第03話:町の治安は木人形におまかせ(1)
マリエの店を後にして――、
ダンジョン管理室に戻ったソラはシロとクロに事の経緯を説明する。
町の治安維持に当たらせる木製の人形――木人形――の製作。
ソラの考えている木人形とは――、
自分で自分を修理できるように簡単な造りにして、器用な手先を持たせる。
善悪の判断と上からの命令を実行できるような知能を持たせる。
そして治安維持に適した能力。
まず一体だけ作って、その人形に自分の分身を作らせる。
もちろん命を吹き込むのは主に願う。
「シロ、材料を取って来るのを手伝ってくれる?」
「いいですわよ」
「御主人様、シロと外に行ってきます。あの件をクロに話しておいてください」
「うん、まかせて!」
主の返事を聞いてソラはシロを連れてその場から転移。
ソラの残した言葉にキョトンとしているクロ。
首をかしげているとシェリルに名前を呼ばれる。
「クロ!」ニコニコ顔のシェリル。
「なに、御主人?」クロは不審げな顔で返す。
「ソラの話していた木人形に付ける能力、クロの重力魔法がピッタリ」
「えっ、そう?」主の言葉に戸惑うクロ。
「うん、人間の命を奪わないよう手加減できるし、触らなくても押さえられるし」
「うん、うん」
「重い物を運ぶのにも役に立つし、そんな木人形、人間も大喜びだよ」
「そ、そうかな」
「やっぱりクロの重力魔法は役に立つし便利だよね」
「もちろんさ!」胸を逸らして得意げに言うクロ。
「じゃあ、クロが重力魔法をつけてやってね」
「うん、御主人、ボクがちゃんと木人形に力を与えるから任せてよ!」
「よろしくね!」満足げな顔をするシェリル。
これはソラの入れ知恵。
ここしばらくクロに元気がなかったことにソラは気づいていた。
その理由は、おそらく究極のシェリルの姿。
剣先スコップはソラの助言。聖なる祝福で聖剣先スコップにしたのはシロ。
クロは最終形態に加わったけれど、それは他の二体も同じ。
自分だけ力になっていない――、
それに気づいたクロはその日から少し気落ちしていた。
だから、今回の木人形に与える能力。
クロの重力魔法が適任なのは明白、疑う余地はない。
それをシェリルから伝えてもらえば、クロの機嫌も直るに違いない。
そんな話をシェリルに話したら、ソラの意を汲んでくれた。
いつもは込み入った説明は聞き流すけれど、この時は思ったよりも簡単に。
その結果が先程のシェリルとクロのやり取り。
しばらくしてソラとシロが手ごろな木材を伐採して戻って来た。
迎えたのはシェリルの笑顔とクロの機嫌の良さそうな顔。
――クロ、元気になったようね。……ちょっと単純だけど。
ソラの目論見は成功した。
細やかな気配りができるソラであった。
◇ ◆ ◇
翌日の午後。
すでに完成している木人形の試作品二体。
出来を見てもらうため、ソラは探索組合に持ってきた。
ちなみにシェリルはマリエの店。シロとクロはいつもの如くお留守番。
組合本館の奥にある教練場で木人形品評会が始まる
探索組合関係者は、組合長のタバサと、バルドとグレイが出席。
アカネとシオリにも声をかけたら見に来てくれた。
代わり映えのないメンツだが――、
タバサ以外は全員上位の魔物ハンター。
そしてタバサ、グレイ、シオリは相手の能力を見極めるスキルを持つ。
これ以上ないベストメンバーである。
「ソラさん、お久しぶりです。あれからご挨拶ができなくてすみません」
久しぶりに顔を合わせるグレイ。挨拶する彼の顔はやつれていた。
組合で缶詰になっているのは事実らしい。
全員に木人形をお披露目するソラ。
腕と足は木の棒。関節部分は球形に削った木。
眼鼻口のない顔は只の丸太。胴体はそれなりに造形している。
胸に番号が振ってある。
手は一体成形だが、何故か人の手と同じように指が曲がる。
まずはシオリの能力感知魔法で強さの確認。
「身体能力はバルドさんくらいかしら。そして魔法――この感じは重力系ですね」
「そう、対人戦闘で極力傷を負わせないようにってね」
「確かに重力系ですね。それにしても綺麗な魔力だ」グレイも魔力を見ている。
「タバサはどう見た?」組合長に意見を聞くソラ。
「この圧迫感はかなり強いですね。あのランダルより少し上くらいでしょうか」
ランダルとはかつての町一番の魔物ハンター。今はちょっと落ちぶれている。
三人の能力感知を持つ者たちの評価に満足するソラ。
「そのくらいかしらね。一体でうちの中ボスくらい――、アカネ戦ってみる?」
「やりますよぉ。強い相手と模擬試合なんていい経験になるっす」
ソラの提案にずいぶんと乗り気なアカネ。
さっそく肩を回したり屈伸したりと、準備運動を始める。
「一号、アカネと手合せをしなさい。怪我をさせないように」
「了解シマシタ」木人形は口もないのに硬質な声で返事をする。
「会話もできるのですか」と感心するタバサ。
「さすがシェリル様の作っすねぇ」
「大丈夫よ、アカネの方がよっぽど賢いわ。アタシが保証する」
「そんなこと、保証されても……」
木人形の武器は木の棒。命を奪う危険を極力排除した人にやさしい仕様。
心と体の準備が終わったアカネも木刀を持って木人形に対峙する。
「いくっす!」の声と共にアカネが前に飛び出る。
アカネと木人形の試合が始まる。残りの皆は見物。
両者の戦いが白熱する中、ソラがタバサに話しかける。
「そういえばタバサって、現役の頃はどのくらい強かったの……?
