戦争前の入浴 男湯
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かぽーん
はいどうもこんにちは。ただいま王都の宿屋備え付けの浴場で、修業メンバーの男性陣全員+じい様とアルマパパと総おじまで並んで修業の疲れを湯治中。
……俺の周りの面子が濃すぎて胸やけ起こしそうなんですが。どうしてこうなった。
「はぁー……老骨に染み渡るようじゃわい」
「ジジイ、またどっかで暴れてたのか? ちったあ腰据えて大人しくしてろよ」
「お前こそたかが一日程度の稽古で半日も寝込んでんじゃないわい。若いのに根性がないのぉアラン」
「うるせぇな、そっちのオッサンの鍛錬は剣の修業とは勝手が違うから変な疲れかたしたんだよ……」
「ほほう、いったいどんな鍛錬やっとったんじゃ?」
「強くなるために腕に電気流す鍛錬」
「意味が分からぬ……」
アイザワ君とじい様が孫と祖父さながらの和やかな会話をしている。少し口が悪いが。
こうして見ると年相応なところもあるにはあるんだが、普段のイメージとのギャップがちょっと……。
「あー、いい湯だなー。湯船に入るの何ヶ月ぶりだろ」
「たまにはこうやってゆっくり湯に浸かるのもいいもんだな。疲れが溶けてくみたいだ」
「よし。バレド、もうちょっとしたら後で水泳競争しようぜ!」
「しねぇよ! あんだけ泳ぎ回ってまだ動き足りねぇのかよ!」
ラディア君、大きめのお風呂に大はしゃぎの模様。泳ぐのは他のお客の迷惑になるからヤメロ。
あの兄貴のせいで重傷を負ってから、しばらくショックで寝込んだりしてたらしいがもう大丈夫そうだな。
何気に修業メンバーの中で一番魔力・気力操作の習得が早かったらしいし。レベルと年齢が一番若いから当然かもしれないが。
「剣王サマが二人並んでる図は、なんつーか圧がすげぇな……」
「風呂場で真っ裸だから迫力半減してるけどな」
「そういうガナン君もつい先日剣王になったそうじゃないか。ジョブチェンジおめでとう」
「あーどうも。つっても、アンタ方に比べたらまだまだヒヨッこにすぎねぇから剣王と名乗るにゃちと早い気もするがなぁ」
「なに、あと50年ばかし剣を振れば儂に追いつくぐらいはできるだろうさ。そんときゃ儂もさらに強くなっとるだろうがのぉ。ふぁっはっは」
「……どんだけ長生きする気なんだよジジイ」
「ん? 今でようやく折り返しくらいに思っとるが、それがどうした?」
「いや、なんでもねぇよ。……ジジイならホントにそんぐらい生きかねねぇな」
苦笑交じりに先達とお喋りを交わすガナンさんとアイザワ君。この人ら、案外仲が良いんだよな。
アイザワ君って孤高そうに見えて案外コミュ力あるよね。間違っても営業なんかに出せないくらい口調が荒っぽいけど。
皆でワイワイガヤガヤ話してる中で、ポツンと孤立している勇者君と俺。
……俺たちコミュ力低いのかな。全然会話に入れる気がしねぇ。
とか思っていたら、勇者君のほうから話しかけてきた。
はたから見てると、女の子と一緒に湯船に浸かりながら話しているように見えるんだろうなー。なお性別。
「梶川さん、明日から魔族と戦争なんだよな」
「ん、そうだね」
「あのさ、そもそも『魔族』って、『魔王』ってなんのために生まれてきてるんだろうな」
「んー、たとえば人々の負の感情が長年かけて凝縮した結果生まれたーって感じか、あるいは……」
「あるいは?」
「神様が、人減らしのためにあえて生まれさせているか、かな」
「……だよなぁ」
この世界の人口は、多い時代でもおおよそ5億人ほど。
一つの大陸に1億人程度の数しかいない。地球人の一割にも満たない数だ。
地球に酷似した惑星環境と面積、そして人の歴史の長さを考えると地球に比べて不自然なくらい少ない。
まるで誰かが人の数を意図的に調整しているかのように、資源が枯渇しない程度の人口までしか増えたことがないらしい。
その大きな要因となっているのが、魔王と魔族の存在。
丁度人口が5億人を超えたあたりで魔王が生まれ、各地で魔族が暗躍し人々を殺害して人口を減らしていく。
勇者に倒されるころにはほどよく人口が減り、また次の魔王が生まれるまで緩やかに数を増やしていく。
そういったことをもう何度も繰り返しつつこの世界は、この世界に生きる人類の歴史はここまで続いてきた。
地球のように必要以上に増えることも減ることもなく。
ちと乱暴な解決法ではあるが、世界を存続させるためにはこれくらいのことをしないといけないというのは分かる。
実際、地球は人口増えまくってるせいで資源枯渇までもってあと百年くらいだろうし。
人口の調整をしないあたり、地球には神様がいないんだろうか。それとも単にメンドイから放置しているだけか?
