第17話:人類最強がやってきた(2)
チート能力者の元凶――テツザ。彼は異世界人だ。
今から三十年程前――ある存在の力で強制的にこの世界に転移させられた。
見た目は二十代そこそこだが、
それはこの世界に来てから老化が止まっているからである。
ある存在は正体を明かすこともなく、テツザに能力の使い方を教え姿を消した。
彼に与えられたのはチート能力者を生み出す能力。
命の灯が消えそうな幼子の中に異世界から呼び出した魂を入れ、
スキル【ステータス鑑定】と【スキル強奪】を与える。
その者達が奪ったスキルやステータスが自分の元にも届く。
最初の数年は能力を与えた者達が幼いこともあり、
得られる恩恵は微々たるものだったが……
やがて年数を重ねると、強力なスキルや能力が送られてくるようになった。
そして一年前についに神に至る魔法――空間魔法を入手。
いまだ神の頂を見つけてはいないが、それは時間の問題。
人類最強の一角に足を踏み入れたのである。
テツザは増長していった。それも当然だろう。
強者を自称している大半の者が彼に操られた手駒でしかないのだから。
そんな彼に挑戦するかのように、
チート能力を呪いと看破して、解呪しただけでなく居場所まで探ってきた相手。
少なくともそこらのザコではないと考え、
そいつを相手に己の力が何処まで強いのか試したくなったのであった。
しかし彼は気づいていなかった。
彼の能力も――ある存在の私欲のために与えられたものだということを。
◇ ◆ ◇
先鋒戦――牛頭巨人対白ゴリラ。
試合開始の合図をしたソラは、審判の役目もそこそこにクロの様子を窺う。
回復を終えていたクロは破れた服を脱がされて下着姿だった。
人形なので羞恥心は無い。シロはクロの服の修繕中。
「クロ、ごめんね。アタシが良く考えないで、術者の居場所を探らせたから……」
「だいじょぶ。身体は何ともない。シロがちゃんと回復してくれたし」
「シロ、ありがとう」
「ソラ、ワタシ達は仕事だけの関係ではありませんわ。
人間の言葉で言う仲間とか友人でしょう? そういうのを水臭いというのです」
「……そうね。うん、わかった。アタシたち仲間だもんね」
「そうです。ワタシ達は仲間です。もっとワタシを頼ってくださいな」
「そう、ソラはいつも独りでやっちゃうから」
――あれ? そうだっけ。いつも逃げられてたような気が……。
でも今日は強く言えないよね……とソラ。
少し眉尻を下げたクロが言葉を続ける。
「今回は頼ってくれて嬉しかったから頑張ったんだけど……失敗しちゃった」
「失敗じゃないわよ。ちゃんと成功したからあの男がここに来たんじゃない」
「そうですわ。ソラがアイデアを出して、クロがあいつを呼び寄せて、
ちょっと怪我をしたのはワタシが癒す。
完璧なチームプレイですわ。これが仲間ですわ」
「そうね、シロは良いこと言うわねぇ」「うん、感動した」
「……そこまで褒められると……照れますわ……」
というようなやり取りをしている内に試合は終わってしまった。
勝ったのは牛頭巨人達。巨大ゴリラ達は全員行動不能になって倒れている。
その様子はダイジェストで。
まず最初は両陣営の強さから。
牛頭巨人陣営はリーダーが頭ひとつ抜きん出ていて、
二番手に最も大きな体を持つ個体。残り八体は横並び。
白ゴリラは全員が同じスペック。
牛頭人身の二番手とほぼ同じくらいの実力である。
人間の二倍以上の身長を持つ十体と十体が威嚇し合う姿は壮観だった。
こういう時の何でも屋のソラが審判を務め「始め!」と試合開始を告げる。
総合力では白ゴリラに軍配が上がるのだが、試合はそう単純ではない。
牛頭巨人側は唯一優っているリーダーという戦力を最大限に生かすため、
他の九体が素晴らしい連携を見せた。
能力に劣る八体の牛頭巨人は守りに徹し、二番手は守りのサポート。
その中でリーダーを一対一で白ゴリラと対決できるようにした。
こうなればリーダーに負けは無い。
上回る腕力に物を言わせて、一体の白ゴリラを短時間で行動不能にする。
続いて牛頭巨人陣営は、
もう一度こちらのリーダーと別の白ゴリラを一対一の状況に持ち込み、
これを撃破するまで戦力を減らさずに守り切る。
白ゴリラ残り八体。焦りの表情を浮かべているがもう遅い。
やがてソラが戦いの終わりを告げる。
「それまで! 牛頭巨人の勝利!」
最後に牛頭巨人のリーダーが、
身動きできない白ゴリラたちに言葉を贈る。
「共に力を合わせて土木工事をしてきた我らの連帯感。
そこから生まれた連携に勝てる道理もなかったのじゃ。出直して来い!」
テツザは不機嫌な顔で、
行動不能になっている白ゴリラ十体を回収した。
「ふん……こいつらにも勝つのか。一体一体が勇者並みの筈だったんだがな。
それでも俺の戦力の中では上の下ってところだ。まだ上に四天王がいるからな」
――でた! 四天王! それって負けフラグよね……?
