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聖者の行進  作者: いくらふじなみ
第二部 世界の扉
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第四話 喝采

征人のスピーチ後、会場に熱狂の余韻が残ってから、すでに三時間が経過していた。

披露宴の幕が上がってからは、五時間近くになる。


通常の披露宴とは比較にならないほど大規模で、華やかな催しも多く、どうしても長丁場となった祝宴。

それもようやく、お開きの時を迎えていた。


宴の終わりを告げる音楽が流れ、列席者たちが次々と退場していく。

新郎新婦は、一人ひとりに感謝を伝えながら、ギフトを手渡していた。


カレンの背筋は、一分の隙もなく伸びたままだった。


長時間にわたる列席者との歓談で、疲労はすでに全身へと染み渡っていた。

華やかな料理が並んでいたものの、食事も碌に取れていない。


それでも、目の前には政財界の大物たちが続いている。

新婦である彼女が、この場から逃げ出すわけにはいかなかった。


(間に軽い休憩を挟めばよかった……結構体にきてるわね)


だが、カレンは微笑みを絶やさない。


優雅な所作でギフトを差し出し、言葉を交わす。

その表情には疲れを滲ませず、幸福に満ちた新婦の笑顔を保ち続けていた。


(でもここで疲れたそぶりなんて……絶対見せないわ!)


彼女は心の中で自分に言い聞かせ、再び、眩いばかりの笑顔で列席者を見送った。


その時、カレンの背に、熱を帯びた掌が添えられる。


ドレス越しに伝わる重みと温度は、言葉よりも雄弁に、聖仁の気遣いを告げていた。

彼は視線を退場する列席者たちへと向けたまま、ただ静かに、彼女の背中を支えるように手を置いていた。


その確かな温もりを感じた瞬間、疲れに沈みかけた彼女の心に、再び力が湧く。


(聖仁……! ありがとう、頑張るわ!)


彼からの無言の励ましを受け取り、カレンは表情に活力が漲る。

力強く、優しい後押しを感じながら、彼女は次々と列席者たちを見送っていく。


年配の賓客たちが途絶え、会場に残されたのは、二十歳前後の若者たち――聖仁の高校時代の友人たちのみとなった。

華やかな祝宴の空気が、少しずつ騒がしく、奔放なものへと変容していく。


その若い輪の中で、突如としてざわめきが起こった。


一人の女性が、床に膝をついている。

彼女は天を仰ぎ、まるで天の神にでも縋るかのように、激しく、なりふり構わず泣き崩れている。


かつて聖仁が初めて生徒会長となった際、その座を争ったライバル。

そして、その後は副会長として彼を支え続けた、三歳年上の藤崎葵だった。


彼女の顔はアルコールの熱に浮かされ、紅潮している。


どうやら、酔いの極致にあるようだった。


「うわーーーーーん! うわーーーーん! 聖仁くん! 結婚しちゃ、やだあああああ! うわーーーん!」


静まり返った会場に、彼女の甲高い泣き声が、場違いなほど激しく響き渡った。


周囲の友人たちが、慌てふためきながら、葵をなだめようとする。


「葵ちゃん、ちょっと!」


「落ち着いて、ほら!」


すると、葵は不意に泣き止んだ。


激しく上下していた肩がぴたりと静まり、涙に濡れた顔が上がる。

その目が据わったかと思うと、彼女は聖仁へと勢いよく向かってきた。


「聖仁くんっ! 私、卒業するとき! 貴方に告白したよね?! 付き合ってって!……なのに! ひっく……! 自分は勉学の徒で、まだあなたの人生を引き受けられる器ではないからダメーッ! っていったじゃないっ! わたしっ! 貴方が大学卒業するまで! 待ってたんだからね! ひっく! ひっく!」


