第16話:人類最強がやってきた(1)
「やっぱり【スキル強奪】って能力は理不尽よね」
ジークを横目にそう言うと――大地の勇者とノルンは即座に頷いた。
タバサとシオリとアカネも同意する。
続いてソラは大地の勇者に視線を向けた。
「それに、今回この人間は――あなたのスキルを奪った。
正直に言えば、あなたを見つけたら、そのまま町に引き留めて、
御主人様の挑戦者になってもらおうと考えていたのよね。
当てにしていたそれが台無しになったのは、ちょっと腹が立ってるわ」
ソラは一拍置いて説明を続ける。
「チート能力って呪いなのよ――」
だから……どこかに呪いの術者がいる。
彼らを生み出す能力を持った、元締めのような存在がいるはず。
異世界人に『チート能力という呪い』を与える能力を持つ者が。
「クロ、その人間からも何処かに力が流れているかしら?」
「うん、そんな感じがする。あの時の人間とおんなじ感じ」
あの時の人間とは元チート能力者ケント。
そこから考えられるのは――
「チート能力者から元締めに何かの力が流れているみたい。
その何かの力って【スキル強奪】した能力としか思えないのよね。
誰かが奪われた能力を何の労力もなく自分のモノにしている。
……【スキル搾取】って感じ」
シェリルはソラの話の間もニコニコと笑っている。
ここまでの話に満足しているようなので安心するソラ。
もしかしたら聞いていないのかもしれないけれど……。
「そんな訳で一番悪いのはそいつ。
だから、これから元凶の居場所を突き止めて鉄槌を下してやろうってね――、
まぁ、その能力を封印するなりして使わせないようにしようって話」
ソラの説明が終わって、最初に口を開いたのはタバサ。
「居場所を見つける方法はあるのですか?」
「あるわ。詳しい方法は内緒だけど」
クロが呪い返しで見つけた術者の反応をソラに念話で伝え、
ソラがその情報から空間把握能力で位置を割り出す。
「居場所を見つけたら、アタシの空間転移でその場に移動して捕まえる。
能力の封印はクロができると思う。――どうかしら」
そう言ってソラは皆の顔を見渡す。
人間たち全員が静かに頷く。
シェリルはやっぱりニコニコ笑っている。異存はなさそうだ。
それなら……あとは実行あるのみ。
「クロ、やってちょうだい」
「うん」
寝ているジークに近寄り、目を閉じて頭に手をかざす。
魔力の黒い光が彼の頭を包み込んで消える。
二呼吸程の短い時間が過ぎて……ソラの頭にクロの念話が届く。
『ソラ……ここだよ……わかる?』
送られてきたのは術者の位置のイメージ。
それは意外な場所、しかしソラの良く知る場所だった。
――ここは……異空間! どこかに空間転移している?
異空間を移動できるのは空間魔法の使い手だけ。
そしていま、異空間から何処かの現空間に出ようとしている。
――まさか!?
予想していなかった事態だが疑う余地はない。
術者が現出する場所をソラの空間把握能力がはっきりと示している。
「術者が――そこに!」
声と共にソラが指差したのは、
この部屋の中――シェリルのダンジョン最終ボス部屋の中央付近だった。
◇ ◆ ◇
突然、クロの身体が後方に吹き飛び、ステージ奥の壁に激突する。
ずり落ちてステージ床に座り込み、そのまま人形の顔になるクロ。
着ている服に裂傷が見える。
「クロ!!」ソラが叫ぶ。
クロの側に急行したシロが回復魔法をかける。
シェリルはその様子を目を細めて見ている。そこにいつもの笑顔はない。
ソラの指し示した場所に空間転移で現れていたのは――
この世界では見慣れない格好をした青年。
黒のロングコートを着て、ジーンズに黒のロングブーツ。
異世界の服装。見たままで異世界人だとわかる。
黒髪の無造作ヘア、瞳は灰色、無精髭のある顔。
ノルンやアカネたちがそれぞれに身構える中、
男は口元に笑みを浮かべて軽い口調で話し出す。
「随分とつまらねぇ真似をしてくれたじゃねぇか。
俺の手駒に二度も勝手な真似をしやがって。
一人目の能力を消しやがった時も確かここだったよなぁ。
その時は黙っていたが、今回は俺のことまで調べようとしやがったみたいだな」
この男がチート能力者を生み出した張本人。
以前ケントから能力を消したことを知っている。
たった今、居場所を探ろうとしたのも見抜いている。
こちらから仕掛けた呪い返しを察知し、
逆にこの場所を見つけ出し、空間転移で移動してきた。
それらの事実がこの男の非凡な能力を物語っている。
いつの間にか――シェリルが全員を庇うように立っていた。
男から視線を逸らさずに、真剣な顔でソラに指示を出す。
「タバサ達に結界を張ってあげて」
身体を丸めてタバサが呻いている。
例の如く強烈な気配を間近にして、タバサの能力感知が自身を苦しめていた。
シオリとアカネが心配そうに身体をさすっている。
ソラはすぐに人間達の周りに結界を張る。その中で一息つくタバサ。
