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第11話:シェリルのダンジョンにも敵の手が(1)

 シェリルのダンジョンも完成してから月日が経ち、訪れる探索者も増加。

 当然、それに対応するため――、

 回復の温泉の改築などより先に、幾つかの改良や変更を施していた。


 ひとつは各部屋に魔物待機所の増設。修繕もそこで行う。

 出入口はソラの結界で不可視、身内以外は出入り禁止。

 管理室から直通の裏道をつなげ、行き来を容易にしている。


 身内とはもちろん――、

 シェリルと三体の使役人形、魔物のぬいぐるみ。新入りの緑番号の木人形。


 さらに魔物のぬいぐるみも数を増やしている。

 大ネズミは配置九体、予備二十七体。名前はネズイチからネズサンジュウロク。

 大サソリは配置一体、予備二体。名前はバッカスとブルーノとベネット。

 大トカゲは配置一体、予備一体。名前はチャーリーとクラーク。


 できるだけ破壊されないように命令しているので、これで十分に足りている。

 修繕はシロだけでも支障はないが、先日から緑番号の木人形も要員になった。


 だから準備万端。

 今回の団体客には、最高のおもてなしを。熱烈歓迎。



 ◇ ◆ ◇



 百名の探索者集団が最初の部屋に現れる。

 彼らを迎えるように部屋の中央に浮いているソラ。


 ――御主人様の命令だからね……やらなくっちゃね……。


 シェリルの命令を実行するのにためらっている。

 何故かというと……、恥ずかしい前口上を言うように、との命令だからだ。

 シェリルの段取り癖が、今回も如何なく発揮されている。


「お、おまえたち、よくきた、まずはこてしらべだ。このものたちがあいてだ」


 なんだかうまく言えていない。

 いつもは偉そうにしゃべるが、大人数の探索者を前にして緊張しているソラ。

 これでは、シェリルの口上が下手だなんて言ってた、自分が恥ずかしい。


「誰だ、てめえは!」探索者のひとりが良い反応をする。

「アタシはこの部屋の案内人。従者人形のソラ……」

「魔族の仲間か!?」

「いけ。大ネズミたちよ。やつらをうちのめせ」


 予備も入れて大ネズミ三十六体全てを投入。

 それに気を取られた人間たちの隙をついて、すぐに管理室に転移するソラ。


「うー、恥ずかしかった……」シェリルに言えない愚痴を同僚にこぼすソラ。

「もっとちゃんとやらないとダメですわ」とシロが苦言を呈す。

「中ボス部屋はボクがやる。ソラに見本を見せるよ」と偉そうに言うクロ。


 シェリルは、ソラの姿も、探索者の様子も、ニコニコと機嫌良く見ている。

 うまく言えなかったソラを責めたりはしない。寛大な態度。

 それも含めて恥じ入るソラ。

 一方で、監視モニターでは、

 事前情報の四倍も現れた大ネズミを相手に、探索者たちが悪戦苦闘している。


『姉御! ここは俺たちに任せて先に行ってくれ!』

『バカ! あんた達を残して、先になんて行けないわよ!』

『こんなとこで手間取ってる場合じゃねえ。その言葉に甘えて先に行くぜ!』

『姉御もどうかお願いします。俺たちを信じて!』

『……わかったわ、必ずお宝を手に入れる。あんた達も絶対に生き残るのよ!』

『へいっ!!』


 モニターの中で繰り広げられる熱いドラマ。

 それを楽しそうに見守るシェリル。その横で雑談をする三体の人形達。


