?」

「そうねぇ。天くんたちがいなければ、あのクソ野郎と決着つけられなかったからその御礼っていう意味もあるけれど」


 蘭は長い指を顎にあてて何か思いついたようだ。


「虎は何で手伝ってるの?」

「……何で? 何で……」


 胸の辺りが、なんとなく温かい感じがする。……あの時と同じ気持ちだ。


「手伝いたいと思った。あいつらなんか必死だから」

「あらあらあら」

「んだよ。気持ちわりぃ笑い方しやがって」

「……天くんたちに出会えてよかったわね」

「……ん」


 何かよくわかんねぇけど。このライブって言うのが奏の思うような形で終わらせてやりてぇなって思った。


【奏】

 ……深呼吸。ライブ前にはいつもやっている。私の言葉は世界中の人に届かせなくてはならない。これはもう、私だけの問題じゃないから。みんなが、私をここまで連れてきてくれた。私ひとりじゃ何もできなかった。数日前までは、重要なことは何もできない何も話せないただのお人形だったのに。


「……夢みたい」


 昨日はみんなが前夜祭を開いてくれた。昨日は、はしゃぎ過ぎたせいか100枚以上も写真を撮っていた。私は、昨日の写真を一つ一つ確認していく。


「蘭さんと翔さん……夫婦みたい」


 翔さんが皿洗いをして、蘭さんが料理を作ってる写真。夫婦なんて言ったら、翔さんは勘弁してくれって言うだろうな。蘭さんは、喜びそう。


「蓮と虎……蘭さんを寝かせて、手術してるふりなのかな、これ?」


 そういえば天が、蓮が手術の助手をしてたって言ってたっけ。あれ、冗談じゃなかったのかな。


「天と愛ちゃん、なんか言い合ってたような気がするけど楽しそう」


 ちょっとだけ胸がチクっとしたのは、たぶん気のせい。


「そして最後はみんなで撮ったんだよね」


 私は、この人たちとこれからを生きていきたい。


「……行きます」


 大丈夫。みんながついている。私だけじゃない。


「見ててね、あなたが生きられなかった未来を私が紡ぐから」




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