表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/13

たこ焼きとリボン

「むー」

「なに怒ってるんだよ」

「別に怒ってないし」


 学校の帰り道。夕方の商店街は買い物客でにぎわっていて、僕らは並んで歩いていた。


 僕はわかっている。蓮は年頃の男の子で、女の子が好きなことを。さっきだって、通り過ぎた他のクラスの女子を目で追ってた。ちゃんと見てたんだから。


「蓮って、可愛い女の子大好きだよね。さっきの子見てたの、分かってるんだから」

「そんなことねーよ。普通だよ普通。それに見てないって!」

「うそつき」

「見てないって言ってんだろ……」


 でも、それは仕方ないことも分かってる。男の子って、可愛い女の子のこと見ちゃうもんね。僕だってそうだったし。


 それなのに、蓮がほかの子を見ると落ち着かない。

 蓮がどこを見てるかが気になっちゃうなんて。


「むー」


 僕はしばらく、むくれながら歩いていた。


  ※


 商店街を進むと、いい匂いが漂ってきた。たこ焼き屋さんの前だ。小学生の頃から通っている店で、おじさんとはもう顔なじみだった。


「お、伊織に蓮! くってけよ!」

「食べてきます! 蓮、いいよね?」

「ああ」


 店先の小さなテーブルに向かい合って座る。舟皿から立ちのぼる湯気が、夕方の空気に溶けていった。


「うわぁ、おいしいね!」

「うん。うまいな」


 蓮はどんどん食べていく。僕は一つ食べるのにも時間がかかる。熱いし、口が小さくなったせいで、一口で入らない。この体になってから、食べる量も減った。前はもっと食べられたのになあ。


「それ、食べないなら俺がもらうぞ」

「食べるってば」


 そう言いながら、僕は蓮が持っていた楊枝を取り、その皿から一つ口へ運んだ。


「あ、こら」

「一個くらいいいでしょ」


 もぐもぐと咀嚼して、飲み込んで――そこで、はたと気づいた。

 今の楊枝。

 蓮が、さっきまで使ってたやつ。


「……」


 顔が一気に熱くなる。

 え、待って。それって、その、間接的に。いや、僕、男だし。男同士でそんなの気にする方がおかしいし。

 でも今の僕は女の子の体で、じゃあこれって普通に――


「何だ?恥ずかしいのかよ」


 顔を上げると、蓮がにやにやしながらこっちを見ていた。余裕そうな顔で。


「別にそんなことないし。男同士普通でしょ」

「ま、そーだよなあ。俺もお前とご飯食べるの気楽でいいわ」


 ……む。


 腹が立ってきた。


 僕だけが意識してるの、考えてみればすごくムカつく。さっきの体育のとき、真っ赤になってたくせに。今はこんなに平気そうな顔をして。


 僕だって。

 僕だって、可愛い女の子として見られたい。


 そうだ。


「ねえ、蓮」

「何だ?」

「僕のリボン、ちょっと崩れてるから直してくれない? 僕今、たこ焼きとお茶で、両手塞がってて」

「置けばいいじゃん」

「いいの!」

「まあ、いいけどさ」


 蓮がテーブルの向こうから身を乗り出して、僕の胸元のリボンに手を伸ばす。指先が、制服の布地の上をぎこちなく探った。


「取れちゃいそうだから、一回、外して」

「お、おう」


 するり、と結び目がほどける。蓮の視線が一瞬だけ泳いで、それから明後日の方向へ逃げた。目を逸らしたまま手だけを動かそうとするものだから、当然うまくいかない。何度も結び直しては、また崩れる。


 僕も僕で、心臓がうるさかった。こんなに近くに蓮の顔がある。前髪が少し揺れていて、耳が赤い。

 それに、蓮の手が僕の服に触れている。

 自分から仕掛けたくせに、恥ずかしくてたまらない。


「……ちゃんと、見て」


 蓮の肩が、ビクッと跳ねた。

 一拍おいて、蓮がようやくこちらに視線を戻す。真剣な目つきで、けれど耳はもっと赤くなって、リボンの端をきゅっと引いた。


 きれいな蝶結びが、僕の胸元におさまる。


「ほ、ほら、つけたぞ!」


 蓮は勢いよく立ち上がった。慌てて皿を返すと、こちらを見ないまま逃げるように歩き出す。


「あ、待ってよ蓮!」


 慌てて後を追う。夕日を背にした蓮の耳は、遠目にも真っ赤だった。


 ……ふふ。


 ちょっとだけ、勝った気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