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大帝国の若き皇帝に溺愛された。―転生皇帝は、私のために世界を滅ぼす―  作者: 奏楽雅


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第4話:アマルティア姫

花の香り…


ラベンダー?


一昨日、昨日、今日…日々の変わらぬ目覚めのように瞼を薄く開ける…


光の奔流が意識を現実へと引き戻してくれる。


…ここは?


白く光を反射して輝いているような、見知らぬ部屋だった。


柔らかな上質の布団。


差し込む光に、優しい風が通り過ぎる。


ラベンダーはこの風が…


私は身体を起こそうとする。

と、肩に激しい痛みを感じた。

「ンンンーアーーッ」

おおよそ今まで感じたことのない重い痛み。

体の中が深く抉られたかのような深い痛み。

汗が吹き出し、シーツを掻きむしる。


この痛み…


思い出した。


ティタウィン王子。


あ、あぅ


あああぁあぁあぁ


両手で目を覆って嗚咽を漏らす。

耐えていた涙が、心の苦しさに抗えない。


――アトリア王女は…


陛下の最後の願い。私の使命、アトリア王女。


私は痛む肩に手を添えて、歯を食いしばって身を起こす。


「まだ動かれてはいけない」


(え?)


「傷が開いてしまいます」


「誰ですか?」


「私ならここに…」


声の主は天蓋付きのベッドの直ぐ脇で控えるように静かに立っていた。


黒髪に痩躯の長身。切れ長の目だが目元が優しい。黒い貴族衣装の男。


見たことのないような美しい男だった。


「貴方は誰ですか。ここはいったい。アトリア王女は…」


「…まずは、落ち着いてください。ここには貴女を傷つける人はおりません。貴女といた少女も保護しています。ご安心を」


「安心?安心など出来ない…

誰か知っている人に会いたい

会えなければ何も信じられません…」


男は私の顔を覗き込むと、悲しげな影を落とした。


   パチン!


中指を弾き指を鳴らす。


「はい」


「王女をここに」


部屋の外の返事に、男はそう言った。


「会わせていただけるんですか?」


「会いたいのでございましょう?」


私は頷く。


「私は出ていましょう。外の者に声をかければ何でもご希望に添えるようにしておきます」


なんで?

なんでそこまでしてくれるの?

「貴方は誰ですか?」


「それではまた」

男は微笑みを浮かべ、恭しく掌を上に胸にあてて出て行ってしまった。


◇◇◇


既に決した戦い。


俺の手で崩れゆく英雄王の末裔の城。


俺は丘の上からひとり、湖に浮かぶような城を眺めていた。


思い出のこの場所から。


この地に帰ってきたという想いはあるがまだ道半ばだ。


20年前…


前世の俺が狂おしくも恋焦がれたあの方との最後の地…


俺の手の中で、力なく身を預けられたアマルティア姫。


今もこの手に感触が残る…


燻ぶり続ける妄執が、俺を戦へと駆り立てる。


生まれ変わっても許せぬ。


既に仇たる英雄王が死んでいても許せぬ。


何代でも祟るように、俺は突き進む。


まだだ、まだ奴の系譜は残っている。


根絶やしにせねば。


アマルティア姫のために…



「――王族だ!捕まえろ」


「――殺せ!」


王城の戦とは異なる、喧騒が近づく。


ここには誰も近づけるなと言っていたはずなのに。


丘に上がってくる者が目に入る。


俺は冷ややかな目でそれに視線を向ける。


純白の服を着た若い女と幼い少女。


甲冑をまとった女騎士が二人…


王族の生き残りか?


王族は全て滅する。そう決めている。


例外はない。


ここまで来れば俺の手で殺してやろう。


二人の女騎士が若い女を庇い矢に倒れる。


「ああ、ああ、ああぁ」


若い女が幼い少女に覆いかぶさるように蹲った。


待て


待て



その方は…


その御方は…


「待て!

止めろ!

射るな!

剣を納めろ!」


俺はあらん限りの声で叫んだ。


「我は皇帝アルファルドである!」


俺は走り出していた


自分の脚で


脇目も振らず、叫びながら。


「剣をひけい!」


抜き放った剣を大地に打ち付ける。


ドォォオオオオオオオン


血気に逸った兵士の動きすら止める力強い剣閃。


「何事だ?」


「皇帝陛下!」


俺は動きを止めた兵士と、蹲った若い女の間に入る。


「ここはもう良い!お前たちの働きは見た!持ち場に戻れ!」


有無を言わさぬ怒気のある命令。


「は、畏まりました」


俺の軍に問い返す者は居ない。

踵を打ち鳴らし敬礼すると来た道を戻って行く。


俺は跪いた若い女を見る。肩に矢を受け、少女と共に気を失っていた。


俺は、若い女にゆっくりと近づき、壊れ物を扱うかのようにその顔を優しく両手で掬い上げる。


「そうですか、そうなのですか…」


貴女もいらしたのですね。


俺は、矢を半分に折りその身を腕に抱く。


「ファリス!」


「ハッ」


「そちらの少女を頼む」

音もなく俺の背後から出てきた者に告げる。




横抱きで、俺の肩に乗せた若い女の顔を見る。

俺には、俺だからわかる。

「アマルティア姫…」


お読みいただき有難う御座います。

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