「次は出し惜しみはしねぇ。少し前に手下にした奴だが、
そのずば抜けた実力で、いきなり四天王のトップに躍り出た魔物だからなぁ。
来い! 【竜人】よ!」
どうやら四天王全員は出てこないようだ。
安心したような残念なような、そんな気持ちになるソラだった。
◇ ◆ ◇
それで副将戦――ノルン対竜人。
現れたのはいろんな意味で意外な存在だった。
まずはその身体の大きさ。体格の良い成人男性程度。
この場にいる者と比較すれば、人間である大地の勇者より少し小さいくらい。
牛頭巨人の相手をした巨大類人猿を見ただけに、拍子抜けするほどだ。
しかしもちろん人間ではない。鱗に包まれた身体に精悍な爬虫類の顔。
頭に対となる角を持っている。人型の竜――竜人であった。
そしてもうひとつ予想外だったのは……。
「おお、シェリル様、御無沙汰しております。
覚えていますか。私です。元九十階層ボスをやっていたダルガンです」
シェリルの知り合いだった。
「久しぶり。元気にしてた?」
「はい、元気にやってます。覚えていただいて恐縮です。
シェリル様もお元気そうで何よりです」
「うん、ダルガンに教えてもらった鋼糸、
こっちに来てから凄く便利にしているよ」
「おお、有り難いお言葉、
あのダンジョンではあまり使う機会もなかったと聞いておりまして、
少々心苦しかったのですが、そう言っていただけて心が晴れるようです。
ここはシェリル様の新しいダンジョンですかな」
「うん、そう! ここを手作りするのに鋼糸が凄い役に立った。ありがとう」
「手作りですか。そう言えば、
この部屋もそこはかとなく気品がありますな。さすがはシェリル様」
「おい、お前! 何を敵と仲良く話をしているんだ。そいつは知り合いなのかよ」
「そうです。我が主よ。ちょっと黙ってて貰えますか。今取り込み中です」
「ふざけんじゃねぇ! そいつはこの後、俺と戦う敵なんだぞ!」
「仕方がありませんな……我が主よ、御存じないのですか。全く情けない。
お教えしましょう。
この方こそダンジョンにいる全ての魔物の頂点に立つお方――シェリル様です。
私が九十階層ボスを務めたダンジョンで百階層最終ボスを務めておられました。
我が主だからと言って、たかが人間。このお方と肩を並べようとは笑止千万」
「おい! お前はダンジョンマスターに能力を制限されてたじゃねえか。
俺がそれを取っ払ってやったんだから、その頃より格段と強い筈だろうが。
今なら、そこの百階層最終ボスとだって互角に戦えるんじゃねえのか!?
