第16話:ようこそシェリルのダンジョンへ(2)
ダンジョンの中に隠されている生活空間。そこにあるリビング兼管理室。
シェリルと三体の人形が椅子に座って、目の前の大きな画面を見ている。
それはソラの空間魔法を使ったダンジョン内の監視モニター。
手元の魔法石で操作して、四人の探索者の姿を映し出している。
正確には、空間魔法を使って、この場と現場をつなげて二次元として見ている。
したがって、それは映像とは少し違う。
だが、そこは便宜的に映像と表現する。
難しい話はソラの主には関係ないから。
シェリルは映像の中の人間達を見て、機嫌よくニコニコ笑っているのだから。
その横では三体の人形がクロ、シロ、ソラの順で会話をしている。
「ソラの空間魔法は便利だね」
「これってどこでも映せるのですか」
「ダンジョンの中にそれ用の魔法石を仕掛けておいたからねぇ」
これがダンジョン作成最終日、ソラが通路と部屋に仕掛けていたモノの正体。
ダンジョン全体に設置して、かなりの気力と魔力と労力が必要だったのだが。
――御主人様に気に入ってもらえたようね。
シェリルの笑顔で苦労が報われたソラ。
映像を最初の部屋に設置された空間連結魔法石――カメラ――に切り替える。
「あっ、最初の部屋に入った」
「ワタシが作った大ネズミ十体が相手ですわ」
「あの人間達って結構強いから、この部屋は簡単に終わっちゃうわよ」
「……ホントだ。終わっちゃった」
「ソラ、人間が魔石を回収したら、大ネズミをここに転移させてくださいな」
「はいはい」
探索者達は難なく大ネズミの口に入っていた魔石を見つけ出していた。
彼らが最初の部屋を出ていくのに合わせて、カメラを通路側に切り替える。
それからソラはぬいぐるみの残骸を管理室に転移させる。
「こっから先、ボクの仕掛けた罠があるよ」
「あら、クロの罠をしっかり見つけているようですわ」
「かなり良い人材だったみたいね。能力感知を持っているから推薦したんだけど」
「……ふーん」
「クロったら拗ねてますわ」
「人間たち、先に中ボス部屋に向かったわね。そういうのも才能かしらね」
「あの人間たち、どのくらいの強さ?」
「見た感じでは中ボスの大サソリも倒せそうですわ」
「多分、大ボスが倒せるかどうかぐらいかなぁ。町ではトップクラスだと思う」
「えっ! 大ボスは倒せないの!?」と、ここでいきなりシェリルが話に加わる。
こういう時のシェリルの相手は必ずソラが受け持つ。
クロは我関せず、シロは大ネズミの修繕を片手間に、共に映像を見ている。
「今回は調査ですから、大ボスを確認したら戦わずに引き上げると思いますよ」
「それはダメ! 最終ボス部屋も見てもらわなきゃ!」への字の口のシェリル。
「……はいはい」
シェリルとソラの会話を聞き流して、映像を見ているクロとシロ。
画面には中ボス部屋の様子が写っていた。
「あっ、大サソリがやられた」
「結構頑張りましたけど相手が強かったですわ」
大サソリが横たわっている奥には宝箱が置いてある。
女性がその前に立ち、罠を解除して開けようとしている姿が映し出される。
「あっ、やった! 宝箱の罠にかかった!」やっと罠が成果を上げて喜ぶクロ。
「あらら、女の顔がなんだか凶悪になりましたわ。ソラ、音声は出ませんの」
「注文が多いわね」ソラが手元の魔法石を操作すると、現場の音声が流れだす。
『グオオォォオオォォ! コノ、タカラハ、アタシノモノダァ!』
『おい! どうした!』斧を持った男の声。
「罠って重力系じゃないんですの?」シロが尋ねる。
「宝箱の罠だけ闇魔法、邪悪になる呪いにしたんだ」とクロが返す。
「あっ、でも、それって……」何かに気づいたシロ。
罠にかかったのは曲刀を武器にしていた女性――アカネ。
呪われた邪悪な心のままに、宝箱を開けて中の宝を取り出す。
その途端、彼女の顔から邪悪さが消えてキョトンとした顔になる。
