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四精霊神の幻想  作者: 水瀬 もみじ
王都へ
3/7

ep.3 ナチェスティア区

 部屋は暗く静かだった。

 雨が地面に叩きつけられる音も、開いたままの窓から入る冷たい風も、何も感じない。

 無気力なまま椅子に腰掛けると、足元で何かが触れた。水だ。ポツポツと窓から滴る水は床にどんどん広がっていった。

 水に触れたからか少しづつ感覚が戻ってきた。雨が叩きつけられる音、水や風に当たり冷たくなっていく体、足元に流れてくる水。

 そして、窓から滴る水の音を聞いた瞬間、何かが頬を伝った。頬を伝ると同時に、ホロホロと崩れるようにゆっくりと心に穴が空き、だんだん視界が暗くなっていった。


 目を開けた時には、既に雨は止み、葉の付いてない沢山の木々の間から煌々とした朝日が差し込んでいた。

 差し込んだ光は明るい胡桃色の髪を照らし、心地よい風を吹かせて、少しだけティアーナの心に安らぎをくれた。


(今日からどうしよう、何から手をつければいいんだろう⋯⋯?)


 そんな事を考えていると、ぐぅぅーとお腹がなった、


(そういえば、昨日のお昼から何も食べていないな⋯⋯ご飯を食べながら今後どうするか考えよう)


 そう思いながら、ティアーナはリゼッタの墓に挨拶をしに行った。


「おはよう、お母さん⋯⋯会いたいよ、おはようって言ってよ」


 喋りかけても返答はない。返事が返ってこないなんて事は知っている。

 それでも、言葉に出さずには居られなかった。

 起きてもおはようと言ってくれる人が居ない、家には自分しかいない。

 いつもならおはようと言ってくれる、ご飯が出来たと呼んでくれる、たわいもない話をしながらご飯を食べて魔術の練習をしに行く。

 そんな当たり前の日々が突然無くなった。自分を拾って育ててくれた養母が突然目の前からいなくなる。

 それは、ティアーナを闇に落とすには十分な出来事だった。

 ぽっかり空いた穴から、思い出と言う名の眩い光がこぼれ落ちいく。

 それでも、ティアーナは立ち上がった。辛い今、下を向いて立ち止まるのではなく、前を向き進む事を選んだ。

 まだ幼い少女の決断は、人生の分岐点となる。

 それを分かっているのだろう。だからこそ、進み続ける事を選んだのだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そんな、重い決断をしたティアーナはパンにかぶりつきながら、今後の事について考えていた。


(これからどうしよう、まずは王都に行って王立魔法学院の試験を受けてみようかな?王都なら図書館で調べ物もできる⋯⋯確実にお母さんの仇を打つ為にも力は欲しいし)


 大まかな予定は決まった、王都に行って調べ物をしつつ、力を付けるために魔法学院の試験を受ける。


「よし、そうと決まれば早速準備だ」


 そう言うと、テキパキと手際良く準備を始め、いつもより早めに就寝した。

 翌朝、普段よりも早く起きたティアーナは荷物を持ち、墓の前へ行った。


「おはよう、お母さん⋯⋯私ね、王都に行くことにしたの、だから、その、少しの間待っていてね!今は笑ってお別れ!また、帰ってくるから⋯⋯」


 ティアーナはたったそれだけを言い残し早速王都へ向かった。


「王都に行くにはナチェスティア区に行って、列車に乗るのかぁ、ナチェスティア区は森を出て直ぐの所だから心配はないけど、王都までどの位で着くか分からないからなぁ⋯⋯試験も10日後だし急がないと、とりあえず色々考えてもしょうがないからナチェスティア区を目指そう!」


 そう言いながら風魔術で加速しつつ、ティアーナは早速試験について考えていた。


「試験って何をするんだろう?魔法を見せればいいのかな?もし、魔術式を書いたりする試験なら私落ちるだろうなぁ⋯⋯」


 ティアーナの無詠唱魔術は、魔術式をほとんど必要としない。一般的に魔術を使うには魔術式を構成するために詠唱をし、イメージを掴む。魔力操作をし、魔術式の構成を変え飛ばす方向や形などを変えるが、ティアーナの場合、卓越した魔力操作技術とイメージで魔術を行使している。

