第04話:町の治安は木人形におまかせ(2)
「こうして集まってもらったのは他でもない」
タバサが最初に立ち上がり、会議の始まりにこう告げる。
ここは町の行政をつかさどる役場。その会議室。
「シェリル様のダンジョンのお陰で、町に活気が出てきたのは確かだが――、
しかし、その反面、増えた探索者による治安の乱れが出ているのも否めない」
この場にいるのはタバサを含めて人間が四人。
いずれの人物も町の重要な立場にいる者。
タバサも、魔物ハンターとダンジョン探索、両組合の長としてこの場にいる。
各人の前には今回の議題の資料が配布されている。
「かといって人員の増強も、簡単にはいかない。
魔物ハンターの中から適任者を選んで応援を頼んでいるが効果が今一つ」
タバサの後ろに立つ人間ではないモノが一体。
促されて一歩前に出る。
「その状況をシェリル様が見かねて助力してくれたのが――この木人形。
治安維持の即戦力になるはずだ。採用について、ぜひ前向きに検討して欲しい」
木人形――タバサに紹介される間、動かずに姿勢正しく立っている。
続いて隣りに座っていた男が立ち上がる。
「俺の方でも働きを確認した。運用を正しく行えば優秀な隊員になるだろう」
背が高くがっしりとした体。座っていた椅子が小さく見える。
彼は町の治安警備隊――隊長のクルト。
伝えたい用件だけを話してすぐに着席する。
続いて発言を始めたのは白髪交じりの太った男性。
眉間にしわを寄せて、正面に立つタバサを下から睨みつける。
「おい、タバサ組合長よ。そいつはシェリルの策略としか思えないのじゃが」
彼はヤトカイの町の商工会のトップ――ドナン会長。
ふたつの組織の組合長を兼務しているタバサを目の敵にしている。
この男、タバサの発言力が強くなるのが気に入らないらしい。
事あるごとに邪魔をする。
「策略とは何の話だ。ドナン会長」
「考えてみるんじゃ。ダンジョンの魔物が町の為を思ってなどありえんじゃろ」
配布した資料に目も通さずに、さっそく難癖をつけるドナン。
言い返そうとするタバサを遮るように、残るひとりが口をはさむ。
行政のトップ――ヘイズ町長。
「それなら、会長はどのように考えているのかな」
立場の割にはまだ若い。三十代半ばに見える口調の柔らかい優男。
資料を手にしながら、ドナンに発言の意図を尋ねる。
「シェリルがこの町を乗っ取ろうと考えとるんじゃないのか」
「それはどういうことだね」ヘイズ町長が重ねて問う。
「そのための先兵として、町に配置させようとしとるんじゃろうが」
ドナンは木人形が採用されれば、反乱を起こすと言いたいのだろう。
その考えの愚かさを知るタバサは思わず声を出して笑ってしまう。
「は、ははは。バカか、お前は。弟もバカだが、お前もバカだったんだな」
「なんじゃと!」ドナン会長――実は組合にいたあのバカ部長の兄である。
「言葉が過ぎるよ、タバサ君」
「失礼。ヘイズ町長」
町長に軽く頭を下げてから、タバサは再びドナンの方に視線を向ける。
「ドナン会長。私はシェリル様を信じている。
いやシェリル様の能力を信じている。既に信仰に近い程な」
シェリルの持つ神にも等しい力――その力を肌で感じたタバサ。
「だからシェリル様がこの町に害をなすなど在り得ないのを知っている。
だが、お前に同じようになれとは言わない。だから現実的な話をしよう。
シェリル様がこの町をどうにかしようと考えれば、この木人形などいらない。
使役している人形もいらない。
あの身ひとつで適当な魔法でも使えば、この町はあっという間に壊滅だ。
だれも止めることなどできない。
その一点だけで、この木人形が策略でもなんでもない事の証明になろう」
タバサの言葉にも怯まないドナン。泰然とした姿勢を崩さない。
「わしは反対じゃ。もとよりあのダンジョンの存在すら認める気はない」
「今さら何を言っている」ドナンの言葉に呆れた顔をするタバサ。
「タバサよ。この町は魔物の森があればよかったのじゃ。
それがなんじゃ。魔族の小娘が造ったダンジョンじゃと」
椅子に座ったまま腹を突き出しふんぞり返るドナン。
