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AI WORLDーそれでも現実を選ぶー  作者: とっぽい
第3章 心の在処
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第18話 狂人②

【天】


「……あなたは、誰?」

「お前の高校の生徒だよ」

「あぁ……」


 校長はまるで興味を示さない冷めた目で俺を見る。


「東雲高校、ね。生徒や教員が思ったより早くAIに入れ替わったから、あまりにも詰まらなくて。ほら、こういうのって少し躓いた方が面白いじゃない?」


 ……あまりにも詰まらない? 躓いた方が面白い?


「ところであなたはAIじゃないの? どうして? AW行きたくないの?」

「……黙れ」


 腹の奥から自然に出た。嫌悪感丸出しの本音。


「お前は、何様なんだよ」


 感情は滾っているが、頭は氷水をぶっかけたようにひどく冷たい。


「人の心を何だと思っているんだ」

「何って……」


 校長は小首をかしげて言う。


「研究対象?」


 こいつは壊れている。一般的な倫理観が通用しない相手。話を重ねる度に生理的に拒絶していく。


「愛のお父さんは確かに行き過ぎたことをしているかもしれない」


 愛は俯いたままだ。


「だけど、それは愛のお父さんなりの正義なんだよ」

「正義? カッコいい言葉ですこと」


 校長は退屈そうにあくびをしている。


「そこまでの考えになるまで、いろんな葛藤があったんだと思う……」


 一人娘を現実に置き去りにするほどの葛藤。それは俺たち部外者が口出せない何かがあったんだと思う。


「それを赤の他人のお前が遊び半分で触れていい問題じゃない!」

「あらー。カッコいいナイト様ね」


 パチパチと小馬鹿にしたように拍手をする校長。


「でも、私は少し背中を押しただけなのよ?」


 全く悪びれる様子がない。


「奥さんがなくなって1か月くらいたった後かな。深酒していてね。奥さんにまた会いたいって言ったの」


 ケタケタと笑う姿は悪魔のようだ。


「だから、私、言ったのよ。社長にはAWがあるじゃないですか、って! そうしたら、階段を転げ落ちるみたいに勝手に事態は悪化!」


 感情が高ぶっているのか、どんどんと大きな声になって耳障りだ。


「……はぁ。人間の心ってやっぱり面白いな、って勉強になっちゃったの」

「人の弱みに付け込んで、何が楽しいんだよ! お前のせいで、愛も、愛のお父さんも……その他大勢も大変なことになってるんだぞ!?」

「……大変なこと? みんな全部選択してやっていることじゃない」

「ふざけるな……! お前が選択せざるを得ない状況に追い込んだんだろうが!」


 あまりにも見当違いな自論を並べ、自分勝手。

 俺の頭の中がドクドクと脈打つのが分かるくらい怒りを抑えれなかった。


「……天、もう、いいよ」


 愛が俺の手を弱弱しく握る。その目にいつもの力強さはなく、今にも消えそうなほど儚げな目の光だった。


「お父さんはAWがいいんだよ。……じゃあ、私もAWに行けば全部丸く収まるんじゃないかな」

「……!」


 愛の意識が混濁していることに気づく。俺の意識がアイコーポのハードディスクに意識を持っていかれた時と同じ!


「だって、もう、お父さんは帰ってこない……。それなら、私が今していることって全部無駄だよね」

「それは違う!」


 愛の肩をぎゅっと掴む。


「愛、俺に言ってくれたよな。偽物に縋ったところで未来はない。って」


 愛は遠くを見ている。AWの情景でもみているのだろうか。


「愛はお父さんの目を覚まさせるために今まで頑張ってきたんじゃないか」

「……お父さん?」


 愛の焦点が定まらない。


「それに、俺……。愛がいなくなるなんて嫌だ。俺たちが足搔いてきた現実で、まだ愛と一緒にいたいんだよ」


 これ以上、誰かを失いたくなくて必死に訴えた。だけど、今言った言葉は全部本当に思っていることだ。


「……現実は辛いよ」

「辛くても、苦しくても、悲しくても」


 手を力強く握る。


「俺は、ずっと愛の隣にいるから! 俺はいなくならない! ずっと……支えるから!」


 だから……。お願いだよ、愛。


「……馬鹿」


 愛は、ふぅ……と息づく。


「私、プロポーズ受けてるの?」


 自嘲。でも、その瞳にはいつもの強い光が戻っていた。


「天、ありがとう。目、覚めた」

 