絶叫の嵐が過ぎ去り、葵は力なく黙り込んだ。

激しい泣き喚きとアルコールの熱に、彼女自身も消耗しきったようだった。


静寂を破ったのは、別の女性による、震えるような呟きだった。


「……でも、そうですよ。先輩は、ズルイ……!」


声の主は、青葉瑞穂。

聖仁が高校三年生で生徒会長を務めていた折、彼を支え続けた、かつての副会長で一歳年下の後輩だ。

彼女の瞳には、祝福よりも、やり場のない憤りにも似た感情が宿っていた。


「先輩のファンクラブの子たちも……みんな、絶望してます!」


瑞穂は、堰を切ったように言葉を紡ぎ始めた。


「みんな、夢物語だってわかってても……それでも、先輩と付き合える可能性がゼロじゃないから! だから、みんなで支えてきたのに……っ!」


その瞳には、裏切られたような、熱い涙が溜まっていた。


「さっきのお父さんの話……十八歳のときに、もうカレンさんと出会ってたんですよね? 番組があったから、それは知ってましたけど……でも、もしかして、その頃から……つ、付き合ってたんじゃないですか!? もしそうだったならっ! ファンクラブの子たちに、『彼女はいない』なんて嘘をついてたってことですよね?!」


瑞穂の疑念は、あまりにも鋭く、そして真実を突いていた。


十八歳の聖仁は、父が仕組んだ策略によってカレンと出会い、肉体関係を持った。

二人の交際も、すでにその頃から始まっていた。


だが、聖仁には言い分があった。


大女優であるカレンと、幼さの残る高校生が密かに愛し合っているという事実。

それはマスコミの格好の餌食となり、彼女に多大な負担を強いることになる。


また、たとえ交際相手を伏せたとしても、ファンクラブが出来るほど女性人気の高い聖仁だ。


交際相手がいると知られただけで、犯人捜しのような詮索が始まる。

そして彼と少しでも親しくする女性が濡れ衣を着せられ、イジメや嫌がらせの標的となる可能性すらあったのだ。


かつての、頑固なほど真面目な聖仁であれば、それでも真実を告白し、さらに皆を絶望させたかもしれない。だが、今の彼は違う。

仲間と共に会社を築き、社会の荒波の中で決断を下す立場にある。


己の社会的立場を考え、聖仁は、さらなる嘘を重ねることを選んだ。


「葵さん。瑞穂さん。どうか落ち着いてほしい」


聖仁の声は、静かで、それでいて抗いがたい説得力を持って響いた。


「十八歳の時、カレンさんに初めて会ったとき、番組に協力させてもらった縁はあったけど、握手してお別れしただけだよ。皆も知っての通り、二つ目の番組では、演出とはいえ振られているしね。報道に電撃結婚とあった通り、カレンと付き合いはじめたのは、ごく最近なんだ」