『あれ、今あたし何してたんすか?』アカネが正気に戻っている。
『なんだ、そんなに宝が欲しいのなら言ってくれれば相談に乗るぞ』と斧男。
『どうしたの、何か事情があるの? 水臭いじゃない。相談してよ』と弓女。
『おっ、でもその短剣。物凄いレア物じゃないか』と槍男。
『あの人形が言っていた良い宝物ってのがそれだろう』これは斧男。
斧男はバルド。弓女はシオリで槍男がグレイ。
誰もアカネが呪われたことに気づいていない。
「……宝箱の中はワタシの祝福付きの短剣。クロの呪いなんか一発解呪ですわ」
「なんだと……」せっかくの罠を台無しにされて、変な口調で呟くクロ。
一方で、映像の中ではアカネが顔を赤くしたり青くしたりしている。
『違うッすよ。違うッすよ』
『気にするな。これだけのお宝を見れば誰だって少しはおかしくなる』
『そうね。わかったわ。とりあえずそれはアカネのモノ。いいでしょ、みんな』
『あぁ、いいよ。罠解除に戦いにと頑張ってくれたからな、君が持ってな』
『違うッすよー!』
みんなに同情されて、お宝の短剣の持ち主はそのままアカネになった。
その部屋はそこで行き止まり。
途中の分かれ道まで引き返して、もう一方の奥に向かう道を進む探索者一行。
まだグチグチとうるさい「違うッす」アカネが道中の罠の解除に奮闘して――、
やがて新たな部屋――大ボス部屋に辿り着く。
管理室ではソラが次の準備のため仕切り始める。
「さて、シェリル様は最終ボス部屋で待機していて下さい。――シロとクロもね」
「ソラはどうするんですの」とシロが問いかける。
「アタシは探索者を大ボス部屋から最終ボス部屋まで案内するわ」
「ついでに回復部屋も案内したほうがいいですわ」
「そうね……なんか至れり尽くせりになってしまうのよねぇ」
「いいんじゃないですか。マスターがそれをお望みなのだから」
「それもそっか……。じゃ行ってくるわ」
その頃、探索者達は目の前にいる大ボス――巨大トカゲ――を前に作戦会議中。
「この魔物は強いわよ、四人じゃ危ないわ」能力感知魔法を使ったシオリ。
「魔力は微々たるものだが、シオリが言うのならそうなんだろう」とグレイ。
「危険を冒す必要はない、調査はここまでだ」リーダーとして判断するバルド。
「そうしましょう。成果は十分っすよ」賛同するアカネ。
そこに「はーい! ちょっと待ってぇ!」とソラの声。
四人の探索者の前に空間転移で現れる。
――やっぱり帰ろうとしていたわね。さすが能力感知がいると見極めが早い。
だが、今となってはもう探索者達の意志は関係ない。
このダンジョンの最高権力者の望みが最優先だ。
「御主人様――シェリル様からのプレゼントよ。最終ボス部屋まで招待するわ」
「いや、遠慮する」バルドがキッパリと断る。
「あなた達に拒否権はありませーん」
「……わかった」すぐに折れるバルド。
「大丈夫だって。調査して帰ってもらうのが今回の依頼なんだから」
「本当っすよね……」アカネが心配そうに尋ねる。
「本当よ。それとあともう一部屋、回復の泉があるから、そこも見てもらうわ」
そして回復の泉に向かう四人と一体。
「これが回復の泉……?」「……温泉っすね」「こんな所に……」「……」
「この温泉に浸かればたちまち全快するわ」
「こんな温泉なら男湯と女湯が分かれているとうれしいっす……」
「あー、……そうね、考えておくわ。それと、こっちの水は飲み水ね」
「なんだかダンジョンの中とは思えないわ」
「ちゃんと戻って報告してね……じゃあ、最後は最終ボス部屋へ出発ー!」
――もう、完全に旅行のガイドの気分だわ。
ソラに促されて、回復の泉部屋を後にする四人の探索者。
彼らが向かうのは最終ボス部屋。
そこに待ち受けているのは――最強の魔族シェリルの真の姿である。
第十六話お読みいただき、ありがとうございました。
次回掲載は9月8日を予定しています。
※11月4日 後書き欄を修正