そして見下す視線をタバサに向ける。
「中の魔物は十数体。それもぬいぐるみ。町の発展になどなるわけがない。
現に今、胡散臭い連中が集まるだけで町に金などほとんど落としておらん。
それで治安が悪くなって人が足らない。金は出ていく。
ほれ、どうだ。言い返せるか、タバサよ」
やれやれといった態度でタバサは軽く首を振る。
「お前はよくそんな恥ずかしい話ができるな。
ドナン会長。お前の立場は何だ。この町の商工会のトップだろう」
軽く顔を傾けて諭す様にドナンに告げる。
「いいか、たとえ胡散臭い連中だろうが人は人。
それが集まると既に分かっているのだろう。
そこから金を生み出せないなどと、よくもそんな泣き言を言える。
こんな使えない奴が、この町の商売を仕切るトップの人間なのだからな。
そっちの方がよほど町の損失だ」
と心底呆れた顔をする。
そして町長のヘイズに顔を向けて、
「町長。この町が発展しなかった元凶が何処にあるのか、これでわかっただろう」
完全に言い負かされて、さっきまでの泰然とした態度が崩れるドナン。
顔を赤くして悔しそうに顔を「ぐぬぬ」と歪める。
資料を読みながら、そこまでの話を黙って聞いていたヘイズ町長。
二人を落ち着けるように軽く手を振る。
「あぁ、わかった、わかった。それぐらいにしておいてくれないか。
シェリル殿とダンジョンの件は既に受け入れると決まった話じゃないか。
ドナン会長。――それを否定する要因が出てない以上、蒸し返すのはやめよう」
目を通し終えた資料を机の上に戻し、その場にいる全員の顔を見渡す。
「今回のこの木人形の件――、
シェリル殿の好意として素直に考えれば、確かに素晴らしい贈り物だ。
しかし、僕の立場ではシェリル殿の全てを信頼することはできない。
だからドナン会長の懸念を否定するつもりはない」
自分の意見が認められて、ドナンが歪んだ顔のまま笑みを浮かべる。
その様子を横目で見て、ヘイズは声の調子を強くする。
「それでもシェリル殿を受け入れると決めた以上――、
関係を良好に保つ努力を怠るべきではない。
好意として提供してくれた物を突き返すのは得策ではない。
したがって僕は――、木人形について受け入れるのが最善と判断する」
それがヘイズ町長の意見だった。
再び顔を赤くして、木人形を含めてその場にいる全員を睨み付けるドナン。
睨まれたのを気にもせず、涼しい顔でタバサが全員に賛否を問う。
「さっきの通り、僕は賛成だね」とヘイズ町長。
「賛成だ」とクルト隊長。
「ではヘイズ町長、クルト隊長、そして私が賛成だな。ドナン会長はどうする?」
「わしは反対じゃ、いつかお前たちが後悔する時がきっとくる」
賛成3、反対1で木人形の治安警備への配置が正式に決定。
最後まで反対したドナン会長――、
激しい勢いで席から立ち上がる彼の瞳には、暗い情念が宿っている様に見えた。
木人形は最後まで静かに立っていた。
◇ ◆ ◇
木人形の正式採用の決定を受けて、シェリルは追加で八体を町に譲り渡した。
計十体の木人形が町の警護をするようになる。
確かに最初の短い期間、多少の混乱があった。
しかし、木人形の公平な態度と、決して人間に危害を与えない仕事っぷり。
その姿に町の住民だけでなく、ハンターや探索者達も存在を認め始める。
やがて一部の悪人を除き、しっかりと信頼を獲得し――、
木人形たちはヤトカイの町の日常の風景に溶け込むようになっていった。
「マリエちゃん。苛められたら、あの木人形を頼ってね。あたしが作ったんだよ」
「すごーい。シェリルお姉ちゃんって強いし、何でもできるんだね!」
「えへへへへ、お姉ちゃんだからね!」
採用にあたって町の上層部では激しい議論の対象になった木人形。
しかしきっかけは――、
シェリルがお姉ちゃんとして尊敬されたかった――それだけであった。
第二章第四話、お読みいただき有り難うございます。
次回からは「シェリルのダンジョン観光ツアー」です。
次回更新は10月6日を予定しています。
※10月13日 誤字修正
※11月4日 後書き欄を修正




