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終わりの世界のリグレット。  作者: つい


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第3話 エフとリグレット

「ありがとうございます、もう十分です」

「……げんきになった?」

「はい。元気になりました」


 今の短時間で、全体エネルギーの二パーセントは回復できた。やはり()()()()()()()()()であるから、保有魔力も桁違(けたちが)いに多いようだ。


「えっと……アンドロイドさん……おなまえ、なんていうの?」


 アンドロイド……私の事だろう。実際には、人間を()しているだけのそれらよりも、私はもっと本質的に人間に近い存在ではあるのだが……。一般人からすれば、高度な人造人間よりも、安価で大量生産可能なアンドロイドの方が、よっぽど身近だろう。今はその認識を否定する意味もないので、そのままにしておく。


「私は、エフと呼ばれています」

「エフ! わたしはリグレット! リグってよんで!」


 目の前の少女は、『リグレット』という名であるらしい。その名前をしっかりと記憶媒体(きおくばいたい)に保存し、顔と結びつけて登録をしておく。


「それで……リグレット。ここはどこでしょうか?」

「……」


 リグレットが、悲しそうな顔をする。


 人間には、愛称(あいしょう)で呼び合うことで、親密度を表す場合があるらしい。私のように、正式名称が仰々(ぎょうぎょう)しいので、『エフ』という愛称で呼ぶ。と、言ったような理由とは違うようだ。


 本人が望むのであれば、リグと呼ぼうかと思ったが……実際、まだリグレットと親密な関係を築くことができるかどうかというのは、分からない。リグレット自身は見た目通りの『人間』であり、脅威(きょうい)は無いと分かったが、リグレットの所属はエネギリア国民であるわけで。――絶対に、私とは相容(あいい)れない存在ではあるのだ。


「リグレット、ここがどこか、分かりますか?」

「う、うーん、わかんない。リグもね? おそとにでたら、こーなってて」


 改めて問う私の問いに、リグレットはそう答える。……想定はしていたが、リグレットから得ることができる情報は、それほど無さそうだ。


「リグレットは今まで、家にいたのですか?」

「うーん、……いえ? なのかな?」


 リグレット自身も首をひねりながら、言葉を続ける。


「ほんとのおうちじゃないんだけど……でも、そこにすむことになってね?」


 それはつまり……。


 思考回路を稼働(かどう)させて、リグレットの言葉の意をくみ取る。


 避難所で暮らしている……という事だろうか? この惨状(さんじょう)であるし、当然、リグレットの家も無事であるとは思えない。


 ――さて、どうするか。


 避難所に行けば、情報が集まるだろう。ここがエネギリアのどこであるのか。戦争は今、どういう状況であるのか。


 だが、リスクは大きい。


 私は自分の国が分からないが、エネギリアは『私の国にとって、最大の敵国である』と認識している。つまり、少なくとも私は、エネギリア製の人造人間ではないのだろう。


 私の記憶媒体に、各国の注意すべき兵器類が記録されているように、エネギリアの人造人間たちにも、ある程度情報が(そな)わっているはずだ。


 よって、私がリグレットに付いて避難所に到着した途端(とたん)、エネギリアの人造人間に、良くて捕縛(ほばく)。最悪、破壊までされる可能性があるのだ。




「……リグレット、私をその、リグレットが今住んでいる場所に、連れて行ってくれますか?」


 


 ……だが、行くしかないだろう。どのみち、敵国の地でこんな低エネルギーでは、既に詰んでいるも同然なのだ。リグレットが私を起こさなければ、どうせここで()ちていた身である。今さら捕縛も破壊も、恐れることではない。


 それに、戦争末期であるし、必ずしも人造人間がいるとも限らない。民間人であれば、私の顔を知らなくても不思議はないだろう。


「うん、いいよ! でも、みんないなくなっちゃったけど……」


 (こころよ)了承(りょうしょう)したリグレットが続けた言葉に、私は引っかかる。


「居なくなった……とは?」

「えっとね、リグ、ねつがでてね? それで、ねててね? それで、おきたら、みんながいないの」


 今回は流石(さすが)に言葉の意をくみ取ることができず、リグレットにもう少し詳しく話すように伝える。


 ――――そうして、しばらくして。


 リグレットのたどたどしい説明も終わり、私も大体(だいたい)の事の流れを理解、整理することができた。


 まず、リグレットはこの町の住民ではないらしい。以前は違う町に住んでおり、数か月前に、母親に連れられて電車でこの町へ。リグレットだけが残されて、母親は「迎えに来るから」とだけ言って、そのままいなくなってしまった。


