第19話:ソラとアカネが大ピンチ(2)
ソラをその場に置いて、男たちはアカネを連れたままバカ部長の隣に立つ。
「お前たち、よくやった」
「約束通りの報酬を忘れるなよ」
「全てが済んだらな」
バカ部長――組合の応接室でふざけた態度を取ったので、懲らしめてやった男。
ソラに転送されて、泣きながら木から降りてきたという話だが――、
今はまた偉そうにソラを見下して、手に持っているモノを見せつけてくる。
片手でやっと持てる大きさの水晶玉。
薄ら笑いを浮かべながら見せつけるソレは彼の切り札なのだろう。
「これが何かわかるか……、究極の魔法具のひとつ――魔力封印水晶だ!」
「それがなによ」
「これを作動させると、この広場全体が魔法の一切使えない場所になるのだぞ」
「じゃあ、さっさとやりなさいよ」
案の定、ソラの魔法を封じるための道具だった。
しかしソラに軽く鼻であしらわれて、たじろいで二三歩後方に下がる。
それでも気を取り直して、再び蔑む目でソラを見る。
「そんな風に強がっていられるのも今の内だけだ」
ゆっくりと魔力封印水晶を持った左手を目の前に掲げる。
そして右手で水晶に念を込め始める。
「覚悟しろ!」
やがてバカ部長の手の上で光り始める魔力封印水晶。
その光が強くなると同時に、宙に浮いていたソラが地面に降り立つ。
「ほれ、どうだ! 浮いていられなくなったようだな」
「ソラさん!」
ソラを心配するアカネ。
自分も首にナイフを当てられているのに。
「魔法さえ使えなければ、お前など何もできまい、ぐはははは」
勝ち誇った顔をして気持ち悪い声で笑い出すバカ部長。
――さて、どうしてくれよう。
地面に降りたのは少し考えるための時間稼ぎ。
魔力封印水晶の影響なんて全く受けていない。
――こいつをどうするかは組合長に預けようかな。
今の状況など、どうとでもなる。
この場を解決した後の部長の処遇を考えるソラ。
いけ好かない男だが、まだ大きな被害があった訳じゃない。
魔物ハンター組合の組合長にキツイ仕置きを頼んだ方が手っ取り早い。
――今回は御主人様が関係している訳でもないしね。
前回、バカ部長を魔物の森に送ったのはシェリルを軽んじたから。
今回の被害者はアカネ。
差別するわけではないが同列には扱えないソラだった。
――ただ、このままだと舐められたままになっちゃうから。
「手足をバラバラにしてお前の主人に送ってやる」
悪辣な脅しをかける部長。しかし彼の思惑は決して叶わない。
ソラが動き出す。
――まずはアカネを。
ランダルに捕らえられていたアカネの姿が消える。
狙いさえ付ければ、触れることもなく対象を移動させられるソラの空間転移。
次の瞬間にはソラの背後にアカネが現れる。
「なに!」驚きの声を上げるランダル。
――そして、バカ部長とザコの二人を。
空中に浮かぶバカ部長。水晶を胸に抱えて、足をばたつかせる。
こちらは空間固定。
ランダルと共にいた二人の男たちも、事態に反応する前に同じ目に遭わせる。
「なぜだ! なぜ魔法が使える!?」空中に浮かんだまま部長がわめく。
「アタシの魔法は御主人様からの授かりもの。そんな玩具じゃ止められないわ」
「馬鹿な! こいつは神殿の祭司の魔力さえ封じるはずだ」
「だから、そんな奴と御主人様を一緒にしないでくれる?」
「うおー!、おろせぇ!」
――うるさいわねぇ。
部長の周りに結界を張って遮音するソラ。
それから後ろにいるアカネに声を掛ける。
「アカネ、そこで見守っていてくれるかしら」
「え―、あたしの出番は無しっすか」
「これはアタシの不始末みたいだからね」
「わかったっす」
その間、ランダルは用心深く身構えていた。
ソラはわざと見逃していたランダルに対して静かな口調で命令する。
「ランダルって言ったわね。この町一番の実力をアタシに見せなさい」
「あまりふざけてると手加減できないぞ」
「莫迦ね、手加減するのはアタシ。魔法は使わないであげるわ」
その言葉が終わらぬうちにソラに向かってナイフが飛んでくる。
先程までアカネの首にあてられていたモノ。
