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AI WORLDーそれでも現実を選ぶー  作者: とっぽい
第1章 仮初の幸せ
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第2話 違和感

【天】


「ただいま」

「おかえりー。天」

「姉ちゃん……また出勤前から飲んだくれてるのか?」

「えへへー。お酒大好きなんだもーん」


 夕飯のいい匂いとアルコールの匂いが同時に鼻腔を刺激する。今日はカレーか。   

 いつも仕事前にご飯を作っていってくれる姉ちゃんには頭が上がらない。でも、毎日出勤前から酒を飲んでいる姉ちゃんの体がいつも心配だ。ザルだから大丈夫とは言っているけど。


「天ー? もしかして、また痩せたんじゃない?」

「なんか最近食欲がわかなくてさ」


 常時寝不足のせいで、最近は食事があまりとれていない。姉ちゃんを心配させたくないから出された食事は摂るようにしているけど……。姉ちゃんにはお見通しのようだ。


「悩みがあるなら言いなさいよ? 隠し事はダメだからねぇー」

「大丈夫だよ。本当にちょっと具合悪いだけなんだ」


 この家に親はいない。姉ちゃんと俺だけだ。姉ちゃんは俺に大学に通って欲しいらしく、高校卒業後は夜の仕事を頑張っている。元々聞き上手で愛想もいい姉ちゃんは、今では副店長を任されているらしい。


「……そっかぁ。無理しないでね。じゃ、行ってくるからね」

「うん」

「姉ちゃんはいつでも天の幸せを願っているからね」

「……? うん」


 玄関のドアが閉まり切るまで心配そうな表情を俺に向けていた。


ガッ!


 閉まりかけの扉を姉ちゃんの手が阻止する。


「姉ちゃん?」


 忘れ物か? 扉が少しだけ開いて、姉ちゃんの片目だけがこちらを覗いている。


「天、もし辛いなら」


 姉ちゃんの目が見開いていて不気味さを感じる。


「『AW』へ行けば解決するから」


 聞き慣れないワードだ。A……W? その言葉を言い終えると姉ちゃんは扉を閉め仕事へ向かってしまった。なんなんだ、AWって。


「……っ」


 頭が鉛のように重い。……はぁ。心療内科とか行った方がいいのかな。

 手持無沙汰になり、おもむろにテレビをつける。バラエティー番組に奏が出ていた。

 ……どこからどうみても奏、だ。笑い方、仕草、本当に困ったときの動作、癖。奏だ。奏、なんだけど。


「あの夢のあとから直接奏には会ってない……よな」


 あまりにもあの夢を反芻して見るものだから、何とかしなくてはならないという焦燥感が日に日に募っていく。だけど、奏に会ったところでどう会話を切り出して良いものかと悩んでいたら、ずるずると今日まで引き延ばしてしまった。

 奏はアイドルになってからライブの予定があると必ず俺と蓮にチケットを送ってくれる。


「……。会いに行ってみるか」


 俺は蓮へLINEを送った。


「それにしても、眠い、な」


 ご飯食べないと、姉ちゃん……心配する……。でも、眠……い。

 俺は微睡に負けてソファで寝息を立てる。再び目覚めたのは深夜だった。




「まさかお前からライブに行こうなんて誘いがあるなんてな」

「蓮が忙しそうだから、最近は中々誘えずにいたんだよ」


 ライブ会場。俺たちは関係者席で奏の登場を待っていた。


「忙しそう、って僕がいつ忙しくしていた?」

「いや、だって生徒会に入ったり部活だってやってるから忙しいだろ?」

「それはお前の思い込みだろう」

「むむ」


 こっちは気を遣ってやってるのに、と言いたかったが言い負かされるのが関の山なので言い返すのをやめた。悪いのは俺ですよー。


パッ……


 ドームの照明が落とされる。


——静寂。


「みんなー! 来てくれてありがとうー!」


 元気な声と共に照明が再びつく。瞬間、大観衆の熱狂。久しぶりのライブ観戦だが昔よりもファンが増えて、歓声でドームが揺れている。


「昔よりファンが増えてすごいことになっているな」

「鼓膜が破れそうだ……」


 呆気にとられながら奏たちアイドルグループを見つめる。

 アイコーポ。今や知らない人間はいない。医療、教育、娯楽——、AIが関わるもの全てにその名前があった。

 その会社が手掛ける2.5次元アイドルユニット『2.5次元☆電導娘。』。ホログラムやAIを合わせて歌って踊る。生身の人間とAIが半々の編成。


「MAMEちゃああああああん!」

「YUNOーーーーー!」


 近くの観客がホログラムのAIに向かって名前を叫んでいる。画面越しでもない。実体すらない存在に、皆熱狂していた。

 俺はどうもこのホログラムに心酔できる人たちのことを理解できずにいる。ホログラムの笑顔は一切乱れない。呼吸も、汗も、疲労もない。完璧すぎて、どうしても俺は不気味でたまらなかった。


「いまだに信じられないな。この技術は」

「蓮は、どう思う?」

「技術面のすごさは称賛にしか値しない。だが……」


 蓮は眼鏡の位置を直しながら言葉を選んでいるようだった。


「AIをどこまで進化させるのか。……このまま安易に日常に溶け込ませていいのか疑問はあるがな」


 そう。みんな当たり前のように受け入れている。便利な世の中にはなった。

 AIが何でも教えてくれる。AIが何でもしてくれる。でも、それって、それでいいのかなって思うんだ。


「その内、AIの方が偉くなって人間が淘汰されるかもな」

「そんな、SF映画みたいな」

「現に、AIに仕事を奪われている人たちもいるじゃないか」

「うーん」


 せっかく大人気の2.5次元アイドルユニットを見に来ているのに無粋な話をする。ライブに集中しないと、な。

 煌びやかな音楽を聴きながら、さっき蓮が言った言葉が頭の中で反芻する。




——AIの方が偉くなって人間が淘汰されるかもな。






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