 そして、連れてこられた施設で、リグレットは、同い年くらいの子供たちと、生活をすることになった。遊んだり、勉強したり――普通に過ごしていたが、ある日、食事が出ない日があったという。


 その日以降、一切の外出が禁じられた。さらに日が進むにつれて、食事が出ない日、少ない日というのも、増えてきて。段々と、()()()()()()――恐らく、栄養失調などで死んでしまったのを、他の子供に(さと)らせないように、そう言う言い方をしていたのだろう――が出はじめた。


 リグレット自身も施設の大人に、「自分も家に帰りたい」と願ったが、認められず、施設の子供はどんどんと数が減っていった。


 それでも何とか生活をしていたが、数日前、リグレットは、熱を出した。


 地下の部屋――恐らく、隔離(かくり)部屋――で孤独に過ごし、ようやく動けるようになったので、部屋の外に出ると、誰も居ない。それでも数日は規則を守り、建物の外に出ることなく過ごした。だが、何日経っても誰も帰ってこないので、意を決して建物の外に出たら、この瓦礫(がれき)の山が(つら)なる光景だった。


 呆然(ぼうぜん)としながら歩いていると、アンドロイド――私のことだ――を見つけたので、助けてもらおうと思い、()()()()()()()()()()()()『魔力』を流し、私を起動した。


 ――それで、先ほどの出会いに繋がる。そういうわけだ。


 たくさん喋って疲れたのだろう、リグレットはその場にしゃがみ込んだ。


「ありがとうございます。大体、状況が分かりました」

「うん。……ねぇエフ、リグ、のどかわいた」


 あれだけ喋れば無理もない。……いや、喋らせたのは私なのだが。


「ひとまず、リグレットが今住んでいるその建物に行きましょう。案内してくれますか?」

「うん! いっしょにいこ!」


 しゃがんだと思ったリグレットは、すぐに勢いよく立ち上がり、私の手を握って、引っ張った。


 私はリグレットに助け起こされるような形で、瓦礫に背を付けるように座り込んでいた体を起こし、立ち上がった。


 立ち上がって、少し歩いたところで、ふと、自身の体を見下ろす。そこで初めて、戦闘服が全て焼け落ちたのか、素体(そたい)が完全に露出していることに気づく。


 旧世代の、いかにも機械然とした素体ではなく、それこそ目の前のリグレットと変わらない、柔らかく、真っ白な肌。少女型特有の、胸部にある、二つの穏やかな膨らみ。見かけは完全に人間と同じだ。明確な違いを挙げるとすれば、私は()()()()()ではないので、乳首も生殖(せいしょく)器も無いと言うのはあるが。


 そんな自分の露出した素体を見て、エネルギー不足の謎が解けた。


 私の戦闘服には大容量の、追加エネルギーパックが装着されていた。先ほどまでは「あの無尽蔵(むじんぞう)のエネルギーを、いったい何に消費したのか?」と不思議に思っていたのだが、戦闘服が無いので、今は私本体のエネルギー容量分しか、使えない状況なのだ。


 この少女型は素体が大型ではないので、他の搭載装備(とうさいそうび)との()ね合いもあり、私本体に貯蓄(ちょちく)できるエネルギー自体は、極端に多いと言うわけではない。それでも平均的な作戦行動であれば、一週間ほどは動けるだろうが……激しく搭載武器(とうさいぶき)や身体強化を使えば、その限りではない。


 ……まだ、どのタイミングで戦闘服を失ったのかは分からないが、戦闘服分のエネルギーが丸々無くなっているのであれば、私がエネルギー切れに(おちい)っていると言うのも、それほど常識外のことが起きたわけではないと納得できる。


 一つの謎が()けて、物事が一歩進んだ感じがする。どれもこれも、今考えても無駄だという結論ばかりだったので、ようやく解決できた事があると言うのは、とても快い感覚だが…………それにしても――。