ノルンと大地の勇者は現れた男に厳しい視線を向けている。
眠ったままのジーク、そして指示を待つ木人形三体。
――あの男。タバサがあんなに苦しむほどの力量があるのね。
タバサほど正確にではないが、圧倒的な存在感をソラも感じていた。
チート能力者を生み出し、手駒と呼ぶ彼らから力を受け取っている。
その推測が正しければ、目の前の男の実力とはどれ程のものだろう。
ソラが考えを巡らせていると、シェリルがいつもの口上を声高に宣言する。
普段通りの主の行動がソラを安心させる。
「わははははぁ、我のダンジョンによくぞ来た!」
「んー? お前か? 俺の手駒のひとりからスキルを消しちまったのは。
それに今度は呪い返しかよ。ふざけた真似しやがって。
自分に被害が来ないように人形を使ったってのも気に入らねえなぁ」
この場に現れて真っ先に呪い返しを仕掛けた相手を攻撃した。
結果、攻撃を受けたのがただの従者人形だった。
それをこの男は――
シェリルが自分の身を守るためにクロに術を代行させた――と、
従者人形たちにとって許すことのできない思い違いをしている。
「俺に手間をかけさせた罰を与えてやるよ。
一瞬でここを吹き飛ばしてやってもいいが……まぁ、それだけじゃつまらねぇ。
知らない間に強くなりすぎて、実力を試す場がなくて困っていたんだ。
折角だから、お前をじわじわといたぶって、苦しむさまを見させてもらうぜ」
手をコートのポケットに突っ込んでヘラヘラと男が笑う。
どこか演技しているように思わせる喋り方。
「俺の名はテツザ。人類最強の男だ。覚えておけ。
どこまで俺の強さについてこられるんだろうなぁ。せいぜい食い下がれよ」
テツザと名乗った男は、
右手だけポケットから出して、胸のあたりで手の平を上に向ける。
「てなわけで小手調べからだ……来い! 【ブルーマンティス】!」
光を放ってその場に現れたのは全身青色をしている人サイズのカマキリ。
両手の鎌を振り上げて威嚇してくる。
――召喚魔法ね。
召喚契約を結んだ魔物を異次元に待機させ、
必要に応じて呼び出す魔法。魔法の難易度は空間魔法と同等。
「我が直々に相手をしてやろう! かかってこい!」
シェリルが笑みを浮かべる。それは普段見せる元気な笑顔ではなく、
戦いのときに見せる魅力のある笑顔でもない、冷たさを感じる笑顔だった。
――御主人様、怒ってる。
シェリルが怒っているのは、もちろん目の前の男――テツザに対して。
その一番の理由はクロへの奇襲。
この件に関してはソラも責任を感じている。
不用意に呪い返しをさせてしまったからだ。
――クロにはあとで謝らないとね。
幸いにも状態はそれほど酷くなかったようで、
回復を終えて『大丈夫、御主人を手伝って』と念話で伝えてきたので一安心。
それはそれとして――
三体の人形がシェリルの前で傷つけられたことは、実は今までに一度もない。
そういうふうに戦ってきたから。それほどまでに力の差が歴然だったから。
けれども身内が傷つけられた時に、
シェリルがどうするのかはマリエの時で知っている。
怒りの原因はまだある。
大地の勇者がスキルを奪われノルンが涙した。そうさせた元凶。
主にとって二人は大事な挑戦者であり、身内に次ぐ存在。
だからシェリルは怒っている。
そしてもうひとつ。
ケントと再会したあの日の夜、
彼が再戦のため一生懸命に鍛えていると報告した時に、
確かにシェリルは満面の笑みを浮かべていた。喜んでいた。
今やケントも主にとって挑戦者なのだ。それをこの男は手駒とけなした。
ソラは主の怒りの原因を正確に把握していた。
青カマキリがシェリルに接近する。
その途端――青カマキリは後方に吹き飛び壁に激突する。
加わった攻撃がどんなものだったかすら分からないほど一瞬で。
消滅してはいないが、その一撃だけでそのまま動かなくなる。
しかしテツザは、自分の召喚獣の敗北を見ても顔色一つ変えない。
「ふん……まぁ、そのくらいはやれなきゃつまらねえよな。
それじゃあ、次だ! ……来い! 【ホワイトゴリラ】達よ!」
新たに現れたのは――真っ白な巨体のゴリラ。男の身長の二倍はある。
牛頭巨人と同じくらい。それが十体。腕を振り上げて咆哮を上げている。
巨大類人猿達の姿を見たシェリルが――
胸を張り右手を上げて、突然声を張り上げ注目を集める。
「ちょっと待ったぁ!」
思い付いたのはとっても楽しいこと。
冷たい笑顔が消えていつもの元気な笑顔に戻っている。
「団体戦をしよう!」
この提案には、さしものテツザも意外な顔をする。
回復の終わったクロと付き添っていたシロも目を丸くしている。
結界の中にいる人間たちは、
シェリルの突然の提案が理解できずに首をかしげている。
「ソラ! 巨人を連れてきて!」
ソラはこの言葉でようやく理解した。
巨人と言えばダンジョン拡張工事中の牛頭巨人たち。
――これっていつもの段取り好き……?