「あらら……、えーっと、三十人くらい残して先に行っちゃたわねぇ」

「残ったのは、あまり強くなさそうな人間ばかりですわ」

「ズルいわけじゃないわね……ていうか、ザコ敵部屋の目的そのままよね」

「そうですわ、弱い探索者を排除するための、大ネズミですもの」

「そういうことー」


 和やかに話している内に、次の部屋に進む探索者達がモニターに映る。

 通路にある罠の解除は、専門の者が迅速に対応しているようだ。

 行進速度に大きな遅滞は見られない。


「通路の罠は難易度はあんまり高くない」と言い訳をするクロ。

「それってマスターの指示でしたわね」

「そう、時間稼ぎくらいにしてって……、次はボクの出番だ」

「はいはい、いってらっしゃい」とソラが送り出す。


 クロが裏道を使って中ボス部屋に向かう。

 時を同じくして、中ボス部屋に辿り着いた探索者達。

 彼らの前に現れたクロの姿がモニターに映し出される。

 そして優雅な身振りを交えて語り出す。


『うふふ、よくいらっしゃいました。この部屋のお相手はこの大サソリ』


 クロの口調がいつもとまったく違う。

 薄い笑みを浮かべた表情も何故か妖艶だ。


『また人形か。さっきの青い奴は人の言葉が苦手だったようだが、

 こいつは異様な迫力がありやがる。――お前ら注意しろ!』

『へい! 親分!』


 ――失礼な!


 声のヌシを地の果てまで転移させようと思ったけど、ぐっとこらえるソラ。

 もう彼らはシェリル様の獲物。勝手に数を減らせない。


『あなた達に真の恐怖を教えて差し上げます。どうぞごゆっくり……』

 不思議な色気を残して、その場を立ち去るクロ。


 ――なによ! ホントにクロなの!?


 ソラが唖然としていると、クロが戻ってきた。


「クロ、何なの、さっきのは」

「御主人から言われた通りに練習した。ボクはやればできる子」

「なんかズルい……」

「ソラは言葉が不自由に思われてましたわね」シロが口をはさむ。

「もう忘れて……」


 モニターから探索者の声が聞こえる。


『さっきから、おかしいぞ。サソリの部屋には行かない筈じゃねえのか!?』

『そうよ! それにネズミは九匹。サソリは一匹だって話だったのに!』

『さすがにBランクのサソリ三匹は、若い奴等だけだと厳しいぞ!』


『それなら、オレの部下に任せてくれ! ――いいか! お前ら!!』

『わかりやした。ボス!』


『僕のところの回復魔法使いを残していく。解毒は任せてくれ!』

『有り難い! 頼むぞ!』

『若旦那! 必ず宝を!』

『わかってるさ! よし、先に進もう!』


 またまた熱いドラマ。ニコニコ顔のシェリル。


 ――御主人様、こういうのが好きなんだよねぇ。体育会系ってやつ。


 次の部屋に進む探索者達。

 やがて、通路の途中で揉めている様子がモニターに映る。

 どうやら罠解除担当の人間が怖気づいたようだ。


『わ、私はもうこれ以上進めません! 帰らせてください!』

『いまさら何を言ってやがる! お前は戦闘しなくていいと言ってるだろう!』

『い、いやだ! 私はこんなとこで命を落としたくはない!』


『君以外に誰が罠を解除できるというんだ! 信じろ! 僕たちが必ず守る!』

『嘘だ! あんな……あんな強い魔物が、こんな小さなダンジョンにいるんだ!

 やはりあの噂は本当だったんだ! ここは神すらも滅するダンジョンだと!!』


『ばかやろう! 落ち着け! 

