第17話:ようこそシェリルのダンジョンへ(3)
「御主人様、連れてきました」
ソラが探索者を連れて最終ボス部屋に到着する。
「わははははぁ、われのダンジョンによくぞきたぁ!」
腕を組んでステージ上で待ち構えていたシェリル。
おそらく一生懸命考えておいた前口上を大きな声で告げる。
その姿を見ただけで、グレイとシオリは腰が引けている。
バルドとアカネは予想していた場面と違っていたのだろう。
口を半分開けて目の前の光景を眺めている。
「シロ、例のモノを」悪代官のようなセリフのシェリル。
「はい」後ろで控えていたシロがふわふわと飛んで探索者に向かってくる。
「えっ? どうしたの、シロ?」ソラにも予想外のイベントが始まった。
「マスターからですわ。ここに辿り着いた人間に渡す参加賞」
シロの手にはシェリルをデフォルメした人形が四個。
「へー、そんなのがあるんだ」
「これを持っていると、途中の魔物と罠が反応しなくなるのですわ」
「それってこの部屋まで素通りできるってこと?」
「そうですわ。マスターの指示ですから」
次回からは安全に最終ボス部屋まで来れるアイテム。
それは探索者に何度も来て欲しいと願うシェリルの思い。
シロは探索者達にミニシェリル人形をひとつずつ渡す。
「聞いての通りのモノですわ。大事にしてくださいね」
こくこくと頷く四人の探索者達。
最初のイベントも終わり、シェリルは次の行動に移る。
――御主人様ってこういう時の段取りが好きなんだねぇ。
ダンジョンを作る時も、テキパキと段取りをつけてさっさと作業に入った。
この最終ボスお披露目もシェリルの考えた演出なのだろう。
前のダンジョンにいた時には見せなかった姿だった。
「今日は大サービス! あたしの五段階の変化をお見せするよ!」
――えぇ―!? 何それ?
シェリルに変化の能力があったなんて初めて聞いたソラ。
主の突然の発表に驚く。
そんなソラの心情など気にしないシェリル。
いきなりジャンプして部屋の中央に着地、手を腰に当て胸を張る。
「普通形態はこれ!」
「……シロ、なんか聞いてる?」
「さっきソラが出ていってから説明がありましたわ」
「……どんな?」
「普通形態は素のままのマスター。素手だけの武器なし魔法なし状態……」
その言葉でシェリルをよく知るシロとソラは話が通じる。
しかし、隣にいる探索者達は何が何だかわからない。
――アタシが解説するしかないか……。
「強さで説明すると――、人間の勇者に聖剣待たせて互角ってところ」
シロの言葉とソラの説明を聞いた探索者たち――、
グレイとシオリは怯えながらうんうんと頷いている。
ともにシェリルの能力を良く知る者同士。
見ると二人はしっかり手を繋いでいる。もう二人の関係を隠す気がないようだ。
「魔法なしの素手でも聖剣を持った勇者と互角だと……?」
「シオリさんの話は本当なんすね……」
バルドは信じられないといった面持ちで呟く。
アカネは驚きの顔でシェリルを見ている。
「第二形態がこれ!」両手を上に掲げて、ウネウネ動かすシェリル。
「鋼糸が出ましたわ。ここから武器と肉体の強化魔法を使うそうですわ」
「見えないだろうけど、得意武器の鋼糸が部屋中を支配してるわね」
シロとソラが探索者達にシェリルの状況を説明する。
普通形態でさえ想像を超えているのに、さらにその上。
バルドはリーダーとしての責務を果たそうと、恐る恐るソラに問い掛ける。
「……つよさは?」
「フル武装勇者パーティ程度なら軽くあしらえるわね」
確かにそうなのだろう。
バルドはソラの言葉に納得するしかできない。
「第三形態はこれ!」とシェリルがそう叫ぶと――、
ステージの奥から剣先スコップ十本が飛んでくる。
見えない鋼糸によって操られ、シェリルの周りを飛び交う。