男が召喚した巨大白ゴリラが十体だったから思いついたに違いない。
この魔物の相手を牛頭巨人にさせようと考えたのだ。
唐突な話だけれど、これがいつもの主のやり方。
すっかり慣れているソラは「はいはい」と返事をして、
巨人達をこの場に連れてくるためダンジョン拡張現場へ転移した。
◇ ◆ ◇
「何が始まるのかのう?」と牛頭巨人のリーダー。
ソラはダンジョン拡張工事中だった牛頭人身の巨人たち十体全員を、
有無も言わせず最終ボス部屋まで連れてきた。
それを見たテツザ。
「今のは召喚魔法……いや転移魔法か。
そうか……魔族なら転移魔法が使える奴も多いと聞いたことがある。
まぁ、それくらいじゃないと面白くねぇ。――で、何を始めようってんだ?」
「団体戦を始めるよ。最初はこっちの巨人とそっちのゴリラ。
で次は――こっちはノルン!」
突然名指しされたノルンが、結界の中から大きな声で異議を唱える。
「なんで私が! 私はシェリルの仲間じゃないわよ!」
「じゃあ、やめよう」と、あっさりと引き下がるシェリル。
「うっ……諦めが早すぎるわよ! やるわよ!
その男が勇者様をあんな風にした元凶なんでしょ。
あなたの言った団体戦ってやつ――わたしも参加させてもらうわ!」
小さい声で「わたしじゃ、あいつをやっつけられないし……」と呟いている。
――もしかしてこれが御主人様のやりたかったこと?
テツザの力量を測り、その結果ノルンが勝てないと知り、
それでも一矢報いさせるために、こんな回りくどいお膳立てをした。
段取り好きの主らしいやり方。
「じゃあ、それで、そっちは一番強い召喚獣を出してね」
「はぁん……そういうことかよ。じゃあ、最後に俺とお前の大将戦か」
「うん、そう。だけどあたしは人形も使うよ。人形遣いだからね」
――これもだ。
おそらく三体の人形だけの力ではテツザに碌な攻撃も出来ない。
力量差がありすぎる。
それでもクロのリベンジの為に戦わせたいと考えたのだろう。
シェリルと繋がれば三体の人形は別次元の強さを発揮する。
――でも、それって最終形態……。
たとえこの男が空間魔法まで身に付けて、
スキル搾取であらゆるステータスが高位に達しているとしても、
シェリル達の最終形態は神に勝つ。こんな男にはもったいない。
しかしシェリルが最終形態で戦うと決めたのだ。ならばソラに否やは無い。
むしろ喜んで――主に対する無礼な思い違いを正すためにも――力になろう。
シロもクロも思いは同じ。
「あぁ、かまわねえ。お前の力を全部見せてみろ。その上で叩きのめしてやる。
お前がどんな魔石になるのか楽しみだぜ」
テツザは従者人形が空間魔法で転移するのを見て、
シェリルの力量を上方修正、それなりに強いだろうと考えを改めた。
ただやはり負ける気はない。その気持ちが言葉に現れている。
シェリルは男の言葉を否定せずに「あっ、そうだ!」と別の提案をする。
「あたしは魔石になってもいいけど、巨人は魔石になる前に止めるよ。
やってもらいたいことがまだ終わってないから。
だから大将戦以外はどっちも消滅する前に対戦は終わり。
この人間の命を奪うのも無しで」
主の口から魔石になるなんて言葉が出てぞっとするが、
ありえない話なのですぐに肩から力を抜くソラ。
シロとクロも同じ仕草をしていた。
「何を甘いことを。……だがまぁいい。ザコの魔石が欲しいわけじゃねぇ」
「それで大将戦は――あたしが負けたら、あたしの魔石はあなたのもの。
あたしが勝ったら、あなたの能力いくつか封印するよ」
――御主人様……今回のアタシの説明聞いていてくれたんだ……。
今の状況と全く関係のないことでソラは感動していた。
「ははっ! 俺に勝つ気でいやがるぜ!
まぁ、面白そうなのはわかった――そのゲーム乗ってやる」
テツザの返事を聞いてシェリルの笑みが深まる。
そして高らかに宣言する。
「それじゃあ、団体戦始めるよ!」
第三章第16話、お読みいただき有り難うございます。
次回は「人類最強がやってきた(2)」
突然シェリルが提案した団体戦。
牛頭巨人対白ゴリラ、そしてノルンの戦いは一体どうなる!?
次回は2月2日更新予定です。




