第1話 目覚めと出会い
新作です。
本日三話投稿。明日以降は一話投稿。カクヨムとの同時投稿になります。
――意識が目覚める。
……目覚めた? 目覚めたという事は、私は今この瞬間まで、休眠状態になっていた?
………何かがおかしい。
……何が起きたのだろう?
記憶を辿れない。アクセス制限がかかっているのか、それとも、消去され、存在しない? 今は任務の最中なのか? そうだとしたら、私は何の任務を受けていた? それとも――。
初めて経験する事態に、思考回路が混乱している。
一度、思考を完全に止めて――再起動。
人造人間だからこそできる、強制的な思考停止。思考の鎮静薬とでも言おうか。これで大抵、混乱は静まる。
そして、改めて、状況を整理する。
――端的に言えば、記憶喪失。
だが、人造人間である私には、人間と同じような意味での『記憶喪失』と言うのはありえない。つまりは、この事態は突発的な事故のような物ではなく、もっと人為的な物である可能性が高いと言える。
私のような人造人間が記憶を失っているのだとしたら――。
考えられるのは、外部から記憶媒体に何か干渉があった場合か、戦闘で受けた物理的損傷によるものか。疑うべきはこの二つだろう。
全身にスキャンをかける。
――――体の欠損部位は無し。駆動も問題無し。ただ……エネルギー残量の少なさ。これは問題だ。
あれだけ膨大にあったエネルギーの残量が、空っぽと言っていい。これでは戦闘はもちろん、まともな移動すらできないだろう。このまま移動せず、じっと思考を巡らせるだけであれば、少しは持つだろうが……そんなことで数分過ごしたところで、何の解決にもならない。
ひとまず、情報を得るべきだ。
そう結論づけたら、情報を得るための行動を取る。
私は感覚ユニットの反応を確認する。今必要なのは、視覚と聴覚だ。――確認完了。どちらも、回路に問題は無し。
感覚ユニット――中でも、視覚ユニットを起動すると、一気に処理する情報量が増えてしまう。増えると言っても、万全の状態であれば気にならない量ではあるが、今のような極限の低エネルギー状態では、深刻な問題だ。
……とは言えやはり、そのエネルギーを支払う価値を、視覚という情報はもたらしてくれる。だから、現状は頼るしかないだろう。
視覚ユニットは三秒で切ることにして、その間に、できるかぎり、視界を動かす。瞬間記憶機能を使えば、視覚ユニットを切った後も、視界に映った物の検証が可能だ。絶えず映像を映して処理し続けるよりも、写真のように静止画にした方が、節約になる。
完全に行動計画を立て終えた私は、実行に移し、視覚ユニットと聴覚ユニットを起動する。
幸いと言うべきなのだろうか。私の目と耳に飛び込んできた情報は、少なかった。
視界に映るのは灰色の世界。くすんだ瓦礫ばかりがあふれる世界であった。
存在する音と言えば、穏やかな風の音だけ。銃の射撃音も、爆撃機のエンジン音も、人の声すら聞こえてこない。
――そんな、無色無音の世界で。
唯一、私の目に飛び込んできた、『一つの存在』があった。
――三秒経過。私は視覚ユニットと聴覚ユニットをオフにして、瞬間記憶で写真のように切り取った、視界の画像を確認。特に、映っている『一つの存在』を、注意深く観察する。
――灰色の世界には全く似合わない、美しい金髪。
――破壊の象徴たる瓦礫の山には似合わない、可憐で幼い少女。
……つまり、だ。現状をまとめると、こうなる。
私は今、瓦礫の山ばかりが連なる、戦闘の跡地と思われるどこかに、先ほどまで休眠状態で倒れていて、目の前には金髪の幼女が一人。
会話を試みる。視覚ユニットと同時に切った聴覚ユニットを、再び起動。発声機能を使って、声を出す。
「あなたは誰でしょうか?」
幼女からの返事は無い。
「ここは、どこですか?」
やはり、幼女からの返事は無い。