周囲の若者たちの間から、安堵と納得が混じった溜息が漏れる。


瑞穂は、その言葉を頭では理解したようだったが、それでもやり場のない寂しさを抱えたまま、潤んだ瞳で俯いた。

葵は、まるで魂が抜けたかのように、ただ呆然と立ち尽くしている。


葵も瑞穂も、周囲の友人たちに促され、謝罪を口にし、静かに去っていった。


披露宴の終盤、予期せぬ波乱に緊張を味わった聖仁とカレン。

だが、その危機は乗り越え、輝かしい未来への開会式は無事に済んだようだ。


「ふぅ、なんとか終わりそうだね」


聖仁は深く息を吐き出し、隣に立つ妻の顔を覗き込んだ。

その瞳には、先ほどまでの緊張から解放された安堵の色が浮かんでいる。


「カレン、疲れただろう? もう始まってから五時間近くになる。父さんのライブ通信には緊張したけど、もう何もなさそうだね」


カレンは、ふっと肩の力を抜いた。

華やかなドレスを纏いながらも、その瞳には隠しきれない疲労の色が滲んでいる。


「そうね、どうやら一息つけそう」


彼女は小さく笑い、聖仁の手を強く握り直した。

先ほどまでの凛とした大女優の仮面が、愛する夫の前で、少しずつ解けていく。


「とにかく何か食べたいわ! ひっきりなしに皆が話しかけてくるんだもの、何も食べられやしない! うふふ」


列席者の中で、最後まで会場に留まっていたのは、聖仁と共にAI事業という荒野を切り拓いてきた若き仲間たちだった。


彼らは一通り、熱のこもった祝福の言葉を投げかけ、名残惜しそうに、しかし晴れやかな足取りで去っていく。

その背中を見送る聖仁とカレン。

宴の喧騒が遠ざかり、静寂が会場を支配しようとした、その時だった。


不意に、彼らの歩みが止まった。


「……ん? みんなどうしたの?」


聖仁が小さく首を傾げ、不可解な沈黙に眉をひそめる。

二十秒という、あまりにも長く、奇妙な静止。

仲間たちは、ただ無言のまま、背中を向けた姿勢で立ち尽くしている。


その不自然な間が、張り詰めた空気を生み出した――次の瞬間だった。


彼らが、突如として動き出した。


それは前進ではない。

まるで時間を巻き戻すかのように、全員が背中を向けたまま、後ろ歩きで聖仁たちへと向かってくる!


異常な光景に、聖仁たちは声も出せない。


背中を向けたまま、何かに操られる人形のように不気味に近づいてくる仲間たち。

その異様な足取りが、一瞬の静寂と困惑を会場に落とし込む。


だが、衝突の直前、彼らはピタリと動きを止めた。


そして、弾けるような勢いで身体を旋回させ、その場で踊りだしたのだ!


突如として鳴り響く、アップテンポな音楽。

仲間たちの躍動的なステップが、静まり返っていた会場に鮮やかな色彩とリズムを叩きつける。


それは、彼らが用意した最高のサプライズ――フラッシュモブだった。


「参ったな。フラッシュモブ……だよね? みんな、いつのまに仕込んだんだよ! もう! ごめん驚かせたね、カレン! あはは!」


聖仁は呆れたように、それでいて楽しげに笑い声を上げた。


「うふふ! 何だか楽しくなってきたわ!」


カレンもまた、その華やかなパフォーマンスに目を輝かせ、弾むような笑みを浮かべた。


踊り続けるメンバーたちは、聖仁とカレンの手をとり、まるで魔法にかけられたように別のレセプション会場へと誘っていく。


「み、みんな! こっちは僕たちの借りた場所じゃないぞ。勝手に入っちゃ不味いよ……!」


聖仁の困惑した声も、高揚するリズムと熱狂的なステップの前では、かき消されるように空虚に響く。

しぶしぶ、しかし抗いきれない奔流に押されるようにして、二人は隣の会場へと足を踏み入れた。


重厚な扉が開き、視界が開けた瞬間――聖仁とカレンは、言葉を失った。


「……え?! ど、どうして……!?」


「嘘でしょ……!? こんな、まさか……!」


そこには、先ほどまで退場し、去っていったはずの列席者たちが、全員揃って待ち構えていた。


政財界の大物たちも、華やかなドレスを纏った友人たちも。

そして、先ほど泣き崩れていた葵も、涙を浮かべていた瑞穂も!


新郎新婦の入場と同時に、会場中から、地鳴りのような盛大な拍手が湧き起こった。


聖仁とカレンの視界は、溢れ出す涙によって熱く、白く滲んでいた。


あまりの光景に、言葉など見つからない。

ただ、何度も何度も、皆に会釈することしかできなかった。


これほどまでに多くの人々に、これほどまでに温かく祝福されるなんて。

胸の奥が、熱い塊となってせり上がってくる。


「カレン、僕たちは、幸せなんだね。間違いないね……」


聖仁の声は、涙に震えていた。

その瞳には、愛する妻と、自分たちを包み込む光のような祝福の海が映っている。


「聖仁……! 貴方に逢えたおかげよ! こんなに感動したの、初めて!」


会場に二人が到着した後も、若き起業メンバーたちの奔放なステップは止まらない。


彼らは踊りながら、列席者の先頭に立つ重鎮――七十歳を超える大物衆議院議員の手を取り、自分達と一緒に踊るよう促した。


あまりにも立場と年齢を超えた要求に、聖仁の顔から一気に血の気が引いていく。


「ま、待ってくれ! 無茶しちゃいけない! こ、困ってらっしゃる!」


聖仁が慌てて制止しようとした、その時だった。


最初こそ困るそぶりを見せていた議員が、不意にリズムに乗ったのだ!

