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第19話:人類最強がやってきた(4)

 シロの魔法【安らかな眠り】で、いまテツザは改めて深い眠りについている。


 ソラの施したステージ上の結界も解除され、

 中にいた人間たちもシェリル達の周りに集まってきた。


「それじゃあ、御主人様が決めた通り、この男の能力を封印しましょう。

 チート能力者を創る能力をね。クロ……やってちょうだい」


「無理……」

「えっ?」予想外の返事に目が丸くなるソラ。


「ちょっと条件が狭すぎる。もっと大雑把な範囲じゃないと無理」

「あぁ、そうなの……それじゃあ……」


「呪いをかける能力全部まとめて封印するのがいいですわ」

 と、提案したのはシロ。


「あぁ、そうね。チート能力を与えるのは呪いだから同じことよね」

「それならだいじょぶ。御主人の魔力があればだけど」


「あと何か影響はあるかしら?」


「うん、呪いでつながっている相手からの力の流れも消えるから、

 スキル強奪の分け前も届かなくなる」


「それは都合がいいわね。だとすると――

 いまチート能力の呪いを受けている異世界人ってどうなるの?」


「それはわからない……。関係が切れるだけで解呪じゃないから、

 いきなり能力が消えることは無いだろうけど……

 いつかは消えるのか……そのままなのか、しばらく経たないと……」


「そう……、まぁ、それはどっちでもいいかな」


「それと――召喚魔法の召喚契約も、呪いと一緒だから消えちゃうな」

「じゃあ、ダルガンはどうなっちゃうの?」


 クロの説明を耳にしたノルンが横から口を挟む。

 自分の好敵手――竜人ダルガンのことが気になる。


「今いるのは異空間だから……、ソラ――どうなるの?」

「契約のない召喚獣ならアタシが異空間から連れてくるわよ」


 小さく頷いてソラの説明にほっとするノルン。

 そしてソラとクロは最後の確認。 


「ほかには?」

「うん、もうない」

「じゃあ、さっさとやっちゃおう」

「りょうかーい」


 シェリルから魔力の供給を受けてテツザの『呪いをかける能力』を封印する。

 最初にクロの手の平から噴出した膨大な量の黒い霧がテツザを包み、

 やがてその霧は全てテツザの身体の中に這入っていった。

 たったそれだけ――クロが「終わったよ」と無感情に告げる。

 

