まだ誰とも付き合ってない、学校で一番可愛い女子
ミスコンのエピローグ
「で、そこまで言ってもらって、まだ付き合ってないの?」
昼休みの教室で、紗奈がパックのジュースをすすりながら言った。
「ええ!? つ、付き合うなんて無理だよ」
「なんでよ」
「だって、蓮は僕のこと好きじゃないし」
「本当にバカね」
「でしょ? 僕、結構アタックしてると思うのに」
「いや、二人とも……まあ、あんたたちがバカじゃなかったらとっくに付き合ってるか」
「何か言った?」
「いいえ、なんでもないわ」
ミスコンが終わって、いつもの日常が戻ってきた。
あの後、一位だった先輩はメッセージタイムで告白をして、見事に結ばれたらしい。噂は本当だったんだ、と少し感心した。
「あんた今、学校の男どもから、なんて思われてるか知ってる?」
「え、わかんない」
「まだ誰とも付き合ってない、学校で一番可愛い女子」
「え」
「蓮君が前に出たのはみんな見たけどね。あれで諦めた子も多いわ」
紗奈はパックを机に置いて続ける。
「でも、告白されたわけでも付き合ってるわけでもないでしょ。それに、あんたすぐ男子と仲良くなるし。だからみんな、まだ望みがあると思ってるわけ」
「そんなわけないよ〜! 紗奈は大袈裟なんだから」
「伊織〜! 先輩が呼んでるよ〜」
廊下から声がかかった。
「はーい! ごめん紗奈、行ってくるね」
椅子を引いて立ち上がる。背後で紗奈が額を押さえて、何かぼそりと呟いたけれど、僕には聞こえなかった。
※
廊下に出ると、見たことのない先輩が壁にもたれて立っていた。背が高くて、髪を明るくしている。上級生の空気に、僕は少しだけ身構えた。
「ごめん急に呼んじゃって」
「いえ、大丈夫です。何か用ですか?」
「あー、うん。青野ってさ、狩りのゲームやってるだろ?」
「はい」
ミスコンで喋ったのを聞いていたんだろうか。
「この裏技知ってる? 実はさ――」
先輩が口にしたのは、僕がまったく知らない裏技だった。
「え、知らないです! どうやるんですか?」
思わず一歩踏み出す。だって裏技だ。しかも聞いたことないやつ。ゲーマーだったら知りたいと思うのは仕方ないし、それに蓮にも自慢できそうだし。
「あーそれはさ、ここでこうやって」
先輩がスマホの画面を見せてくれるので、覗き込むように顔を寄せた。肩が触れそうな距離。画面の光が近い。
これくらい普通だよね? 男同士なら、こんなの距離のうちに入らないし。
「へえ〜! そんなのあるんだ」
「まだあるぜ。でも全部は話せないからさ、繋がろうぜ。ラビットとかやってる?」
「あ、そういうのやってなくて。ライムでもいいですか? メッセージならやってます」
「いいよ。じゃあ登録するわ」
「えっと、QRコードは――」
「伊織。先生が呼んでるぞ」
低い声が割り込んできた。
振り返ると、廊下の角に蓮が立っていた。腕を組んで、こちらをじっと見ている。
「それにお前、近いって」
「え〜普通だよ」
「お前な」
「あ、先輩ごめんなさい。先生が呼んでるみたいなので行ってきます。また教えてくださいね!」
ぺこりと頭を下げて、蓮のほうへ小走りに戻る。すれ違いざま、蓮が僕の背中を軽く押して、廊下の先へ行かせた。
背後で、蓮の声がした。
「裏技なら、俺が聞いときますよ。先輩」
先輩が何か答えた気配はなかった。
※
「蓮のうそつき」
「はあ?」
夕方の帰り道。並んで歩きながら、僕は隣を睨み上げた。
「あの後ちゃんと職員室行ったんだからね。先生に聞いたら、呼んでないぞって」
「……」
「先生、きょとんとしてたよ。何かやらかしたのかって心配されちゃった」
「お前が悪い」
「むー。なんでよ」
腕をぽかぽか叩く。制服越しでも硬い感触がして、全然効いてなさそうだった。
「お前はもっと自覚しろって。周りからどう見られてるか」
またそれだ。
蓮はいつも僕のことを心配してくれる。距離が近いとか、隙があるとか、そういうことばかり言ってくる。
嬉しくないわけじゃない。でも、それって全部「幼馴染として」だ。妹を見張ってる兄みたいな顔で言われても、僕は嬉しくない。
僕は蓮に意識してほしいのに。本人はなんとも思ってないんだから。
……むかつく。
「蓮は知ってるの?」
「ん?」
「僕、『まだ誰とも付き合ってない、学校で一番可愛い女子』だって」
「――っ!」
蓮の足がぴたりと止まった。目を見開いて、それからものすごい速さで顔をそむける。
ふふん。ちょっとは効いたみたいだ。
「そんな子と一緒に帰れるなんて、よかったね。蓮」
「……」
このくらいで許してあげようかな。あんまり自分で言ってると、痛い人みたいになってくるし。
「お前と一緒に帰るの、楽しいよ」
「え?」
蓮は前を向いたまま、少しだけ歩幅を緩めた。
「それは昔も今も、変わらねーよ」
夕日が二人の影を長く伸ばしている。ランドセルを背負っていた頃も、この道を並んで歩いた。あの頃の僕らは同じくらいの背で、兄弟みたいに過ごしていたんだ。
何もかも変わってしまったのに、この時間だけは、あの頃のままだ。
「ぼ、僕も! そうだよ」
慌てて言ったせいで、声が裏返った。
蓮がこっちを見て、噴き出す。
「なんだよそれ」
「な、なんでもないもん!」
「変な声出てるじゃんか」
「蓮のせいだからね!」
僕がむきになるほど、蓮は肩を揺らして笑った。つられて僕も笑ってしまう。何がおかしいのか、自分でもよくわからない。ただ、おかしくてたまらない。
商店街のアーケードに、二人分の笑い声が響く。たこ焼き屋のおじさんが「うるせえぞ。たこ焼き食ってけ」と怒鳴って、それがまたおかしくて、僕らはもっと笑った。
こういう時間が、ずっと続けばいいのに。
そう思いながら、僕は少しだけ、蓮の隣に寄って歩いた。
ありがとうございましたー!
まだまだ書きたいことがありますが、ここで一区切りです。TSって素晴らしいですよね!
続きを読みたいと少しでも思っていただけたら嬉しいです。
評価、ブクマいただけると嬉しいです〜!




