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最終話:そして神話になれ、もしくはエピローグ

 さて、テツザを神のいただきに案内した時に起こった事件をいま語ろう。

 シェリル達にとっては本当に些細な取るに足らない出来事。


 それは――


 ソラが転移で辿り着いたのは、雲の間からそびえ立つ一本の巨大な柱の頂上。

 白い大理石で出来た円形の広場。周囲は背の高い金属製の柵に囲まれている。


 その中央にぽつんと空色の人形ソラの姿が出現し、

 続いて黒いコートを着た男テツザが姿を現す。


「どう、ここが神の頂。嘘じゃなかったでしょう」

「こんな場所にあったのか……」


 広場を囲う柵の一部分に、

 これもまた真っ白い大理石で出来た巨大な門――神の門――がある。

 そこを護るように白い何かが長い杖を持って立っている。


「あそこにいる薄っぺらな紙みたいな人型ひとがたが神の遣いよ。

 あとはお好きにどうぞ。あなたならもう独りで帰れるでしょ」


「当然だぜ……」


 場の雰囲気に呑まれたのか、

 言葉とは裏腹にソラの問いに答えるテツザの声が震えている。


「アタシは魔族の従者だから歓迎されないのよね。さっさと帰るわ」


 過去、最初にここに辿り着いたとき、

 魔族の従者であるという理由だけで追い返されたのだ。


「おい! お前!」


 だが、ソラの判断は少し遅かったようで、

 門の前にいたはずの神の遣いが不意に近くに現れる。


 テツザとさして変わらぬ身長。紙のような素材で出来た人型。

 ペラペラな手に当たる部分でどうやってか杖を支えている。

 その杖を前に突き出し、口もないのに何処からか詰問調の声を出す。


「お前は以前この場に来た魔族の従者だな。なぜまた現れた!?」


 そう訊かれてしまえば無視するわけにもいかない。

 運の悪いことにソラが何者なのかまで覚えているようだ。


「あぁ、ちょっとこの人間をね……、

 空間魔法を使えるようになったみたいだから連れてきてやったのよ。

 空間転移が使えれば、この場所に来る資格があるんでしょ」


 そう言って視線で隣のテツザを示す。


「……ふむ、嘘じゃないようだな……、

 ちょっと待て、その男テツザという異世界人じゃないのか?」


 神の遣いの――これもペラペラな――顔の部分がテツザの方を向く。

 名を呼ばれ、少しだけ自分を取り戻したテツザがいつもの横柄な態度に戻る。


「なぜ俺の名を知っている?」

「あぁ、お前に用があるからだ」

「何の用があるんだ!」

「一緒に付いてくれば教えてやる。……そこの人形はそのまま待っていろ」

「いやよ。さっさと帰るわ。こんな処に長居はしたくないから」

「すぐ済むから少しだけ待て」


 ソラは唇を尖らせあからさまに不満げな顔をする。

 それでも相手は神の遣い。

 従う理由はないが不必要に波風を立てるのは得策ではない。


「……とっとと済ませなさい」

「よし……テツザよ、連れていくぞ」


 その時テツザがきつい目付きで何かを言おうとしたのが見えたが、

 神の遣いとともに姿が消える。神の頂に一体だけ残されるソラ。


「なんなのよ……」


 そう呟いたとき――

 正面にある大理石の門の向こう側から魔法の発動を感じた。

 膨大な魔力の波動が辺りの空気を震わせている。

 しかし、その現象はそう長くは続かずに、

 三回ほど瞬きをしたくらいの短い時間であっさりと消えてなくなる。


「今のは時間魔法の揺らぎ……。いったい何がおこったの?」


 周囲を警戒していると再び神の遣いが姿を現した。

 そこにテツザの姿は無く、代わりに神の遣いは意外な要求をソラに伝える。


「魔族の従者よ。お前の主シェリルをここに連れて来い」


「いきなり何を言うのよ……そんなの聞けるわけがないじゃない」


「いいから連れて来い。これは二柱の神からの命令だ」

「相手が神だろうが何だろうが同じ。アタシ帰るわよ」


 ソラが帰ろうとした時、新たな存在がその場に姿を見せた。


 その存在――神の遣いと同じ形状、紙っぽい何かで出来た人型。

 ただし違うのはその大きさ。神の遣いの十倍はある。

