表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/59

第02話:シロの活躍(2)

 呪いを受け続けている――、

 シロの言葉に「そ、そうですか……」とライルも衝撃を隠せない。


「えっ、そうなの」とソラも驚いて、

「それならキサルイへの対応も考え直さないと」とライルに問い掛ける。


「いえ、そう決めつけるのは早すぎます。協定を定めたのは一昨日です。

 何かの事情があるのかもしれません」と、あくまで冷静に判断するライル。


「シロさん。お聞きしてよろしいですか」

「いいですわ」

「呪いの原因を見つけることは、出来るのでしょうか」

「その現場に居合わせれば、すぐにわかりますわね」


「それをお願いしても……いいのでしょうか」

「もちろんそのつもりです。

 解呪してもまた呪いを受けてしまうのなら、その根本を見つけて排除します」


 遠慮がちに依頼するライルに、シロがはっきり告げる。


「ワタシはシェリル様の従者人形。

 マスターの願いを正しく叶えるのが従者の務め。

 今回の件、マスターから頼まれた以上――、

 最後までしっかりと責任をもって綺麗に片づけさせていただきますわ」


 ――なんだかシロがかっこいい。



 ◇ ◆ ◇



 ライルが呼び鈴を鳴らしてメイドを呼ぶ。


「お呼びでしょうか」


 メイドが部屋の中で目にしたのは、車椅子に乗った自分のあるじだけ。

 部屋に通したネコの着ぐるみ二体の姿が無い。


 町の救世主ピンクキャット、驚異的な能力を持つさすらいの武闘家集団。

 彼女はそこまでの噂をもちろん知っている。

 だからこそ治療のための訪問と信じていたし、いなくなれば気にするのも当然。


「あの……ブラウン様とホワイト様はどうなされたのでしょうか」

「あぁ、あの方たちは、さすらいの武闘家と名乗るだけあって、

 用件が済んだら、すぐに窓から出ていってしまったよ」


 そう説明するライルの膝の上には、白いドレスを着た人形が乗っている。

 シロである。

 その表情は、シェリルの話を聞き流すために編み出した技――人形の顔。

 誰が見てもただの人形だった。


「ライル様、その人形は何でしょうか」


 あっさりと白猫と茶猫の行方を信じたメイドは、

 目の前のシロも一目でただの人形と思い込み、全く疑いを持っていない。

 ライルは微笑みながらメイドの問いに答える。


「うん――僕の病気の診断を終えて帰られたんだけど、

 体力回復効果のある人形を置いていってくださったんだ。

 回復の温泉に浸かっているようで、とても身体が楽になっている」


 優しく人形の頭を撫でる。

 ちなみに、茶猫のソラは白猫の着ぐるみを持ってダンジョンに戻っていった。

 その後マリエの店にいるシェリルを迎えにでも行くのだろう。

 ライルが話を続ける。


「男の僕が持つのは変かも知れないけど――、

 しばらくは肌身離さずに傍に置くから、そう皆にも伝えておいてくれないか」


 これはシロが常にライルの近くにいるための方便である。

 ただし体力回復効果があるのは事実。

 回復の温泉に効果を与えたのはシロ――

 呪いによるライルの衰弱を癒すのなんて容易い。一石二鳥の作戦。


「かしこまりました」そう言ってあるじの車椅子を押し始めるメイド。

 ライルはシロを膝に乗せたまま、普段通り領主としての仕事に取り掛かる。


 これが……、

 彼が新たに呪いを受けた時に即座に対応するため、シロが提案した作戦。

 日常を白いドレスの人形と共に過ごすのに、ライルもためらいを見せなかった。


 なお、まだライルを解呪していないのは、

 呪いの術者に変化を悟られ、作戦に支障が出るのを避けるため、

 そして、呪い返しをおこなうという最後の選択肢を残しておくためである。


 領主の館。


 普段ここにいる人間は――、

 領主の補佐の為に派遣された町長ヘイズの部下である男性。

 今現在、領主の隣に座って執務をしている。


 使用人は男性二名と女性――先程付き添っていたメイド――一名。

 そして料理人の女性が一名。

 合計で五人。この館で部屋を与えられて住み込みで働いている。

 弱小貴族だとこの程度。

 

