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第04話:クロ、ひとりで町へ行く(1)

「御主人、町の木人形を強化したい」

「いいよ」

「じゃあ、町に行ってくる」


 シェリルとクロの会話を聞いていたソラ。

 以前は人間の町に行くのを面倒だと言っていたクロだけれど。


 ――木人形が巨人にいいようにやられたのがこたえたのね。


 と理解して、そのまま聞き流してしまった。

 一概にソラを責める訳にはいかない。


 このダンジョンを作ったころ、

 自分以外は人間の常識がないから目が離せない、そう思っていたソラ。


 しかし、今ではもう――

 シェリルは一人で町にいても騒ぎを起こさないくらいに馴染んでいる。

 シロも人間のライルとうまくやっている。

 だから、ここにきて油断していたとしても仕方がないのではないか。


「アタシは巨人の相手をするから、今はクロを町に連れていけないわよ」


 だが――それが後の惨劇(?)の始まりだった。



 ◇ ◆ ◇



 その日――

 午前のお役目が終わって、最終ボス部屋から管理室に戻るとき。


 ここ数日、シェリルの最終ボスぶりを見学していたのは牛頭人身の巨人たち。

 あの戦いの後、彼らはシェリルのダンジョンに連れて来られていた。


「シェリル殿……我は……我らは、何故か迷宮に心惹かれるんじゃ。

 我らがいるべき場所は迷宮にあると。

 ここを我らの住処にさせてもらえんじゃろか」


 遠慮がちに願い出たのはダンジョンを迷宮と呼ぶ巨人のリーダー。


 以前、彼らはキサルイからも遠く離れた山奥に集団で暮らしていた。

 そのまま色々あって今の状況になったけれど、

 ダンジョンにいた経験は一度もないはず。


 魂の奥底にミノタウロスの心でも宿っているのだろうか。

 ダンジョンを迷宮と呼び郷愁を覚えると言う。

 此処に住まわせてくれと願い出る。

 その願いにダンジョンのあるじが口をとがらせて素っ気なく答える。


「部屋のボスにはできないよ」


 自分の戦いが減るのだけはダメ。そこだけは譲れない。

 巨人をダンジョンの魔物にすると、強すぎて最終ボスに探索者が回ってこない。

 シェリルにとっては当然の答え。

 だが巨人はそこに興味はなかった。


「それでもいいんじゃが――

 何もしないでいるのも悪い気がするんじゃ。何か適当な仕事は無いかの」


 殊勝な心掛けの巨人に気を良くして、凄く良い笑顔を見せるシェリル。


「ソラ、考えて」


 ――出た! 丸投げ!


 隣りでやり取りを聞いていたソラ――いつものように問題を押し付けられる。

 しかし、それも信頼のあかしと良い方に考えて何とか自分を納得させる。

 ただジト目になるのは仕方がない。


 毎度毎度厄介事を押し付けている自覚はあるのか――

 ソラの視線を受けてシェリルが焦った様に、


「ソ、ソラは凄いなぁ! いろんなこと知ってるから頼りになるなぁ! 

 やっぱりいざという時はソラがいないとダメだなぁ!」


 と手をパタパタと振ってわざとらしい言い訳をする。


 隣りで宙に浮いたまま人形の顔をしていたシロとクロ。

 その時だけ素に戻ってウンウンと頷いている。

 が、ソラにジト目を向けられて、再び人形の顔に戻ってしまう。


 ――どうせアタシの仕事になるのよね。


 これ以上不満を表に出しても何にもならない――と、

 ソラは気持ちを切り替えて、ふうっとため息をついて顔を上げる。


「御主人様、とりあえず昼食にしましょう」

 そうシェリルに提案して、次いで巨人に告げる。

「その後、アタシが要望を訊くから待っててちょうだい」


「うん、そうしよう」

 ソラの機嫌が直ったとみて、途端に笑顔に戻るシェリル。


「了解じゃ、ではそのように」巨人が頭を下げる。


 その後、食事を終えて――

 人心地がついたときに、冒頭の話をクロが持ち出した。

 一緒に行けないと言うソラにちょっと偉そうに答える。


「大丈夫、ひとりで町に行ける。ボクはやればできる子」


 そう言ってクロは――初めての町にひとりで出かけるのであった。



 ◇ ◆ ◇



「町はどこ?」

「ヤトカイノ町デスカ? コノ道ヲ真ッ直グ行ケバ、アリマス」


 シェリルのダンジョン入り口前。

 木人形緑一号から場所を訊いて、ひとり町に向かうクロ。

 森の中を通る道、黒猫の着ぐるみが人の目の高さで飛んでいく。



挿絵(By みてみん)



