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終わりの世界のリグレット。  作者: つい


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第2話 封じられた記憶

本日二話目。

 ――もし今、戦いになれば。


 そうなれば、私に勝ち目は無い。何をどうやっても、勝ち目は無い。なぜ私の国とエネギリアが最後まで残ったかと言えば、大国で、技術力があり、兵器――特に、人造人間型兵器の改良が(さか)んで。


 戦局(せんきょく)を一体で変えてしまう、私のような、『超兵器』を所持していたからだ。


 私は再び視覚ユニットを、一秒だけ起動し、私の、『要警戒敵国兵器』として記憶に保存されている兵器類と、目の前の幼女を、照合(しょうごう)してみる。結果、どれとも合致しない見た目だ。つまり、超兵器などではない。


 ――だが、そうだったとして。別に状況が良くなるわけではない。エネギリア製の人造人間だと言うだけで、他国の人造人間よりも、格段に性能が良い。よってやはり、勝ち目は無い。


 ――ここまで整理すると、一つの状況が推測できる。


 私は、何らかの理由で、自身の制御を失い、エネルギー切れを起こし、敵国の地で休眠状態になった。それを察知したエネギリア側が、今まさに、研究利用のために、私を回収しようとしている。そして、その回収任務でやって来たのが、目の前の、幼女型の人造人間である。そういう事だろう。


「あ、あのね……!」

「そう警戒しなくていい。私はもう、動けない」


 完全に手詰まりだった。それでもエネルギーが残っていれば自爆をして、敵の手に情報が渡ることを避けられたのだが……その、自爆をするエネルギーすら残っていない。


 ――もしかすると、この幼女型との戦闘に負けた可能性も考えられる。私に外傷が無いという事は、回避性能が異常に高いのだろうか? であれば、体が小さい『幼女型』なのも納得がいく。私に外傷が無いのも、向こうは回避特化であるために、攻撃性能が低いからだと説明がつく。この瓦礫(がれき)の山も、幼女型があちこちに避けたため、一帯がこうなったのかもしれない。


 ……だとすると、つまり私は、まともに反撃をしてこない相手に、当たらない攻撃を、エネルギー切れを起こすまで続けていた事になる。帰還用のエネルギー、行動用のエネルギー……何もかもを投げ出して、だ。


 ――まるで、意地になったかのように。論理的な思考を捨てて、攻撃を続けていたことになる。


 当然だが、普通はそんなことありえない。何か絶対の命令があったか、あるいはこの幼女型から、思考回路に影響を(およ)ぼすような、妨害電波でも出ていたか。……後者の場合であれば、記憶喪失は、その妨害電波による影響で……いや。




 ――――再起動。




 ……今さら、こんな推測(すいそく)は何にもならない。ただ知りたいのは、何があったのか。それだけだ。そして、それを知るすべは、今のところない。




「え、えっと……げんきがない、の?」


 少女型が、困惑したような声を出す。


 ……最初から薄々思っていたことではあるが、人造人間同士のやり取りにしては、妙に噛み合わない感じがする。敵国製だからだろうか? コミュニケーション文化の違い……いや、それよりも、もっと根本的な、認識の違いと言うか……。


 先ほどの私の「動けない」という発言には、「状況は理解した。抵抗はしない」という意味を含んだつもりだったが、意図が伝わっていないようだ。


 実際、油断させてから……というのは常套(じょうとう)手段だし、警戒するのは分かる。……にしたって、もう一般人の演技はいいだろうと思うのだが。


 私は抵抗する気もないので、おとなしくしている。


 しばらく無言の時間が続き、やがて、幼女型がこちらに近づいてくる、足音が聞こえる。




 ――――突然、私の体に、『魔力』が流れ込んで来るのを感じる。




「ま、魔力……!? なぜ……!?」


 今度は私が、想定外の事態に驚かされる番であった。慌てて視覚ユニットを起動する。


 


 私の視界には、私に抱き着いている幼女型……いや、魔力を持っているという事は……人造人間ではなく、本物の――。


「えっと……これで、げんきになるんだよね?」

「……はい。ありがとうございます」


 本物の、人間だ。


「すみません、もう少し、魔力を(いただ)いてもよいでしょうか?」

「えっと……もっと? うん、いいよ!」


 幼女は再び、私に抱き着いて、魔力の補給を始める。


 その間に、私は考える。


 私はエネルギー切れの、休眠状態から目覚(めざ)めたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 目の前には、この幼女一人。であるならば、この幼女が何らかの手段で魔力を供給し、私を起こした。それ以外にない。


 ……考えれば分かることだ。自分の(おろ)かさにあきれてしまう。


 経験の無い事態への遭遇(そうぐう)と混乱、そして、鎮静化のために、強制的な思考停止と再起動。気づくことができなかった原因は色々と考えられるが、それにしたって……。




 これでも、私は――の、最高の超兵器だと言うのに。そう、――の……。




 ――。


 ……私は、――の……。




 …………なぜ、思い出せない? なぜ、自国の名前が出てこないのだろう?