 全員身元はしっかりしていて信頼のおける人物ばかりだとライルは言う。

 シロを特段誰を疑うこともなく、静かにライルの膝の上に座っていた。


 執務を終え、その後食堂で夕食。

「今日はこの人形の回復効果のお陰で食欲が出てきた」

 ライルのその言葉は、あながち嘘ではない。


 彼自身も普段より多めに食べながら、隠れてシロにも食事を渡す。

 秘密の共有のような行動が、表に出すことのない彼の子供心をくすぐっていた。

 その後も白いドレスの人形はライルの傍に。


 しかし、結局は――就寝の時間まで何事も起きなかった。


「やはり夜中が一番怪しいと思いますわ……、でも――」


 ライルはベッドの上。

 小さな人形は傍らに置いた椅子の上。

 寝室で一人と一体だけになり、人形の顔を止めて素に戻るシロ。


「もし今日何も起きなくても、少なくともあと二日は続けますわ。よろしくて」

「はい、おねがいします。シロさん」

「ではお休みになってください。ワタシは寝ながらでも監視ができますから」


 そして深夜――異変は起こった。

 上空から領主の館の屋根に取り付く影がひとつ。


 寝室に満ちる呪いの波動。シロが反応して即座に中和。

 一瞬だけライルの顔が苦しみに歪むが、すぐに治まる。

 シロは椅子の上から浮遊して彼に近づき、小さな声で囁く。


「いま呪いの術が始まりました。相手に悟られないように無効化しています。

 術をかけている者の居場所は屋根の上……、

 おそらく――そこにいるのはただの使い魔、本体は別の場所にいる筈ですわ」


 事態を呑みこみ、身体を起こして緊張した表情見せるライル。

 対するシロは普段と変わらぬ冷静な口調で、


「術が終わりましたら、使い魔を追って術者を突き止めます。

 ライルは普通にお休みになっていてくださいな」


「そうは、言いましても……」


「もし、ワタシの身を案じているのでしたら、それは不要です。

 ワタシはシェリル様の従者人形。人間相手に後れを取るなど有り得ません。

 それに……今いる使い魔で相手の力量は見極めていますから」


「……そうですか。わかりました。ではよろしくお願いします」

 ライルが真摯な顔で告げる。


「終わったようですわ。では後程……」


 術の終わりを感知し、窓を開けフワフワと空中に舞い上がる。

 夜の空を飛んでいく白いドレスの人形。

 シロが出ていった窓に手をかけ「お気をつけて」とライルが呟く。



 ◇ ◆ ◇



 ヤトカイの町を囲う壁を越えて、

 夜の空をパサパサと羽ばたきながら飛んでいるのは――コウモリ型の使い魔。


 シロはその姿を見失わないように、そして見つからないように後を追う。

 背中で白い翼がはためいている。

 ただし翼の動きは見た目だけ――実際はスキル【浮遊術】で飛行している。



挿絵(By みてみん)



 普段は滅多にダンジョンから出ないシロ。

 ヤトカイの町を訪れたのは今回が初めて。

 さらに別の地に飛んでいくのも、もちろん初めての経験。

 だからといって、特に不安も高揚も覚えずに、淡々と使命を遂行する。

 白い翼を大きく広げて悠然と星空の中を飛んでいく。


 そして――そのまま使い魔を追い続けて小一時間。


 辿り着いたのはヤトカイの何倍も大きな都市。

 シロも今までの経緯から、

 ここが先日ヤトカイに攻めてきた都市――キサルイ――だと予想する。


 はずれにある古ぼけた二階建ての一軒家。

 開け放してあった二階の窓から使い魔が入っていく。


 続いてシロもその窓に近づき、光魔法で自分の姿を不可視にして中に入る。


 その場にいたのは全身黒づくめの男がひとり。

 部屋の中でさえ、顔を隠す様につばの広い帽子をかぶっている。


 使い魔がその男の手のひらの上で消える。

 彼から感じる波動が、ライルに呪いを施した術者だと知らせていた。

 そこまでわかれば姿を隠している必要はない。

 光魔法を解除して男の前に姿を見せる。


「あなたがライルに呪いをかけた張本人ですわね」


 突然の闖入者に跳び上がるほど驚きを見せる男。


「! ……なっ! 何者だ!」


「ワタシの名前はシロ。ある方からの言いつけで、

 ヤトカイの領主にかけられた呪いの解除と、その原因の排除に参りました」


 黒衣の男は告げられた「ヤトカイの領主の呪い」という言葉で事態を把握。

 目の前にいる存在が小さな人形だと気づくと途端に落ち着きを取り戻す。


「なんですか、驚かせますね。ただの使役人形じゃないですか。

 排除するだなんて偉そうに言いますが、私が誰だか知っているのですか」


 帽子のつばが上がり、そこから覗くのは狂気を宿した瞳。


「私は闇魔法を極めた男。私に大口をたたいた罰です。

 お前を経由して……お前の持ち主の息の根を止めて見せましょう」


 直後、ほんの短い呪文の詠唱。

 問答無用で放たれた、膨大な量の闇魔法がシロの身体を包む。

 しかし――あっという間に霧散する闇の奔流。


「なに、私の……、私の闇魔法がっ!」


 この闇魔法使い、間接的ではあるが過去にシロと対決済みである。


 それは先日のキサルイとヤトカイとの争い、

 アカネとシオリがキサルイの本陣を偵察に行った時の話。

 二人を発見して闇魔法の実験台にしようとして返り討ちにあった男。

 それが彼であった。


 男の放った呪いを無効化したのが、

 アカネが大事に持っていた――シロが祝福を与えた――聖なる短剣。

 その大元でもある白いドレスの人形に、彼の闇魔法など効果があるはずもない。


「さて、どうしましょうか」


 シロは少しだけ思考を巡らす。

 命を奪うつもりはない。連れ帰ってライルに引き渡して後は任せればいい。

 けれど、気絶させて身体を抱えて浮遊術で戻る……のはちょっと遠慮したい。

 大きな荷物を運ぶのに適したスキルを持っていないシロ。


「仕方がありませんわ」と独り言を呟いて、ソラを呼ぼうと決めた。


 そこに隙を見つけた闇魔法使い。

 先日、自分の魔法が効かない相手と遭遇したばかり。

 その時の記憶がよみがえり、この場は一旦逃走した方が良いと即座に判断。

 無言で地面に闇の影を広げ、その中に自分の姿を沈み込ませる。


 闇魔法【影移動】――

 影に身をひそめたまま、影のある場所ならどこへでも、

 獣が走るほどの速度で移動できる闇魔法の中でも難易度の高い魔法。


「なかなかやりますわね」とシロが感情を込めずに賞賛する。


 闇魔法使いの影は部屋の窓から外に脱出。夜の闇に消えようとしている。

 それを追って窓から出るシロ。気配を頼りに月夜の空を飛んでいく。



 第三章第02話、お読みいただき有り難うございます。

 次回――闇魔法使いとの戦いに決着がつく。


 次回更新は11月17日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