 その言葉を受けてソラは「ふむふむ」と言いながら、

 収納空間から物を取り出すように召喚獣を部屋の中に現出させる。


 その数――百体弱。


「おぉ、シェリル様。早速開放していただき、ありがとうございます。

 このダルガン――

 今後はシェリル様の直接の配下として精一杯働かせていただく所存です」


 四天王(本当にいた)はその一人である竜人ダルガンの指示に従わせ、

 白ゴリラや他の魔物は牛頭巨人リーダーの【統率】スキルで従えて、

 とりあえずダンジョン拡張予定地で工事済みの部屋に連れて行って待機。

 今後は工事の手伝いで、階層完成後は役割分担して配置することになる。


 その後、すっかり存在の忘れられていたジークの解呪も終える。

 これで彼はケントと同じ無能力者になった。あとの対処はタバサに任せる。


 残るは元凶テツザの処遇だけとなり、

 この時点でソラは人間たちに騒動の終わりを告げる。


「この男はこっちで預かるから、あとは解散ってことで。

 タバサとアカネとシオリ、ありがとう。いろいろ助かったわ。

 ノルンと勇者もお疲れさま。町に送るわよ」


 シェリルとテツザの戦いの結末と『時間魔法』という言葉。

 その場にいた人間たちにとって、

 理解できない状況であったにもかかわらず誰もそれを話題にしない。


 ソラは少し不思議に思っていたが――、

 あえてこちらから話すことでもないと黙っていた。


「何かありましたらいつでもお呼びください。

 シェリル様、シロさん、クロさん、これで失礼します」


 タバサはシェリルの『時間魔法』について勝手にひとり納得していた。

 改めて訊く必要もない、シェリル様なら出来て当たり前――と、

 一番すっきりした顔でその場を辞する挨拶をする。


「それでは失礼します。ソラさん、お願いします」

「皆さんお疲れさまっす」


 シオリとアカネは、知らないほうが良いこともある――と、

 理解を超える魔法について心の奥底にしまおうと決めていた。


「わたしは勇者様と回復の温泉にいくわ」

「ああ、そうさせてもらおう」


 ノルンと勇者は知識にない魔法に驚き、興味をそそられていたが、

 それを本人に訊くのは礼儀知らずな行為だ――と、自重していた。


 各人そういった理由で『時間魔法』について触れずにいたのだった。


 ソラは人間たちの挨拶に軽く頷き、タバサとシオリとアカネ、

 未だ寝ているジークと木人形三体を連れて空間転移で町に移動する。


 ノルンは竜人ダルガンと短く言葉を交わし再戦を誓った後に、

 戦いの疲労を癒すため勇者と共に回復の温泉へ歩いていった。


 その後――町から戻ったソラがふと思いついた事を同僚に尋ねる。


「そういえばこの男もあの人間みたいに無能力者にできないの?」


「あの人間はチート能力を解呪しただけでああなりましたけど……、

 この男はクロの呪いによる封印でないと無理ですわ」


 人形たちの言うこの男とはテツザ。あの人間とはジーク。

 シロの説明に対するクロの答えは――


「まとめて封印して廃人にするか、あとは、いっそのこと……」

「あぁ、わかったわ、そこまではしなくていい。アタシに考えがあるから」


 ソラはその考えをシェリルに提案する。


「御主人様、この男に手綱をつけたいのですがよろしいですか?」


「なに、それ?」


「この男は空間魔法が使えます。神のいただきに行く資格があるのです。

 だからアタシが連れて行って神に引き合わせてやろうかと思います。

 この男もそれを望んでいたようですし。

 神にこの男の処遇を任せてしまえば、力を悪用することもなくなるでしょう」


「ふーん」


「一番の問題はこの男の悪意なのです。

 その力が御主人様に向かうだけなら良いのですが、

 ヤトカイの町や知り合いの人間に向かうと厄介です。

 御主人様は守るものが出来てしまいましたから。

 この男を野放しするのは危険です。だからこそ神という手綱をつけたいのです」


 説明を聞くのが嫌いなシェリルも、

 今のソラの話はしっかりと耳を傾けて聞いていた。

 そして――いつもの笑顔で丸投げ。でもそれは信頼のあかし。


「うん、任せた」


 主から承認を貰ったソラはシロに頼んで早速テツザを眠りから覚ます。

 意識を取り戻したテツザは仰向けの体勢のまま、

 周りを囲むシェリルと三体の人形を見て事態を把握。

 ゆっくりと上半身を起こして、怒りの表情でシェリルを睨み付ける。

 もちろん彼には、その身に受けた時間魔法の記憶はない。


「俺はどうして負けたんだ……? 最後が思い出せねぇ。何をしやがった!」


「それは教えられないよ」


 あっさりとテツザの怒りを受け流すシェリル。

 一層顔を歪めたテツザにソラが説明を加える。


「最初の約束通り、あなたの能力を封印させてもらったわ。

