第06話:シェリルのダンジョン観光ツアー(2)
ダンジョン観光ツアーが始まった。
ゆっくりと歩いて、ザコ敵部屋に一行は辿り着く。
先に八名の探索者がいて、大ネズミのぬいぐるみと戦闘中だった。
彼らはデビューしたてのようで、顔に幼さの残る少年たち。
ここの大ネズミは一体がDランク。集団でCランク相当と評価された魔物。
初心者の探索者には荷が重すぎる。何かの試練として行われているらしい。
案の定、あっさりと蹴散らされて退散する新米探索者達。
木人形の言いつけ通りに、静かに部屋の隅で待機していたツアー客。
目の前で行われる、探索者の真剣な戦いを息をのんで見守っていた。
「あれだけの実力差があっても軽いケガだけか……」
タバサが感嘆の吐息をつく。
「駆け出しに魔物の強さをわからせるには最適だな。彼らも強くなるだろう」
それはダンジョン探索組合の長としての言葉。
一方、探索者がいなくなった部屋の中は緊張感が霧散し、雰囲気が一変。
マリエが大ネズミのぬいぐるみに「うわーい!」と抱き付く。
グレイとシオリが昔話をしながらイチャイチャする。
バルドとアカネが半目で眺める。
その雰囲気のまま、次の中ボス部屋へ。
そこの魔物は見た目の怖い大サソリのぬいぐるみ。
マリエがためらいもせずに「おぉ!」と抱き付く。
グレイとシオリが(以下略)。バルドとアカネが(以下略)。
続く大ボス部屋。
やっぱりマリエが「おっきぃ!」と抱き付く。
大ボス――大トカゲのぬいぐるみは大きいので、お腹辺りに埋もれるように。
大ボスにはアカネやシオリも恐る恐る触ってみる。
調査に来たときは勝てそうもないと退散した相手。
「こうして触るだけなら、ただのぬいぐるみ、怖くないっすね」
「でも能力はそのままよ。私たちじゃ勝てないわ」
そして回復の温泉へ。
温泉は男女別、休憩所は共通。入口には土産物屋がある。
店の前には「名物ダンジョンまんじゅう」の文字が書かれたのぼり。
温泉の受付兼店番の木人形が「イラッシャイマセ」と出迎える。
男女とも、普通の温泉と、回復効果のある温泉の、二種類が用意されている。
普通の温泉の効能は――、
疲労回復、美肌効果、冷え性、神経痛等々
回復効果のある温泉の効能は――、
体力完全回復、魔力完全回復、完全解毒、軽傷のみ完全治癒。
これこそ本当のスーパー温泉。
そして「探索者以外のご利用をお控えください」と注意書き。
それを見た領主の従者が受付の木人形に願い出る。
「すみません。領主様なのですが――、
こちらの回復効果のある温泉に入らせていただいてもよろしいでしょうか」
「少々オ待チヲ……、ソラ様、聞コエマシタカ」木人形が上を向いて声を上げる。
そこに空間転移で現れたソラ。
「聞いてたわ。いいんじゃない」
領主の従者の願いに即答する。
「それって探索者優先にしないと、彼らから文句が出るからなのよね。
受付の木人形に話をすれば良いように変更するわ。――それでよろしく」
「ワカリマシタ」
――それが目的だったのね。
車イスの領主――ライル――がこのツアーに参加した理由。
確かに顔色が悪くて、見るからに病弱って感じ。
この回復の温泉は病気は直せないけど、体力の回復だけは効果絶大。
それだけでも病弱な身体がかなり楽になるはず。
微笑みながら頭を下げる領主ライル。
ソラはその姿をチラッと一瞥しただけで、その場から転移した。
みんなでお土産を買った後は、最後の部屋、最終ボス部屋へ向かう。
「ちょっと悪い予感がするんだけど」とシオリが言う。
「俺もなんだよ」とグレイが答えて、二人は手を繋ぎ合う。
アカネとバルドがやっぱり半目で眺める。
ステージで待っていたシェリル。客が現れて例のパフォーマンスを始める。
「わははははぁ、我のダンジョンによくぞ来た!」
「今日は大サービス! あたしの五段階の変化をお見せするよ!」
「普通形態はこれ!」胸を張る。
「第二形態がこれ!」両手を上に掲げて、ウネウネ動かす。
「第三形態はこれ!」剣先スコップ十本、
「第四形態はこれ!」光る剣先スコップ――別名、聖剣先スコップ。
調査探索の時、気絶者二名を出したこのパフォーマンス。
今のところは何事もなく進行している。
何故なら、ソラが主に能力感知を遮る結界を施しているから。
「そしてこれが! ジャジャーン! 最終形態!」
シェリルが聖剣先スコップを縦横無尽に振り回している。
周りを囲む三体の人形。
最終形態の完成。
「こ・れ・がぁ! 究極のシェリルの姿だぁぁあぁああ!」
両手を上げてポーズを決めるシェリル。
得意満面の顔で最後の決め台詞を叫ぶ。
「我が直々(じきじき)に相手をしてやろう! かかってこい!」
練習の甲斐があって、決め台詞が上達したシェリルであった。
しかし、一方で悲劇はやっぱり起きていた。
シェリルの全魔力解放。
ソラの顔に「やばっ」とやっちゃった感あふれる表情が浮かぶ。
身体を包むソラの結界を軽く破り、究極の状態を惜しげもなくさらすシェリル。
かつて、見ただけでグレイとシオリを気絶に追い込んだ姿を。