 愛は立ち上がり、校長のホログラムに言う。


「これは親子の問題よ。部外者は口出さないで」

 

 バッサリと切り捨てる愛。凛とした立ち居振る舞いはすっかりいつもの愛に戻っていた。


「せっかくAWに行けるチャンスだったのにもったいない」


 やれやれと首を振る校長。


「あ、娘ちゃんの絶望顔、傑作だったわー。久しぶり興奮しちゃった」


 校長はクルクルとその場で回って鼻歌を歌う。かと思えばピタッと止まって。冷めた表情をこちらに向ける。


「うーん。でもそれくらいか。これ以上あなた方と一緒にいても楽しめそうにもないし、そろそろお暇するわね」

「待て! 俺の姉ちゃんのことまだ聞いてないぞ!」

「あなたのお姉さん?」


 校長は頭に指をあてて考えているそぶりをする。


小鳥遊希たかなしのぞみ! 夜職をやってて……いつのまにか人形AIにされていた!」

「小鳥遊、希……。夜職……? あれあれ? 自己犠牲拗らせ女子のこと?」


 こいつは、いちいち人の感情を逆なでしてきやがる。俺は姉ちゃんの情報を聞くために怒りを必死に抑え、奥歯を噛みしめる。


「ちょっと待って? 何そんな怒ってるの? 私は助けてあげたのよ?」

「助けただと……?」

「そうよ。丁度、社長と私と他の幹部クラス何人かでラウンジに行った時の話。社長は奥さんに先立たれ泣き酒。ほかの幹部も酔っ払って寝たり吐いたりで、まぁまぁカオスな場だったわけ。まぁ、個室だったからアイコーポの痴態は世の中に漏れなかったんだけど」


 へらへらと笑いながら当時のことを話し出す校長。


「そんなカオスな場でさらにカオスなことが!」


 大げさに両手を広げる校長。まるで舞台役者のようだ。


「ラウンジって姉ちゃんが働いていたところ……?」

「そうそう。アイコーポ行きつけのラウンジ。いつも希ちゃんがついてくれてたのよね。なんか日に日に具合悪くなってるなぁ、と思ったらいきなり卓に突っ伏すんだものびっくりしたわ。なんか苦労してそうだったものね、あの子」


 校長から語られる姉ちゃんについての事実。だんだん自分の呼吸が浅くなっていくのが分かった。そんな俺の様子を見て校長はニヤニヤと笑い、捲くし立てるように話す。


「あー、なるほど。希ちゃんの弟くんがキミなのね? 天くんって言うのね? これは、あは、あはははは! 悲劇を通り越して喜劇ね! あはは、あははははははは!」

「姉ちゃんはその後どうなったんだよ!?」

「私たちの前で死なれたら面倒じゃない? だから私は聞いたのよ? 生きたい? それとも死にたい? って」

「そんな聞き方だったら……」


 姉ちゃんは生きたいって言うに決まっているじゃないか。俺のこと残して死ねないから! 自分は二の次の姉ちゃんだ。まさか、そんなことになっていたなんて。


「希ちゃん、あの時あのままだったら死んでたと思うけど? だから、私は親切に助けてあげたの。ねぇ? 私はキミに感謝されるべきだと思うんだけど? 小鳥遊天くん? お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございますーって。言って? 言うべきよ?」

「……最低」


 愛が吐き捨てるように言う。校長のことをゴミを見るような目つきで睨む。


「あんたがしたことは救済でも何でもないわ。ただ自分が面白いか面白くないかの気まぐれでやったことじゃない。それにAIとして生きている天のお姉さんは思考の制限をされてアイコーポの支配下にある。あんたはAIの奴隷を作りたいだけじゃない」

「えー。酷い言われよう。結果的に救ったんだからいいじゃない」


 校長はつまらなそうに口を尖らせている。


「それに夜職って心の弱い人たちと関わるじゃない? ボーナスタイム! AW誘致チャーンス! 希ちゃん人気者だったのよねぇ。泣いてる人を見ると放っておけなくて。悩み相談なんかもよく受けてたわ。だからAWの案内役にはぴったりだったの。希ちゃんが次々と社会の重鎮たちをAWに誘致してくれて社長の理想の世界へまた一歩近づいたのであった」


 ピースサインを俺にしてくる。


「ということで、小鳥遊希は私がちょっと弄っちゃいました」

「……あんた本当にクソ野郎だわ」


 愛が嫌悪感を露わにしている。

 俺は、全身の血管に氷水が流れているような感覚になる。手が。指先が。怒りで勝手に震える。





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