 全部じゃないから安心しなさい。呪いに関することだけ」


「なんだと!」


「暴れても無駄。あなたとシェリル様の力の差は歴然としているわ。

 何度でも叩きのめしてあげる。ただ、あなたの強さも認める。

 褒美として……あなたに神の頂の場所を教えてあげる」


 テツザはいきなりのソラの提案に疑いの目を向ける。


 ――まぁ、信じられないわよねぇ。


「わかったわ。正直に言う……。

 あなたみたいな人間が地上にいるのは迷惑なのよ。

 大人しく御主人様の挑戦者をやってくれるなら歓迎だけど、

 それで収まらないようだからね。

 だからあなたの望む神の頂に連れていってあげるから、

 そこで暴れるなり、手綱を付けられるなり、して欲しいってわけ」


 ソラはテツザに偽りのない本音を一気に説明する。


「これならあなたも納得できるでしょ。

 全てはそこから――あなたの実力次第なんだから」


「本当か? 騙すつもりなら容赦しねぇぞ!」


「本当よ、あなたを罠に嵌める必要はない。

 この場で始末だって出来るんだから、こんな回りくどい事はしないわ」


 そこまで説明されればテツザも納得せざるを得ない。

 何しろ、どうやって負けたのかすらわからない状況である。

 それこそ命があるだけでも儲けものなのだから。


「よし、今日のところはそれで納得してやろうじゃねえか」


「……今すぐ連れていくわ」


 敗者のくせに傲慢な態度が抜けないテツザに呆れながら、

 これ以上グチグチ言われるのも嫌なのでソラは早速行動に移る。


 テツザを立ち上がらせて「空間転移でついてきて」と告げる。

 ソラの姿が音もなく消えて、続いてテツザの姿もその場から消えた。


 残されたシェリルはシロとクロと共にダンジョン管理室へ。


 普段は感情を表に出さないシロとクロも微かに頬が上気している。

 初めて実戦で主と共に戦った――その充足感が顔に出ている。


 シェリルも満足げな笑顔を浮かべている。


 騒がしかった最終ボス部屋も今は誰もいなくなり、

 今日の役目を終えて静けさに包まれる。

 それは明日の挑戦者が来るまでの静寂。


 その後――

 神の頂にテツザを連れて行ったことが原因で、とあるひとつの事件が起こった。

 けれどもそれは、シェリル達にとって取るに足らないほんの些細な出来事。


 だからそれを語るのは後回し。


 これで「人類最強の男がやってきた」事件は幕を閉じたのである。



 ◇ ◆ ◇



 後日譚。あの事件から十日ほど経ったころ。


 魔物の森で行われていた大規模な魔物の間引き作業が終わり、

 それを祝してヤトカイの町で打ち上げパーティが開かれた。

 場所は合同組合本館の奥にある教練場。町の飲食店が屋台を出して立食形式。


 出席者は組合に所属している魔物ハンターと町の警備隊員。木人形もいる。

 組合長のタバサ、シオリにアカネ、グレイにバルド。離れた場所にランダル。

 ゲストとして領主のライルとさすらいの武闘家集団ピンクキャットの面々。


 白猫姿のシロはライルと楽しそうに話をしている。

 黒猫姿のクロは警備員と木人形に囲まれて武器談義をしているようだ。

 三毛猫姿のシェリルは右手にクレープ、

 左手にドーナツを器用に肉球でつかみ交互に食べている。

 横で茶猫姿のソラがクリームで汚れた主の口周りを拭いている。


 和やかな雰囲気でパーティが盛り上がる中、

 肉料理が並んでいる場所で顔馴染みの人間たちが談笑していた。


「シオリ……ノルンが来たようだ。行ってきていいよ」

「じゃあ、ちょっと行ってくるわね」

「バルドさん……組合長をからかうのはその辺でやめた方がいいっすよ」

「うがっ!」

「遅かったっすね。自業自得っす……あたしもノルンのところに行ってくるっす」

「あぁ、バルドは俺に任せておけ」


 会場に到着したノルンを見つけたシオリとアカネは、

 タバサに殴られて目を回しているバルドをグレイに任せてその場を離れる。


 ノルンはパーティの主賓のひとり。

 町を襲った巨大ミミズが魔物の森のヌシだと認定されて、

 そのヌシを退治した功績が認められ、世間に公表されたからである。

 大地の勇者も彼女の保護者として付き添っていた。


「ノルン、楽しんでるっすか」


「アカネ、ええっと……

 こういうパーティなんて初めてで、どうすればいいか分かんなくて」


 人見知りをするノルンにとって、

 こういった場は大の苦手で、いつもの元気さが完全に影を潜めている。


「深く考えなくっていいっす。いっぱい食べて、いっぱい飲んで、

 みんなとおしゃべりして、笑顔でいればいいっすよ、ほらこれも食べるっす」


 串焼きの肉を三本手渡されて、ノルンは目を丸くする。


「ここにいるみんな、ノルンが巨大ミミズを倒した話を聞きたがっているっす。