グレイは一度免疫ができていたはずだが再びダウン。
シオリは魔法を使わなければ知らないで済むのに、またまた気を失っている。
反射的に見てしまうのか、それともなんだかんだで、やっぱりおバカなのか。
タバサに至ってはさらにキツイ。彼女は驚異を精神的負担で感じるのだ。
初めてシェリルに会った時、シェリルの普通状態でさえ顔色が悪くなるほど。
いつも冷静な態度を崩さないタバサであっても――、
目が渦巻きになって、だらしない格好で倒れてしまうのも致し方ない。
能力感知スキルのないバルドとアカネは余裕。二度目なので余裕余裕。
バルドは目がグルグルしているタバサの姿を、指をさして大笑いしている。
まったく大人げない。
アカネは「バルドさん、最低っす」と、あきれながら倒れた三人を介抱。
何が起こったかわからない、その他の者は――、
アカネの「大丈夫っすよ」の言葉に安心する。
バルドとアカネ、人間の器の大きさがハッキリと表れる。
まぁ、小さなトラブルもあったが――、
シェリルのダンジョン観光ツアー、おおむね成功で終わる。
回復の温泉に浸かり、体力全回復して顔色が大分よくなった領主のライル。
グレイとシオリは目を覚ました。
依然として目がグルグルで気を失っているタバサを背負うのはアカネ。
それを嬉しそうに見ているバルド、シオリに「サイテー」と言われている。
マリエの「シェリルお姉ちゃん、またねー」の言葉に笑顔を返すシェリル。
そして全員が町に帰っていく。
「ソラ、ちょっといい?」ツアー客が帰った後、話しかけてくるクロ。
「なに?」
「ソラなら何かに使えるかもっていう情報」
「へぇ、どんな?」
「あの人間の子供、呪われてるよ」
「えっ! 子供って女の子!?」それはマリエじゃないの、と焦るソラ。
「違う、オスの方」
「じゃあ、ライル――町の領主ね」
「シロも気づいてたけど、ボクもシロも関係ない話だから。でもソラならって」
「……そう、ありがと。うん、ちょっと考えてみる」
――呪われてます。解呪します、なんて簡単にはいかないわよねぇ。
人間が呪われているのをいちいち解呪するなんて、慈善事業は出来ない。
ただ、相手がこの町の領主だというのが問題だ。
このままにしてダンジョンまで影響が出るのは困る。
それに領主が呪われているとなると、その原因の究明は必要だろう。
また呪いの解除が呪った相手に知られても、また問題があるかもしれない。
ひとつは組合長のタバサに相談って手段があるが――。
――今は保留にしよう。
いつか何かに使えるかもしれないし、と考えたソラは時を待つことにした。
なお、今日のこともあり、最終ボス部屋は観光ツアーのコースから外された。
シェリルは不満げだったが、
「最終ボス部屋は選ばれた者だけが到達できる崇高な場所でないと」
とソラの説得で「そうだよね」と笑顔で納得、素直に引き下がってもらえた。
シェリルのダンジョンの最終ボスに出会うには――、
休憩所でダンジョンまんじゅうを食べているところに出くわせばいい。
まぁ、午後にマリエの店に行くのが手っ取り早いのだけれど。
◇ ◆ ◇
その日、アカネはひとりで探索組合を後にした。
背後に立つ男。
「なんすか、ランダル」
「あぁ、少し話がある。すぐに済むがあまり聞かれたくない」
建物の陰に移動する二人。
「お前、ザック兄弟って知っているか」
「ちょっと前にシェリル様に喧嘩を売ったバカな奴らっすね」
「そいつらが商工会のドナンって会長に付いたらしい、組合の元バカ部長の兄だ」
「……」
「あの人形の主を陥れるのに使うんじゃねえか」
周りを警戒しながら話を続けるランダル。
「それとあのバカ部長、今は東のキサルイにいる。
兄弟でそこの貴族と、色々と裏でつながっているらしい」
「何故それをあたしに?」ランダルの意図が分からないアカネ。
「お前と人形には借りがあるからな、いつか返そうと思っててな」
「そうっすか」
「まぁ、俺を信じられないのもわかる。別の方面から確認でもしてくれ」
「わかったっす」
「それだけだ、じゃあな」
ランダル。あのバカ部長に雇われて、ソラとアカネを害そうとした男。
その後いろいろあって、今の彼は――一心不乱に自分を鍛えていた。
シェリルのダンジョンで命を落としかけ、恥をさらし、
町には探索者が増えて彼よりも実力のある者が何人も現れ、
以前の彼ならば腐ってやる気をなくすか、町からいなくなるかする筈なのに。
すでに、一度負けたダンジョンの中ボス、大サソリには雪辱を果たしている。
運悪く宝箱は空だったようだが。
いつか大ボスを倒そうと、シェリルに相対しようと――、
魔物の森で一心不乱に鍛えていると――アカネは知っていた。
「組合長にでも知らせますか」
アカネはそう独り言を言って、再び組合の建物に入っていった。
第二章第六話、お読みいただき有り難うございます。
いよいよ第二章の物語が動き始めました。
次回更新は10月11日を予定しています。
※11月4日 後書き欄を修正




