第02話:甘味処でトラブル(2)
「お前、俺たちが誰だかわかって偉そうな口をきいているんダろうな」
「知らないわ」
「俺たちはあのグラクツのダンジョンで地下十階を制覇したザック兄弟ダ」
「そう、それがどうしたの」
シェリルに手を上げた背の高い方。わざと声を大きくしてシオリを恫喝する。
もう一人の背の低い方は黙って後ろでシオリを睨んでいる。
その騒ぎを聞きつけた探索者達がまわりを囲んで見物を始める。
シオリは二人の男――ザック兄弟の強さを能力感知魔法で調べていた。
ひとりだけなら近接戦闘が苦手なシオリでも勝てる。その程度。
アカネなら二人同時に相手をして楽勝。
でも彼らの相手をするのはシェリルかソラだ、とシオリは考えて待っていた。
そこに通りかかったのはシオリの顔見知りの人物。
「おう、ザック兄弟じゃないか、人を集めて何をしているんだ」
「うっ、バルドか」
「また弱い者いじめか、いい加減にしておけ」
「お前には関係ねぇダろう、さっさと消えろ」
「ザックの兄、どうした、いやに強気だな、……あぁ、人目があるからか」
「……」さっきから喋っていたザック兄。バルドの言葉に黙り込む。
「どうして、そう人間が小さいんだ、お前は」
現れたのはバルド。シェリルのダンジョン調査で暫定パーティを組んだ相手。
シオリにとっては恋人グレイの相棒。
ザック兄弟と面識があるらしい。
バルドが呆れた顔をしながら周りを見渡していると――、
店からアカネと一緒にシェリルとソラが出てくる。
「で、今日の被害者は……、シェリル様……? なんでこんな処に」
「その男が御主人様に喧嘩を売ったのよ」
「ソラさんまで」
「バルドさん、こんにちはっす」「バルドさん、こんにちは」
「アカネにシオリまで。――あぁ、済まない今日はグレイは一緒じゃないんだ」
さっきからその場にいたシオリに、ようやく気づいたバルド。
変に気を利かせて、この場にいないグレイの話を持ち出す。
「そうみたいね」
場の空気を読んで簡潔に答えるシオリ。
その心遣いに気づかないバルドがさらに話を続ける。
「シオリならグレイの居場所なんて俺が言うまでもないか」
「……探索組合で缶詰なんでしょ」
「そういうことだ」
世間話を始めたバルドたちにイラつくザック兄。
「俺たちを無視するんジャねぇ」
「お前ら、シェリル様に喧嘩を売ったのか、弱い者いじめなんて言って悪かった」
「それは何の話ダ?」怪訝そうなバルド兄。
「あぁ、お前、シェリル様も知らないのか。それでよくこの町にいられるな」
ソラはしばらく様子を見ていたが、頃合いと見て口をはさむ。
「シオリ、こいつらの相手、ありがとう」まずはシオリに礼を言う。
それからバルドの方を向いて、
「もう、その男たちはシェリル様が相手をすると決めたの」
「そうですか……。それなら何も言わない。見学させてもらいます」
「なんダ、その小娘に何かあルのか」
「こういう相手にシェリル様がどういう対応をするのか、興味があるからな」
「確かにそうっすね」
「それでは御主人様、続きをお願いします」
「うん」
バルドたちの様子に疑問を抱いたザック兄。
しかしシェリルが自信満々に正面に立ったので、そちらに注意を向ける。
彼が覚えているのはそこまで。
ザック兄に数歩で近づき、そのままの勢いで右の拳を繰り出すシェリル。
見事に先程の続き。
傍にいたザック弟には、兄の姿が突然視界から消えたとしか見えなかった。
宙を舞うザック兄の身体。遥か後方に音を立てて着地する。
シェリルが満足そうに「これで終わり」とソラに伝え、その場から下がる。
「おぉ、見事に飛んだなあ。それも人と建物にあたらないように」
「さすがっすねぇ。見どころは手加減具合がピッタリってとこっすね」
バルドたちにはその手加減がわかった。
派手に宙を飛んだが一応は探索者。あの程度で怪我をするほど柔ではない。
意識を刈り取るだけに収めたシェリルの力量に感心している。
ソラが伝えたかった「周りに被害を与えない」もしっかりと守っている。
「ザックの弟。もう消えた方がいいぞ――、
兄の方はしばらく目を覚まさないから、背負ってでも連れていけ」
「……」無言のままバルドを睨みつけるザック弟。
「この件については、このバルドが全て引き受ける。苦情は俺に言いに来い」
途中からこの場に現れて、詳しい事情を知らないバルド。
しかし彼なりに事態を察して、全責任を負うと男らしく宣言する。
バルドたちに背を向けて、兄の方に駆け出すザック弟。
「ダンジョンに来てね」シェリルがその後ろ姿に声を掛ける。
ザック弟は道の真ん中で横たわっている兄を背負い――、