――さて、どうしたものか。現状、唯一の状況理解への手掛かりとなるのは、目の前の幼女の存在のみだ。だが、どういうわけだか、応じてくれない。
たしかに幼い外見ではあるが、全く言葉を喋ることができないほど、幼いようには見えない。簡単な日常会話であれば、できると思うのだが……。
このまま反応が無いのであれば、反応があるまで待ってみるか、それとも、自力で動いて情報を取りに行くか。
――自力で動くと言っても、たかが知れている。
人造人間の、さまざま存在する型の中で、私の体には『少女型』と呼ばれる型が採用されている。なので私の体は、目の前の幼女ほどではないが、小さく、身体能力は、それほど高くない。
普段の作戦時の行動は基本、エネルギー消費を気にせず――正確に言えば、普段の膨大なエネルギー貯蓄があれば、気にならないと言う言い方が正しい――、身体動作の補助に回す。なので、この低い身体能力も全く気にならない。
だが、気軽に補給ができないどころか、切れかかっている寸前という現状、エネルギー消費を極限に抑えた移動となると、この体に見合った程度の移動能力で、二、三分歩けるか――と、言った具合になるだろう。
――だから、たかが知れているのだ。もっとはっきりと言えば、ただの無駄になる可能性が高い。
瞬間記憶で記録した視界の画像に、再び意識を向け、他に分かることが無いか観察をしてみる。
――町のごく一部、局所的な破壊には見えない。このような光景が、見渡す限り延々と広がっているのだろうと予想ができる。
実際、幼女との対話のために起動した聴覚ユニットは、先ほどから風の音しか拾わないのだ。聴力強化をすればあるいは、人間の営みの音を拾えるかもしれないが……拾ったとして、音の発生源にまで移動する手前で力尽きる。それがオチだ。
『あ、あの……あのね!』
そう思考を巡らせていた私の耳が、人間の声を捉える。聴力強化をするまでもなく聴こえるほど近くて、この場に居る人間は、目の前の幼女のみ。――私に応じてくれる気になったようだ。
そして、幼女の声を聞いて。どうして返事が無かったのか、それを理解する。
……この事態は、全くの想定外というわけではないのだが、できれば当たっていてほしくない予測ではあった。
『どうしました?』
『あ、あれ!? ……えっと』
明らかに驚いている、幼女の声。当然だろう、急に意味の分かる言葉で、私が話しかけてきたのだから。
幼女が話しているのは、『エネギリア語』だ。私の話していた言葉と、言語が違ったのだ。
……しかし、よりにもよって『エネギリア』というのは……これはかなり、厄介なことになるかもしれない。
幼女の髪の毛が金髪の時点で、ここが異国の地であるとは察していた。私の国では染髪をする以外に、金色の髪の毛と言うのは、ほとんどありえない。それに、子供である故にそれほど特徴が濃いわけではないが、顔もやはり、どこか異国人めいた感じがする。青い目などは、その象徴的なものだろう。
――そして、『エネギリア』。この国は、私の国にとって、最大の敵対国家だった。
世界を巻き込む大戦争によって、ほぼ全ての国は崩壊した。最後まで生き残り、戦いを続けていた主要な国と言うのが、私の国と、エネギリアだった。
私の国と、エネギリア。この二国間の決着が付けば、世界大戦の終結。だが、世界はもう、何もかもがめちゃくちゃで、引き返せない状況で。だから、戦争が終わるのが先か、世界が終わるのが先か。たとえ勝利したとしても、勝利の美酒に酔いしれ、まどろみながら、滅んでいくだけ。
それが、この世界だった。
――ふと、私の中に警戒心が起こる。
私の国がそうであるように、エネギリアにも、そして他の国にも、『人造人間型兵器』がいくつもあった。人造人間は例外もあるが、外見は完全に人間で、立ち振る舞いも人間で、私のような『少女型』があるように、さまざまなタイプがあって――。
だから、つまり――。
…………目の前のこれは、どっちだ。




