喧嘩両成敗
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今回始めはアルマパパ視点です。
アルマ、そして彼と別れたのは半年ほど前だったか。
この年になると時の流れが早く感じるものだ。まるで昨日のことのように思い出せる。
……。
いや、やっぱりとても長く感じた。
アルマと会えない日々はとても長い、長すぎる。
せめて週に一回くらいは娘の顔を見たい!
それを半年! 半年だぞ!? 我ながらよく我慢できたと思う!
彼がいるということは、アルマもこの都市にいるのだろう。
というわけで、アルマの居場所を聞くために黒竜と共に飛んでいく彼を追っていったのだが、都市の外まで出たところでなぜか喧嘩を始めてしまった。
このままでは会話もままならないのでとりあえず喧嘩を止めておく。
「ふむ、黒竜相手にサシで戦えるようになったのか。なかなか強くなってきたんじゃないか?」
「ど、どうも……」
『まさかお主が出張ってくるとは思わなんだぞ、現剣王よ』
「うふふ、私もいるわよー」
『ぬおぉおうっ!!?』
いつのまにか天駆を使いながら後ろで微笑むルナティに、黒竜が大きく怯んだ。
竜族の威厳もへったくれもない姿ではあるが、無理もない。
前回の争いの際に、黒竜を瀕死にまで追い込んだのは主にルナティだからな。
『……なんの用だ。儂とそこの仮面の勝負を邪魔立てする理由があるのか?』
「いや、勝負の最中申し訳ない。少々彼に聞きたいことがあってね」
「な、なにか?」
「アルマちゃんがどこにいるのか尋ねたくてヒカルさんを追ってきたのだけど、どこにいるのかしら?」
「え? あ、ああ、アルマなら王宮の会議室に他の方々と一緒にいますよ」
「あらー、王宮にいたのね。よく気配を探ってみるべきだったかしら」
しまった、ヒカル君=アルマの居場所を知っていると思い込み短絡的に行動してしまったせいで、かえってアルマから遠のいてしまったようだ。
……娘と会えなかった期間が長くなるにつれ、冷静な思考ができなくなっていくのは我ながら問題だな。
前回もルナティが空間魔法を使えばすぐにダイジェルに辿り着けたであろうに、テンションが上がりすぎてわざわざ全力疾走で移動してしまったしな……。
「ところで、なんで黒竜さんと喧嘩していたのかしら?」
「……ええと」
「ちゃんとした理由もなく争うのは感心しませんよ?」
ルナティに問いかけられて、ヒカル君が言いよどむ。
ヒカル君らしからぬ、並々ならぬ怒りを感じたが黒竜はなにをしでかしたのやら。
話を聞いてみると、つい昨日開かれた武術大会の最中に魔族の襲撃があったそうな。
その中に拠点を任されている幹部も含まれており、どうにか撃退できたらしい。
しかし、そのことを疑問に思った王国の軍人が、実力を示すように言ってきてその証明のために黒竜と戦っているのだとか。
……イマイチ要領を得ないが、要は強さを見せるために黒竜と争っていたということでいいのか?
というか、魔族の幹部を倒せるほど強くなったのか。
ひと月前に第4大陸の幹部を倒し、いや夫婦喧嘩に巻き込んだ際にはまあまあ長く生き残っていたが、だとすると本当に強くなったものだ。
「ふむふむ、大体の話の流れは分かりました。……でも、それだけじゃないでしょう?」
「はい?」
「ヒカルさん、今まで見たことがないほど怒っていたでしょう。なにか他にも、黒竜さんと争う理由があるんじゃなくて?」
『うむ。そのことを問いかけても怒るばかりで会話にならんでな』
「喧嘩する前に、まずはなぜ怒っているのか話してからでも遅くはないと思いますよ?」
「……分かりました。ただ、一つだけお願いがあるのですが」
「なにかしら?」
「理由を話しても、決してこの喧嘩に手を出さないでいただきたいのです。これは、俺と黒竜の問題ですから」
「ええ、もちろん」
うむ。喧嘩を止めたのはアルマの居場所が聞きたかっただけで、決して喧嘩すること自体に干渉するつもりはない。
そんな無粋な真似をするとでも思われているのか? あまり見損なわないでほしいものだが。
『では、改めて聞くとしようか。仮面の丈夫よ、なにを怒っている?』
「……数か月前にランドライナムで開かれた狩猟祭の時に、お前の飼い主が強力な魔獣を何体か放った」
『うむ、覚えがあるぞ。あの時に将来有望そうな者が何人か混じっていたと、ラーナが言っておったな。……む、その時に「空を飛ぶ仮面の男」の話を聞いたが、それはお主のことか?』
「ああ。テイムを解除されたプラチナムコッコに襲われて危機に陥ってるパーティを助けていた」
「そのパーティのことで怒っているのかね?」
「それもありますがもう一つ、どうしても許せないことがあります」
「ふむ、それは?」
「アルマが、黒竜の飼い主が放った魔獣に襲われまして、あと少し助けるのが遅かったら死んでいたかもしれませんでした」
『むぅ、先程から言っておる「アルマ」とは何者だ? お主の番かなにか、か……!?』
うむ。事情はよく分かった。
「ルナティ、今日のランチはドラゴンステーキだ」
「うふふ、腕によりをかけるとしましょうかね」
~~~~~空飛ぶ仮面視点~~~~~
目を光らせながら口角を釣り上げて、剣と杖を構えるアルマの御両親。
待って待って待って! これ俺の喧嘩ですから! 止めて!
事前のお願いをあっさりと反故にするつもりのようで、黒竜に襲いかかるお二人。
真魔解放した魔族の幹部が可愛く見えるほどの、圧倒的な力を感じる!