各々が別々の動きをして、十体のヘビの頭がうごめいているようで禍々しい。
「これはソラのせいですわ」とシロが責めるように言う。
「……ごめんなさい。アタシが原因です」ソラも素直に謝る。
シェリルの追加装備にすればと言ったのが聞かれていたらしい。
それでも自分の提案を採用されて嬉しく思ってしまうソラ。
――御主人様もダンジョン掘削でかなり気に入ってたようだしね。
「……ツヨサハ?」隣りで魂の抜けたような声を出すバルド。
「最強ドラゴン十体、同時に相手ができるわ」と当然のように告げるソラ。
「第四形態はこれ!」またまたシェリルが叫ぶ。
すると宙を舞っていた剣先スコップが輝き始める。
あの光には見覚えがある――ソラは気付く。
それは聖剣が放つ光。
「あれって聖剣……じゃなくて――聖剣先スコップ!」
「……マスターに頼まれて仕方なく……ですわ」今度はシロが弁明する。
どうやら、あの剣先スコップ全てにシロが祝福を与えたらしい。
武器として最高峰。その威容はソラも呆れるほど。
――強化のされ方が半端じゃないわねぇ。
「……強さは?」バルドの声が投げやりになっている。
「神の遣いが束になってかかってきても大丈夫じゃないかな」
強さを問われて、思うところをそのまま伝えるソラ。
一方、シェリルの熱気は今や最高潮だ。
「そしてこれが! ジャジャーン! 最終形態!」
シェリルが跳び上がり、再びステージの上に立つ。
そしてソラとシロ、ステージ上で待機していたクロに目配せをする。
その顔は真剣そのもの。
「ほら、ソラも出番ですわ」
「……てことは?」
「ワタシたち人形があの姿のマスターのサポートですわ」
「……強さはっ!?」バルドがやけになって尋ねてくる。
シェリルが自分の能力の全てを見せているのだ。魅せているのだ。
ソラはその意をくんで、正直にシェリルの強さを探索者に伝える。
「神に挑めるわね。――そして勝つわ」それがシェリルの実力。
「ソラ、行きますわよ」シロが促す。
「はいはい」とソラが答えて、探索者に「とりあえず行ってくる」と告げる。
シロがフワフワと、ソラがトコトコと、空中を移動してシェリルの元へ。
ステージの奥で座っていたクロもスーッと飛んでくる。
シェリルが聖剣先スコップを縦横無尽に振り回している。
そしてその周りを囲む三体の人形。
最終形態の完成。
「こ・れ・がぁ! 究極のシェリルの姿だぁぁあぁああ!」
両手を上げてポーズを決めるシェリル。
得意満面の顔で最後の決め台詞を叫ぶ。
「われがぢきぢきにあいてをしてやろぉ、かかってこぉい!」
――上手く言えてないけれど。
いつの間にか、目を回しているグレイとシオリ。
シェリルの全魔力解放。聖剣先スコップの持つ神聖魔力。
三体の人形の持つ膨大な魔力。それら全てを目の当たりにしたグレイ。
いかに魔物ハンターとして優秀でも精神の許容量を超えて気を失う。
シオリは魔法を使わなければ、今の最終形態の強さを知らないで済んだはず。
それなのに怖いもの見たさで能力感知魔法を使い、結局は恐怖で気絶する。
自業自得。
バルドは言葉もなくその姿を見ている。
魔物ハンターとしての直感が目の前の光景を尋常でないと告げている。
アカネは「凄いっす。凄いっす」と少し余裕があるようだ。
彼女の直感は何も告げていないのだろうか。
そんな騒ぎの中で――、
無事に最終ボスのお披露目が済んだシェリル、本当に嬉しそうに笑っている。
そして全てのイベントが終了。
若干二名の気絶者を出したがおおむね成功。
気絶している二人はシロが回復させて……、
シェリルは「また来てね」と一言告げて、四人の探索者を見送るのであった。
第十七話お読みいただき、ありがとうございました。
次回はあの男が再登場します。
※9月8日 誤字修正
※11月4日 後書き欄を修正