 ――。思い出そうとすると、思考にノイズが走る。


 ……同じだ。休眠状態に(いた)る直前の状況を思い出そうとするのと、同じ。


 自国の名前が出てこないと言うのは、どういうことだ? 私はこうして、『私』として、意識が動いている。であるならば、自国の名前が出てこないと言うのはありえない。


 人造人間にとって、自身の所属は、『私』を構成するプログラムと不可分(ふかぶん)な情報だ。簡単に言えば、「私は○○の、○○である」という認識。意思もなく、ただ役割だけを与えられていた『旧世代の機械』と、『人造人間』を分ける、非常に重要な部分。自己同一性を形作る、大切な要素なのだ。


 それが思い出せないと言うのに……だが私はこうして、何の問題も無く、意識の活動が行われている。私は私であると、感じることができる。


 試しに、少し昔の記憶を辿(たど)ってみる。――それらは問題なく、すぐにでも思い出すことができる。


 人間の兵士と共に戦場へ出た記憶など、いくらでもある。であれば、国旗(こっき)だとか、自国の地名、基地の名前、部隊名だとか。記憶媒体(きおくばいたい)に、残っているはずなのである。


 ……だが、不思議なことに、何も思い出せない。


 正確に言うと、そういった作戦場面の記憶の再生は、問題なくできる。自分はその場にいて、経験したという記憶がある。――あるのだが、私の所属に繋がりそうな記憶が、認識できないのだ。何も引っかかることなく、気づくと作戦が終了した場面になっているのだ。


 一つの戦闘記録を始めから終わりまで確認してみても、記録のどこにも、私自身の所属に関する情報だと認識できる部分が無い。必ずそこに、何かしらの情報が含まれているはずなのに、一つも拾い上げることができない。


 ――さらに奇妙なことに、こうした戦闘の記憶の記録は豊富(ほうふ)にあるが、基地で補給を受けている記憶や、命令もなく待機しているときの記憶など、それらが全て存在しない。


 ……この状況から察するに、私は何か、外部からの干渉を受けている。記憶喪失は、それによる影響だ。これはほぼ確定したと言っていいだろう。


 物理的な損傷が原因なのだとしたら、その確率は、ありえないものになる。あちこちに大小様々に散らばる、私の所属に繋がる記憶だけが、ピンポイントで損傷したことになるのだ。それよりも、何者かが私に干渉し、認識に『フィルター』をかけたり、『特定のワードや映像を一括(いっかつ)で消去した』と言った方が、納得できる状況だ。


 自身の記憶に関する謎について、なんとか予測を立てることに成功したが――現状は、かなり(あや)うい。


 多くの実験で、人造人間の自己同一性を奪うとどうなるか。その、実験結果が出ている。コピーした全く同一の個体を同じ空間に入れると、お互いを攻撃し合い、あるいは、存在を否定し合い、そして、どちらの自己も崩壊する。


 今回の状況は、それらの実験と違って、完全に自分の存在が否定されているわけではない。


 そのため現状、私はこれだけ「自分は何者であるのか?」という問いについて考え続けても、行動不能になるほど、意識の活動に影響が出てはいないが……崩壊の兆候(ちょうこう)を、全く感じないわけでもないのが危うい。


『奇妙だ』と言う、この感覚。この感覚を無視して、自分という存在が成り立っている理由と、説明できない記憶の欠落を、結び付けるために考え続けた場合、自身の思考回路に、何かしら致命的(ちめいてき)なバグが(しょう)じるのではないか。そんな予測ができる。


 思考を停止。再起動。


 ――気にしないようにするなど、できることではない。よって、これは必ず解決するべき課題だ。


 だが、今どんなに思考を(めぐ)らせても、解決できることではない。よって今は、とにかく情報を得るために動くべきだ。思考をするのは、十分な情報が(そろ)ってからの方が、合理的だ。


 今すぐに得ることができる、私が現在の状況に至った経緯に関わるかもしれない情報。


 私の体に抱き着いている、幼女に視線を移す。


 今度こそ、と。


 私は対話に(のぞ)むべく、口を開いた。

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