 午後の時間、ダンジョンは初級者から中級者の訓練用に使われる。

 道を行くのはそのランクの探索者たち。


 その中に混ざって、二人の従者を連れて杖を突きながら、

 ダンジョンへの道をゆっくりと歩む少年の姿。

 従者のひとりは空の車椅子を押している。


「ライル様、今日はこの辺で車椅子を使われては」


 少年はヤトカイの町の領主ライル。

 昨日、身に受けた呪いの解除が終わり、

 今日はリハビリがてら、ダンジョンの回復の温泉へ向かう途中だった。

 従者と共に庶民っぽい服を着ているのは領主の身分を隠すため。


「まだ大丈夫です。大分身体が軽くなっていますので。

 今日はダンジョンの入口まで歩いてみようと思います」


「そうですか……では、お疲れになったら言ってください」


 そこにダンジョンの方から宙を浮いて向かってくる小さな黒い姿。

 通り過ぎようとする黒猫の着ぐるみにライルが声をかける。


「ブラック様!」

「なに?」


 その場に静止して、ぶっきらぼうに答えるクロ。

 ライルは一歩前に出て姿勢を正す。


「こうしてお話させていただくのは初めてになります。

 僕はヤトカイの町の領主を務めている――ライルと申します。

 ソラ様やシロ様にはいつもお世話になっております」


「うん」軽く首をかしげながらクロが返事をする。


「すみません、お忙しいところをお呼び止めしてしまいまして……、

 一言ご挨拶をと以前から思っておりました。

 僕の呪いを見つけていただいたのはクロ様――ブラック様だとお聞きしました。

 このような場ですみませんが、お礼を申し上げます。ありがとうございました」


 クロは、目の前で話をする子供が――

 ダンジョン観光ツアーの時にいた「呪われていた人間」だと思い出す。

 あのあとソラが呪い返しがどうしたとか、昨日シロが解呪したとか言っていた。


 それはどうでもいいけど、ソラとシロの知り合いの人間なら邪険にできない。

 ボクは気遣いだってできる――そんな気持ちを胸にして答える。


「お礼なんていらない。ソラとシロに良くしてやって」

「はい、わかりました」

「じゃね」そう言ってスーッと飛び去るクロ。


 その後ろ姿に頭を下げるライル。



 ◇ ◆ ◇

 


 ヤトカイの町正門。


 先日の戦闘で元の形もわからないほど破壊されてしまったが、

 すでに残骸は綺麗に片づけられ、修復作業が順調に進められている。


 周囲の破壊された建物についても同時に修復が行われていて、

 多くの作業員に混ざって十体ほどの木人形の姿が見える。


 正門前には、門番として立っている警備員と木の棒を手にした木人形七号。

 作業には加わっていないが、町への出入りを見張る重要な役目。

 訪れた黒猫の姿を見つけて声をかける。


「ブラック様、ドウシマシタカ」

「ブラックさんじゃないですか。町に御用ですか」


 町の警備員ならみんな知っている。

 黒猫の着ぐるみの名前がブラックで、その正体がシェリルの使役人形クロだと。

 そして木人形に重力魔法を付与したことも。


「木人形を強化するから、みんな集めて」


 だから門番の警備員もクロの願いをすんなりと聞き入れる。

 巨人との戦いで傷ついた木人形たちの姿は彼の目にも焼き付いているから。


「そうですか……。

 でもここじゃ場所が悪いですねぇ。本部の中庭がいいんじゃないですか。

 七号、作業を抜けられる木人形を集めて、

 クロさ……ブラックさんを案内してやってくれないか」


「了解シマシタ――ブラック様、作業ニ適シタ良イ場所ニ、オ連レシマス」

「うん」


 と――、そのまま、警備隊の本部に行っていれば、

 これからの悲劇は回避できたのだが、運命はままならない。


「こりゃ、どうしたってんだ。キサルイは追い返したんじゃないのか」

「正門が跡形もなく壊されてるじゃねえか」

「いつも偉そうにしている木人形はなにやってたんだよ」


 その場に現れたのは二十人近い男だけの集団。体格の良い者ばかり。

 身に付けている装備から、探索者もしくは魔物ハンターだろう。

 事情を知っていて、かつ町の外から来たところを見ると、

 キサルイとの戦いが始まる前に――

 別の町に逃げていた連中が戻ってきたのだと思われる。


 ここヤトカイの町では木人形の評判は非常に良い。

 だが、一部の人間から疎ましく思われてしまうのも避けられない。

 いま正門前に来た連中はそういった者達であった。


「役立たずの木の人形か。どうせ我が身可愛さで真っ先に逃げ出したんだろ」

「期待していた戦力が役に立たなかったから、こうなったんだな」

「裏切られたってわけか。あんな人形を信じてた人間のほうが悪いって話だ」


 下卑た笑いを浮かべて次々と木人形をけなす男たち。

 声を出さない何人かも罵倒を聞いて愉しそうに頷いている。


 だが、間が悪かった。


 もちろん彼らの言葉を聞いて――

 その場にいた警備員や作業員の心に怒りが沸き上がったのは言うまでもない。

 木人形の普段の真面目な態度に加えて、先日の戦いでの献身的な行動。

 それらを思い返して、何人もの人間が怒りに身体を震わせていた。


 それでも、そこまでだったのならまだよかった。

 木人形を罵倒している連中は気づかなかった。

 彼らの様子をジッと見ていた黒猫の着ぐるみに。


 どういった存在なのか知らなかった。

 この場にいる誰よりも木人形に思い入れがあり、

 この場にいる誰よりも恐ろしい存在だということを。


 そして事態は転がり始める。


「七号、棒を貸して」

「……ハイ」


 恐る恐る自分の武器を手渡す木人形七号。

 木人形にとってクロは上位命令権者。

 静かな声の要求に悪い予感がするが……断れるはずもない。


 これが――惨劇(?)の幕開けだった。



 第三章第04話、お読みいただき有り難うございます。

 次回――クロ、ひとりで町へ行く(2)

 無礼な集団にクロは如何なる鉄槌を下すのか。


 11月24日更新予定です。


※11月20日 誤字修正

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