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大帝国の若き皇帝に溺愛された。―転生皇帝は、私のために世界を滅ぼす―  作者: 奏楽雅


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第3話:すまないな

「状況を報告せよ」

城は謁見の間に戻る。

玉座に座るのももどかしく陛下の声が響き渡った。


王族となった私も、他の王族と共に玉座の横に立っていた。


「報告いたします」

軍務卿が青い顔をして片膝を落とす。


「帝国は王都手前2キロ。川向うで第1騎士団と近衛騎士団が交戦中」


「戦況は?」


「帝国2万に対し、王国騎士団は約1万。城壁を持たない王都は防衛に向かず、迎え撃って出るしかなく…

近衛に関しましては、許可もなく動かしましたこと、ことが終わり次第いかような罰でも受ける所存です」


「よい、良くやってくれている」


「近衛の第一、第二は残っております」


陛下は頷く、王家の者一人ひとりに付く直属の近衛のことだった。


「国境に展開させた兵はどうなっている?」


「朝の定時連絡兵以降、連絡が取れておりません。

連絡兵を送り続けていますが潰されている可能性が高く…なんども」


陛下が力なく王座に腰掛ける。


「何か手はないか、だいたい帝国はどこから来たのだ」


「帝国は山脈を越えてきたようです」


「山脈だと?」


「街道が出来て以来使用されなくなった、古い古い古道があった模様です」


「何故塞ぐか監視していなかった?」


「この国や英雄王以前の道で、もう忘れ去られた道だったようです」


「なぜ、そんな道を帝国が知っている…」


「申し訳ございません」


「来賓や市民の状況」


「来賓は、自国の護衛と共に離れていただいています。

民は避難するように通達はしておりますが、残るものもいて逃げ切れるものでは…

逆に有志の民兵となり戦いに参加するものが、現れております」


「そうか…

避難するものには手を貸し、有志の民兵には武器庫を開けよ」


「御意!」


軍務卿が脇に下がり部下に命令を下している。

陛下は泰然と座っておられるが、心中はそうではないのが表情や仕草から見て取れる。


私も足に力が入らず今にも膝から崩れそうだった。


ティタウィンは無事だろうか。

叶わぬ願いだが、横にいてほしかった。


横に並ぶ、家族となった王妃、王子の弟、妹姫に視線を向ける。


王妃はしっかりと立って凛としていらっしゃる。

視線が合うと微笑まれてくれた。

私に不安があるのを見抜いて気を使ってくれたのだろう。


王子も王女も不安を押し殺しているようだった。


ああ、これが王族なのね。


危機的状況こそこの人たちの凄さが、覚悟が見える。

私も見習わなくてはいけない。


「報告!」


既に開け放たれたままになっている謁見の間に伝令が駆け込んできた。


「ティタウィン王太子殿下が討ち死に!」


(な……)

言葉の意味がわからない

(え?)

思考が

(え?)

周りを見る。

何かみんなが驚いている?


眼の前が真っ白になる。

立っていられない。

いえ、既に床に手をつき腰が落ちていた。


「ティタウィンが!」

陛下の声が耳に入る。

視線を伝令に戻す。


「川向うでの戦いが劣勢となり王都手前まで前線を下げる事となった時に、橋で殿を務められた殿下が、矢を受けそのまま川に…」


「なぜ、なぜティタウィンが殿を!」


「被害甚大にて、後発された殿下の隊が務めるしかなく…」


―ドォオン!


玉座の肘掛けが叩かれる。


「じょ、状況は…」


「将軍より陛下には王都より、リスティン砦に向かっていただきたいと…」


「退避せよとか…」


陛下の声が謁見の間に響くと静まり返った。


聞こえてくるのは王都の外…剣戟と怒声、嬌声、悲鳴。


「メリシティア…」

陛下が呼んだのは王妃の名前。


王妃は、陛下に見られると静かに頷いた。


「レイタヴァン」

弟王子の名。


「近衛20名とシスタヴァ王国へ逃れよ」


「父上私も戦います、どうかお供をさせてください」


「王家の再興を頼む」


「…ぐ、ぐぅぅぅぅぅぅっ」


「急げ!近衛。レイタヴァンを頼む!」


「はっ」


近衛が王子を連れ出していく。

近衛の目にも光るものが見えた。


「リシテアルテティ」


「は、はい陛下」

立ち上がれぬまま涙を流している私に陛下が歩み寄る。


「折角の結婚式でこんなことになってしまった…

お前には申し訳ないと思う」


「陛下…」


「すまない。私の最後の頼みを聞いてくれないか?」


唇が震え、頷くことしかできない。


「アトリアを連れ、ここを離れてくれ」


「アトリア王女を?」


「父上!私も残ります!」

まだ幼い王女が叫んだ。


「アトリア。我が王族の血を絶やさないでくれ。お前が血統を護るんだ」


「父上!」


「頼む」


「へ、陛下と王妃は…」


陛下はそんな私の問いに一つ頷くと


「私はこのまま残り、私とメリシティアの命で国民の助命を願うつもりだ」


私は口を押さえる。

涙があふれる。


「すまないな、護衛の騎士も2人しか出してやれない。

どうかお前が、まだ幼い王女を守ってくれ、王族の血筋を頼む」


***


そうは言っても。


この段になっては逃げ延びるのは楽な話ではなかった。


いっそ、私もあの場に残りたかった。

嫁ぐときにはそういう覚悟も済ませていた。あまりにも、あまりにも早い、何も思い出も作れない刹那の結婚であったけど…


王子のいない世界で、どうしたら良いのかわからなかった。


だけど、あの優しい陛下やお妃様の願いを無下には出来ない。


決して。


城の裏手へ伸びる秘密通路は潰してあった。第二王子が逃げる時に崩していったのだろう。


私たちは、湖側への秘密通路を伝い脱出を試みた。


岩の重なり合った祠のような場所に出られたが、帝国軍からは離れた場所ではなかった。


女性の近衛騎士二人に手を引かれ歩き続ける。


「王族だ!捕まえろ」


「殺せ!」


小高い丘の上に、血のように赤い真紅の鎧を身につけた男が一人佇んでいた。


ここは王城に向かう時に通った路の外れ。

湖が視界いっぱいに広がり、王城を湖面に映し出す。

その王城は赤く燃えていた。


王女を私の後ろに隠すように立つ。


後ろからは追うものの怒声と蹄の音が迫る。


「が!」


「お、王女様!」


背後を振り向くと、近衛騎士が私たちを庇い矢を受けていた。


「申し訳ございません…」


そう言い残して近衛騎士は膝をつき倒れてしまった。


「ああ、ああ、ああぁ」

私は、アトリア王女に覆いかぶさるように蹲った。


お読みいただき有難う御座います。

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