 いいか、俺たちはもうすでに、何十人もの仲間の期待を受けてここにいるんだ。

 ここで引き下がって、お前はどの面さげて奴らに会うつもりだ。

 あいつらの犠牲を無駄にするな!』


『…………あっ……』

『思い出したか……奴らの中にはお前の親友もいたんだろう。そいつの為にも』

『そう……でした……。あいつの為にも、私は……』


 ――ちょっと面白いわね……。


 あるじの気持ちが少しは理解できたソラであった。

 モニターの中では、罠解除担当の人間も落ち着きを取り戻し――、

 真剣な顔で罠を解除しつつ、仲間の先頭に立ち大ボス部屋に向かっている。


「次はワタシの番。ソラよりはうまくやってきますわ」

「もう、やめて……、アタシのライフはゼロよ……」

「?」シロには通じてない。

「いってら」とクロも気にしてない。


 裏道を使って大ボス部屋に向かったシロ。

 程なくして探索者達の正面に浮かぶ姿がモニターに映し出される。


『皆様。ようこそいらっしゃいました。

 ここはあなた方の覚悟を試す場所。思いを貫く場所。誇りを示す場所。

 どうか、その身で苦難を乗り越え、新たな魂のステージへとお進みください』



挿絵(By みてみん)



 真っ白な姿のシロからの言葉。神々しさがその場を包む。

 と思ったら、シロ、光魔法で神々しさを演出していた。

 天使のような羽も用意して、光魔法の屈折を使って無数に舞い散る羽まで演出。

 探索者達は予想外の光景、息を呑む美しい光景に心を奪われている。


 ――ズルい、ズルい、ズルい。


『あなた方のお相手はこの者達。チャーリーとクラーク』


 二体の大トカゲがゆっくりと部屋の中央に歩み出る。

 その姿は神の御使いのような荘厳さがある。

 これも、魔物のぬいぐるみ管理担当の特権を使った演出。


 ――ズルい、ズルい、ズルい。


 去り際にひときわ派手に羽を舞い散らして『それではまた』と退場するシロ。

 ソラは泣きそうなほど羨ましがっている。


「シロぉ……、酷いわよぉ、うらぎりものぉ……」

「マスターの願いを正しく叶えるのが従者の務め――、

 ワタシは間違ったことを何ひとつしていませんわ」

「シロもクロもズルい……」


 そこにシェリルの声がかかる。

「ソラ! 大丈夫! 面白かったからオッケイ!」ニコニコ顔のシェリル。

「オッケイ――ですって、良かったですわね、ソラ」小さな笑顔のシロ。

「さすが、ソラ。御主人にひとりだけ褒められた」何故か真顔のクロ。

「うぅ……」


 ――いじめだ、いじめ、絶対ダメ。


 その言葉を心の中に留めて――、

 あるじを笑顔にできたのだからと自分を納得させるソラであった。



 ◇ ◆ ◇



 シロが去った後の大ボス部屋。


「こいつらがAランクの魔物か……さすがに強そうだな」

「大トカゲだって一体のはずなのに二体、話が違うわね」

「まぁ、いい。ここはオレたちが相手をすりゃあ、いいんだろう」

「そうしようか」


 リーダー格の四人が戦意を示す。全員が探索者Aランク上位の猛者。

 多少苦戦はするだろうが負ける気はしない――四人ともそう考えている。


 しかし残り少なくなった部下達が自分たちのリーダーに意地を見せる。

 この先の最終ボス部屋に万全の態勢で挑んでもらうために。


「親分!」「姉御!」「ボス!」「若旦那!」


 その場にいる全員が気づいていた。

 自分たちを歓迎するために、ダンジョンが特別態勢を取っているのだ。


 ならば、この先にあるはずの回復の泉。

 使えるとは限らない――いや確実に使えないだろうと。

 もう部下達の気持ちは決まっていた、

 最大戦力であるリーダー達を、ここで消耗させる訳にはいかない。


「「「「ここは俺たちに任せて先に行ってください!!」」」」


 四人のリーダー達は部下たちの思いを汲み取り――、

「……わかった」「任せたわよ」「オレがお宝を持ち帰る」「行ってくるよ」


 罠解除担当ひとりだけを連れて、最終ボス部屋へと向かっていった。


 第二章第11話、お読みいただき有り難うございます。

 次回、シェリルのダンジョンにも敵の手が(2)

 懐かしいあいつがまたまた登場? です。


 次回更新は10月27日を予定しています。


※11月4日 後書き欄を修正

※3月21日 閉じ括弧一ヶ所修正


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