第10話 誘致活動
【天】
放課後になり部活へ行く生徒、家に帰る生徒それぞれ散り散りになる。
時は数時間遡る。
翔さんの家で今後についての話し合いをしていた。
「奏ちゃんは今どこにいるの?」
「今日も仕事じゃないか? LINE入れておくよ。翔さんの家に着てもらったらいいかな?」
「そう、だな。ここで会うのが1番安全だな」
翔さんは顎に手を当て、少し考え込む。
うん、ここが1番安全だよなと自己解決したようだった。
「ところで、若者たち。提案なのだが」
「君たちは学生だろう? 学校に行ってはどうだ?」
翔さんがあっけらかんと発言する。
「こ、このタイミングで保護者みたいな……」
「いや、世間がどのように変化してるのか知りたいんだよ。AIが思ったより増えてるのか、それともあまり増えてないのか」
一理ある。ちなみに、朝のニュースやネットニュースなどでは普段と何も変わらず日常が送られているふうに映像が流れていた。
「学校というコミュニティが一番情報集まりやすいと思う。正直、危険が0かと言われたらそうではないが。今は情報が足りなさすぎる」
(……ということで、翔さんに言われるがまま学校に来たけど)
不気味なくらい、変わっていない。 学校の生徒たちも先生たちも変わらない。いつもと同じように喋っている。
(……特に何もなく終わってしまった)
奏から返信がきていて、夜の7時なら都合がつくとのこと。
(グループチャットが盛り上がってるな)
『何も変わりない』
『こっちも変わりなし』
『翔さんこれ明日から学校行かなくていい?』
『サボりたいだけだろう』
『そうじゃない。突然AIに襲われたりっていうのもあるかもしれないじゃない』
『むしろ、集団の中の方が襲われにくいと思うぞ』
……俺もLINEしておくか。俺のところも変わりなし、と。
ヴヴヴッ
俺と同じタイミングで愛も打ち込んできたようだった。
『翔さん。なんか調べた方が良い人間とかいる?』
『そうだな。やはり偉い人たちがAWに関わっているから出来るなら教頭とか、校長とか変わりないかチェックしてきて欲しい』
『了解』
(俺も、教頭とか校長とか調べてみるかな)
とは言ったものの、教頭や校長と話をするなんて今までしたこともないし、校長室の前で聞き耳を立てることくらいしかできないが。
(………、静かだな。変わりなし、か)
「どうしたんだ?」
「うわぁっ!?」
気配なく急に話しかけられ、素っ頓狂な声が出る。
「こ、こんにちは! 校長って普段何してるのかなーって、ちょっと気になって!」
我ながら微妙な言い訳。
「校長は忙しい。余計なことしないように」
「そ、そうですよね! ごめんなさい。帰ります!」
足早に校長室の前を後にする。 それにしても、いつから後ろにいたんだ? 全然気づかなかった……。
手がかりなしか。とりあえず、翔さんの家に向かうか。下駄箱で靴を取り替えていると、校門あたりで何やら人だかりができている。……なんだ。有名人でも来ているのか?
「あ、天。お疲れ様」
「あれ、愛?!」
主に男子生徒に囲まれている愛がこちらに手を振ってきている。
「ということで、私はこの天に用事があるわけ。じゃあね」
周りの男子生徒を一瞥する。
「小鳥遊ぃ……お前いい度胸してんなぁ? こんな可愛いらしい他校生と付き合ってるなんてなぁ?」
「はぁ?! 付き合ってな、」
「そうなの。付き合ってるの。だからもういいですか? 早く帰って二人きりの時間を楽しみたいの」
腕を絡め、頬を赤め、甘えるような声を出す愛。こ、こいつは目的のためなら手段を選ばないやつなのか……!
「……!? こ、この! うらやま、じゃなくて、あ!」
上級生が変な妄想を浮かべている間に颯爽と逃げる愛。それに巻き込まれる形で俺も帰路に着くのであった。
「はぁ、はぁ。愛。言ってくれれば俺がそっちに迎えに行ったのに。というか高校近かったのか?」
「星夢女子校よ」
「名門……。中高一貫か。頭いいんだな」
「一応、あいつの娘だから。一条の名に恥じないように、って最低限のマナーや学業は身につけているの」
つっけんどんに吐き捨てるように言う愛。だけど、横顔は少し悲しそうに見えた。
愛が急に足を止める。
「愛? どうしたんだ?」
「天。あそこにいるカップル……ちょっと変じゃない?」
「ん?」
愛が指さした方向にいたのは、どこにでもいそうな高校生のカップル。ベンチに座って話をしている。女の子が若干引いてる感じか……?
「ちょっと行ってみよう」
「え、ええ! ちょっと待てよ!」
愛は俺の腕を引き、俺は引きずられるようにしてそのカップルの横にあるベンチに腰掛ける。カップルの会話の盗み聞きなんて趣味悪いぞ……。
「でさ、この前の2.5次元☆電導娘。のライブでAWが素晴らしいって話になってさ」
「さっきから、AWの話ばっかりだよね……。もうその話は分かったから」
「分かってないから何回も話してるんだよ。なんで明美は分かってくれないんだ?」
「いや、だから、そのAWがすごいって言うのは分かったよ。嫌なことが全部ないんだよね? いいんじゃない? でもそれ以上の感想はないって言うか」
「明美も行こうよ。AWにさ……」
俺と愛は目を合わせる。この男はたぶんAIだ。そして、女の子をAWに誘致している最中だ。……だけど、女の子はAWにそこまで関心を持っていないみたいだ。
AWに行く条件として、本人がAWに行きたいと思わないとダメ、って言うのがあったよな。現実が充実している人はAWに行かないで現実に残り続けているということか。
「なんか詰まんないから今日は帰るね。バイバイ」
「あ……」
女の子は足早にこの場を去った。ベンチにはAIの男が一人取り残されている。
ぐりんっ
男が次のターゲットはお前らだと言わんばかりに俺と愛を見てくる。
「AWって知ってますか?」
「あ、は、はは。結構です!」
俺と愛は不気味さを感じて逃げ出した。AIは人に紛れてこうやって誘致活動をしているようだ。学校ではそんな気配はなかったけど……。俺の知らないところで、もしかしたらそんな動きがあったのかもしれないな。