重々しい礼服を翻し、老人が軽やかにステップを踏み始めた。


それが引き金となった。

まるで堰を切ったように、先頭列に並んでいた政財界の大物たちが、全員一斉に踊りだしたのである。


「う、うそだろ!?」


聖仁は呆然と立ち尽くし、ただその光景を見つめることしかできなかった。


「お、お爺ちゃんたち! ダンス上手だわ……!」


カレンは驚きに目を見開きながらも、あまりの幸福感に、笑いと涙が混じった声を上げた。


先頭の列が踊りだせば、次の一列も、その次の列も、まるで魔法を解かれたかのように熱狂へと飲み込まれていく。


波紋のように広がるステップと歓声。

一列、また一列と、重々しい秩序は崩れ去り、会場は色彩豊かな情熱の渦へと変貌を遂げた。


もはやそこには、地位も名誉も、嫉妬も涙も存在しない。


先ほどまで、聖仁への想いに泣き崩れていた葵。

涙を浮かべて、詰め寄っていた瑞穂。

その2人も、今はただ、仲間たちの手を取り、弾けるような笑い声を上げながら、光の渦の中へと溶け込んでいった。


列席者全員が、それぞれのリズムで命を謳歌し、熱狂の海となって揺らめいている。


聖仁とカレンは、その奔流の中心で、ただ立ち尽くしていた。


胸の奥から、言葉では捉えきれない高揚感が、尽きることなく湧き上がってくる。

そして、これから二人で歩む未来への確かな自信が、二人の胸を満たしていた。


「カレン! 僕たち、幸せだ!」


聖仁の叫びは、音楽と歓声のなかで、愛する妻へと真っ直ぐに届けられた。


「聖仁! みんな! 最高よ!」


カレンもまた、溢れる涙を拭うことも忘れ、最高の笑顔で応えた。

二人の手は、互いの体温を確かめるように、より強く、固く結ばれていた。


三百人近い列席者たちが、熱狂の渦となって踊り狂う。

その巨大な人の波が、突如として左右に割れた。


まさに、モーセが海を割くかの如く。

あるいは、緻密に練り上げられたマスゲームの演目を見ているかのような、あまりにも鮮やかな道。


列席者の海が割れたその中心に、四人の人物が、静かに、そして圧倒的な存在感を放って立っていた。


感動の渦に呑まれ、天にも昇るような高揚感の中にいた聖仁とカレンは、心臓が肋骨を突き破らんばかりの衝撃に襲われた。


視界に飛び込んできたのは――

聖仁の母、恵子。

そして、カレンの両親である豊と歩。


そして、最後の一人……。


あまりにも強烈な、聖仁の父・征人の姿だった。


「……ま、まさか! ありえない!」


聖仁の口から、震えるような声が漏れた。

思考が、論理が、目の前の現実を拒絶して激しく衝突する。


「あの通信は間違いなく! ミャンマー北部からのライブ通信だった! 通信の発信地点は、試作型とはいえ、MOSシステムに確認させたんだ!」


ミャンマー北部の山奥から羽田への陸路と空路。

そして、羽田からここ、会場までの道のり。


どう考えても、三時間前後で到着できるはずがない。


四人の登場という衝撃的な事態をきっかけに、狂乱していたBGMが突如として途絶え、熱狂の踊りも、一瞬にして凍りついたように止まった。

静寂が会場を支配し、ただ、征人の大きく、大げさな拍手の音だけが響き渡る。


「列席者の皆さま!」


征人が、舞台俳優のような朗々とした声で、場を支配した。

その表情には、息子への慈しみと、サプライズを成功させた喜びが溢れていた。


「愛息子と、世界一美しい花嫁のために! 何か月もの特訓と準備! まことに! まことにっ! ありがとうございますっ!」


征人の豪快な拍手が、静寂を切り裂く。


「若き二人の新しい門出への、はなむけサプライズはっ……」


