第18話:ソラとアカネが大ピンチ(1)
四人の探索者がシェリルのダンジョンを訪れた翌日。
ソラは組合長との約束通り、再び魔物ハンター組合本館にやってきた。
館内の雰囲気は前回来た時よりも落ち着いていた。
シェリルがいないせいもあるが、ダンジョンのうわさが回っているのだろう。
ソラを見る目に、怯えだけでなく好奇心も含まれているのがわかる。
――怖がられ過ぎるのもよくないし。
その様子に満足しながら空中を歩いていると、待合席からソラに声がかかる。
昨日の探索者のひとり。茶髪の快活そうな女性。
「あれ、ソラさんじゃないすか」
「あなたは昨日の……」
「アカネって名前っす」
「アカネね。昨日の件は組合長にちゃんと報告してくれた?」
「したっすよ。シェリル様の恐ろしさなんて特に念入りに」
「はいはい……、他の三人はどうしたの?」
「男達は昨日だけの暫定パーティっすから。シオリさん……相方の名前っすけど」
「あぁ、その娘が相手の能力がわかる方ね」
「そうっす。シオリさんはあれから寝込んでます。しばらくは休みっすねぇ」
「それは悪いことをしたわね」
「いえいえ。これも仕事なので。それにあたしは良い物をもらったっすから」
「あの聖なる短剣。結局あなたがもらったの?」
「えぇ。他の三人には貯金を全部渡すってことで勘弁してもらったっす」
「そうなの?」
「貯金つっても聖剣の価値の十分の一にもならないすけどねぇ」
「へぇ」
――それでも大したものよねぇ。
聖剣の価値の十分の一なら、数年は働かずに暮らせる金額だ。
昨日の活躍で魔物ハンターとしての能力はかなり高いと知っていたが――、
まだ若い女性でそれ程の蓄えを持っていた、ということに感心するソラだった。
「いや、みんなはいらないって言うんすけどねぇ。そういう訳にもいかないって」
「分け前で揉めないなんて偉いじゃない。あなたも律儀に全財産を渡すなんて」
「ほめられるほどじゃないっす」少し照れた顔になるアカネ。
――アカネっていい人間ね。
そういう人間との出会いは大事にしておきたい。
それは、いろんな人間と「人形として」付き合ってきたソラの信条。
なので少し打算も含めてアカネとの距離を縮めようと考えた。
――今日の用事に付き合ってもらって、少し仲良くなっておこう。
「あなたが良い人間と見込んで、お願いがあるんだけど聞いてもらえるかな」
「いいっすよ」
「今日これから組合長と話をするんだけど――」
「なんすか」
「その話が終わったら、町をね、案内して欲しいのよ」
「容易い御用で、今日は暇っすからいくらでも付き合うっすよ」
「ありがと、アタシってこの姿だから人間相手だと最初がなかなか難しくてね」
「組合長とゆっくり話してきていいすよ。ここで暇つぶししてただけっすから」
――あぁ、やっぱりいい奴。
相手を気づかうアカネの言葉を聞いて、ソラは改めてそう思った。
◇ ◆ ◇
「はい、これ」
「これは報告に会った最終ボス部屋まで素通りできる通行手形ですか」
「そう、連絡するのに使ってちょうだい」
「お預かりいたします」
ソラは応接室に通されて組合長と二回目の会合。
最初にミニシェリル人形を渡してから、組合長が受けた報告の内容を確認する。
「それで報告は済んでいるって待合席でアカネから聞いたけど……どう?」
「最初の大ネズミはDランクですが、集団なのでCランク相当――」
「そうね、そんなところかしらね」
「大サソリはBランク相当。そこにあったお宝は聖剣と聞きましたが」
「最初だけね。次からは適当に。……呪いの品だったりする場合もあるかもね」
「そうですか……。大トカゲはAランク相当。彼らBランク四人で厳しそうだと」
人間が決めた探索者の力量と魔物の脅威ランク。
ソラも大体のところを知っているので、この説明でも困りはしない。
「通路の罠についてはどうかしら」
「ちょっと数が多かったと聞いています。しかし難易度はそれほどでもないと」
「そう……、それは担当の者に伝えておくわ」
「あとは温泉があったと聞きましたが……」
「回復の泉ね。通行手形があれば何時でも入れるわよ」
「こちらで利用方法を考えさせてもらっても良いですか」
「アカネも男女分けてなんて言ってたし、他にも何かあれば一緒に検討するわ」
「ありがとうございます」
「――でシェリル様は?」
「この町の優秀なハンター二人が姿を見ただけで気を失ったと報告に……」
「そう。でもシェリル様を倒せば、お宝として巨大転移魔法石があなたのモノに」
「……無理ですよね」
