表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/59

第12話:シェリルのダンジョンにも敵の手が(2)

 キサルイ軍本陣。


 ひとりの優秀な魔物使いが――、

 この場所から、ヤトカイ攻略の先陣にいる牛頭人身の巨人を操っている。


 現在は待機させているだけだが、それでも術を途切れさせるわけにはいかない。

 仮に術が途切れた場合、巨人十体の暴走を引き起こしてしまうからだ。


 その術者のいる場所のすぐ隣り。テントの中にいるのは――二人の男性。

 一人は白髪交じりの太った男性。ヤトカイの町の裏切り者――ドナン会長。

 もう一人は恰幅のいい中年男性――ドナン会長の弟。

 そう、ヤトカイの魔物ハンター組合の部長……だった男。


 二人ともヤトカイの町が蹂躙される様を想像して、

 先程まで、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていたが、

 やがて、それにも飽きて、今ではお互いに不機嫌な顔をしている。


 弟の方が興味もなさそうな声で、兄に話しかける。


「おい、兄よ……。あのザックとかいうチンピラに何をさせているんだ?」

「あぁ、町がキサルイに占領される前に、手に入れたいモノがあるんじゃ。

 あやつは、探索者というよりもコソ泥の方がお似合いじゃったからな」


「帰りが遅いようだが……」

「ふん、失敗しおったか……。

 モノが手に入らないのは惜しいのじゃがな。まぁ、仕方がない」

「そうか……、兄が良ければ何も言うまい」


「それよりも喉が渇いたな。キサルイも小間使いくらい寄越せばよいものを」

「確かに。茶でも飲みたいが……。仕方がない。俺がやろう」


 机の上にあるケトルに水を入れて、

 湯沸かし魔法具にセットすると、やがて加熱が始まる。


「――これで良し」


 初老と中年の男二人はそれ以上話すこともなく、

 不機嫌そうな顔で静かに湯が沸くのを待っている。



 ◇ ◆ ◇



 シェリルのダンジョンのザコ敵部屋。

 すでに探索者達は、大ネズミ三十六体を全て倒していた。

 しかし彼らの疲労は限界。全員が床に座り込んでいる。


 そこに空間転移で現れたのはソラ。

 数人が片膝立ちになり、どうにか戦意を見せる。


「さて、まだ戦う気力があるのなら、アタシが相手になるわよ」

「お前は最初にいた案内人とか言っていた人形か……、

 片言にしか喋れなかった筈なのに、今はちゃんと話してやがる。何の罠だ」

「うるさい」


 ソラは努めて冷静な振りをするが失敗している。額に浮かぶ怒りの血管マーク。

 眉間にしわを寄せて片手を上げる。

 それだけで、その場にいた全員の身体がぴたりと止まる。


「この部屋の探索者は全滅ってことで」ちょっと八つ当たり気味のソラ。



 ◇ ◆ ◇



 中ボス部屋は善戦中だが、毒にやられ動けない探索者が数人。

 そこに妖艶な雰囲気をまとったクロが登場。


「どうしましたか……。そちらに倒れている人間。

 そのままだと命の危険がありますが……」

「黒人形か! ちくしょう! 笑いに来やがったのか!