彼は、一語一語を刻みつけるように、声を張り上げた。


「だいっ! せいっ! こうっ! ですっ!」


その言葉が放たれた瞬間、会場の空気が爆発した。

列席者全員から、怒号にも似た、地鳴りのような熱狂的な歓声が迸る。


あまりに劇的で、あまりに完璧すぎるサプライズ。

聖仁とカレンは、その圧倒的な光景に、ただ茫然と立ち尽くし、言葉を失っていた。


「皆さま、長時間の披露宴で、お疲れのところ! まことに、まことにっ! ありがとうございましたっ!」


征人の豪快な声が会場に響き渡り、会場の熱狂は、一気に賑やかな笑いに変わった。


「これにて、本当に披露宴は終了ですっ! 何ヶ月も前から、皆様にはこの門出のため……ダンスの特訓をしていただきました! 特に松岡さん! 七十三歳の御身、見事なステップでしたぞ! まだまだお達者ですな! はははは!」


あまりにも常識外れで、それでいて場を盛り立てる征人の振る舞いに、会場は爆笑の渦に包まれた。

人々は満足げな表情を浮かべ、名残惜しみながらも、次々と退席の波となって会場を後にしていく。


宴の余韻が静かに溶けゆく中、征人は恵子、そしてカレンの両親と連れ立って、呆然と立ち尽くす聖仁とカレンの元へと歩み寄ってきた。


「いやぁ二人とも! 驚かせてしまったな」


征人の顔には、息子への溢れんばかりの愛と、最高のサプライズを成功させた男の、誇らしげな笑みが浮かんでいた。


「とにもかくにも、結婚おめでとう! おめでとうって何度も言ったが、何度いっても、いい言葉だよな!」


「……父さん、一体……どうやって……? 間に合うはずがないっ!」


思考が追いつかず、震える身体を必死に抑えて、聖仁は声を振り絞って問い詰めた。


ミャンマーから羽田へ、そしてここへと至る道のりを、どう考えても三時間前後で移動できるとは思えなかった。

あまりの事態に、彼の瞳には困惑と、父という存在への底知れぬ畏怖が混じり合っていた。


だが、征人は全く気にするそぶりを見せなかった。


「どうやってって、そりゃぁ飛んできたのさ」


おどけた口調で、征人は大仰に肩をすくめる。


「可愛い息子と、最高の花嫁! 二人の披露宴となれば、空だって飛べるさ! ああ、でも結婚式には間に合わなくてすまんなぁ。どうしても撮影の日取りが変えられなくてな。豊さん、歩さん、不義理いたしました! 申し訳ありませんでした!」


征人はそのまま、カレンの両親へと向き直り、頭を深く、丁寧に下げた。

そのあまりに自然で、かつ堂々とした振る舞いに、豊は慌てふためきながらも、弾むような声で応じた。


「そんな! やめてください、征人さん! いやぁ素晴らしいスピーチでしたよ!」


豊の瞳には、興奮と敬意が眩いほどに宿っている。


「あの現地でのスピーチで、会場中が湧いてました! それにこのサプライズ……! もう私も母さんも、感動で大泣きしてしまって! 本当に征人さんは、凄い方だ!」


歩もまた、その熱狂に加わるように、慈しむような眼差しを向けた。


「本当にねぇ、あんなに感動したのは初めてです。加恋も喜んでくれてましたし、何もかも征人さんのおかげです。ありがとうございました」


おそらく今日が初めての挨拶であるはずなのに、豊も歩も、征人と互いを名前で呼び合うことに、何ら抵抗を感じていない。

それどころか、まるで旧知の間柄のような親密さで、征人を尊敬のまなざしで見つめている。


その事実に、聖仁とカレンは、ただ戦慄するしかなかった。

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