表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わりの世界のリグレット。  作者: つい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/16

第9話 あたたかい食事

 三時間ほどと想定していた夜間の探索だが、想定以上にるわない結果となった。


 ――いや、この場合、つまりそれは「脅威が見当たらない」という事なので、い事ではあるのだが。


 完全に、沈黙した町である。


 拠点にした施設の、半径五百メートル圏内けんないを探索し終えて得た結論は、それだった。


 どこまで行っても瓦礫がれきばかりで、人の気配が無い。これがありがたいのか、そうではないのか。判断に困るところだが……まだ不安定な今は、ありがたいと言っていいだろう。


 結局、一時間ほど探索をして、これ以上の成果は無さそうだと感じたために、引き上げることにした。


 拠点に戻り部屋に入ると、リグレットはまだ寝ている。もう少し寝かせておこう。


 ――ふと、少しの不安を感じ、リグレットの寝顔を確認してみるが……穏やかであった。


 これで息が荒かったり、うなされているようであれば、魔力補給の頻度ひんどや程度も考えなくては……と、思ったが、この程度であれば、それほど負担ではないのだろうか? これに関しては本人の感覚次第であるため、確認も難しい。その上リグレットに、正確に言葉で伝えてもらうことも難しいだろう。


 それから私は、この施設自体の探索も済ませておこうと思い、部屋を出た。崩壊ほうかいしているとはいえ、瓦礫の隙間には、確かに色々と転がっているようだ。


 それらを軽く確認し、使えそうなものを見繕みつくろってから、リグレットの眠る部屋に戻る。


 そして今度こそ、エネルギー消費をおさえるため、外からの刺激ですぐに起きることができる、『待機状態』に移行。


 ――――待機状態に移行してから、一時間と、少しって。


 リグレットが起きたようなので、私も各種感覚ユニットを起動し、起きる。


「おはようございます、リグレット」

「んー……。おはよー、エフ……」


 ぼーっとした半開はんびらきの目で、それでも私の方を見ながら、リグレットは挨拶あいさつを返してきた。


「食事にしようと思うのですが、おなかいていますか?」

「ん……! すいてる……」


 体を伸ばして、眠気を振り払っているリグレット見てから、私は調理の準備に入るべく、行動を開始した。


 そして、少し時間が経って。できあがった食事を、施設の探索で見つけていた食器類に移し、リグレットの前に並べる。食器類はもちろん、洗浄済みだ。……本当に、軽く洗っただけだが。


「エフ、すごい!」


 リグレットは、少し興奮している。――ただし、別に豪勢ごうせいな料理が目の前にあるわけではない。


 料理は――なんなら、料理と言うのもおこがましいほどであるが――必要最低限の、極めて質素しっそなものである。


 リグレットの興奮の原因は何かと言うと、先ほど調理に必要なを沸かすために、ほんの少しだけ、私の『兵器』としての機能を使用したのだ。


 右手の、人差し指の先端せんたんを変形させ、そこからごく小規模な火炎放射。その様子を見ていたリグレットが「まほーみたい!」と大騒ぎして、その興奮をいまだに引きずっている。そういうわけであった。


「……リグレット、落ち着いてください。これは貴重きちょうな食料ですから、よく味わって食べるように」

「はーい!」


 素直すなおな返事を返すリグレットであったが、なかなか食事に手を付けない。


「……どうしました?」

「えっと……エフは食べないの?」

「そうですね。私に食事機能は付いていないので」


 少しくらい体内に異物が入った程度で壊れはしないが、食品を食べても、それがエネルギーになることはない。私のエネルギーになるのは、魔力だけだ。


 貴重な食料を無駄に私の体内で腐敗ふはいさせるくらいなら、リグレットの食事にするべきだ。……それに、私には排泄の機能も無いので、技術者にメンテナンスをしてもらわない限り、その腐敗物を取りのぞくことができなくなってしまう。


 ――と、言うのが合理的な判断ではあるが、人間が親しき人々と食事を共にすると言う文化は、理解しているし、尊重そんちょうしたいとも思う。その食事の時間、空間を共有することに意味があるのだろう。


 しかし、体内に入れた食品を取り出すことができないというのは、致命的な問題である。これが解決できない今は、やはり食事を共にすることはできない。


 ――――どうすれば、リグレットに納得なっとくしてもらえるだろうか……。


「私にとっては、リグレットに魔力をもらうこと。あれが食事なのです。ですから……そうですね、状況としては……すみません、私だけ先にご飯を食べてしまった……と、言ったところでしょうか?」