 この、素体が完全に露出していると言う状況は、非常に落ち着かない。私が着ていたはずの戦闘服は、私の専用装備であり、エネルギー上限もそうだが、防御性能を大きく上げてくれる。それが無いと言うのは、かなり不安だ。


 ……それでも一応、人工皮膚の下には硬い外殻(がいかく)があるので、小銃程度であれば問題にならない。規模次第(きぼしだい)ではあるが、戦車砲やミサイルの直撃も、二、三発なら耐えることができる。


 そもそも、そんなものに狙われると言う状況にならないことを願うが……忘れてはいけない。ここは敵国である。基本的に、出会うものは全て敵対していると考えた方がいいだろう。


「エフ?」

「すみません、何でもありません。案内をお願いします」

「う、うん……?」


 立ち止まった私を不思議そうに見ていたリグレットだが、すぐに私の手を引いて、歩みを再開する。その歩みに合わせて、私もゆったりとしたペースで、足を動かす。


 ――何よりも、エネルギーの確保だ。


 防御力が低いとしても、エネルギーさえあれば問題ない。よほど高度な追尾機能(ついびきのう)でもない限り、あらゆる攻撃を回避、迎撃(げいげき)できる。もとより私は攻撃に耐える設計ではなく、受けないという設計思想のもと開発されているのだ。


 エネルギーが安定して、飛行や身体強化などの『超人的機能』も使えるようになれば、探索や移動も(はかど)るだろう。……ただし、超人的機能は短時間でも桁違いにエネルギーを消費するので、気兼(きが)ねなく使えるようになるのは、ずっと先になるだろうが……。


 そんなことを考えながら、私の少し先を歩く、リグレットに目を向ける。


 ……本当に、奇跡に近い。戦争末期、まさか(いま)だに――軍に軟禁(なんきん)されていない『魔力持ち』が居るとは。それも、保有量が最も多いとされる、幼い少女。


 もちろん個人差があるのだが、基本的には大人よりも子供。男性よりも女性の方が、魔力が多い。大抵(たいてい)は検査で魔力を持っているか調べられ、国に報告される。だが、戦争の激化でここ数年、その辺りの管理がままならない状況になりつつある。


 ――また、親心として。戦時下での『魔力持ち』の扱いを考え、我が子が(すこ)やかに育つように、なんとか検査を避けようとする親も少なくないと言う。加えて、もちろん(おおやけ)にして受け入れはできないが、()()()()()医療施設も存在し、実際、うまく(のが)れた魔力持ちもいるだろう。リグレットも先ほどの説明の中で、魔力の存在は隠していたと話していたし、みだりに話すなという、親の忠告があったと推測できる。


『魔力』とは、なんなのか。


 それは完全には解明されていない。解明される前に世界がこうなってしまってはきっと、人類は、知らないままに滅んでいくことになる。


 完全解明には至っていないが、簡単に言えば、『生命力そのもの』という説明がされることが多い。


 リグレットは発熱し、一人で隔離(かくり)されていたという。普通の幼い子供であれば、命に関わる状況だ。――実際、施設の職員たちが、リグレットが魔力持ちだと知らなかったのであれば、リグレットを()()()判断をして、他の子に被害が出ないように、隔離をした可能性が高い。


 だが、リグレットはそこから自力で治して、こうして動けるまで回復してしまった。間違いなく、体に保有する魔力が影響していると言える。


 魔力は基本的にその人から(あふ)れるもので、生きている限り、()きることはない。だが、供給を続ければ体力を消耗(しょうもう)するし、体調も崩しやすくなる。健康であれば魔力も安定し、不健康であれば、魔力の放出が少なくなる。――とまあ、この辺りは言われずとも、直感でそうだろうと納得ができる話だ。


 つまり、当面の私の任務は、リグレットを脅威(きょうい)から守り生存させ、健康的に過ごせるように、十分な物資を調達することだ。そして、その見返りに、魔力を供給してもらう。


 ――しばらくはこうした生活を、エネルギーに余裕が出るまで、続けることになるだろう。

明日以降は、一話ずつの投稿になります。

なお、書き溜めが順調に作れるかによって、一時的に更新が止まったり、逆に一日二話投稿になる場合もあるかもしれません。その際はまた、前書き等に書いておきます。

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