↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/15

僕が、ミスコン?

 六時間目の終わり際、黒板の隅に大きく「文化祭」と書かれていた。


 議題はとっくに出し物の話を終えて、最後の一項目に差しかかっている。委員長がチョークを持ったまま、教室をぐるりと見回した。


「それじゃあ、うちのクラスのミスコンは伊織さんが出場でいい?」

「賛成ー!」


 一斉に手が上がった。前も後ろも、窓際も廊下側も。誰ひとり迷った様子がない。


 え。


「え、僕!? 僕、出てもいいの?」

「みんながいいって言ってるんだから、いいんじゃないの?」


 隣の席から紗奈がしれっと言う。委員長はもう黒板に僕の名前を書き始めていた。

 ミスコン。可愛い女の子を選ぶやつ。


「だって紗奈。僕、男の子だったんだよ?」

「今は女の子でしょ? ほら」


 紗奈が僕の体をフニフニ触ってくる。


「や、やめてってば!」

「おー逃げちゃって。あんたはちゃんと女の子なんだから、胸張って出な!」

「うう。胸あんまりないの知ってるくせに」


 自分の体を見る。

 元々細い体だったからか、僕はあまり肉つきが良くない。

 一応、あるにはあるけど。自慢できるくらいじゃない。


「伊織」

「え?」


 気が付くと、しん、と教室が静まり返っていた。


 男子たちが全員、揃って窓の外を見ている。グラウンドの方角に珍しいものでもあるみたいな、妙に真剣な顔で。


 紗奈だけが額を押さえて、深々と溜息をついた。


「……あんたね。そう言う意味じゃなくて」

「な、なに? 僕、変なこと言った?」

「言ったわよ」

「え!?」



 ※



 放課後、紗奈が資料の束を抱えて戻ってきて、僕の机にどさりと置いた。僕が出ることになり、ミスコンの委員を引き受けてくれたらしい。


 一番上のプリントには、衣装の項目があった。


「ドレスかワンピース、当日までに用意すること。……ドレス!?」

「当たり前でしょ」

「僕、スカート穿いたことないよ!?」

「いい機会じゃない。慣れなさいよ」

「……似合うかな」

「似合うと断言するけど、蓮君に聞いて見なさい」

「ええ! 無理だよ。絶対バカにしてくる」

「うーん。もはや惚気なんじゃないかと思うわ」


 やっぱり蓮の前でスカートなんて、僕には絶対に無理だ。なんとか他の服で参加しよう。うん、着ぐるみとか。


「そういえば伊織」

「何?」

「ミスコンで三位までに入ると、記念にインタビューをされるんだけどね」

「うん」

「そこで告白すると絶対叶うらしいわよ」


 僕はプリントを整える手を止めた。


「それって、みんな見てるから断れないだけじゃないの?」

「まあ、それもあるかもね」


 紗奈はにやりと笑って、椅子の背もたれに肘を乗せる。


「ミスコンで三位以内に入るくらいの子から、全校生徒の前で告白されるのよ。断れる男子なんている?」


 そうかもしれない。

 だって蓮、可愛い女の子好きだし。今日も廊下ですれ違う子を目で追ってるのを、僕は何度も見ている。


 もし。もし、あの舞台の上に立てたら。


 蓮に、僕を可愛いって思ってもらえたなら。


 スポットライトが眩しくて客席はよく見えなくて、その中から僕は蓮を探す。あの背の高さなら、すぐ見つかるはずだ。見つけて、目が合って。


 ――蓮。僕、蓮のことが。


 うわ。

 うわ、うわ、うわ。


 顔が一気に熱くなった。プリントを取り落としそうになって、慌てて胸に抱え込む。


「……ふうん」


 はっとして顔を上げる。紗奈が頬杖をついて、実に楽しそうにこちらを眺めていた。


「な、なに」

「べつに?」


 紗奈は資料をまとめて立ち上がると、扉の手前で振り返り、ひらひらと手を振った。


「ドレス、一緒に選んであげるから覚悟しときなさいよ。楽しみにしてるわ」

「だから何が!」


 僕の声は、閉まりかけた扉に挟まれて消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。