 円形の広場を覆い尽くす程の巨大な姿。

 やはり口もないのに声がする。重厚な低音が神の頂に響く。


「……待て……」


 ソラは怯むことなく、その姿を見上げる。

 相手がどういう存在なのか薄々は理解しているが、

 だからといって不確かなままでは話を続けられない。


「誰よあなた?」

「……我は『一の神』……おまえの主シェリルに話がある……」

「ふーん、どんな話?」

「……シェリルを連れて来い……」


 思った通りの存在だったが、

 それでもなおソラは臆することなく正面から向き合う。

 とはいえ『一の神』の言葉は主への要求である。

 さすがにソラの一存で断るのはまずい。


「わかったわ。帰って御主人様に話してみる。

 嫌だと言われたら諦めてね。それでいいわね」


「……シェリルを連れて来い……」


 こちらの話を聞いているのか、いないのか、

 同じ言葉を繰り返す『一の神』を一度睨んで――ソラはその場から転移する。



 ◇ ◆ ◇



「という話なんですが……」


 ソラは神の頂であった話をそのまま主に説明する。


「挑戦? 挑戦かな?」

「すみません。教えてくれなかったんですよ」


「ふーん……、

 挑戦なら最終ボス部屋に来てもらわないといけないけど、

 その大きさだとあの部屋でも狭いようだし……」


 すっかり神と戦うつもりになってウキウキしているシェリル。

 わざとらしく首をかしげたあとに、ポンと手を叩いて良い笑顔になる。


「よし! 特別出張するよ!」


 最初から答えが決まっていたようだ。

 そうなる気がしていた。


「はいはい」

「相手が神ならシロもクロもみんな一緒だね!」

「かしこまりました」「はーい」

「じゃあ、しゅっぱーつ!」


 ピクニック気分で神の頂へ。



 ◇ ◆ ◇



「わははははぁ、我のダンジョンによくぞ来た……

 間違えた! 我…………我……きてやったぞぉ!」


 いつものように決め台詞を言って失敗――めげずに笑顔で言い直すシェリル。

 神の遣いを従えて『一の神』はその場に残っていた。

 シロとクロは主の後ろで大人しく控えている。


「我が直々(じきじき)に相手をしてやろう! かかってこい!」


 ――神相手でも変わらない姿。さすが御主人様。


 そういうソラも先程のやりとりで、

 神相手に何ら態度を変えなかったのであるが……。


 それはそれとして――

 シェリルの決め台詞を『一の神』はあっさりと聞き流し巨体を揺らす。

 続いて神の頂に響いた神の声はシェリルへのある要請だった。


 普通であれば驚かない者はいない――それほど驚天動地な内容だったのだが、

 残念なことに、この場にいる魔族一人と従者人形三体だけは例外だった。


 その要請とは――


「……シェリルよ……神にならぬか……」


 名を呼ばれたシェリルはキョトンとした表情を神に返す。


「戦わないの?」


「……戦わぬ……神にならぬか……シェリル……」


 シェリルの問いに『一の神』は否を返して同じ言葉を繰り返す。

 しかしシェリルの答えはひとつしかない。


「やだ、――それが話なの?」


「……シェリルよ……神にならぬか……」


 三度も聞けば飽きる。

 戦わないのなら、これ以上する話もない。

 唇を尖らせ「ぶーっ」と不機嫌さを隠さずに一言。


「帰るよ、ソラ」

「はいはい」


 主につまらない時間を使わせたとソラは後悔する。

 シロとクロも「戻りましょう」「帰ろ」と表情も変えない。

 魔族と三体の従者人形はそれ以上何も言わずに神の頂から姿を消した。


 巨大な人型『一の神』は動かない。

 神の遣いだけがペラペラな腕を上げ、引き止めるような仕草をしていた。



 ◇ ◆ ◇



 この一連の出来事。

 ソラやシェリルの与り知らぬところで壮大なドラマがあったのである。

 発端はテツザが神の頂に来た事から。


 世界の神は四柱。『一の神』『二の神』『三の神』『四の神』


 異世界からテツザを呼び、能力を与え転生させたのが『三の神』だった。

 いつか神の頂に来ると見越して、四柱の頂点に立つ為の手駒として使うために。