 回復魔法師も毒にやられちまって、もう解毒できるやつがいねえんだよ!」


「そうでしたか……、では、これで終了にいたしましょう」


 そう告げたクロの足元から、床を這うように闇が広がり部屋中を覆う。

 探査者達は足元の闇を見つめ――、

 なす術もなく、そのまま静かに闇に落ちていく。


 恐怖に顔を染め上げ、声も出せずに吸い込まれていく探索者達。

 もちろん毒に侵され、床に倒れていた者達も。


 大サソリ三体を背後に従え、黒い闇を足元に広げたまま――、


「この部屋、終わったよ」と普段の口調でクロが呟く。



 ◇ ◆ ◇



 大ボス部屋に残った探索者達は、シロが到着した時には全滅していた。

 とはいえ、彼らは意識を失っているだけで、命を落とした者は一人もいない。


「緑一号。こちらに」

 シロの側には胸に緑の1の番号を持つ木人形。


「ワタシが人間をいやします――、

 あなたは彼らの身ぐるみを剥いで、隅にまとめておきなさい」

「了解シマシタ」

「チャーリーとクラークは待機所に行きなさい。後で修繕をします」


 二体の大トカゲは軽く頭を下げて、見えない扉をくぐり待機所に入っていった。

 木人形緑一号も指示に従い、行動を始める。



 ◇ ◆ ◇



 再びキサルイ軍本陣。あるテントの中。

 ケトルの中の水がぐつぐつと音を立てている。


「うおっ! もう沸騰しているじゃないか! 何故止まらない?」狼狽える弟。


 湯沸かし魔法具は水が沸騰すれば自動で加熱が止まるはず。

 にもかかわらず過熱が続いている。水が全て蒸発して空焚きになれば危険だ。


「火事にでもなったら厄介じゃ。早く止めろ!」焦って怒り出す兄。

「どうすれば止まるんだ?」


「おまえ、魔力封印水晶を持っとるじゃろ、それを使え!」

「そうか! ………………と思ったが、これ停止ボタンか?」


 ぽちっ。


「――あぁ、止まった」


 ……止まったようである。



 ◇ ◆ ◇



 一方、こちらは最終ボス部屋。


「わははははぁ、我のダンジョンによくぞ来た!」


 その場に辿り着いたのは、探索者のリーダーだった者たち――四人。

 そして、少し離れた後方に罠解除担当の男。


「我が直々(じきじき)に相手をしてやろう! かかってこい!」


 シェリルのいつもの前口上。

 その姿を驚愕の表情で見ているリーダー達。


 この四人は特別に能力感知スキルを持っている訳ではない。

 しかし、そんな能力が無くても身に迫る危機はわかる。

 そうでなければ探索者Aランクになど到達できない。


 正面にいる魔族の少女から感じる命を脅かすほどの恐怖。

 そこから視線を離さずに、一緒にここまで来た罠解除担当に静かに話しかける。


「良くここまで連れてきてくれた。お前は下がっていろ」

「しかし……」状況が飲み込めない罠解除担当。


「いや、君の言っていた神をも滅するダンジョン……どうやら正しかったようだ」

「そうみたいだね……でもあたいは引かないわよ」

「オレもこのままじゃ帰れねぇ」


 罠解除担当もリーダーたちの真剣な表情に事態を察する。

 表情を引き締めて決意を告げる。


「……わかりました。でもここで見届けさせてください」

「あぁ、俺たちの生き様をその目に焼きつけろ」


 ここまでの道のりで、リーダーたちの間には連帯感が芽生えていた。

 部下たちの献身で、ようやく辿り着いた最終ボス部屋。

 待ち受けていた絶望。それでもなお一矢報いるために命を懸ける。


「それじゃあ、いくぜ!」「おう!」「わかったわ!」「やってやる!」


 若旦那と呼ばれていた男が「強化魔法だ! 受け取れ!」

 親分と呼ばれていた男「ありがてぇ! 俺が最初にいくぜ!」


 高速移動で姿が一瞬消える。

 次に現れたのは魔族の少女の側面。細剣を突き出した格好で止まっている。

 笑顔のシェリルが左手で細剣の先を摘まんでいる。


 親分は「まぁ、そうだよな…………、爆炎!」

 そう叫んで、左手から球形に圧縮された炎を放つ。

 炎球の向かう先にいた筈のシェリル。

 その姿はすでにそこにはなく、驚いている親分の視界は急激に回転を始める。


 遅れて感じる脇腹への衝撃。


「ぐおっ!」そのまま何度も地面をバウンドする。

 遠ざかるシェリルの姿。自分の放った炎球が天井で爆発するのが見える。


 何とか体勢を立て直したのは、四回目に地面に落ちた時。

 足から着地し――、

 抗し切れていない勢いを地面との摩擦で押し込め、ようやく静止する。


 部屋の中央に目を向けると、若旦那とボスが二人で魔族の少女に挑んでいた。

 若旦那の片手剣、ボスの両手斧。

 共にAランクの探索者から放たれる斬撃を――、

 時にかわし、時にはじき、時には指で摘まんで押し返すシェリル。


「やっぱり化け物か……いや、それ以上か」

 最初の位置から殆ど動いていない魔族の少女を、彼なりに賞賛する。

 それから再び前に出ようとした時――姉御の声がその場に響く。


「これを受けてみな!」


 姉御の頭上に浮かぶ無数の雷の槍。

 雷魔法の単体攻撃上位魔法――サンダーランス。


「おいおい……」親分の呆れた声。


 単体攻撃上位魔法をあれだけ生み出して、

 さらに一旦その場に留めて、一斉攻撃に使う。

 無茶苦茶な技量と魔力がなければ不可能な技。


「出し惜しみ無しだな……」


 姉御の声に反応して、若旦那とボスがその場から退避する。

 離れた位置からでも魔族の少女の表情がわかる。

 無数の雷の槍を前にして、微動だにしないシェリルの唇の端は上がっている。


「笑ってやがる」



挿絵(By みてみん)



