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AI WORLDーそれでも現実を選ぶー  作者: とっぽい
第2章 光の裏側
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第16話 暗躍

【天】


「天くん。寝坊助さんを起こしてきて」


 虎がまだ起きていなかった。みんな朝ご飯を食べ終わっているのにまだ起きてこない。


「分かった」

「起こすとき、気を付けてね」

「……?」


 虎が寝ている寝室へ入るとタオルケットに丸まって寝ている虎がいた。体を小さく畳んで寝ている姿は身長も相まって幼さを感じさせる。そっと近づいて声をかけようとすると。


「っ、がっ……!」


 頭が揺れ、世界が揺れる。そして同時に、首に圧迫感。急な出来事に脳内が大混乱を起こす。


「あー? 天かよ」


 首の圧迫が取れる。い、今、首絞められてたのか。

 ゴホゴホと咳払い。


「普通に起こせよ馬鹿」


 なぜか俺が怒られている。


「い、いきなり首絞めるやつがあるか!」

「仕方ねぇだろ。そういう生き方をしてきてんだ、こっちは」


 くぁー、と猫のようなあくびをしながら寝室を出ていく。

 蘭さん、もう少し詳しく注意してくれよ……。『気を付けてね』の範囲を明らかに超えてるだろ。




「……さて。お腹も膨れたことだし、いろいろお話ししましょうか」


 蘭さんがソファに腰を落とす。


「私はアイコーポで働いていたわ」

「……!」


 翔さん以外、驚きの顔を浮かべる。


「翔とは面識はなかったけど、敏腕だという噂は重ね重ね聞いていたわ」

「それは、光栄なことで。俺も、蘭さんの噂は重ね重ね聞いていましたよ」


 二人の目つきが一瞬鋭くなる。


「アイコーポの抱え込み医師。主に解剖を専門としている敏腕医師、ですよね」

「……解、剖?」

「そんな顔しないでちょうだい」


 蘭さんは肩を竦めた。


「死体を診るのも医者の仕事よ」

「……診ていたのは死体だけですか?」

「おい。おっさん」


 虎が、獣のような眼光で翔さんを睨みつける。今にも殴り掛かりそうな距離だ。


「いいのよ、虎。今は情報開示をして私たちを信頼してもらわないといけないんだから」


 蘭さんが制すると、虎がムッとした顔でソファにどっしりと座り込む。


「翔はどこまで知っているのかしら?」


 妖艶な笑みを浮かべ翔さんに問う。目は、笑っていない。


「どこまで、か。不確かな情報もあるかもしれないですけど」


 翔さんは頭の中にある手札のうちのどれを出そうかと悩んでいるように思考を巡らす。


「アイコーポが多額の資金援助をしていた児童養護施設。……そことの関係はあるか?」


 蘭さんはアメジスト色の目を見開く。


「そこまで辿り着いていたの」


 蘭さんは小さく息を吐く。


「ふふ。本当にあなたは優秀な人材だったのね」

「伊達に、長年社長の右腕をしていませんよ」

「関係は、そうね。大あり。私の因縁というのはそこ」


 静かな怒りを感じる表情。低い声が部屋に落ちる。


「身寄りのない子たちにずいぶん乱暴を働いていたのよ」

「……噂は本当だったんですね」


 俺たちは物騒な話に対して、口出しすることはできなかった。ただ、黙って聞いて理解することが先決だと思った。


「その被害者のうちの一人が虎よ」


 虎は黙っている。けれど、視線は床に落ちていた。


「虎は痛覚がないの」


 全員の時間が数秒止まる。痛覚がない……って?

