第12話 存在の定義
昨日は投稿できなかったので、本日は二回投稿です。二話目は夕方頃に投稿します。
私とリグレットに、別れは必ず来る。これは確定事項だ。本来は交わることがない立場同士であり、このままいつまでも一緒というのはありえない。
親密になれば、その別れ自体が、リグレットの心を深く傷つける可能性がある。――なら一定以上、リグレットからの信頼を得るべきではない。
……だが、リグレットのことを突き放しながら今後を過ごすというのも、現実的な話ではない。
リグレットは今、不安定で、何か寄る辺を求めているのは明らかだ。
それに、別れが来るとは言っても、先の話で。その時までは少なくない時間を二人で過ごすのだし、私自身も、リグレットの助けが無ければ、行動不能になってしまう。そう考えるとやはり、ある程度は良好な関係を築いていた方が、色々と具合がよく日常が回るだろう。
……今、一つ言えるのは、距離感を間違えてはいけない。私は、自分がどう言った存在であるか。それを忘れてはいけない。
――私は何もかもを破壊し、戦争を動かす『超兵器』だ。幼い少女の心の支えになれるような、そんな殊勝な存在ではない。それは、私にはできないことであるし、私自身も、そうなりたいとは思わない。
もし――もしもだが……リグレットが少しでも私に、母親の面影を見ているのなら。
――私は、母親の代わりにはなれない。
これだけは、はっきり意識をしておく。
独りで心細い思いをしたリグレットは、過剰に私になつきやすくなっている節がある。あの歳で、このような経験をしているのだ。それは仕方ないだろう。
リグレットは今、寄る大樹を選べない。別に私でなくても、なんなら、大人ですらない、同年代の子供であっても。
とにかく、誰かが必要だったのだ。
だから私が、距離感を間違えてはいけない。私は、私自身の目的を達成するその時まで、リグレットを守る存在、兵器である。
道中、良好な関係を築くのはよい。だが、分不相応に、他人の心の支えになろうなど、考えてはいけない。
*****
リグレットによる絵本の読み聞かせが終わり、それから少し、とりとめのない会話を楽しんで。
リグレットにまた、おかゆと、茹でた芋を作り。
リグレットがそれを食べ終えたのを確認してから、私の食事――魔力補給をしてもらう。
ある程度補給を続けたところで、リグレットに限界がきたようで、あっと言う間に眠ってしまった。
――今日は散歩で体を動かしたり、精神的にも、色々と激しい日であった。かなり疲れがあるのだろう。
――さて、幼い少女と言うのは、理論上、最も魔力の保有量が多い存在ではあるのだが……それにしたって、かなりのものだ。
『超人的機能』の内『飛行機能』は、エネルギーの消費量が高い部類の機能である。それを一瞬の使用ではなく、滞空、加速しての高速飛行など、その機能を存分に使った。
それでも、私のエネルギー残量は、この一晩、探索できそうなほどある。
今はエネルギーをためる時期なので、今晩、探索に出ることはないが……この回復量は、完全に想定外だ。もちろん、いい意味で。
瓦礫の山で、初めて会った時。
あの時――リグレットがこわごわと私に抱き着き、魔力補給をしたあの時に、私に流れ込んできた魔力の量と、今の魔力の量。
比べると明らかに、今の方が、効率が良くなっている。
魔力はまだ、その仕組みなどは解明されていない。
ただ、数少ない判明している事実の中に、魔力の放出量は、その人間の状態に左右される。と、言うのがある。
肉体的な健康などが一番分かりやすいが、それ以外にも、人間にとって『不調』と言うものは色々ある。
――初めて出会った、あの時。リグレットは孤独で、どうしようもなく不安であっただろう。
それが今は、少し安定している。
そう考えると、リグレットの放出魔力が増えている――正確に言えば、元の出力に戻っている――と言うのも、説明がつく。