「バカが。しゃべっている暇があったら……」
「その言葉そっくり返すわ。ナイフと一緒に」
ソラは片手をあげてその小さな指でナイフを受け止め、即座に投げ返した。
すでにランダルは自分の剣を抜き、ソラに向かって駆けている。
町一番の実力。その町とはこのヤトカイの町。魔物ハンターが集まる町。
それは魔物との命を懸けた戦いで、勝ち抜かなければ得られない称号。
顔面に向かってくる自分のナイフを紙一重で避ける。
そしてソラに剣を一閃。小さい目標にもかかわらず綺麗に人形の胴を払う。
ナイフを投げ返す動作の直後のソラ。しかしランダルの攻撃を難なく避ける。
さらに追撃してくる剣。その全てを体術だけでかわす。
ランダルの攻撃は確かにその称号に見合う鋭さを持っていた。
しかし、ソラの小さな身体にかすることすらできない。
十数回の斬撃を全て回避され、一旦その身を引くランダル。
そして感嘆ともため息とも取れる声をゆっくりと吐き出す。
「なんなんだ、お前は……」
「アタシはソラ――シェリル様の従者人形よ」
「ソラさん、大丈夫っすか」
アカネの心配する声に軽く目で答えるソラ。
続けてランダルに視線を合わせ、彼の実力について真顔で査定結果を告げる。
「ランダルとか言ったわね。確かにアカネより強いようね」
「当たり前だ」
「でも、うちの中ボス、大サソリのぬいぐるみに勝てるかどうかぐらいね」
「あたしたちが四人でやっとだった相手っすね」
「ぬいぐるみだと……ばかにするな!」
ぬいぐるみと同じと言われ侮辱されたと思いこんだランダル。
再びソラに猛然と斬りかかる。
「だから喋りながら攻撃してもダメダメね」
剣の刃を小さな右手だけで受け止めるソラ。
間髪入れずにランダルが不安定な体勢で蹴りを放つ。
腰がしっかり入って重さと鋭さのある蹴り。しかも小さい的に対して。
それは体術においても高度な技能を持っていることを証明していた。
「往生際が悪いわよ」
しかし、その蹴りをソラは左の前腕で受け止める。
人形の小さな腕、小さな身体で受け止められるはずがないのだが。
魔法を使わないと言ったソラの言葉を信じれば――、
それを体術で成したということになる。
「化け物か……」
「まぁ、こんなところかな――」
ランダルの蹴りを跳ね返し、右手で掴んだ剣を放すソラ。
呆れた顔をしているランダルを見て言葉を続ける。
「ランダル、あなたもシェリル様のダンジョンに挑戦しなさい。待ってるわ」
「俺をこのまま放っておくのか」
「探索者になるのならね。探索者の相手はダンジョンでするのが決まりだから」
「ソラさん、カッコいいっす」
「アカネの気が済まないのなら手は貸すけど」
「いや、あたしは別にいいっすよ。ハンター同士だとよくあることっす」
「アカネもカッコいいわねぇ。ランダルも見習ったらどう?」
「ちっ」舌打ちをするランダル。
「そのバカ部長は組合長に言って、二度と顔を見せないようにしてもらうけど」
大声でわめいている姿なのだが、声は一切漏れ聞こえない。
男二人は開放しランダルに預ける。
「それじゃあね」と別れの言葉を投げかけるソラ。
ランダルの返事など待たずにアカネと共にその場から転移する。
もちろん部長を宙に浮かせたまま。
それから組合に行って、組合長に部長を引き渡して――、
やっと本来の予定だった町巡りを始めるソラとアカネ。
そして夕方。
「今日はありがとう、アカネ」
「いやいや、あたしも結構楽しかったっす」
「また何かあったらお願いしてもいいかしら」
「いいっすよ。今度はシェリル様も一緒なんてどうすか」
「あぁ、そうね。いいかもね」
そんな風に気さくに言葉を交わしてから、アカネと別れを告げる。
――アカネとずいぶんと仲良くなれたわ。
すっかりバカ部長たちとの騒ぎを忘れている。
代わりに収納空間には今日の土産物がたくさん。ほとんどお菓子のお持ち帰り。
ダンジョンで待っている主と同僚の喜ぶ顔を想像するソラだった。
第十九話お読みいただき、ありがとうございました。
次回からは少しだけ日常回。シェリルが町に行ったりします。
※11月4日 後書き欄を修正