 そして襲い掛かる雷の嵐。その中で悠然とした態度の魔族の少女。

 親分の口から「あれを……避けるのか……」こぼれる驚嘆の言葉。


 全ての雷が消えた後に平然と立っているシェリル。

 姉御は次の魔法の詠唱に入っている。

 若旦那とボスが再び襲い掛かる。それに負けじと親分も走る。


 若旦那の剣を指で摘み、そのまま奪い取って上空に放り投げる。

 ボスの両手斧は、刃の部分に拳を当てて軌道を逸らす。

 親分の細剣は左手で掴み取る。


 そして流れるように連続で三人の男たちに拳を放つ。

 三方向に吹き飛ぶAランク探索者たち。

 いち早く体勢を立て直した親分が叫ぶ。

 

「貴様! 手加減しているな!」


「うん」あっさりと認めるシェリル。


「なめているのか!」

「あたしは本気は出さないよ」


 笑顔を浮かべたまま探索者達に答える。


「あなた達は弱いし、もろいし、力がない。あたしの本気に耐えられない」


 ボスの両手剣を片手で受けながら、

「だからあたしは手加減をする」真顔になるシェリル。


「それが悔しいのなら、耐えられないのなら強くなればいい、それだけのこと」


 若旦那の攻撃を片手で捌きながら、

「今日はあなた達に教えよう。強者と戦う喜びを」強い意志を瞳に乗せて。


 ボスと若旦那が再び吹き飛ばされる。

 そこに姉御の特大サンダーランスが襲う。右手で受け止め握りつぶす。


「命までは奪わないであげる」静かな声。

「そうすれば、強くなってもう一度、この地に来るだろうから、きっと来るから、

 あたしはこの場で、いつまでもそれを待ち続けるよ」


 探索者達を見渡して、

「これから、あなた達は負ける。それは曲がらない事実――、

 だからこそ、あなた達の全力を!。あたしは全てを受け止める!」


 高らかに宣言するシェリル。


「おもしれえ! 俺の全てを見せてやる!」

「僕が極限の強化魔法を使う。少し時間をくれ!」

「オレが押さえる! 一撃で決められるヤツでトドメを頼む!」

「あたいの全ての魔力を使って、最高の魔法を!」


 探索者のリーダーだった四人が歓喜の笑顔を浮かべて――、

 己の全てをもって魔族の少女に挑みかかっていった。



 ◇ ◆ ◇



 またまたキサルイ軍本陣。あるテントの中。


「なんだ! 焦げ臭いぞ!」

「湯沸かし魔法具から煙じゃ!」



 ◇ ◆ ◇



 ぺちぺち。

 頬をたたかれて目覚める――若旦那――探索者リーダーの一人。


「起きたわね。今日は忙しいから簡単に用件を済ませるわ」


 目の前にいたのは空色の人形。ダンジョンの最初の部屋の案内役。

 今いる場所は――、


「ここは、キサルイ軍の本陣に近い丘の上よ。あっちに見えるでしょ、本陣が」


 人形が指差した方を見ると、確かに多くのテントが張られた平原が見える。

 昨日の昼頃に、ここを出発して、ヤトカイの町に向かった。

 もっと近い場所、自分の周りに目を向けると――、

 一緒にダンジョン攻略をした探索者達が横たわっていた。


「全員治癒済みで寝ているだけ。

 最終ボス部屋に来た五人以外は装備全部貰ったわ。それがルールだから。

 ……そして五人の人間には、これ」


 どこかで見た姿のミニチュア人形。

 ようやく思い出す。

 四人のリーダーで最終ボスに挑み、

 全力の魔法と技を完璧に受け止められ、完膚なきまで叩きのめされたのだと。


「うちのダンジョンの最終ボス部屋まで素通りできる通行手形。

 そしてアタシのあるじ――最終ボスから伝言……『また来てね』」

「あぁ、わかった」

「じゃあ、帰るわ」


 その時に、空色の人形の表情に変化が現れる。

 驚いたような、緊張したような。

 つぶやきが聞こえる。


「これって……魔力封印水晶……」


 確かにそう聞こえた。そして姿を消す空色の人形。

 見る機会の少ない転移魔法だが、今はあのダンジョンの最終ボスと戦った直後。

 いろんな感情が摩耗していて驚きは少ない。

 しばらくの間、若旦那は自分の心が戻るまで、その場に静かに座っていた。



 第二章第12話、お読みいただき有り難うございます。

 次回、「巨人の暴走」です。第二章大詰めが近づいています。

 ここにきて新キャラ登場か!?


 次回更新は10月29日を予定しています。


※11月4日 後書き欄を修正


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