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AI WORLDーそれでも現実を選ぶー  作者: とっぽい
第4章 仲間と信頼
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第30話 AW-40

【天】


「はぁ……。人が良い気持ちで仮眠をとっていたのにお前らは何をしてるんだ」

「まぁまぁ。子どもは元気なのが一番よ」


 遅れて翔さんと蘭さんが非常口から現れた。翔さんが気だるそうに話す。


「……不死身だの蘇るだの聞こえてきたが?」

「バックアップを取ってるから、この体が壊れても何度も蘇れるんだって」


 愛が翔さんに説明をする。長いため息が翔さんの口から流れ出た。


「そうか。また、俺の開発した技術が悪用されているというわけだな」


 翔さんが生気のない目で校長を見下す。翔さんはずっと後悔していた。社長を止められなかったこともそうだけど、翔さんのことだからきっと奏のことも虎のことも自分の技術のせいで、と罪悪感があるのだろう。


「そういう使われ方をするのは開発者として遺憾に思う」


 校長は翔さんの思いつめた顔を見てニヤニヤとしている。


「だから俺は責任を取る」


 翔さんは持ってきたノートパソコンを開き、画面を指で払うとホログラムが校長の目の前に現れる。


「見覚えあるか?」

「……っ!?」


 校長の顔が一気に青ざめる。体を動かそうとしているようだが、スタンガンの電撃を食らったせいか動けないようだ。


「今俺はアイコーポの管理しているサーバーに自由に入れるようになっている。様々なフォルダがある中、技術者では絶対につけないような馬鹿みたいな名称のフォルダがあってな」


 校長は何か言いたいようでスタンガンをモゴモゴし、吐き捨てる。


「データはちゃんとバックアップとってるから大丈夫だし!」


 翔さんは表情を崩さず淡々と言う。


「命は一つだ。強くてニューゲームも許されん。そして、お前を殺すことも俺たちはしない。お前のAIデータは消去だ。今後、アイコーポのシステムに干渉することも出来なくした。その不自由な体で生き続けるんだな」

「は? 何勝手にしてくれてんの? この人でなし!」

「人でなし? どの口が言ってるんだ。生きて、償え。その死ねない体でな。また悪さをするようであれば、今度は奏ちゃんにしたように思考のブロックもしてやるからな」

「あ……、はははははは」


 ショックで気が動転してしまったのか、急に笑い出す校長。それを黙って見つめる俺たち。数十秒笑い続けただろうか。ピタリと笑い声が止まる。


「AW-40!!」


 校長が叫び声をあげる。その瞬間、黒い影が俺たちと校長を隔てる。その黒い影を見つめていると俺たちが良く知っている金色の目と、目が合った。

 黒い影は校長を拾い上げ、非常階段の手すりの上に立つ。

 はらり、と。その人物のフードが脱げ、顔貌が露わになる。


「あー? どういうことだ」


 金色の瞳。金色の髪の毛。小柄ながらも無駄のない筋肉質な体型。

 見知った人物、だけど——。

 こんなに冷たい雰囲気をまとった男を俺は知らない。


「と……………虎?」

「ここで最高傑作の登場よ! 虎こと実験体AW-40です!」


 突然のことで理解が追い付かない。虎が二人いる? どうして?


「嵐山……! あの時、虎の意識をコピーしたのね!」

「正解! さすが蘭先生。理解が速いわね」


 俺の頭の中で、児童養護施設の研究所でケーブルが虎の頭に突き刺さった時のことが思い出された。


「いやー、結構前から虎AIは稼働していたんだけどね。どうも運用がいまいちで。研究所にあなた方が侵入してきたときにピーンと思いついちゃった。戦闘だけ学習させれば最強になるって!」

「嵐山……あんた、どこまで性根が腐ってるのよ! 虎も……! そんな奴の言うこと聞いてるんじゃないわよ!」


 蘭さんの悲痛な声が虎……、虎のAIに向けられる。だけど、虎AIは眉一つ動かさない。まるで、人形のようにただ俺たちを黙って見ている。


「無駄よ。思い出なんて弱点になるだけじゃない? だから全部消してあげたの。戦うには邪魔だし。必要なのは怒りだけ。 あー、でも断片的にはもしかしたらね? 思い出とか記憶なんて曖昧なものだから雑に扱ってます」

「このクソ野郎っ……!」


 蘭さんは車いすから立ち上がろうとする。まだ傷がふさがっていないのに。壁や手すりを伝いながら一歩ずつ校長と虎AIの元へにじり寄る。


「蘭、よせ。傷口が開く」

「……っ」


 虎は蘭さんを抱きかかえ、再度車いすに座らせる。蘭さんは奥歯を噛みしめ、校長のことを鋭い眼光で睨みつけている。


「気に食わねぇな。オレがクソ野郎の言いなりになってるのを見るのは」


 ポーチからメスを出し、クルクルと回す。月明かりに照らされ、メス刃が鈍い光を煌めかせる。メスを再度握りしめたと同時に床を激しく蹴り上げる音が聞こえてきた。

 虎は瞬く間に虎AIとの間合いを詰め、メスを後方に引き、突きの体制をとる。

 虎にそっくりな声が場に落ちる。


「オレは機械だからまずは壊しやすい目を狙うんだろうな」


キィンッ!


 虎が持っていたメスが弾かれる。

 弾かれた音が聞こえた同じタイミングで俺の真横に虎が吹き飛んできた。咄嗟に俺は片腕で虎のことを止めようとするが道連れになる形で壁に激突する。


「ぐっ……あ」

「痛っ……! 虎、大丈夫か!?」


 短い悲鳴。だが、虎はすぐに体勢を立て直し、口から伝う血を拭う。


「バケモンかよ……」


 虎AIは俺たちを一瞥し、この場を去ろうとしていた。


「待てよ。どこ行くんだ」

「ここは狭い。やるなら広いところで殺し合おうぜぇ」


 殺し合い……って。何でそんなことやる必要があるんだ。虎AIは生気のない瞳で虎を見つめる。


「お前は何で全部持ってんだ。蘭も、仲間も、居場所も」

「あー? 嫉妬かよ」

「気に食わねぇ。一番気に食わねぇおめぇをぶっ殺してから、他の奴らも八つ裂きにしてやる」

「……そんなことさせるわけねぇだろ」

「廃墟だ。明日の日付が変わった頃、来い」


 虎AIはそう言い残すと、校長を抱えたままネオン街へと落ちていった。

 肌寒い夜風、重い静けさだけが残る。虎の金色に揺れる髪の毛をただ俺は黙って見ていた。

 俺は何も言えなかった。あれは虎じゃない。

だけど、あれは紛れもなく虎だった。

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