 テツザはその事実を知らない。


 彼に与えられた能力は世界のルールから極端に外れるもので、

 他の神からはとても容認できないと何度も指摘されていた。

 しかし神は直接地上の者に手は出せない――これもルール。


 いつしかテツザの能力は――

 未習の時間魔法と未熟な空間魔法以外は――神をも凌ぐほどになっていた。


 その結果、神の世界でテツザを生んだ『三の神』と、

 他の神との間に確執が生まれ、一瞬即発の状態になっていた時、

 タイミング悪くソラがテツザを連れて神の頂に現れたのだった。


 最初に動いたのは『三の神』

 時が来たと判断して、神の遣いが他の神に報告する前にテツザを確保。

 すぐさま神の世界でテツザを含めて時間魔法を展開した。


 時間魔法を使われたなら、

 同じ時間魔法で応じなければその時点で勝負が決まる。


 場所は神の門の先にある神の世界――

 圧縮された時間の中で『三の神』対「他の三柱の神」で戦いが始まった。

 テツザは『三の神』の加護により圧縮時間の中でも動けるようになり、

 自分に能力を与えた存在が『三の神』だったと知り共闘する。


 神同士の戦いに巻き込まれたのは数百体の神の遣いと、

 偶然にも神の世界に滞在していた「神の頂」到達者である人間が数人。

 神の遣いは派閥に別れ、人間たちは(テツザを除き)傍観に徹した。


 その戦いが終結する迄に要した時間は――通常時間に換算して三十八日間。


 同時にそれは――

 神の頂にいて事件に巻き込まれなかったソラにとっては、

 たったの「瞬き三回ほどの時間」でしかなかった。


 圧縮された時間の中――八日目『四の神』が倒れる。

 時間魔法は使えないが、その他の能力が神に勝るテツザの功績が大きかった。


 その後しばらく膠着状態が続き――そして三十二日目。

 テツザが慣れぬ時間圧縮に当てられ、突如意識を失い『一の神』の手に落ちる。

 神の力により能力を即刻封印され戦線離脱。


 これが原因で戦況が逆転し、神の世界の中で『三の神』が逃亡をはかるも、

 ついに三十八日目『一の神』『二の神』に捕らえられ全ての権限を剥奪。

 首謀者『三の神』は神の座から堕ちたのであった。


 戦いで倒れた『四の神』は元の力を取り戻すのに百年単位の時間が必要であり、

 実質は神の座からいなくなったも同然であった。

 結果、神が二柱だけになってしまい大きな問題となる。


 そのため『三の神』の空きを埋めるためにせめてあと一柱を――と、

 現世界に適任を求めるのだが……人間は神になれないルールがある。


 そこで白羽の矢が立ったのが「魔族シェリル」だった。


 神として在るために欠かせない【時間魔法】の能力を持っている――

 それだけでも候補として相応しい。


 しかし、それ以上に彼女が適任だったのは――

 魔に属するとはいえ生まれがダンジョンであるため、

 人間への敵愾心を本能に持たない点であった。


 現世界でシェリルは神に最も近い存在だったのである。


 こうして――

 三十八日間にも及んだ圧縮時間から開放された『一の神』が、

 従者人形のソラを介してシェリルを呼び、神になるよう要請したのだ。


 だがしかし――


 どれだけのドラマがあろうとシェリルには関係ない。

 神になる気などさらさらない。ダンジョン最終ボスでいられれば良い。

 ソラもシロもクロも同じ気持ち。


 だからシェリル達は興味のない要請など耳を貸さずに、

 そのままダンジョンに帰って、いつもと変わらない一日を過ごしたのだった。


 唯一普段と異なった点をあげれば、その日の昼食の後――

 ソラがちょっと不機嫌になっていた主の為に、

 こんな時のためにと作っておいたバケツプリンをデザートに出したことくらい。


 ――良かった……機嫌が直ったみたいね。


 巨大プリンを口にして笑顔に戻った主を見たソラ。

 両隣にいるシロとクロが無心で食べている姿も微笑ましい。


 これが些細な事件――「シェリル、神になるのを断る」事件の顛末である。



 ◇ ◆ ◇



 そんな事件があったことなどすっかり忘れて、

 変わらぬ日常を送るシェリルと三体の従者人形。


