フロダクションブレーブ
「今日は、朝香ちゃんのオーディションよね?」
「はい、これからコンビニで待ち合わせです」
御堂刹那は、叔母でこの事務所の社長でもある中川好恵の質問に答えた。ブレーブは、『タレントジェム』という女性タレント専門の事務所を間借りしている小規模の声優事務所だ。
実は、本来このフロア全てがブレーブの事務所で、ブレーブも女性専門のタレント事務所だった。しかし、数ヶ月前に好恵が濡れ衣で逮捕され、タレントを守るために声優部門以外を切り離したのだ。そして、当時チーフマネージャーだった荒木早紀が準備していた事務所を急遽立ち上げ、彼女達を移籍させた、それが『タレントジェム』だ。
声優部門だけになたブレーブに所属していたのは、社長の好恵、マネージャーの真藤遙香、声優の御堂永遠、そして専務兼マネージャー兼声優の刹那の四人だけだった。好恵の濡れ衣が晴れてから改めて声優を募集し、ジェムから戻って来た一人が切幡朝香だ。
「永遠ちゃん以外にも、レギュラーを取ってくれる子が早く出てくれると助かるんだけど」
「あたしがいるじゃないですか!」
「せっちゃんが出演しているシリーズ終わっちゃったでしょ?」
「でも、まだ円盤が出るから配信やイベントがありますよ!」
『円盤』とは、Blu-rayやDVDのことだ。
「それが終わったらどうするの? 他に出演予定、無いわよね?」
「そ、それは……」
「刹那、あきらめてマネージャーと経営、それと副業に専念しなさい」
脇から遙香が口を挟んだ。
「マネージャーと経営は判りますけど、副業って何ですかッ、副業ってッ?」
「だって『拝み屋』は、ブレーブの大事な収入源でしょ?」
「それはそうですけど……」
そう、刹那は副業で拝み屋の真似事をさせられている。彼女は霊を視て、話を聞いて、話をすることが出来るのだ。しかし、呪術や呪文を使うことはできない。だから、基本的には相手の話を聞いて、相手が自分は最早生きていないことを悟ってくれるよう説得して除霊をしてきた。
「それだけじゃないでしょ、今はザッキーっていう相棒もいるんだし」
「師匠ッ、またあたしの頭の中をのぞいたんですかッ?」
無駄と判っているのに、思わず頭を両手で覆ってしまう。実は、遙香は刹那とは比べ物にならないほど強大な異能力を身に付けている。特に人の思考を読んだり、改竄したり、操ったりするのが得意だ。
「別に異能を使わなくたって、あんたの考えていることぐらい解るわよ」
「う……ッ」
「ただ、気になる子ではあるわね」
「どういうこと?」
好恵が遙香に聞いた。
「それについてはこれから話します。
刹那、あんたはそろそろ行かなくていいの?」
時計を見ると、思っていたより時間が経っている。
「あッ、行ってきます!」
文句を言う間もなく、刹那は慌てて事務所を飛びだした。