もう一つ、リグレットの魔力放出量が増えた理由として、可能性があるとしたら――これはまだ噂程度の話で、解明されてはいないのだが――。
歴史書などの過去の文献をみると、当然そこにも、『魔力持ち』であったのだろう人物たちに関する記述を発見することができる。
そう言った人々は宗教関係者に多く、例えば人の手を握りながら祈ることで、その人の怪我や病気が治った。――と、いったような記述がある。
当時はもちろん、『魔力持ち』なんて言葉はなかったのだから、「神の祝福を受けた者」だとか、それが女性なら、最も多い呼び方が『聖女』であった。
この話から飛躍して、魔力の放出には、『気持ち』が大切だと説く集団がいた。
相手のことを想い願う力。それこそが魔力の大きさに関わる要素であるという主張だ。……結局そのまま、「だから、尊い魔力を単なるエネルギーとして利用するのはやめろ」だとか、もっと直接的に、「兵器利用をやめろ」だとか。……私にとっては都合の悪い主張に繋がるわけだが。
――まあ、そのような理由の特定はともかくとして。実際に、リグレットの放出魔力量が増えていると言うのは、ありがたいことである。
正直、私のエネルギーの回復が十分にさえできれば、大抵なんでもできると言っても過言ではない。
魔力が十分にあれば、夜の探索も、夜目を効かせた視覚強化で強引にできるし、町と町の移動だって、高速移動、必要があれば飛行も可能。腕力強化で大抵は突破でき、高速演算による、疑似的な未来視――本当に、なんでもだ。
既に何度か利用して確認が取れていることだが、私の『超兵器』としての機能などは、そのまま備わっている。――ただ、エネルギーだけが枯渇していたので、厳しいやりくりを考えなくてはいけなかったのだ。
……こうなってくると、戦闘服の追加エネギーパックが無いことが悔やまれる。
我ながら贅沢だと分かってはいるが、探索の進み具合、物資の貯蓄量などの状況次第では、もしかすると、私の本体分のエネルギー容量を完全に埋めることも可能かもしれない――。
――服。
そう言えばと、自分の身体を見下ろす。
完全に露出した、素体。
何か、隠すものが欲しい。
私は普通の兵器型なので、乳首も生殖器も存在しない。どちらも体のごく一部の話で、要素としては細かい部分だが、一目で分かる部分である。
それに、やっぱりどこか、人間とは違う印象がある。
大まかな造形は同じだし、人工皮膚もあるので、見た目はそこまで機械然とはしていないのだが……なんとなく、メリハリが無いと言うか……のっぺりとしているのである。
生物的な歪みが無さすぎるせいだろうか? 作られたのだから当然だが、人間の体に比べるとやはり、整いすぎていると言うのが、違和感に繋がっているのだと思う。
――この体を晒すのは、余計なトラブルを引き起こす可能性がある。だから、隠すものが欲しい。
この時世なら、人造人間と言うだけで警戒されるだろう。基本的には無警戒でいてくれた方が、色々と都合がいいので、体は隠しておいた方が良いだろう。体さえ隠しておけば、ただの少女にしか見えないはずだ。
この後、例えばどこかの避難所にうまく合流をしたとして。私とリグレットは……髪色も顔だちも違うので、姉妹には見えない。――このあたりの上手い嘘も、リグレットと口裏を合わせておいた方がよさそうだ。
――それにしても、まさかここで『少女型』の空気と化しているメリット、「民間人に紛れる時、警戒されない」と言うのが生きてくるとは思わなかった。
大義名分用の、それっぽい理由だろうと思っていたが、こんな風に、本当に役立つ可能性が出てくるとは……。
私は探索する物品リストに、手ごろな服を追加。
やるべきタスクに、私とリグレットの、対外的に表す関係の整理、及び、共有。
探索に出ない。リグレットも起きていない現状、私が今できることは無くなった。
そう判断し、私は待機状態に入った。