 そのため、魔術式をほとんど使わない上に、無詠唱で魔術を発動可能となったのだ。

 そんな天才少女は、


「はぁ⋯⋯魔術式って覚えづらいし使いづらいし、詠唱大変だしほとんど覚えていないんだよなぁ⋯⋯みんなも無詠唱でやればいいのに⋯⋯」等と抜かしている。

 そんな事を考えていると早速ナチェスティア区が見えてきた。


 ナチェスティア区に着いたティアーナは、早速列車に乗るために駅に行き、時刻表を見る。


「王都行きは⋯⋯明後日の夜だ!明後日出発してからなら大体4日位で王都に着くのかな?なら、先に宿を探そう!」


 そう言いナチェスティア区を歩き始めた。

 ナチェスティア区の周りには深い堀があり水が流れている。堀には4箇所橋がかかっており、橋には冒険者がいる。魔物対策なのだろうが少し心細さが残る造りだった。橋を渡った先は人々の住む家や、レストラン、冒険者ギルドなどがあった。


「あっ!冒険者ギルド!冒険者って少し憧れてたんだよね!列車に乗るまでやることも無いし冒険者登録しようかなぁ⋯⋯冒険者ってBランク以上なら何かと便利だし!」


 そう言う事で、早速冒険者ギルドで冒険者登録をしに行った。


「こんにちは、冒険者ギルドナチェスティア支部へようこそ!ギルドは初めてですか?」


「は、はい、初めてです!」


「では、最初に冒険者登録をさせて頂きますね!こちらの書類に名前、年齢、職業の記入をお願いします!」


 ギルドの受付嬢と会話を交わした後、ティアーナは早速登録を始めた。


「えっと、名前はティアーナ・グリズリー15歳、職業

 は魔術師で、得意な属性は風、オリジナル魔法は⋯⋯無詠唱魔術でいっか!」


 呑気にそんな事を言い、ティアーナは書き終わった書類を受付嬢に渡した。


「職業は魔術師でオリジナル魔法は無詠唱魔術⋯⋯?ティアーナさんってまさか"契約者様"なんですか?!だけど、ティアーナ・グリズリーなんて名は一度も聞いたことがないし⋯⋯」


「あ、私は"契約者"?じゃないですよ、ただの無詠唱です!やってみせましょうか?」


「えぇ、まぁいいですけど、無理はしなくて大丈夫ですからね⋯⋯?」


 そう話しながらティアーナは手っ取り早く実践して見せた。

 人差し指を一振すると、威力は弱いが室内に大きな竜巻が出来た。

 それを見た時、誰もが目を見開いたまま硬直した。

 何も詠唱せず指を一振した瞬間、目の前に大きな竜巻が現れたなどと言われても、信じる人は誰も居ない。

 しかし、実際に目の前にしてしまっては信じないはずがない。

「おぉー!」「すげー!」などと歓声を上げる声や雄叫びや悲鳴の様な声、中には物を床に落とし足を痛めている者まで、反応は様々だった。


「す、凄い⋯⋯自然の魔力無しでの無詠唱なんて初めて見た」


 受付嬢がそう言うと、「これが私のオリジナル魔術です」と言い、何事も無かったかの様にティアーナは振舞った。が、内心は⋯⋯


(私、すごい褒められてる!やっぱり無詠唱魔術は使ってる人がいないんだなぁ!)などと、一人ではしゃいでいる。


「あ、あのぉ⋯⋯」


 ティアーナが平然を装っているからか、受付嬢は申し訳なさそうに声をかけてきた。


「どうしました?」


「す、すみませんでした、勝手に嘘だと決めつけて失礼な態度を⋯⋯」


「いえ、実際に見るまで信じられないと思いますし、信じて貰えたなら大丈夫です!」


「ありがとうございます、本来ならGランクスタートの所、無詠唱で高威力のティアーナさんはDランクから始めさせて頂きますね!」


「え?高威力?」


「⋯⋯?はい!先程の竜巻はBランク相当の魔術ですからね!」


「Bランク⋯⋯」


 ティアーナが驚くのも無理はない。

 魔術の難易度は、EランクからSランクまでで分類されており、威力や魔力量、コントロール、発動の難しさで分類されるが、先程使った魔法は、ティアーナの使う魔術の中でも威力を極限まで落とした初級、Dランクの魔術だからだ。


(Bランク⋯⋯多分聞き間違えだよね!だって私が使ったのはDランクの魔術だし⋯⋯)


 そんな事を考えながらギルドを出たティアーナは、久しぶりの移動のせいか、疲れを癒すためギルドの横に隣接されている宿に入った。

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