第20話:シェリルたちの日常(1)
シェリルのダンジョンで調査探索が行われた日から、十日以上が過ぎたころ。
すでにダンジョン探索組合が暫定発足したと報告を受けていた。
その組合長は魔物ハンター組合の組合長タバサが兼務するとも。
そして少しずつだが、ダンジョン探索者が訪れるようになっていた。
「あまり強い方は来ませんわね」
「あの部屋はザコ敵部屋だから、あまりこっちが強くてもねぇ」
シェリルと三体の人形たち、全員で管理室のモニターを見ている。
映し出されているのは、大ネズミの部屋で悪戦苦闘する若い探索者たち。
その状況を見て、シロがシェリルに提案する。
「とりあえず大ネズミを一体減らして様子を見ましょうか」
「うん、そうして」と簡単に承諾するシェリル。
若い探索者が何もできず大ネズミから退散した後――、
最初の通路をひとりで進んで来た、新たな探索者の姿が画面に映る。
その探索者、――ソラが知っている人物だった。
「あっ! あいつは……」
「知り合い?」とソラの呟きを聞いたクロが尋ねる。
「この前ちょっとね。探索者になってダンジョンに挑戦しろって言っておいた奴」
「強そうだね」モニターに映る男の挙動だけで実力を察したクロ。
「町一番の魔物ハンターなんだって」
「ふーん、あの人間がね」
町一番の魔物ハンター――ランダル。
あのバカ部長に雇われて、ソラとアカネを害そうとした男。
金で動くような男だが腕前は確かだ。
一体減らして九体になったばかりの大ネズミを瞬く間に倒す。
「あー、みんなやられてしまいましたわ……」
「シロ、勝てない相手には魔石を置いて逃げてって、大ネズミたちに言ってね」
「いいのですか、マスター」
「うん、修繕も大変だし、ぬいぐるみも可哀そうだからね」
ぬいぐるみ達に命を与えたのはシェリルだが、管理はシロがしていた。
シェリルが続けてシロに指示する。
「大サソリと大トカゲも負けそうになったら、白旗を出して降参する様にしよう」
「わかりましたわ」
モニターの中では中ボス部屋に向かうランダルの姿。
魔物ハントならば強ければ一人でも何とかなる。
しかしダンジョン探索は役割分担した複数人での攻略が基本。
それでもランダルは中ボス部屋までの罠をひとりで切り抜け進んで行く。
中ボスは大サソリのぬいぐるみ。
ランダルと同程度の強さとソラが判断した相手。
いい勝負をしていたが、やはり通路の罠がランダルの気力と体力を削っていた。
やがて彼は大サソリの毒にやられ、その場に倒れて動けなくなる。
その様子を監視モニター越しに見ていたシロ。
「マスター、どうしますか? あのまま放っておくと命を失いかねませんが」
「シロ、助けてやって」
シェリルがシロに指示するのを遮って、ソラが上申する。
「御主人様、そこまで面倒を見ると、人間に軽く見られてしまいます」
「でも、探索者の数が減ると、最終ボス部屋に来てもらえなくなっちゃうから」
人間の命を心配する気持ちが言葉にないのは魔族として当然として……。
探索者を必要以上に救済するのはダンジョン管理者として失格だ。
しかし、今の状況では、探索者の数が減るのを心配するのも仕方がない。
――ここは御主人様のダンジョンだからねぇ、……まぁ、いっか。
「そうですか……、ではペナルティを与えましょう」
「うん? どんな?」
「探索者は装備が大事です――」
「そうだよね」
「命を助ける代わりに、身ぐるみを剥いで町の入口に送り返すのはどうでしょう」
「うん! そうしよう!」
その日、町の入口に放置されている薄い布一枚姿の男が発見された。
男の名はランダル。
町一番の魔物ハンター――その日を境に、彼をそう呼ぶ者はいなくなった。
◇ ◆ ◇
「今日はシェリル様に初めての人間の町を体験してもらうッすー!」
「よろしくお願いします!」とシェリルがアカネにペコンと頭を下げる。
「ほら、シオリさんも盛り上げて、盛り上げて」
「ワーイ……」
ちょっと引きつった笑顔のシオリ。
アカネの相方で能力感知魔法の持ち主。
シェリルの最終形態を見た恐怖で寝込んでいたのだが、ようやく復帰した。
ところが、その原因といきなり顔合わせ。彼女にとっては災難でしかない。
「それでは今日の予定の発表っす。今日は――」
今日はソラがアカネに人間の町の案内を頼んだのだ。
シェリルに人間の町の中を体験してもらうために。
「ヤトカイの町、甘味処――ベスト3、食べ歩きツアーっす!」
「わーい!」「ワーイ……」
シェリルが人間の町を訪れたのは――、
実は前回の魔物ハンター組合に手紙を持ってきたのが初めて。
「途中で目に付いた店も寄り道放題っす」
「わーい!」「ワーイ……」
シェリルは町と一緒にダンジョンを発展させたいと言っていた。
なので、今の町の姿を知っておく必要があると考えたソラ。
シェリルに提案したら笑顔で「行く!」と言われて町の見学が決定した。
「じゃあ、出発っすー!」
「しゅっぱーつ!」「……」
しかし、ここで問題がある。
ソラだけならば、人形の姿でもどうにかできる知識と経験がある。
しかし、そこにシェリルを連れて、となるとやはり心許ない。
そこでアカネに同行をお願いしたら――、
快く「案内もするっスよー」と引き受けてもらった。
「では行きましょう、御主人様」「おー!」「ワーイ……」
シオリも一緒に来たのは予想外、彼女もあまり乗り気でなさそうだが。
それでも、いざという時にフォローしてくれる人間は多い方が良い。
ソラはそう考えて、今回のシオリの参加を歓迎するのであった。
ちなみに、シロとクロは人間の町に興味がないので留守番である。
ここは町一番の繁華街。通りの両側にはたくさんの店が立ち並ぶ。
食料品店。服屋に本屋に雑貨屋。魔法具店。武器屋等々。
まだ開店して間もなくの時間帯なので、人通りはそれほどでもない。
そんな通りを見物しながら歩いていく二人の人間と一人の魔族と人形一体。
やがて飲食店が集まる一角に辿り着く。
「御主人様! お金、お金が必要だってあれほど言ったじゃないですか!」
「もぐもぐ」
……いつの間にやら、シェリルは両手いっぱいに食べ物を抱えていた。
第二十話お読みいただき、ありがとうございました。
今回の話は次回に続きます。
次回更新は9月15日を予定しています。
※11月4日 後書き欄を修正