そのお前よりも俺の方が強いんだぜ!」
「いえいえ、まずダンジョンマスターに能力を制限されていた――と、
その事実だけでも私の力が及ばないのがおわかりでしょう。
シェリル様はそんな制約など、その身に受けることすらしなかった」
「ごちゃごちゃうるせえ! そんなことはどうでもいいんだよ!
お前は俺の召喚獣だろう。俺の命令に従えってんだよ!」
テツザの顔から余裕がなくなる。
それを無視して竜人――ダルガンはシェリルに話しかける。
多分「やれやれ」という感情を顔に出しているはずだが、
そこは竜人の顔、見た目では全く解らない。
「シェリル様、残念ながら、このうるさい人間が今の私の主人なのです。
私より少し強いからと、無理やり召喚契約を結ばされ困っていたのですが……
まぁ、どうやらそれも今日まで――シェリル様、徹底的にやってください。
弱った隙に契約を破棄してしまいましょう」
「何言ってんだ、お前は! いくら魔族とはいえ、
こんな小娘の格好をした奴に俺が負けるはずがねぇだろう!
俺はすでに人類最強なんだぞ!」
「ふっ……人類最強ですか。まぁ、私の主なのだからその大口も許しましょう」
「お前、俺に仕えているくせになんでそんなに偉そうなんだ!」
「いやぁ、シェリル様に勝てると考えている時点で主の底が知れましてな。
まぁそういったところで……。そこの人間、お前が私の相手か。
さっさと副将戦を終わらせて、大将戦をやってもらおうではないか」
竜人ダルガンは最後にノルンにそう言った。
テツザは大物ぶろうと泰然とした態度をしていた(つもりだった)のだが、
今の騒動ですっかり崩れてしまい、イライラを隠せなくなっている。
シェリルは懐かしい顔に会えたのもあってか、笑顔でやり取りを見ていた。
ノルンは「やっと私の出番なのね……」と一言だけ。
◇ ◆ ◇
一方こちらは結界内で見学している人間側――
勇者は休憩所から持ってきたくつろげる椅子に座っている。
木人形緑一号が気を利かせて、他の人間の為にテーブルと椅子を用意していた。
テーブルの上にはダンジョンまんじゅうとお茶がある。
その後、緑一号は「デハ、ゴユックリ」と場違いな挨拶をして出ていった。
くつろぎ結界の中で緊迫感のない会話が始まる。
まずはアカネと勇者の会話から――
「なんかあの魔物、シェリル様と知り合いみたいっすね」
「あぁ、あの竜人、以前シェリルさんがいたダンジョンの九十階層ボスだ」
「えっ、勇者様ってシェリル様の前いた場所、知ってるんすか?」
アカネがいい所に気づく。タバサとシオリも興味深々だ。
「んっ? 知らないのか? ノルンも知っているはずだが」
「ノルンとは仲良くなりましたけど、そんなことまで話をしてないっすよ」
アカネに任せると話が進まない、とシオリが口をはさむ。
「シェリル様のいたダンジョンって何処なんですか?」
「ここはヤトカイの町だったか。それなら東にキサルイがあるな。
キサルイから北東にかなり行った先の砂漠地帯。
そこにあった最古と云われる百階層ダンジョン。そこの最終ボスだ」
「そのダンジョンの話は何度も聞いた事があります。
確か――閉鎖したらしい、と少し前に組合に噂が届きましたね……」
とタバサがしみじみ言う。
「百階層のボスっすか。それであの強さなんすね」
「そうだ。世界で百階層のダンジョンはそこだけだったから、
ダンジョン所属の魔物の中では最強。それどころか俺の見立てでは――
シェリルさんに勝てる存在は今の地上にいないんじゃないかと思っている」
「やはりそうですか……」と、タバサの口元が緩む。
彼女はシェリルを崇拝しているので褒められると嬉しいのだ。
「勇者が勝てないのは俺が身をもって証明しているし、それなら魔王も同じ。
俺以外も何人かの勇者がシェリルさんに腕試しを挑んでいたらしい。
結果は俺と同じだ。勝負になるのは、歴史上の人物か、
