番外編:転生した少女
今回は番外編です。
これはちょっと昔のお話。
魔族の少女シェリルがこの世に存在を始めて間もなくの頃……。
◇ ◆ ◇
「あなたの名前はソラ! よろしくね、――あたしはシェリル!」
――ソラ? それってアタシのこと?
ソラと呼ばれた少女の意識は覚醒する。
シェリルと名乗った少女の深緑色の髪の毛とニコニコした顔が目に映る。
――この子は誰? ここはどこ?
記憶を辿る。
昨晩は苦しくなったので早めに薬を飲んだ。
眠りについたのは少女にとって全ての生活の場だった病室。
確かにいつものベッドの上だった。
とりあえず頭を上げて辺りを見回す。
見慣れた病室じゃない。見飽きた景色じゃない。
きれいな洋室。ゆったりとしたソファがあって暖炉が見える。
そして少女がいま横たわっている場所は――、
――アタシが寝ている場所はテーブルの上?
自分の身体が縦に楽に乗るようなテーブル。
天井も高い。部屋もかなり広く感じる。
そういえば深緑の髪の女の子の身体がやけに大きく見える。
少女は気づく。これは周りが大きいんじゃない。
――アタシ小さくなっている! もしかして赤ちゃんになっている?
それはネット小説で何度も見かけたお話。異世界で赤ん坊に生まれ変わるお話。
記憶の中のお話を頭の片隅に浮かべて自分の手を見る。
小さな手。きれいな肌。
――これが絹のような肌って言うんだな……って、これ絹そのものだよ!?
それは赤ん坊の手……ではなくて小さな人形の手。
――人形になっている!?
「ワタシはシロですわ。よろしく、ソラ」
左隣りから声がかかる。
さっきも視界に入っていた白い髪に白いドレスの人形。
可愛い女の子の姿をした三頭身の人形。
上半身を起こした恰好でソラを見ている。
身体の大きさはソラと同じ。
そしてシェリルと名乗った女の子の上半身より小さいくらい。
何か返事をしようかと迷っていると――、
その横でシェリルが今度はソラの右を見て、同じように声を掛ける。
「あなたはクロ! よろしくね、あたしはシェリル!」
右隣にいたのは眠そうに「クロ?」眼をこすっている黒髪に黒いドレスの人形。
髪とドレスの色以外はシロと名乗る人形と同じ造形。
自分の姿も予想が付いた。
――あー、アタシもこの姿なのね……。でも可愛い人形で良かったわ。
ソラの髪の色とドレスの色は空色。
命の終わりを常に意識していた少女。
彼女は今の状況を、生まれ変わり――転生――なのだとすぐに受け入れた。
生きるだけで苦しかった身体から解放された――それがただ嬉しかったから。
だからこの夢を現実として受け入れることにした。
「アタシはソラ。よろしく!」
◇ ◆ ◇
――やっぱここ異世界だった……。
ソラが今いる場所を考えれば明白。
そこはダンジョンの中。
最下層地下百階の最終ボスとして生み出された魔族――シェリル。
彼女の能力で従者として生み出された三体の人形。
それがシロ、クロ、ソラ。
目覚めた時の部屋は最終ボスの控室。
これが現実、と目の前に示されれば納得するしかない。
彼女が人間であった時の世界とは大違い。確かに異世界だ。
そしてソラは自分の身に宿る能力も理解する。
シェリル――御主人様――から授けられた能力のひとつ。
空間魔法。
その魔法の代表的な能力に空間転移がある。
一瞬で空間を移動する魔法。
目に見える場所に移動する。一度行った場所に移動する。
感知できる場所に移動する。モノを送り、モノを取り寄せる。
ソラは暇さえあれば、ダンジョンの外にひとりで出かけていった。
自分の現実と定めた世界の知識、それを目で見て手で触って吸収するため。
知識を求めて飛び回った。病弱な身では叶わなかった願いを晴らすかのように。
――この能力で前の世界にも戻れそうなんだけどねぇ。
前の世界は感知できている。だから転移できる。それは確か。
でも戻れても姿は人形のまま、ソラの以前の姿はない。
病室に姿を見せなかった両親の顔も忘れている。忘れたいと思っている。
――前の人生に良い思い出もないし、転生ライフを楽しもう。
彼女はそう決心して、過去の自分と決別を誓う。
ソラにとって今の世界が現実なのだから。
そして知る、この世界を。
色々な魔法があり、色々な武器と武術がある。
魔物がいて、魔族がいて、勇者と魔王がいる。
魔物の森があって、ダンジョンがあって、魔王城がある。
騎士がいて、貴族がいて、王様とお姫様がいる。
冒険者がいて、探索者がいて、ハンターもいる。
前の世界から転生したり、召喚された人間が活躍している。
この世界の在りようは、決別した前の世界にあった空想の物語のよう。
――アタシの能力も根っこは同じだけど……。
そこには何かの作為が見える。けれどもソラはその思考をあえて無視する。
――この能力は御主人様から貰ったモノ、……だから否定したくない。
眼の前で甘く焼いた芋のおやつを食べている主の顔を見て切に思う。
ちなみにおやつを作ったのはソラ。
料理が楽しくて、色々やっていたらそのまま担当になった。
「あげないよ! だいたいソラは食べるの速すぎ」
ソラの視線を勘違いしたシェリルが、ついでとばかりに関係のない文句を言う。
シロとクロも、食べ終わっていないおやつを隠す様に抱えて食べ始める。
「あげまへんわ……」
「ボクもやらない」
食べながら話すシロの言葉がなにかの方言になっている。
みんなの対応に片眉を上げて考え込むソラ。
――あれ、アタシってそういうキャラ?
ソラに新たな悩みができた。
それはさておき。
ソラはシェリルたちのいるダンジョンを取り巻く環境も知る。
ダンジョンは出来てからの年数と同じ階層を持つことが許される。
十年目のダンジョンは十階層まで。
二十年目のダンジョンは二十階層まで。
上限は百階層まで。そこに達した初めてのダンジョンがここ。
一方、このダンジョン周辺の地域では災厄が起きていた。
長年にわたる干ばつと、その解決に戦争を選んだ国家。
その結果、周辺にはもう人の住む場所が無くなっていた。
ダンジョンを訪れるのは顔馴染みの冒険者と何人かの勇者だけ。
わざわざこのダンジョンに来る者の目当ては、最終ボスのシェリルとの対戦。
最終階層まで攻略できる実力のある者だけが訪ねてきて、力試しをして帰る。
しかし次第に訪れる人間が少なくなったある日のこと。
シェリルが生まれて、シロとクロとソラが生み出されて十四年目。
「解散」とダンジョン管理者からの一言。
――それだけかい!
ソラの心の叫びもむなしく、百十四年続いたダンジョンは閉鎖された。
シェリルたちは無職になってしまった。
「しょぼん……」と口に出してまで落ち込んでいるシェリル。
そしてシェリルは自分でダンジョンを作る。
この時のソラは思いもしていなかった、
いつの日か主の作ったダンジョンが神話になるなんて――。
少し予定を変更して番外編を掲載いたしました。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回から第二章の始まりです。
これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします。
次回更新は明日を予定しています。
※11月4日 後書き欄を修正




