朝香の部屋
けたたましいアラームの音で朝香は眼を覚ました。
また、あの夢か……
最近、毎晩見る森の中の夢。今まですっかり忘れていたが、朝香は就学前に祖父母の家に行った時、迷子になった事がある。いや、迷子というのは正確ではない。実際は行方不明になり大騒ぎになった。事件に巻き込まれた可能性も考えられたため、警察まで動いたのだ。
結局、四日後、祖父母の家の裏にある小さな森で見つかった。怪我もなく健康状態も良かったのだが、地元の人たちの中には『神隠し』に遭ったという人もいた。
朝香自身は、この時の記憶が全くない。夢はその時の記憶だろうか。
それじゃないなら、あのせいか……
今日は大切なオーディションがある、余計な事は考えたくない。しかし、嫌なことは向こうからやってくる。ならばせめて早めに終わらせて、気持ちを切り替える時間を確保しよう。
朝香は玄関に向かった。
ドアの前に立ち、深呼吸をする。そして鍵を開け、ノブをひねってゆっくりとドアを開ける。
あぁ、やっぱり……
朱い色が視界に入る。玄関の正面に彼岸花の束が置いてあった。
一、二、三……今日は一六本か……
つまり、彼岸花が置かれるようになって今日は一六日目という事だ。最初は一本だけだったので、誰かが落としたのかと考えることにした。しかし、翌日は二本、その次は三本と毎日増えて行く。
警察に届けたほうがいいかな。
ストーカーの仕業かも知れない、このまま増えて行けば四日後には二〇本になる。そして四日後は朝香の二十歳の誕生日でもあるのだ。今のところ彼岸花を置かれる以外に被害はないが、相手が自分の住所と誕生日を知っていると思うと怖くなる。
「とりあえず、今はオーディションの事だけ考えよう!」
吹っ切るように声に出して言うと、朝香は彼岸花を片付けて朝食の準備をした。




