第8話 探索と通信
リグレットによる魔力補給が終わってから、私は夕食の準備のために、食糧保管庫へと向かった。
先ほどは大雑把に数や種類を確認しただけであったので、今度は細かく、正確な数を記録する。それと同時に、食品が傷んでいないかと言うのも、併せて確認をしておく。
それが終わったら、今度は夕食分の食事量を決めるのだが……。
……まずは少なめで用意し、不満が出るようであれば、徐々に増やしていくとしよう。
こういう状況の時、基本、戦場に身を置いていた私としては、最小限を狙いたくなってしまう。……いや、大事な事であるし、間違いではないのだが。
先ほど推測したリグレットの食事量を考えれば、これでも極端に少ないという事はないだろうが――などと考えながら部屋に戻ると、リグレットは疲労のためか、ベッドの上で、ぐっすりと眠っていた。
――少し、時間をかけすぎてしまったようだ。
わざわざ揺り起こして食事をさせると言うのも、気が引ける。……かと言って、起きるまで待っていると言うのも、贅沢過ぎる時間の浪費だ。現状はまだ、そんな選択ができるほど、安定したわけではない。
なので私は短時間だけ、探索に出る事に決めた。
……ひとまず、三時間ほどにしよう。
探索時間を決めて、体内に内蔵された時計機能で、時間を計る。
――完全なエネルギー切れを起こしてしまったため、時計自体はその間、止まっていた。よって、時間はずれていて、『現在時刻を確認する』という、時計本来の使い方はできない。
普段であればずれても、通信によって正しい時刻に更新されるのだが、その調整機能は今、機能していないらしい。
時計本来の使い方ができなかったとしても、経過時間の計測などであれば、正確な時刻は関係がない。こうしたタイマーとしての利用法は、行動時間の管理として、普段の作戦時から重宝していた。
リグレットを起こさないよう、足音を殺して部屋を出て、ドアの開閉を行い、地下から、地上へと。
――建物から出て、空を見上げる。雲一つない夜空には、明るい星と月が浮かんでいる。
――世界はやはり、瓦礫と無音の世界である。耳を澄ませても、風の音がするばかりだ。
……さて、浸るのもそこそこに。
私は意識を少しだけ、警戒態勢に切り替える。
今回の探索の目的は、二つ。
主目的は、『周辺に存在する、敵対存在の確認』。もう一つの方は――まあ、オマケみたいなものだ。
もし人間が生き残っていれば、誰もが物資に困窮しているはずである。この町の住民であれば、ここに避難所めいた施設があったことを把握しており、定期的に物資の回収に来ている可能性もある。
――そう、敵対存在。
いかにも兵器然とした、過激で好戦的な思想かもしれないが、今は警戒しすぎるくらいでちょうどいい。人間を見つけ、私、あるいはリグレットの脅威になりそうだと感じたら、排除する。その判断は迅速に行い、容赦はしない。
仮に非武装の一般人であれば、ほとんど消費もなく殺害することが可能だ。今のエネルギー残量なら、小銃で武装した十人程度の集団であっても、問題無く制圧ができるだろう。それ以上の武器であったり、人造人間の護衛などが付いていれば、話は別だが。
私は昼間と同じように――しかし、今はリグレットを連れていない一人なので、周囲を気にせず、瓦礫の山に、雑に飛び乗る。それを何度か繰り返し、より高い位置を目指す。
そしてある程度の所で、高い視点から、周囲を観察する。
――――ひとまず、近場のすぐ目に入るところに、人間の気配は無さそうだ。
これだけの暗闇であれば、焚き火や照明器具の明かりは目立つ。この真っ暗な瓦礫の町に落ちた、星のように、その存在を証明することになるだろう。
だが今、見回した限りでは、そういった光は発見できなかった。
もちろんまだ安心はできず、闇夜に紛れるように潜んでいる可能性も十分に考えられるが……。
……正直、そこまで意図的に隠れている存在がいるとしたら、現状で見つけるのは、少し困難だ。
今は夜間装備が無い。私自身も暗所専用の型ではないので、夜目を効かせようと思うと視覚ユニットに、別途エネルギーを消費する必要がある。
……この消費量が、また微妙なところで。平時でも、常時展開は少し気になる程度には、消費が多い。
それでも『超人的機能』類に比べれば天と地の差で、消費は少ないと断言できるが……今は避けるとしよう。
同じ理由で、今は物資の探索もしない。加えて言えばバックパックなどの収納もないので、量が回収できないと言う理由もある。
――敵対存在の方は、今すぐ対処するべき、あからさまなモノは見つからなかった。
今探索の最重要目標であった、敵対存在の把握については、今は『切迫した状況ではない』そう、結論づけて、次の目標に意識を切り替える。
――さて、では……もう一つの目的を試すとしよう。……正直、それほど期待ができないのだが。
エネルギー残量はまだまだ不十分だが、それでも昼間の、休眠状態、解除直後に比べれば、少しは――本当に文字どおりの少しだが、改善した。
なるべく高い場所に移動したのは、周囲を見回したかったのと、もう一つ。――今から行う、もう一つの目的の成功率を上げるためである。
――――――……通信失敗。……まあ、想定内だ。
自立する兵器として当然、備えている、基地との通信機能。
行動分のエネルギーを確保しておきたかった先ほどまでは、試すことができなかった。
そして、その結果は想定通り。通信失敗。――それも、私の発信に対して応答無しというより、そもそも私自身からの発信自体が、不発に終わっているようだ。
――きっと、あらゆる通信機能が封印されているのだろう。であれば、時計の時刻が更新されないのも、今、説明がついた。
そして、これは想定どおりだった。
私の記憶を封印した何者かが、こうした外部との連絡手段、通信手段に、何も手を加えていないなど……まあ、あり得ないだろう。悲しいことに、これに関しては自信を持って断言できてしまう。
間違いなくそうであろうとは思っていたが……かと言って、試さないと言うわけにもいかない。できないと決めつけて、後から実は可能だったと判明すれば、笑えない冗談だ。
結果、試して、想定通りであった。
そもそも発信自体ができていないせいか、エネルギー消費は無かったようだ。
……さて、確認も終わって、消費もゼロであったなら。ならもう少し、周辺の脅威の探索に移り、適当なところで切り上げて戻るとしよう。
私は次の行動をそう決めて、瓦礫の山から瓦礫の山へと、また飛び移った。
――基本的に、人間が居たらまず、疑ってかかるべきだろう。例えそれがどんなに穏やかで、優しそうに見えても。
この荒廃具合、完全に社会が機能していない現状、助け合いなどと言う言葉は、存在しないと思われる。
もはや、助かるかどうかではなく――どう終わるか。そんな世界になっている。
そんな世界では、生きる理由を持っている人間だけが生き残る。そう言った人間は力強くて、容赦がない。目的のために、なんでもする。その人間にとっては、世界は、その目的以外に存在理由が無いのだから当然だ。
――だからこそ私は、リグレットに、生きる理由を見つけてほしい。
この先、誰かを利用することだって、あるかもしれない。利用される可能性もあるだろう。
その時、簡単に折れてしまわないように。




