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AI WORLDーそれでも現実を選ぶー  作者: とっぽい
第5章 譲れないもの

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第37話 決戦前夜

【天】

 武道館ライブを明日に控えた俺たち。奏は何を言うか、まとまったようだ。みんな浮足立っているようでソワソワしている感じだ。

「今日の夕飯は、決戦前夜と言うことで豪華にしようかしら」

「肉」


 蘭さんの提案に虎が食い気味にリアクション。蘭さんがみんなの意見も聞かないとね、と虎を宥めている。


「甘いもの食べたいなぁ。ケーキとか」

「愛ちゃん、それ最高! 私はモンブランがいいな」

「じゃあ私はチョコレート系のケーキ!」


 女子がキャッキャと盛り上がっている。すっかり愛と奏は意気投合したようだ。


「天くんは?」


 一瞬、蘭さんの姿が死んだ母さんと姉ちゃんと重なる。あの日、食べられなかったハンバーグをふと思い出した。


「ハンバーグ……かな」

「わかったわ。じゃあ作り始めるわね」

「蘭さん、まだ立ったらダメですよ」

「……みんな頑張ってるのに、私だけ寝てるなんて性に合わないの。食事くらい作らせてちょうだい」

「蘭、座ってろ。オレがやる」

「虎。あなたこそ左腕ヒビ入ってるんだから無理でしょ」

「……ッチ」


 虎がふてくされてソファに寝転がる。頭に包帯を巻き、左腕を三角巾で吊り下げている。今ここにいるメンバーで一番の重症だけど、普段と変わりなく動いているのがさすがだ。


「蘭さん。料理教えて。私と奏ちゃんでやってみるよ!」

「わぁ。楽しそう! 蘭さん、教えて!」

「あらあら。娘が一気に二人も増えた」


 女子二人と蘭さんの周りに花のエフェクトが見える。……そして、虎の周りはなんかジメっとしてるな。うわ、ソファの革むしってる。俺の横をすぅっと翔さんが通る。虎の頭をぐしゃっと撫でまわす。


「ほら、ウジウジしてないで女子が希望しているケーキでも買いにいくぞ」

「あー。めんどくせぇ。オレはヒビ入ってるから動いちゃダメなんだぜぇ」

「左手以外は動かせるだろ。ほら、行くぞ」


 翔さんと虎は出かけて行った。相変わらず翔さんは気遣いの人だなぁ。


「蓮、俺たちは何する?」

「僕は、前の買い物で買ってきた本を読む」

「いや、手負いの蘭さんや虎が動いてくれてるのに俺たちだけ何もしないって言うのも」

「天も怪我だらけだろう。虎に引きずられた時の全身打撲。嵐山とひと悶着あった時も全身打撲。そして虎が暴走した時に肋骨に一発」

「……人から言われたらなんか、すごい痛くなってきた気がする」


 蓮は、ふぅ、っと小さくため息をつき本を閉じる。


「女子たちに何か手伝えることはないか聞いてくる」

「蓮に……社交性が」

「失礼だな。僕にだって社交性の一つや二つある」

「社交性を数えるやつ初めて見たよ……」


 蓮は愛と奏に話しかけに行った。俺は遠目に台所の様子を見る。蓮が何やら料理を手伝っているようだ。あれよこれよとエプロンまで着させられている。あ! 効率的じゃないとか言い始めた! ……さすが蘭さん。いい感じに蓮を言い包めている。さすがいつも虎のことを相手にしているだけあるな。

 俺は一通り観察したあと、ソファに座りなおす。さて、俺はテーブルでも拭いてカトラリーの準備でもするかな。


 みんなで食後のケーキも食べ終わり、自由行動をしていた。そんな中、愛がスマホの画面を見て神妙な顔をしているのを見かけた。

 ……嫌な予感がよぎる。


「愛? どうした?」

「あ。天。えっと……。ちょっと来て」


 歯切れが悪くいつもの愛らしくない。何かを隠そうとしている? 愛に誘われ、個室へ移動する。すると、愛はスマホの画面を見せてくれた。スマホを覗くと、愛のお父さんからのメッセージが届いていた。


「今から会いたい、か……」

「天、どうしよう」


 普通に考えたら、間違いなく会わない方がいい。愛のお父さんの意識は今AWに行っていて、愛のお父さんの体を動かしているのはAIだから。危険なことに巻き込まれる可能性が高い。


「愛は、どうしたい?」


 愛は困ったように俯き、しばらく黙り込んだ。でも、答えは既に決まっているようだった。


「会って話したい。危ないのは分かってるけど」

「そっか。じゃあ、俺もついていく。一人じゃさすがに危ないから」

「……ありがとう」

「あとは、みんなの意見も参考にしよう」


「誠一から今から会おう……か」


 翔さんが煙草をふかしながら腕組みをして難しい顔をしている。


「お父さんが今、何を思っているのか知りたいの」

「分かった。会いに行ってもいい。だけど、すぐに逃げられる場所、人目が多い場所が最低条件だ。カフェのテラス席とかいいんじゃないか」

「じゃあ、お父さんにそういう条件でメッセージ送ってみるね」

「……俺も近くのパーキングで車内待機する。何かあったら連絡よこしてくれ」


 さっきまでの賑やかな雰囲気が一気に重たいものになった。


「翔さん。テラス席だったら俺は愛たちから二卓くらい離れたところで待機するよ」

「天は誠一に顔ばれしていないからな。それでいい」

「あとは男が一人テラス席って言うのも少し浮くかもしれないから……」


 奏と虎と蘭さんはアイコーポ関係者だから……。


「蓮、一緒についてきてくれ」


 蓮は周りを見渡し、なるほど、と呟く。愛のスマホのメッセージ音が鳴り、全員が愛に注目する。


「お父さんから返信きた。今から向かうって」

「じゃあ、天と蓮と愛ちゃん。行くぞ」


 決戦前夜。静かには終わらないようだ。





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