『仮面、貴様ぁぁああ!! なにを言いおったのだぁあっ!!?』
「うるせぇな! だから喧嘩に手を出さないでってお願いしてただろうが!!」
『ならば何故こやつらは儂に襲いかかっておるのだ!? 明らかに殺すつもりで攻撃してきておるではないか!!』
「思ってたよりお二人の堪え性がなかったってだけだ! 諦めろ!」
俺を責める黒竜を適当にあしらう。
こうなってはもう誰にも止められないんじゃ……。
てか、やっぱスゲーな御両親。
アルマパパはたかが攻撃力200程度のミスリルの剣で、クッソ硬い黒竜の鱗をまるでヨウカンでも切るかのように容易く切り裂いている。
アルマママは普通の攻撃魔法を放っているが、その威力がおかしい。アルマが魔力操作で強化したかのようなとんでもない破壊力の魔法を連射していて、まるで弾幕STGのボムを通常弾の如く撃ちまくっているかのようだ。
……これ、黒竜死ぬんじゃね?
『ぬぐぉぉおお……!! こ、このままでは数年前の二の舞ではないか……!!』
「二の舞? あの時は各国のパワーバランスを考えて見逃したが、今回は容赦しないぞ」
「うふふ、姿焼きも美味しそうねー」
『い、いかん、このままでは本当に死ぬ……!!』
うーん、正直コイツを殺す気はなかったんだがなー。
ただちょっぴり痛い目見てもらったうえで反省してもらうつもりだったんだが、どうしたもんかね。
『お主ら、なんの恨みがあって儂を攻撃しておるのだ! というか相手が仮面からお主らに変わっただけで、状況なにも変わっておらんではないか!』
「アルマちゃんの命を危険に晒す悪い子はー」
「即・斬る。それだけだがなにか」
「まあ、俺も昨日魔族の幹部に洗脳されてアルマを殺しかけましたけど」
……あ、いかん。つい口を滑らせてしまっt―――――
「……ふむ、これは二人ともお仕置きが必要かなハハハ」
「詳しいお話は、その後で聞きましょうかウフフフフウフフフ」
ひいぃい!!? やばい、こっちにまで飛び火が!
御両親のターゲットに俺も追加されて、攻撃の苛烈さが増してきた。
アルマ、ごめん。今日、俺死ぬかも………、
その後、黒竜と一緒に『お仕置き』を受けて、ボロ雑巾のようになるまでボコボコにされてようやく収まった。
……うん、命があるだけマシと思っておこう。
お読みいただきありがとうございます。
>事情話したら両親もトカゲ抹殺に反対しないだろ――
反対するどころか直々にリンチするという。
なお主人公も一緒にボコられた模様。
>やったぜ、ドラゴンテイルゲットだ!!―――
斬り落とした尻尾は有効活用されることでしょう。
香辛料や調味料が豊富という設定を活かせるかどうかは分かりませんが(;´Д`)
>一度、勇者くんのパーティーに黒竜に入って――
黒竜に対する仕打ちが酷過ぎて草。
死ぬ寸前まで追いつめるくらいで許したげて(;´Д`)
>再生力弱いクソトカゲとか機動部隊が全力で殺しにかかりそう
むしろあの世界のクソトカゲが不死身すぎる。
>しっぽは切れたし逆鱗出なかったらリタイアですな…(あれ?)
逆鱗も天鱗も出ません。これモン〇ンじゃねーから!
>仕方ない「手、足、尻尾を魔力が尽きるまでちぎる」程度で――
コメント欄の復讐案がエグすぎて草。
みんな黒竜嫌い過ぎんよー。
>知ってますか? 某マインなクラフトではラスボスのドラゴンの事をハエ呼ばわりしているんですよ。――
エンダーはガチでやり合えばそこそこ強いイメージなんですがねー。
まあプレイ動画見てるだけでやったことないんですが。
>アホドラゴンからギルドの機密情報守らなきゃ(使命感)
むしろなんでコイツが機密扱いになっているのやら。
口止めはするでしょうが、黒竜がそれを守るかどうか微妙。
>⚠️注意⚠️ここのユーザーは作者様のせいでほぼ全ての魔物が食材に見えています。――
……まあ、確かにこれまでの魔獣を食材扱いばっかしてきたのは認めますが(;´Д`)
そして御両親の選択は両方ボコるという喧嘩両成敗。
>ドラゴンという圧倒的強者の肉は、当然ながら圧倒的強靭さが予想されます。―――
具体的な調理案まで書かれていて大草原。
しかもこれ多分生きたままやろうとしてないでしょうか。怖すぎワロタ。
>きっとヒカルさんも読者も某大罪の暴食さんが―――
ドラゴンステーキはロマンですからー。
どんな味なのか想像もつかないのが逆にそそられるんでしょうね。
>今夜はドラゴンテールステーキで、優勝するわね(ねっとり)
ドラゴンも部位によって違った美味しさがありそうですね。
例えばワニのフィレ肉は食べたことはありますが、モモ肉はどんな味なのかなーみたいな。
>あれ…?これ、ブラックドラゴン、死亡フラグじゃね…?―――
ミンチにはなりませんでしたが、ボロ雑巾にされた模様。
立ち直るのにしばらくかかりそうですねクォレハ……。
>アルマの両親やっぱりいるよね(。'-')ウンウン―――
シチューの発想はなかったですねー。
あとドラゴンの肉には特にバフ効果はありません。ただ、恐ろしく美味いだけです。
>アルマ両親なら鬼先生知ってそうな気がする〜―――
知ってます。実はちょっとだけ戦ったこともあったり。
でも、決着はつかなかったようで。
>カジカワ昔年の恨みここに晴れ…ッあ、剣王さんお久しぶりです(終了
二人は仲良くボコられて終了。
喧嘩はまた後日に持ち越しな模様。




