第22話:チート能力者がやってきた(4)
チート能力者が現れたと聞いて、すぐにシェリルの元に戻ったソラ。
「御主人様、もうすぐお役目の時間になりそうです」
「そうなの!?」
シェリルのお役目――最終ボスとして探索者と戦うこと。
人間の町で美味しい物を食べるよりも大事な仕事。彼女の生き甲斐。
これがシェリルのダンジョンで初めてのお役目である。
待ちに待った瞬間に、彼女の瞳に再び星が浮かぶ。
「はい、シロとクロの見立てでは必ずと言っていました」
「わかった、すぐ行くよ! ――アカネ、シオリ、ごめんね」
「いいっすよ、続きはまたにしましょう」
「シェリル様、頑張ってくださいね、……って、負ける訳ないのでしょうけど」
「ありがとう、――ソラ、行こう!」
――御主人様、アカネとシオリの名前を覚えたみたいねぇ。
ソラは驚いていた。人間の名前を覚えるなんて。
そして謝罪もして、お礼も言う。
かつてのシェリルと人間との関係。
それはダンジョンの最終ボスと挑戦者。
悪意は持っていないが戦う以外の興味もなかった。
今日のシェリルは明らかにその頃とは違っていた。
ダンジョンの中ではダンジョンの掟がある。
人の町では人の掟がある。
両方を踏み外さずに、シェリルが人間との距離を縮めるのなら――、
――それはとってもいいこと。
ダンジョンを町と一緒に発展させたい、そうソラに言ったシェリル。
それを実現させるには人間との付き合いが必要だから。
――アカネとシオリ、二人と一緒に町に行ったのは正解だったようね。
シェリルが少しずつ人間と打ち解けていく。
ソラはその姿を優しく見守っていこうと心に決めた。
「おかえりなさい」「おかえりー」
ダンジョンに戻ったシェリルとソラ。管理室でシロとクロに様子を聞く。
男一人と女二人のパーティ。
監視モニターで聞いた会話からわかった――、
男がチート能力【スキル強奪】を持っていると。
「チート能力って呪いの一種ですわ」解呪の専門家シロが言う。
「ボクもそう思う」呪いの達人クロまでもそう判断した。
「この世界に来るときに、誰かに呪いを掛けられたのではないかと……」
「力が何処かに流れているかも」
それがシロとクロのチート能力に対する見解。
ともに呪いには詳しい二体。間違いなどあるはずがない。
「何か裏がありそうね……、それはそれとして、シロ、解呪できる?」
「できますわね。全ての能力が白紙に戻って一般人と変わらなくなる筈ですわ」
「それなら、御主人様のスキルを奪おうとしたら――」
ソラがシェリルの方を向いて、
「解呪しちゃいましょう。――御主人様、それで良いですか?」
「いいよ」と簡単に承諾するシェリル。
――御主人様に効果があるとは思えないけど念のため。
さすがにシェリルからスキルが奪われるのを黙って見ている訳にはいかない。
理不尽な能力攻撃に対して、報いを与えるのに躊躇する気もない。
主の大事なスキルに手を出すかもしれない相手――、
監視モニターの中で通路を進んでいる男に、少しだけ感情的になっているソラ。
「クロ。スキル強奪が発動したら、シロの解呪が発動する仕掛けをしておいて」
「御主人のスキルが消えないやり方だったらどうする?」
「それならほっといてもいいかな。――ですよね、御主人様?」
「うん」とやはり簡単に承諾するシェリル。
――スキルを真似されるだけなら、御主人様が負けるはずがないからね。
「じゃあ、そんな感じでお願い、クロ」
「りょうかーい」
「あぁ、回復の泉に行かないようね。急がないと」
全員が管理室を出て、隠し扉から最終ボス部屋に入る。
シェリルのダンジョン――最終ボスとしての初めての戦いが始まる。
◇ ◆ ◇
そして冒頭の話へとつながる。
◇ ◆ ◇
カナンが叫ぶ。
「ケント! ここは任せて! エレン! ケントを下がらせて!」
「わはははぁ、われがぢきぢきにあいてをしてやろぉ、かかってこぉい!」
ケントのチート能力を解呪した人形たち。
あとは主の戦いだと静観する。
シェリルは鋼糸を出していない。普通形態――魔法無し素手のみ――である。
興奮していたケントはすでにエレンの魔法で眠らされていた。
その二人を庇うようにカナンが前に出て、シェリルに対峙する。
そこに向かって跳躍するシェリル。
カナンの目の前に着地して満面の笑みを浮かべる。
「このおっ!」きれいな軌跡でカナンの細剣が繰り出される。
笑顔のまま左手の人差指、中指、親指の三本で刃を摘み止めるシェリル。
そのまま剣を引き込み、カナンの身体を前傾させる。
続いて流れるような動作で右手の拳がカナンの腹部を撃つ。
「がぁっ!」カナンの身体がはるか後方に吹き飛ぶ。
シェリルの左手に残るカナンの細剣。
一瞥もせずに「返す」と言ってカナンの傍まで放り投げる。
「カナン!」ケントを抱えたままのエレンがカナンの身を案じる。
拳を受けた腹部を苦しそうに押さえながら起き上がるカナン。
怒りの形相で目の前に落ちた自分の細剣を手に取る。
そしてふらついた足のまま剣を構え直して叫ぶ。
「お前たちがケントにしたこと――絶対に許さない!」
彼女の怒りを笑顔で受け止めるシェリル。
カナンが再び挑んでくるのを待ち構えている。
それから笑顔を小さくして静かな口調で語り始める。
「この場のルールは簡単。あなたたちは自分の全てを出してあたしに挑むだけ」
カナンの上段からの斬撃を右に避ける。
後を追うように横から襲う刃を一歩下がって空振りさせる。
「あたしはこのダンジョンの全てを賭けて抗うだけ」
がむしゃらに振るわれるカナンの細剣。
その全てを軽く指ではらって軌跡を変える。
「あの人間は自分の技を使い、それを返され、あたしたちの技を受けた――」
そして今度はシェリルの左の拳がカナンの脇腹を襲う。
高く宙に浮くカナンを見ながら真顔になって言葉を続ける。
「この場のルールに従って、……そこに感情の入る隙間なんかないよ」
地面に叩き付けられてうずくまるカナン。
その姿を冷静に見ているシェリル。
「それでも、あなたがあの人間を思い、怒り悲しみ憤るのなら――」
カナンが再び立ち上がろうとしている。
自分の細剣を支えにしながら、小刻みに震える己の足を叱咤して。
「その全てを力にして、あたしに挑めばいい」
立ち上がり再び剣を構えたカナン。
その姿にシェリルは力強く高らかに宣言する。
「あたしはこのダンジョンの主にして最終ボス。誰からの挑戦でも受ける!」
――カッコいい……。
こんなセリフ、シェリルが事前に考えていたはずがない。
ならば、今の言葉は全てシェリルの心からの言葉。
ソラは主の新しい面を知って感動していた。
だが、戦いは続いている。
カナンが戦闘している間、エレンは後方でずっと呪文を紡いでいた。
その魔法がようやく完成した。これだけ長時間の呪文を必要とする魔法が。
「カナン! 引いて!」
辛うじて立っているカナンに退避を促す。
両腕を高く掲げるエレンの頭上には――巨大な水球が浮いていた。
第二十二話お読みいただき、ありがとうございました。
次回の「チート能力者がやってきた(5)」で第一章が完結です。
掲載は9月18日を予定しています。
その後に第二章を始めるにあたって、一週間ほど時間をいただく予定です。
※11月4日 後書き欄を修正




