伊織、頑張りなさいよ
私こと柊紗奈は、今日もミスコンの委員会に出ている。
うちのクラスの代表は伊織だ。私は本気で、あの子が優勝するんじゃないかと思っている。本人は「僕なんか」と言って首を振るだろうけど。まあ、元々男の子だし、わからないんだろうなぁ。
「じゃあ、以上十五名が参加ですね。一組は――」
配られた名簿に目を落とす。お、蓮君のクラスの代表は天音ちゃんか。
あの子も可愛いのよねえ。ふわふわした栗色の髪で、女の私でも抱きしめたくなっちゃう。
男の子的に、守りたくなる感じかな?
天音ちゃんのこと好きな男子、私は何人か知ってる。
蓮君はどう思ってるんだろう?
※
委員会が終わって、資料を抱えて廊下を歩いていると、向こうから見慣れた男の子が歩いてきた。
「お、蓮君」
「ああ、柊か」
「そっちのクラスのミスコン、天音さんなんだね」
「そうだな」
丁度いい。天音さんのことを聞いてみよう。
「天音さんのこと、どうお――」
「伊織って、お前のクラスの男子に人気あんの?」
「え、あ……」
思わず言葉が止まった。
天音ちゃんの話を、まるっと聞いていない。というか、頭に入ってすらいない顔をしている。
……これは、思っていた以上だった。
「やっぱ、みんな伊織を推薦したのかよ?」
あら。
あらあら。
伊織のことが気になっているのね。ミスコンに参加することには何も言わなかったけど、蓮君は何か思うところがあったみたい。
伊織、私はあんたの友達として援護射撃するわ。
「まあそうね」
「やっぱりかよ」
「クラスの男子は満場一致。反対ゼロだったわ」
蓮君の眉間に皺が寄る。
「授業中も、伊織を見てる男子、多いわよ」
「……」
「あの子、元は男の子でしょ? 結構隙が多いのよね」
途端に不機嫌になるのが目に見えてわかる。
「どんなだよ」
「男の子と話す時、距離が近いの」
「近いって、どのくらいだよ」
「肩が触れちゃうくらい?」
「はあ!?」
「平気で目の前でかがんだりするしね。この前なんか、消しゴム拾うのに男子の机の横でしゃがんでたわよ。制服の襟、開いてるのに」
蓮君の顔から表情が消えた。
「それであの子、見上げて笑うのよ」
「……」
「あと、」
「あと!?」
「体育から教室に戻ったとき、男子のグループで話すのね。その時、髪をこう、まとめ直すの。首筋出して。あれ絶対わかってやってないわ。だって本人、汗かいて暑いって顔しかしないもの」
「……あいつ」
「それとこの前なんか――」
言い終わる前に、蓮君は走り出していた。廊下を、教室のある方へ。先生に見つかったら怒られるわよ、と言いかけて、やめた。
まあ、半分くらいは話を盛ったけど。
あの二人には、これくらいでちょうどいい。
「伊織、頑張りなさいよ」
※
教室に戻ると、伊織が蓮君に怒られていた。
「お前、自分ってものをだな!」
「うう、なんで急に怒られてるの?」
「近いんだよ距離が! 男子と話すときはもっと離れろ!」
「え、そんなに近くないよ?」
「近いだろ! 今も近かったじゃねーか!」
「どうして蓮が決めるの?」
「それは……危ないからだ!」
「何が?」
「お前はわかんないだろうが、今の男ってのはだな!」
「ううう」
肩を落として黙り込む伊織の横で、蓮君は真っ赤な顔をして怒っている。教室の男子たちは全員、見て見ぬふりを決め込んでいた。賢明ね。
「紗奈ぁ。僕、何か悪いことしたのかな」
すがるような目で見上げてくる。ああ、この顔よ。この顔で男子の隣に立つんだから、そりゃ蓮君も走るわ。
私は伊織の頭をぽんと叩いた。
「愛されているのよ」
「え? どういうこと?」
「そのうちわかるわ」
わかんないだろうけどね、この子は。




