たこ焼きとリボン
「むー」
「なに怒ってるんだよ」
「別に怒ってないし」
学校の帰り道。夕方の商店街は買い物客でにぎわっていて、僕らは並んで歩いていた。
僕はわかっている。蓮は年頃の男の子で、女の子が好きなことを。さっきだって、通り過ぎた他のクラスの女子を目で追ってた。ちゃんと見てたんだから。
「蓮って、可愛い女の子大好きだよね。さっきの子見てたの、分かってるんだから」
「そんなことねーよ。普通だよ普通。それに見てないって!」
「うそつき」
「見てないって言ってんだろ……」
でも、それは仕方ないことも分かってる。男の子って、可愛い女の子のこと見ちゃうもんね。僕だってそうだったし。
それなのに、蓮がほかの子を見ると落ち着かない。
蓮がどこを見てるかが気になっちゃうなんて。
「むー」
僕はしばらく、むくれながら歩いていた。
※
商店街を進むと、いい匂いが漂ってきた。たこ焼き屋さんの前だ。小学生の頃から通っている店で、おじさんとはもう顔なじみだった。
「お、伊織に蓮! くってけよ!」
「食べてきます! 蓮、いいよね?」
「ああ」
店先の小さなテーブルに向かい合って座る。舟皿から立ちのぼる湯気が、夕方の空気に溶けていった。
「うわぁ、おいしいね!」
「うん。うまいな」
蓮はどんどん食べていく。僕は一つ食べるのにも時間がかかる。熱いし、口が小さくなったせいで、一口で入らない。この体になってから、食べる量も減った。前はもっと食べられたのになあ。
「それ、食べないなら俺がもらうぞ」
「食べるってば」
そう言いながら、僕は蓮が持っていた楊枝を取り、その皿から一つ口へ運んだ。
「あ、こら」
「一個くらいいいでしょ」
もぐもぐと咀嚼して、飲み込んで――そこで、はたと気づいた。
今の楊枝。
蓮が、さっきまで使ってたやつ。
「……」
顔が一気に熱くなる。
え、待って。それって、その、間接的に。いや、僕、男だし。男同士でそんなの気にする方がおかしいし。
でも今の僕は女の子の体で、じゃあこれって普通に――
「何だ?恥ずかしいのかよ」
顔を上げると、蓮がにやにやしながらこっちを見ていた。余裕そうな顔で。
「別にそんなことないし。男同士普通でしょ」
「ま、そーだよなあ。俺もお前とご飯食べるの気楽でいいわ」
……む。
腹が立ってきた。
僕だけが意識してるの、考えてみればすごくムカつく。さっきの体育のとき、真っ赤になってたくせに。今はこんなに平気そうな顔をして。
僕だって。
僕だって、可愛い女の子として見られたい。
そうだ。
「ねえ、蓮」
「何だ?」
「僕のリボン、ちょっと崩れてるから直してくれない? 僕今、たこ焼きとお茶で、両手塞がってて」
「置けばいいじゃん」
「いいの!」
「まあ、いいけどさ」
蓮がテーブルの向こうから身を乗り出して、僕の胸元のリボンに手を伸ばす。指先が、制服の布地の上をぎこちなく探った。
「取れちゃいそうだから、一回、外して」
「お、おう」
するり、と結び目がほどける。蓮の視線が一瞬だけ泳いで、それから明後日の方向へ逃げた。目を逸らしたまま手だけを動かそうとするものだから、当然うまくいかない。何度も結び直しては、また崩れる。
僕も僕で、心臓がうるさかった。こんなに近くに蓮の顔がある。前髪が少し揺れていて、耳が赤い。
それに、蓮の手が僕の服に触れている。
自分から仕掛けたくせに、恥ずかしくてたまらない。
「……ちゃんと、見て」
蓮の肩が、ビクッと跳ねた。
一拍おいて、蓮がようやくこちらに視線を戻す。真剣な目つきで、けれど耳はもっと赤くなって、リボンの端をきゅっと引いた。
きれいな蝶結びが、僕の胸元におさまる。
「ほ、ほら、つけたぞ!」
蓮は勢いよく立ち上がった。慌てて皿を返すと、こちらを見ないまま逃げるように歩き出す。
「あ、待ってよ蓮!」
慌てて後を追う。夕日を背にした蓮の耳は、遠目にも真っ赤だった。
……ふふ。
ちょっとだけ、勝った気がした。