「あの神様、話してみると真面目で優しそうなお姉さんみたいな印象だったのに、そう考えるとちょっとイメージが変わってくるんだよなぁ」
「勇者の決戦スキルをあんな仕様にしてるくらいだし、案外腹黒なのかもよ」
「……ホント、なんで性別を多数決で決めるような仕組みにしたんだろなぁ……」
「趣味じゃね?」
「やっぱそうなのかなぁ……」
顔を湯船に浸してブクブクと泡立てながら落ち込む勇者君。マナー違反だからやめぃ。
いったいどんな神様だったのやら。勇者君の容姿を見る限りとりあえずショタコンぽいってのは分かるが。
……これ以上この話題を続けても仕方がないし、今後の相談でもしようか。
湯船から顔を上げたのをみて、勇者君に問いかけた。
「第3大陸、そんで魔王攻略の手筈は分かってるよな?」
「ああ。しっかし、残り枠の使いかたがまどろっこしいというかややこしいというか」
「今は詳しくは話せない。だが、必要なことなんだ。怪しく思う気持ちは分かるが、どうか信じてほしい」
「……もしも、仲間に入れたヤツがとんでもない悪党だったらどうすりゃいいんだか」
「あー、メニューが言うには勇者の任意でパーティから追い出せるらしいぞ」
「まあ、そういう救済措置が無けりゃ下手したら詰む可能性もあるし当然か」
「これが、現状の情報を整理して俺のメニューが考えた最善手だが、そちらのメニューはどう思う?」
俺の問いかけに対して、青い画面が目の前に表示された。
ちょっと不機嫌そうなフォントの白い文字でこちらに言葉を返している。
≪……なにか隠してませんか?≫
≪肯定。余計なことを言うと作戦が破綻する可能性があるため、一部情報を隠蔽している≫
≪そこは嘘でも隠し事なんかしてませんよーって言うところじゃないですか……?≫
≪今回の場合は嘘は言わずにおくことが、信頼獲得につながると判断した≫
≪あっそ。……言っておきますが、梶川さんたちの都合ばかり考えて、ネオラさんたちを陥れるようなことは断じて許しませんからね≫
≪勇者ネオライフも梶川光流にとっては既に仲間という認識のため、保護対象である。蘇生可能とはいえ一定以上の危害が加わるような事態は避けるべきと判断したうえで、今回の作戦を提案した≫
≪でも、それなら最初っから『その二人』も仲間枠に入れればいいじゃないですか。なんでわざわざ後から……?≫
勇者君に出した提案というか作戦では、勇者君・レヴィアリア・オリヴィエールに加えてアルマとレイナを加えて魔王と決戦。
勇天融合を使ったうえで、気力強化に刀剣術をはじめとした豊富で強力なスキルを使えばなんとかやり合えると見越しての策であって、決して無謀な特攻をさせるわけではない。
レイナの影潜りや身外身の術で奇襲のチャンスをつくり、アルマの魔法剣で能力値を底上げして勇者君の次元刃で攻撃する、といった具合に戦術の幅が大きく広げられるはずだ。
要は第一形態の時に奇襲をしかけてちゃっちゃと仕留めてしまおうということだ。
アルマとレイナを勇者君に預けるのは正直遺憾だが、世界を救うためだからね仕方ないね。
あくまで魔王を倒すために一時的に預けるだけだから、もしも万が一手を出したりしたら素手でもぎ取ってやるからそう思えと念押しもしておいたけど。
まあ、そんなに上手くいくわけないんだけどね。
実際は、もう少し複雑な流れになる予定だ。
……できれば避けたい作戦だったが、致し方ないか。はぁ……。
「さて、そろそろ上がるかな。ネオラ君、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳どっちがいい?」
「ん、フルーツで。……そんなもんまでわざわざ作ったのか? ホント料理好きだなぁ」
「いや、買ってきたもんだけど」
「どこで売ってたの? こっちでそんな飲み物見たことないけど……」
「日本だよ」
「……え」
「先日、21階層に行ってた時に日本に繋がる扉を見つけて、そこで色々大人買いしてきました。カップ麺とか、お菓子もあるよー」
「嘘ぉ!? ま、ま、マジ? 日本に、戻れたのかよ!?」
「うん。一度向こうに行ってからは、ファストトラベルでいつでも戻れるようになった」
「……ちょっと、オレも買い物しに戻っていいか?」
「今はダメ。魔王を倒したら、連れていってやるから頑張れよ」
「よし、よし! 約束だぞ! 絶対連れてってもらうからな! だからアンタも死ぬなよホントに!」
……約束を理由に、こちらの身を案じているシーンのよう見えなくもないが、この子多分ホントに欲望優先で死ぬなよって言ってるわー。
まあ、気持ちは分かるが。日本への未練があまり無いと思ってた俺でさえ、実際帰ってみると色々と足りないものが埋まっていくような気さえしたしな。主に食べ物関連で。
お読みいただきありがとうございます。
ちなみに異世界の神様ことパラレシア的に一番好みの容姿は地球の神だったり。やっぱショタコンじゃないか。
あくまで容姿だけで、中身は受け入れがたいようですが。
追記:のちのお話と矛盾する描写を修正いたしました。
>『一錠につき24時間だけ性別が入れ替わる謎の錠剤』楽しみです。―――
誰に使われることになるんでしょうねー。まあ多分本編終了後の後日談とか番外編とかで使われるでしょうけども。
メニューさんは基礎性能自体はそこまで変化していません。ただ、梶川光流の意に沿うようにふるまおうとするようになっていってるだけです。
>友達と話していたら―――
はい。こちらも残業続きで死ぬ間際ですがなにか_:(´ཀ`」 ∠):_
>梶川、せっかくだから、スパディアの頭髪を―――
老人虐待ヨクナイヨー。でも髪の毛毟る報復は面白そうなのでそのうちやるかもしれn(ry
そして嫁もとい婿に文字通り嬲られる勇者君。アカン。
>数日前から読み始めて追いつきました。―――
持ち上げられるもの限定ですし、ちょっとずつ砕いて収納しようにもさすがに手間と時間がかかりすぎてすぐに活動限界を迎えてしまうので無理じゃないかと。
魔王の最終目的についてはまた後のお話にて。