蘭さんは虎を見た。


「人間の意識を機械に抽出する人体実験」


 静かな声。


「その副作用よ」

「アイコーポは……お父さんはそんな酷いことまでやってたの?」


 愛は口に手を当て真っ青な顔している。


「人間の意識を機械に取り込むなんて神がかり、簡単に成功するわけないもの。いくつもの犠牲と失敗の上で今の技術が完成したわけ」


 淡々と話す蘭さん。無表情。だけど、氷のように冷え切った目をしている。


「……愛ちゃん。あなたのお父さんが最終決定を下したのは間違いないわ。だけど、児童養護施設の管理を任されていた管理者が好き放題やっていたのよ」


 蘭さんの手に力が入る。ここで初めて、表情が歪む。


「……私は、そのクソ野郎が許せない」

「それで、その管理者をどうしたいんですか?」


 翔さんが煙草に火をつける。


「一生、日の光を見れないようにする、とか?」


 蘭さんの細い目から鋭い眼光が漏れる。紫色の唇が毒々しい。


「おいおい。子どもたちがいるんだ。あまりびびらせないでやってください」

「あら、ごめんなさい。つい、力が入ってしまったわ」

「その児童養護施設とやらにその管理者は今もいるんだな?」

「そう。今もそこにいるわ。そこは非人道的な実験もしていることからセキュリティが強固なのよ」


 蘭さんは静かに笑みを浮かべる。


「翔には内部事情の知識がある。そして愛ちゃんは社長令嬢だもの。……セキュリティ突破を手伝ってほしいの」

「翔さん、私、蘭さんを手伝いたい」


 愛の凛とした決意を込めた声。


「それと、お父さんが決めてきたことをちゃんと見ないとダメだと思った」

「……俺はあまりお勧めしないがな」

「それでも、ここまで事情を聞いて手伝わない選択はないよ」


 翔さんは、やれやれと首を横に振っている。


「ちなみに、俺たちが手伝わないと言った場合、俺たちはどうなる?」

「あらあらあら。そんな酷い話…………あるのかしらね?」


 蘭さんが薄く笑いながらチラッと虎の方を見る。すると、虎は音もなく立ち上がりメスを四本チラつかせる。


「待て待て待て。手伝う、手伝う」


 珍しく翔さんが冷静さを欠いて、吸っていた煙草を口からポロリと落としていた。


「……いい子。それと、ね。最近手に入れた情報なのだけれど」


 蘭さんは指先でカップをなぞった。


「そこの管理者は東雲高校の校長もやっているようなの」

「は……?」


 唐突に俺の高校の名を言われて間の抜けた声が漏れる。


「東雲高校って、俺の高校だけど……」

「そう。天くんの高校ね」

「俺の高校、アイコーポとつながってる……?」

「可能性は高いわね」


 突然の情報開示に頭が付いていかない。でも、教頭が人形AIで。校長不在を教頭AIがなんとかしていて。


「……天のお姉さんが人形AIだったのって何か関係があるんですか?」

 

 俺が情報の整理をしていると、蓮がすでに状況判断を終えたのか俺がいずれ到達するであろう質問を先にしていた。


「さぁ……。そこまでは分からないわ」

 

 蘭さんは脚を組み直す。


「でも、関係がないとも思えないのよね。ご家族を人形AIに置き換えて、生徒たちをAWへ誘致する」


 アメジスト色の瞳でゆっくりと俺を見て、紫色の唇が歪む。


「あいつの趣味としては十分ありそうだわ」

「自分の学校の生徒をAWに誘致って……。それに家族まで巻き込むなんて……」


 正気の沙汰じゃない。始業式とか卒業式とかでしか見たことがない校長。……校長にしては、少し賑やかでお世辞にも真面目そうには見えなかったけど、まさかアイコーポが多額の資金援助をしている児童養護施設の管理者もやってたなんて。

 しかも、非人道的な実験……?

 俺は校長の賑やかな笑顔の下に、ゾッとする本性が隠れていたことを思うと身震いせずにはいられなかった。


「蘭ー。話長ぇよ」


 虎が痺れを切らして立ち上がる。


「愛と翔がいればクソ野郎をぶっ飛ばせるんだろ。早く行こうぜ」


 虎はメスが入ったポーチを装着するとクリニックの出口へ向かっていた。


「……すまないが、俺はここで待機だ」

「あー?」

「アイコーポのセキュリティは突破になかなか時間がかかる。ここに残って集中させてほしい」

「ふーん。じゃあ、オレと蘭と愛で行くのな」


 愛が小さな声で、えぇ! と声を上げた。無理もない。メスを問答無用で投げつけてくる男と、ミステリックな男。うう……。あまり悪口は言いたくないけど。俺ならしんどい。


「……俺も、一緒に行っていいか?」

「天……」


 愛が少し安堵した表情になる。


「俺の高校が関係してるなら」

 

 拳を握る。


「姉ちゃんのことも。校長に聞きたいことがある」

「足引っ張んなよ」


 虎は一瞥してクリニックを出ていく。蘭も追いかける。愛と俺も後を追う。


「天」


 蓮が俺のことを呼び止めた。


「無理、するなよ」

「……おう」


 音もなく、クリニックのドアが閉まった。






第二章 終了です。

やっぱり動きのあるキャラがいると物語をぐいぐい引っ張ってくれて頼もしい限りです。


ブックマークや評価をいただけると、嬉しく思いますm(_ _)m

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