立ち居振る舞いでかなり強いのはわかるし、能力感知まであるのだから……」
タバサが若いころ魔物ハンターをしていたと覚えていたソラ。
その問いに答えたのはバルドだった。
「今は落ち着いたふりをしているが、昔は女豹のタバサと呼ばれ「ゴン!」」
「なに、たいして強くありません。いまのこいつの方が強いですから」
どこから持ってきたのか、いつの間にやら木刀を持っているタバサ。
隣りで頭を抱えてうずくまっているのは、話の途中で木刀で殴られたバルド。
代わりにグレイが事情を話す。タバサの木刀に視線をやりながら。
「ソラさん、昔は組合長とバルドは一緒に組んでいたんですよ」
「へぇー、そうなの」
アカネが木人形に何か奥義っぽい剣術を「うおぉぉおお!」と繰り出す。
「あと、もうひとり、俺の兄貴と一緒に三人で」
「グレイのお兄さんって今は?」
木人形の実力に「これを全て受け止めるっすか!?」とアカネが驚愕している。
「まぁ、よくある話で魔物にやられまして……」
「……悪いことを聞いたみたいね」
別の秘技で「ならばこれならどうっすか!」挑むアカネ。
「いえ、引退して俺の稼ぎでぐうたらしています」
「……そう」
ギャグマンガのように「うわーっ!」アカネが宙を舞う。
そんなアカネの姿を気にせずに会話が続く。
自分の兄を悪く言うグレイにタバサが同調する。
「こいつの兄ときたら、昔から怠け者でどうしようもない男だったのです」
「いまだにこの女を嫁にしないから、ついに行き遅れ「ガゴン!」」
余計なことを言ったのはやっぱりバルド。
タバサに再び殴られて地に伏せる。音は一回だったが二連続攻撃。
その剣先の鋭さから、バルドより弱いという発言は謙遜だったのがわかる。
「今のは重力魔法っすね。無表情の癖に粋なことをしますねぇ」
こちらはアカネ。
地に落ちる寸前、落下速度が緩やかになりストンと尻餅をついていた。
木人形に助けられたのを知り、その行動を讃える。
アカネの戦いと、タバサとバルドのやり取り。
笑いを堪えながら、どちらを見ればいいのか迷っているシオリ。
緊張感に欠けた雰囲気の中、木人形の性能検証はしばらく続く。
バルドは気絶したまま教練場の端に転がされている。これはタバサの仕業。
そんな中で、ひと通りの確認が終わる。
「強さはあんな感じね。――どうかしら、タバサ」
「はい、想像以上に素晴らしい能力でした。特に重力魔法は任務に最適かと」
「そう……、じゃあ、この二体を渡すからしばらく試してちょうだい」
「ありがとうございます」
「それで大事なものがひとつ。この零号……」
そう言って、ソラは収納空間から木人形のミニチュアを取り出す。
「これを持つ者の指示に従うわ。責任者に持たせて盗まれたりしないように」
木人形の品評会が終了して、その場は解散。
未だに気絶しているバルドはグレイが背負って連れていく。
組合で缶詰になって疲れているのに、彼も苦労が絶えない。
タバサは二体の木人形を連れて、町の治安警備隊へ。
そこで紹介と説明をした後、そのまま数日預けて実際の働きを確認させた。
その結果、特に問題もなく、治安警備隊の中で木人形は高評価を得た。
最後に町の上層部の集まりで、タバサが木人形の採用を発議。
これで認めてもらえば町の警備に正式採用になる。
しかし、そこには……、タバサがこの町で力を持つのを良く思わない男がいた。
シェリルの存在を忌み嫌い、ソラに恨みを持つ男が――。
第二章第三話、お読みいただき有り難うございます。
次回更新は10月3日を予定しています。
※第一章第14話 訂正しました
組合長の若いころ(前)探索者 →(後)魔物ハンター
※11月4日 後書き欄を修正