神の頂に辿り着いた人間の中でも、上位の数名、後は神自身くらいだろう」
「ソラさんは神様にも勝てるって強気でしたよ」とシオリ。
「そうであっても驚かないがな」
「そうですね」とタバサも深く頷いている。
「タバサさん、あのテツザの脅威は感じたんすよね。
シェリル様とどっちが強そうなんすか」
「ん、そうだな。あのテツザから感じた脅威はかなりのモノだった。
感じる脅威だけで勝敗が決まるわけではないので一概に言えないし、
ましてやあのテツザは本気の状態でなかったからな」
「前置きが長いっす、タバサ組合長」
「ざっくりと言えばテツザという男が十人もいれば、
もしかしたらシェリル様の相手ができるかもしれない。そんなところだ」
「やっぱそうっすよね」
勇者は話に加わりながらも、ノルンとダルガンの戦いを見ていた。
その視線にはノルンへの優しさが込められている。
ノルン対竜人の戦いも終わりが近い。
そこまでの様子をまたまたダイジェストで。
ノルンの武器は長槍。最初から身体強化と武器強化を施す。
それだけの強さがあの竜人にはあると彼女の勘が告げていた。
対する竜人ダルガンは自然体でその場に立つ。武器も持っていない。
黒目しか無い眼でノルンの仕草を静かに眺めている。
ソラが試合開始の合図をする。
動いたのはノルン。渾身の力での一撃。
受けたのはダルガン。力強い拳でノルンの槍の腹を打つ。
たったの一合、そして両者はすぐに離れる。
「すごいっ!」「なんとっ!」
二人の驚嘆の声が重なる。
ノルンの口の端が上がる。ダルガンもおそらく笑っている。
「行くよ!」「こちらからも参る!」
そして部屋の中央で激突する。ぶつかり合う力と力、技と技。
余計な小細工など存在しない純粋な強さを競う戦い。
一撃一撃に妥協のない攻撃。技術の全てを尽くした受け。
はっきりとノルンの表情に喜びが浮かぶ。ダルガンも同じ感情を抱いている。
これほどまでに自分の望む力量を持つ相手に初めて出会えた、その幸運。
そこに言葉はいらない。
両者はその想いを相手にぶつけ、そして同じように返した。
ノルンとダルガン。永遠の好敵手――これが最初の出会いだった。
そして――
「良い戦いだった。これは楽しかった。
いつまでも続けていたいが……これ以上は出しゃばり過ぎというもの。
私はもうすぐシェリル様の傘下に入るのだ。またいつでもやり合える。
今日のところは引き分けとして決着は後日にしてはどうか」
「うん……それでいいよ」
テツザに対する怒りをこの竜人にぶつけるのは難しい。
戦いの中で鬱憤を晴らせたので気持ちはもうすっきりしている。
竜人の申し出に従って、このままシェリルに後を任すことに異存はなかった。
おさまらないのはテツザだけ。
「なんでお前は勝手に戦いをやめてんだよ!」
「我が主よ、所詮この戦いは前座。これ以上時間をかける必要もないでしょう。
引き分けでも支障はありません。結局は大将戦で全てが決まるのですから」
小さな声で「どちらが勝つかは決まっているのだがな」と呟いて、
ノルンに顔を向ける。
「最初の軽んじた態度を謝罪しよう――強き人間よ。改めて名を聞かせて欲しい」
「わたしの名前はノルン。あなたの名前も教えて」
「竜人ダルガンだ。またいつか戦おう」
「えぇ、またいつか」
二人の間に好敵手と書いて「とも」と読む関係が築かれたようである。
これが一番予想外――思いもよらぬ決着であった。
ちなみにこの戦いの最中ずっとシェリルがむくれていたのだが、
それはノルンとダルガンの戦いがあまりにも楽しそうで羨ましかったから。
その事に気づいていたのは三体の従者人形だけだった。
第三章第17話、お読みいただき有り難うございます。
次回は「人類最強がやってきた(3)」
いよいよシェリルと(自称)人類最強との直接対決。その決着や如何に!?
次回は2月4日更新予定です。