 魔物の森のヌシを倒すところ、あたしも見逃したから教えて欲しいっす」


「えっ、そんな大した話じゃ……」

「それはわたしも聞きたいな」

「シオリまで……」


「俺にも聞かせてくれ。ノルンが倒したという魔物の話。

 ここに来るまで、お前がヌシと言われる魔物を倒したなんて聞いてなかったぞ」


「ゆ……勇者様まで……」

「……今はまだ皆の前で勇者とは呼ばない約束だろ」優しい笑みを浮かべる。

「いやです」頑なに拒むノルンに大地の勇者は苦笑する。


「よーし! ノルンの巨大ミミズ討伐の話をするっす。みんな集まるッす!」


 顔を赤くしてノルンが当時の話をする。

 やがて……それが一段落して、

 ノルンの周りから人が少なくなってからシオリが口を開く。


「そうだ、アカネ、あのことをノルンに訊きましょ」

「そうっすね」

「なんの話?」


「ノルン、シェリル様のダンジョンが拡張されるって話聞いてる?」

「えぇ、詳しくは知らないけど、そうみたいね」


「それはまだ先の話なんだけど、先に準備しておこうと思ってね。

 ダンジョン探索はパーティ人数が多いほうが良いじゃない。

 それで……私たちとパーティを組んでほしいの。

 しばらくはそれを前提に魔物ハンターをやって、

 シェリル様のダンジョンが広くなったら一緒に攻略するの」


「えぇ、でも……」


「難しく考えなくていいっすよ。ただ一緒に魔物ハンターやって、

 ダンジョンが広くなったら一緒に攻略したいって思っただけっす」


「ノルン、引き受けるんだ。お前には仲間が必要だ」

「なら勇者様も一緒に……」


「俺はこれから自分を鍛え直す。いつかもう一度勇者と名乗れる日まで。

 せめてシェリルさんのところの大トカゲを倒せるようになるまでは……。

 それまでは一人でやらせてくれないか」


「……」泣きそうな目をして上目遣いで勇者を見るノルン。


「お前が不安に思っているのは、俺がどこかに行ってしまうことなんだろう。

 心配するな。以前の家を引き払って、この町を拠点にすると決めたじゃないか。

 この町でこれから借りる家が二人の家だ。何処にも行きはしない。

 ……シオリさん、アカネさん、ノルンを頼みたいのだがお願いしてもいいか」


「はい、お任せください」「いいっすよぉ。ノルン、一緒にやるッす」

「……わかりました、勇者様……。よろしくお願いします、シオリ、アカネ」


 新しい探索パーティが出来上がり、

 ノルンも会場の雰囲気にようやく慣れたころ、その場にマリエがやってきた。

 彼女の店も屋台を出していて、手伝いで会場に来ていたのである。


「ノルンお姉ちゃん。うちから出ていっちゃうの?」


 そう問いかけるマリエの顔には隠し切れない不安が現れていた。

 彼女はある話を聞いていた。

 今はマリエの家に一緒に住んでいるノルン。

 けれどもここ最近、勇者と暮らすための家を探している――と。

 そんな時に先ほどのノルンと勇者の会話を耳にしてしまったのだ。


 マリエが何を思っているのかはノルンでもわかる。

 自分との別れを寂しがっているのだ。その想いはありがたい。

 しかし勇者様と暮らす家はノルンにとって最優先、

 引っ越しを取りやめるという選択肢は彼女には無い。


「マリエちゃん。心配しないで。これからもマリエちゃんの店に行くからね」

「……でも、もう一緒にお風呂に入ったりできなくなっちゃう……」

「大丈夫、たまには泊まりに行くから」

「本当に……?」

「うん、ほんとほんと」ヒュンヒュン……

「あと、魔物退治も時々教えて欲しい……」

「うん、任せて!」ピシッ! ピシッ!「……って! 痛いわよ!」


 ノルンの背後にいたのは三毛猫姿のシェリル。両目が逆三角になっている。

 それはいつか見た光景とおなじ。

 マリエと仲良くしているノルンに嫉妬して、見えない鋼糸で攻撃している。

 その後ろで茶猫姿のソラがワタワタと手を振っている。

 自分の主を止めようとしているようだが全く効果がない。


「シェリル! 何やってんのよ!」


「あたしはシェリルじゃない。キャリコ。

 さすらいの武闘家集団ピンクキャットのキャリコ。

 マリエちゃんからは三毛猫お姉ちゃんと呼ばれてるよ」


 相も変わらず始まった、

 町が壊滅しかねないシェリルとノルンのこの騒動、

 やっぱり、マリエ(真の人類最強?)にたしなめられて終息し――


 ヤトカイの町は――再び平和を取り戻したのであった。



 ◇ ◆ ◇



挿絵(By みてみん)



 第三章第19話、お読みいただき有り難うございます。


 次回は最終話「そして神話になれ、もしくはエピローグ」

 2月9日更新予定です。


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