ソラがアカネたちに言った「神に勝つ」発言も報告を受けているだろう。
けれども探索者には来てもらわなければならない。
「で、どうかしら。一応ダンジョンの形になっていると思うのだけど」
「はい、しばらくはハンター達のダンジョン探索訓練として使わせてもらいます」
「あんまり一度に来られると困るかな」
「それはこちらで調整しますのでご安心を」
「それで、一番大事なお願いなんだけど――」
「なんでしょうか」
「最終ボス部屋に来れる人間を定期的に寄越してちょうだい」
「……!」組合長の顔に緊張が走る。
ソラの言葉をそのまま捉えると、それはいけにえと同じだ。
もちろん、そんなつもりはない。ソラは言葉を続ける。
「大丈夫、シェリル様は全力を出さないから。――腕試し程度の戦いになるわ」
「腕試しですか……」
「そのための通行手形だからね、何度も挑戦できるようにって」
「そうですね。わかりました、他の者より優先させます。――それで……」
組合長もその要望が重要だと理解したのだろう。
ソラの言葉に納得をしたのだが――その後に言葉を濁す。
「なに?」
「世間では自分をチート能力者と呼んで、能力を誇示している者がいまして……」
「……」
「異世界から転生したとか召喚されたとかで、ありえない能力を持っていると」
「……知ってる」
「特に厄介なのが相手の能力を奪う【スキル強奪】なる能力の持ち主」
「……聞いた事があるわ」
ソラが世界の知識を求めた時に、彼ら異世界人の話は何度も聞こえてきた。
――良い話も悪い話もね。
「最終ボス討伐のお宝の話を流すと、おそらく彼らがやって来るかと思います」
「別にいいわよ、気にしないでダンジョンに寄越してちょうだい」
「大丈夫ですか」組合長が少し不安げにソラを見る。
「もちろんよ。どういう対応をするかはこちらで決めるわ」
「わかりました」とソラの答えに安心する。
その後もいくつかの懸案事項のすり合わせをするソラと組合長。
大方の案件を話し終えて――、
「じゃあ、それでお願い。他は言ってくれれば色々と融通を利かせるから」
「はい、こちらではダンジョン探索組合を立ち上げる根回しを始めています」
「そう、やっぱりあなたを当てにして正解だったようね」
大きな問題もなく組合長との会合を終える。
◇ ◆ ◇
「待たせたわね」
「いえいえ、大丈夫っすよ」
「いろんな店にね、アタシを紹介して欲しいのよね」
「わかってますって」
約束通り待っていたアカネと一緒に魔物ハンター組合を出る。
玄関の扉が閉まると同時に――、
アカネの首筋に背後からナイフが当てられる。
「なんすか……ランダル」後ろも見ずに相手の正体を当てるアカネ。
「おい、ちょっと俺たちと付き合ってもらえねえか」
ランダルと呼ばれた男のほかに二人の男が周りを囲んでいる。
男達の陰に隠れて、あまり背の高くないアカネの姿は周囲から見えない。
アカネは慌てた様子を見せずに、おとなしく両手を軽く上げる。
「あー、仕方ないっすねぇ」
「何こいつら」
「ソラさん、ここはあたしが何とかしますんで、先に行っててください」
「いやぁ、どちらかと言うと、その人形に用があるんだよなぁ」
アカネの背後から、ランダルがソラを指名してくる。
「ふーん、そう、いいわよ。何処に行けばいいの?」
「ソラさん。あたしに任せて欲しいっす」
「アタシは人間の知り合いは大事にする方針なの」
「大人しく付いて来い、……こっちだ」
ランダルと男二人に囲まれて、組合の建物から離れるソラとアカネ。
「でもアカネが簡単に後ろを取られるなんて驚きねぇ」
「このランダル、これでもこの町一番の魔物ハンターっす」
「根性は逆に一番最低ってわけね」
「おしゃべりはやめろ!」
「はいはい」
ソラの能力であれば、どのようにでもアカネを助けられるが――、
――これから行く場所に黒幕がいればいいけど……。
こういう場合、早めに黒幕を叩いておきたいソラ。
ランダルに言われた通り大人しく付いて行く。
男たちに連れられて裏道を抜け、やがて廃材が置かれている広場に出る。
そこにいたのは恰幅の良い中年男性がひとり。
ソラを憎々しげに見つめている。
「おい人形。この前は良くもこの俺をあんな処に飛ばしてくれたな」
「やっぱりお前か……」
――この町で恨みを買ったのは、まだこいつだけだったわね。
ソラはその姿を見て脱力する。
その男は魔物ハンター組合のバカ――もしくは能無し――部長だった。
第十八話お読みいただき、ありがとうございました。
次回掲載は9月11日を予定しています。
※11月4日 後書き欄を修正




