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AI WORLDーそれでも現実を選ぶー  作者: とっぽい
第3章 心の在処
22/46

第22話 俺が*した

※AI生成した挿絵があります。

【天】


「児童養護施設の件があって聞きそびれていたんだけど、何であなたたちは警察に追われていたの?」


 朝ごはんを食べ終え、蘭さんが話し合いたいことがある、と呼ばれ処置室にみんな集まっていた。


「えっと、それは……」


 翔さんの方を、俺、愛、蓮の三人でチラッと見る。

 翔さんは深いため息をつきながら頭をボリボリとかいていた。


「奏ちゃんのことがAIだということは分かっていた。だから、AIの動きを無力化する妨害電波を出したんだが。それが悪かったみたいだ」

「あらあら。翔でも失敗することがあるのね?」

「最近は失敗だらけで嫌になります」


 自嘲しながら煙草に火をつけ、深呼吸をする。ふぅ……と煙草の煙を吐き終わり、翔さんは続ける。


「アイコーポのこと色々聞けると思ったんだがな」

「よく奏ちゃんのことを呼び出せたわね。あの子、有名人でしょう?」

「天と、蓮の幼馴染なんですよ」

「アイドルの奏ちゃんと天くんと蓮くんは幼馴染、ね……」

 蘭さんの表情が歪む。


「……いつから幼馴染なの?」

「幼稚園の頃からずっと3人で遊んでいたんだ」

「……そう」


 蘭さんのアメジスト色の瞳が揺れる。紅茶を一口飲み、最適な言葉を選んでいるかのように目を瞑る。


「……奏ちゃんは児童養護施設出身よ」

「それは知ってます」


 奏は里親に育てられている。児童養護施設……。児童養護施設? 直近で行ったあの児童養護施設のことが頭に浮かんだ。


「児童養護施設ってまさか」

「そう、昨日行った児童養護施設よ」


 頭の中の血の気が一気に引いたのが分かった。今までの出来事から最悪なパターンを安易に想像できたからだ。

 蘭さんは切なげな表情をしながら続ける。


「……私が知っている限りでは、人間として生まれた子ではない」

「アイコーポはなぜ、奏を人間の中に投じたんですか」


 蓮がすかさず質問する。


「AIが人間と同じように日常を過ごしたらどうなるかの実験に使われていたわ」

「……奏は。一緒に遊んで、一緒に笑って……」


 俺は思い出の中の奏を一つ一つ思い出していた。どれも作り物には思えなかった。喜怒哀楽がころころと変わるどこにでもいる女の子。


「……奏は自分のことAIって理解していたんですか?」


 俺が動揺しているのを見かねて、蓮が続けて質問してくれる。

 蓮の表情は平然としているようだが、声色に若干の焦りを感じる。


「それは分からないわ。ただ、何らかの違和感はあったのかもしれないわね。アイコーポは情報を保存するためにAIを定期的に研究所に呼び出していたから」

「全然気づけなかったな……」


 蓮が眼鏡の位置を直しながら俯く。




ドクン


 心臓が強く脈打つ。


 頭の中のノイズが、少しずつ晴れる。

 争う声、物音、夜、ベランダ。

 ……逆さまの奏。


 地面に痕跡がない。


「……そうか」


 痕跡がないのは人形だったから。

 逆さの奏が最後に笑って。


「…………そうだったんだ」


 思い出せ。思い出さなきゃいけない。

 俺はあの日奏を守るって決心した。


 視界が揺れる。息がうまく吸えない、吐けない。誰かが何か言っている。

 聞こえない。聞こえない。聞こえない。

 視界が暗転していく。


「ダメだ」

「……っ!?」


 真っ暗な暗闇の中に一つ、扉がある。

 その扉の前に俺自身が立っている。


「思い出したらダメだ」

「なん……で」


 扉の前の俺は続ける。


「壊れてしまうから、鍵をかけて開かないようにしていたのに」

「それでも……」


 俺は自分自身を退ける。


「それでも……!」


 俺は重厚感のある扉を、全体重を乗せて思い切り引く。

 嚙み合わせが悪い蓋のように中々開こうとしない。

 それでも俺は、必死にドアノブを引く。


ガッ……ガガッ……ガガガッ……。


 やっとわずかに開いた。その扉の隙間から、奏が見えた。





 ——バイバイ。天。


 笑って、泣いて……こっちに手を伸ばしていた。

 助けを求めていた。いつから、助けを求めていた?


『本当はね、アイドルなんてやりたくないんだよ。周りがやれって言うから』


 奏は。


『でも、みんな応援してくれるからなぁ。頑張んないとだよね』


 奏は奏は。


『……私もしかしたら、ね』


 奏は奏は奏は。


『……そうだよね、話してみないと何も変わらないよね! 今日、話してみる』

 

 奏は。

 奏は。

 奏は。

 奏は。

 奏は。

 奏は。


 奏は……。


『天。ありがとう』


「——っあ、ア、あアああ、あああアアあああアアあアああアアああっ!!!」


プツンッ


 電源をオフにしたかのように意識が途絶え、真っ暗闇の中に吸い込まれていく。落下しているようでもあり、浮いているようでもあるどちらともつかない感覚。

 奏の笑った顔がいつまでも俺の脳裏に焼き付く。小さい頃からの一つ一つかけがえのない思い出が走馬灯のように蘇ってくる。


 真っ暗闇の中で、俺の声が反響して聞こえてくる。


「だから、言ったのに」




 奏は。




——俺が殺した。

挿絵(By みてみん)





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