 朝起きて、朝食はゆっくりと食べる。


 そして午前は大事なお役目――挑戦者の相手をする。


 それからお昼御飯を食べて、午後はダンジョンの中を監視したり、

 回復の温泉でダンジョンまんじゅうを食べたりして、まったりと時間を過ごす。


 時間が来たら町に行ってマリエの店でおやつ。

 アカネとシオリとノルンもいるから楽しくおしゃべり。


 夕食はソラがしっかりと美味しく作ったのをこれまたゆっくり食べる。

 そのあとは時々ダンジョン拡張区域の様子を見たりもする。

 時間が来たら就寝。


 いつも笑顔が絶えない日常。それが最強魔族のお仕事だから。


 今日も明日も明後日も――

 シェリルは自作ダンジョンの最奥で最終ラスボス挑戦者を待っている。



 ◇ ◆ ◇



 神の世界で起こったこの事件。


 戦いに巻き込まれたある人物が――

「神の三十八日戦争」と名付けて地上に広めていった。


 それから数十年の時を経て、

 事件の記録に登場する魔族の逸話がひとつの神話となる。


 迷うことなく神の座を蹴り、

 あるダンジョンの最終ボスであろうとした魔族の物語。

 今やそのダンジョンは世界でもっとも有名なダンジョンとなり、

 いつしか小さな逸話はそのダンジョンの名を冠した神話となって、

 後世に語り継がれるようになる。


 今もあるそのダンジョン――


 地下何階まであるかは不明。今も拡張を続けていると言われている。

 各階層は広大で、最大の階層は人の足で三日はかかるほどの広さを持つ。

 空があったり、湖や砂漠や火山があったり、街があったりで世界最大の規模。

 下層は別名魔窟と呼ばれ、竜人、牛頭巨人、白ゴリラ等の魔物を筆頭に、

 勇者でさえもおいそれと手が出せない、それほどの魔物が大量に徘徊している。


 にもかかわらず、

 最強の最終ボス部屋は第一階層、ダンジョン入口からたったの三部屋目。

 半日もかけずに簡単に往復できる場所。


 この第一階層だけ地下にある階層と毛色が違う。


 途中の部屋にいる魔物は大ネズミや大トカゲのぬいぐるみ。

 脇道の先にある大サソリの部屋には宝箱。時々、聖剣が入ってたりもする。

 最終ボス部屋の手前には回復の温泉と宿泊施設。

 通行手形があれば魔物や罠を素通りして利用できる。


 だけど最終ボス部屋は選ばれた者だけが挑戦できる神聖な場所。

 相手をするのが最終ボス――神話の主役。

 神となる誘いを辞した最強の魔族。

 

 いつも笑顔で「我のダンジョンによくぞきた」と三体の人形を従えて出迎える。


 そんな、ちょっと変わったダンジョンが神話になった。

 後世まで語り継がれる神話。



 そのタイトルは――「シェリルのダンジョン」



挿絵(By みてみん)





「自作ダンジョンで最終ボスやってます!【動く挿絵付き】」これで完結です。

 最後までお読みいただきありがとうございます。


 皆様の応援で当初の構想通り完結できただけでなく、

 一時期「なろう」の日間ランキングに載るまでの作品になりました。

 感謝の気持ちでいっぱいです。


 いつかまた――

 今作と同じような【動く挿絵付き】のお話を掲載する予定です。

 すでにアイデアはあるのですが、少し準備に時間をいただこうと考えています。

 今のところ……春になって暖かくなった頃を予定していますので、

 その時にまた応援していただければ嬉しいです。

 

 最後にもう一度……、

 本作を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


 いいつき えい


※追記2(2017年2月)

続編「自作ダンジョンで最終ボスやってます!【邪神降臨編】」始めています。

http://ncode.syosetu.com/n1169du/


※追記(2016年6月)

【動く挿絵付き】第二弾、始めました。

タイトルは「立原夕凪は絡繰少女に転生しました!【動く挿絵付き】」です。

http://ncode.syosetu.com/n8234di/


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