「……そっかぁ」


 残念そうではあるが、今の説明で納得してくれたようだ。


「……あっ! じゃあ、リグがまりょくを、エフにあげながら――」


 ……たしかに、私とリグレットの二人で食事の時間と空間を共有するのであれば、そうなるが……。


「……リグレット? もう一度言いますが、貴重な食料です。ご飯の時は、ご飯を食べることに集中してください」

「……エフ、ママとおんなじこといってる……」


 リグレットの食事が、おろそかになるのはけたい。


 咀嚼そしゃくの回数が多ければ消化吸収の助けになるし、満足感もやすい。加えて早食いにならないので、その点で言っても、さらに満足感に寄与きよする形になる。


 ……それに、なんだかリグレットの教育にも悪い気がする。


 こんな世界で食事のマナーなど、気にするだけ無駄というものだが……まあ、積極的に行儀ぎょうぎを悪くする必要もないだろう。


「食事は大切です。さあ、どうぞ」

「はーい……。いただきます!」


 つたない手つきでスプーンをあやつりながら、今日のメニューである、おかゆと、でたいもを、リグレットがしょくしていく。


 調理自体は問題無いはずだ。野営やえいの多い兵器型人造人間の、標準機能として。簡易的な調理技術――もちろん、自分たちが食べるためではなく、人間の兵士の食事の準備を手伝うためだ――はそなわっている。


 ただ問題は――調味料と言えるものが、塩しか見つからなかった。


 私自身に食事機能が無いので、『味』という概念がいねんを、人間と同じ感度で語るのは難しい。もちろん、それ専門の人造人間であればその限りではないのだが、戦場で生きる兵器型の人造人間にとって、「味にうるさい」と言うのは、最も縁遠えんどおい機能かもしれない。


 だが、人間にとって――食事、味というのは、どんな時、どんな場所に居ても、それなりにゆずれないものであるようだ。それは例え厳しい訓練を受けた兵士たちであっても、同じである。戦闘食は様々にゆたかであり、その味が、かなり露骨ろこつに、士気に影響する。


 時には、本気で奪い合いが起こる。厳格げんかくな規則として、食事に関する決まり事がある場合も、珍しい話ではない。


 ……今回は、素材も調味料も限られている。今回どころか、少なくともあと数日は、この食事で我慢がまんしてもらうしかないのだが……。


 私は少し不安をいだきながら、リグレットの様子をうかがう。今のところ意外にも、不満もなく、黙々(もくもく)と食べ進めているようだが……。


 「……どうですか、リグレット」


 不満が無いのであればいいのだが、食というのは人間にとって、かせない要素であるという事は理解している。もし何かあるのであれば、言ってくれた方がありがたい。必ずしも寄りえる状況ではないが、それでも、改善の方向性の参考にはなる。


「おいしいよ!」

「……塩味でしかないと思うのですが」

 

 美味しいと言うのは、すぐれた味に対して使う表現だ。保存性が高いことが取りである食材に塩をかけただけの食事に対して、言う言葉ではないと思う。


「あったかいから!」


 リグレットはそう言って、ふーふーとましながら、おかゆを口にはこんでいた。


 ……温かさ。できたてが料理の良さに関わると言うのは、知っている。


 私はリグレットが、私と合流する前に食べていた食事の残骸ざんがい――今はローテーブルから降ろして、ゴミとして、部屋のすみにまとめられている、簡易食の包装紙ほうそうしを見る。


 携帯けいたい性と、様々(さまざま)な条件下での保存に優れた、乾燥した、ブロック状の簡易食。栄養素も一通ひととお網羅もうらしており、優れた食品だと言える。


 だが人間にとって、ここで必ずしも、簡易食の方が優れているとはならない。その非合理的なところが人間であるというのは、私も理解できる。質素でも、できたてが美味しいのだろう。そう言えば、温かい食事、汁物などは、食事の満足感を上げると聞いたことがある。




「エフ、つくってくれて、ありがと!」




 動かしていたスプーンを止めて、顔をこちらに向けて、リグレットは満面の笑みでそう付け加えた。


「……そうですか」


 唐突とうとつな言葉に、適切な返答も思いつかず、曖昧あいまいに言葉を返し、思考する。


 ……食事の改善は必須ひっすだろう。素材は限られているし、った調理の知識も無いが。それでもやはり、ずっとこれではリグレットもつらいはずだ。何より、栄養もかたよってしまう。


 錠剤じょうざいタイプの栄養サプリなどがあれば楽だが、保存ができて、軽量で場所も取らず、栄養面も完璧とあれば。当然、最優先で、全て持ち出されているに決まっている。


 今日明日きょうあすすぐにでも――とはいかないのがもどかしいが、数日は我慢してもらうとして。


 探索に備えた、確保する物資の優先順位を整理しながら、私はリグレットが食事をする様子をながめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