それから一度振り返ってシェリルたちを睨み付け、その場から逃げ出す。
「バルド、あの男たちと知り合いなの?」とバルドの方を見るソラ。
「俺が探索組合で雑用していた時に怒鳴り込んできましてね」
「その顔でアタシに敬語はやめてくれない」
一瞬「顔に何の関係が……」と言葉に詰まるバルド。
しかし、すぐに気を取り直してソラに対して口調を変える。
「一階層だけのダンジョンにしては魔物が強すぎる、と筋違いの不満を言いにな」
ザック兄弟の様子を呆れた顔で話をするバルド。
「それで俺がシェリル様のダンジョンの説明をしてやったんだ」
「ふーん」
バルドの話は――、
最終ボス部屋に行くにはAランク以上の実力が必要。
ザック兄が信じられないと言うので、バルドが教練場で手合せをしてやった。
そして自分でさえ一人では中ボスにすら勝てないと。
彼らの実力はバルドよりかなり下。聞いたら大ネズミに勝てなかったらしい。
不平を言い続けていたが、バルドの前ではおとなしくなったそうだ。
「その後、何回か町で悪さをしたと報告が来て、その度に俺が動いたって話だ」
「そうだったの」
「だから、今後あのザック兄弟の件で何かあったら俺に言ってくれ」
「わかったわ。ありがとう、バルド」
バルドの説明が終わったのを見て、シオリが声を掛ける。
「さて――、終わったのなら食事に戻りましょう」
「うん」シオリの言葉に素直に従うニコニコ顔のシェリル。
「バルドさんも一緒にどう?」とシオリが厳つい男を甘味処に誘う。
「んっ、いや、俺は……」バルドは困った様に口ごもる。
「グレイから聞いていますよ。バルドさん、甘いものに目がないって」
「………グレイの奴め」忌々しげな顔をしても、バルドの足は店に向かう。
◇ ◆ ◇
シェリルたちが店に入ると、マリエが心配そうな顔で駆け寄って来た。
「シェリルお姉ちゃん、怪我はない?」
「うん、大丈夫!」ニコニコ顔のシェリル。若干頬を赤くしている。
――御主人様、あれはお姉ちゃんと呼ばれて喜んでいる顔だ……。
見事に主の心の内を見破るソラ。
席に座ると、マリエの両親が厨房から出てきて礼を言われた。
感謝の気持ちとして全員分のあんみつ。もちろん無料。
ありがたくいただく女性二人と魔族一人と人形一体、そしてデカい体の男一人。
「ところで――、なんで探索組合はそんなに忙しいのかしら」
シオリの恋人のグレイが缶詰めになっている話を思い出したソラ。
探索組合の様子なら知っておきたい。
「立ち上げたばかりってのもあるが、早くも色々と胡散臭い奴が集まって――、
規則やら何やらをすぐにでも作らないと、混乱が収まらなくなっていてな」
あんみつを食べる手を止めてバルドが説明をする。
彼の手にあるスプーンがやけに小さく見える。
「グレイはあれで細かい仕事が得意なんで、それで組合長につかまって――、
俺はそういうのは似合わないから、外で見回りみたいな真似をしていたんだ」
「そうっすね。確かに町の雰囲気が少し悪くなっているような」
「それでさっきの何とか兄弟みたいなのが町の和を乱しているのね」
「奴等は探索者登録をしているから、組合として対応しない訳にはいかなくてな」
「ソラ、何か考えて」と突然シェリルが無茶ぶりをする。
「何かっていきなり言われましても……」
「マリエちゃんが怖い目に遭わないように」
――それは自分がお姉ちゃんぶりたいからじゃ……。
再び主の心の内を見破るソラ。
大元の原因がシェリルのダンジョンにあるのは気にするつもりもない。
それでも主の要望には応えたい。
町の治安を良くする方法――それをキーワードにして自分の記憶を探る。
「北にある学術都市、そこで治安維持を受け持っていたのは――、
力のある魔法師が造った木製の人形――それが千体以上はいました」
ソラは思い出しながら言葉を続ける。
「都市を守るための戦闘力、善悪を判断出来る知能、休みなく活動――、
……数はともかくとして、能力については御主人様の力でも可能です」
「じゃあ、それ」あっさりと決めるシェリル。
「はい……、それでは、まず試作して組合長と相談しましょう」
シェリルの賛同を得てほっとするソラ。
ついでに、この場にいる組合関係者にも意見を聞く。
「バルド、どうかしら」
「あぁ、人員が足らなくて困っているから喜ぶと思うぞ」
三十代の男がニコニコとあんみつを食べている。
それはもう幸せそうに、ゆっくりと。……ほっぺたに餡子をつけて。
――に、似合わない……。
ソラはその言葉を口にせずに胸に納めた。
第二章第二話、お読みいただき有り難うございます。
次回更新は9月30日を予定しています。
※11月4日 後書き欄を修正




