鍛錬班分け
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今回はアルマ視点です。
ヒカルと黒い竜が一緒に飛び立っていってから、大体1時間くらい経った。
街の外で喧嘩をしているのがここからでも分かるくらいの轟音がさっきまで鳴り響いていたけど、やっと収まった。
喧嘩が終わったのか、ヒカルと黒い竜が王宮に戻ってくるのが感じ取れた。
……両方ともすごく消耗しているみたいだけど、どんな大喧嘩をしていたんだろう。
ヒカルが黒い竜に怒っているのは、その飼い主が放った魔獣にとあるパーティと私が襲われて危険な目に遭ったことが要因みたい。
自分が害されても大して怒らないのに、親しい人なんかに危害を加えられるとすごく怒るから怖い。
……もう済んだことだし、そのためにあまり危険なことをしないでほしいと思いつつも、どこか嬉しいと感じてしまうのは悪いことなのかな。
ヒカルたちが出ていってからすぐに会議は終わって、他の部屋でこれからの鍛錬について希望者たちに対し説明会が開かれた。
部屋には鍛錬の教官役として呼ばれた特級職や上級職の人たちがいて、ある意味世界で一番の安全地帯になっていた。
教官は全員で10名。そのうち2名がヒカルと黒い竜を追って走り出ていったらしい。
その2名って、まさか……。
鍛錬の班分けは参加者の希望によって誰の下で鍛えるか決められるらしい。
剣士系の職業なら剣聖の教官に、弓が得意なら滅私弓師のアイナさんに教えてもらうといった具合だ。
……剣聖の教官がいるってことは、私の勘違いだったのかな。
鍛錬の参加希望者は意外に多く、武術大会で本選に進んでいなくとも参加したいという人も多かった。
私は、どうしようか。勝手に決めるのも悪いし、ヒカルが帰ってからでも遅くないだろうからもう少し待っていよう。
大体の班分けが済んだけど、私やレイナを含む何人かがまだ決めあぐねているみたい。
私とレイナ(あとヒヨコ)、アランシアン、昨日晩御飯を一緒に食べたメンバー、あとバレドライやラスフィーンも。
誰に師事するべきか悩んでいるというより、この中の誰にも師事する気が無い、といった様子だ。
「あの、あなた方はまだ決まらないのですか?」
「鍛錬を開始してから早い段階であれば、後で教官を変更することもできます。ひとまずどなたか暫定でも決めていただきたいのですが」
班分けをしているスタッフがこちらに催促をしてきたけど、誰も動く気配が無い。
困った様子でさらに催促をしてきたのに対して、アランシアンが不機嫌そうに口を開いた。
「ここに立ってる奴らは全員気付いてる。そのうえでとっくに誰に鍛えてもらうかは決まってんだよ」
「は、はい?」
「気付かなかった奴らは、そいつらに鍛えてもらえばそれでいいだろ。俺は来るまで待ってるから気にすんな」
困惑するスタッフを鬱陶しそうにあしらいつつ、部屋の入口のほうを向く。
……そろそろ着くころみたいだ。
数秒後、部屋の扉が勢いよく開かれて、見慣れた顔の男女が見えた。
……やっぱり、あの二人か。
その二人を見たスタッフが、驚きながらも二人に向かって問いかけようとする。
「あ、あなた方は! どちらに行ってらっしゃったんですか!? 皆さん、もうほとんど班分けを終えて―――」
詰め寄ってくるスタッフを無視しながら、二人ともとんでもない速さでこちらに駆け寄ってきた。
「アルマちゃぁぁぁぁああああんっ!!!」
「娘よぉぉおおおおおおおおおおっ!!!」
そのまま二人とも私に向かってダイブしてきた。
……この勢いで抱きしめられたら死にそうだし、気力操作で強化した縮地で回避しておく。
空振りした二人の身体が壁に激突したけど、壁がガラガラと崩れるだけで怪我はしていないみたいだ。……相変わらず、丈夫な身体。
「なんで避けるのー!?」
「ま、まさかこれが反抗期というやつか……!?」
「いや、これが普通の反応だと思う。というか大勢の前でそれは恥ずかしいから本当にやめてほしい」
「うふふ、ごめんなさいね。久々の親子の再会につい」
「まさか避けられるとはな。アルマも相当強くなったようで、嬉しい限りだよ」
ダイジェルでも似たような流れだった気がする。
……あのまま抱きしめられてたらまた窒息死寸前まで締め上げられていたかもしれない。
「あ、あの二人は、まさか『剣王』と『大魔導師』か!?」
「世界最強の夫婦と名高いSランク冒険者か……! まさかあの二人まで来ていたとは」
「というか親子っていうことは、あのアルマティナって子はまさか二人の娘ってことか……!? 道理で大会でも活躍していたわけだ」
「剣も魔法も、とんでもない腕だったからなぁ……」
やっぱり、私の両親は冒険者の間じゃ有名人みたいだ。
誇らしく思うのと同時に、こっちにまで視線がきてるのがちょっと嫌だけど。
「ヒカ、飛行士は?」
「あー、彼ならそろそろ戻ってくるだろう。……少々やりすぎたかな」
バサバサとなにかが羽ばたく音が窓のほうから聞こえてきた。
……飛んでいった時に比べて、魔力も気力も随分弱々しい状態で黒い竜とヒカルが帰ってきた。
「お、おお、戻ってきたな」
「う、うわぁ、竜もあの仮面もボロボロだな……」
どちらも酷い有様で、飛んでいるだけで精一杯といった具合だ。
あそこまでボロボロになるほど激しい喧嘩だったのかな……。
『……儂は謝罪せぬぞ。お主はまだ充分に力を示しておらぬからな。謝らせたければ、あの二人のように力ずくで儂を屈服させてみるがいい』
「……上等だ。いつかテメェぶっ飛ばしてやる」
着地した後に、死にそうな声でお互いに悪態を呟きながら睨み合ってる。……本当に、なにがあったの。
すごく険悪な雰囲気。多分、いつかまた喧嘩するんじゃないかと思う。
「さて、遅れて申し訳ない。今回の教官役に選ばれた者の一人、『剣王』のデュークリスと申します。よしなに」
「教官役『大魔導師』のルナティアラです。よろしくお願いしますね」
一礼しながら、手短に挨拶する二人。
その二人を見て、既に班を決めている人たちが声を上げた。
「あ、あの、やっぱりあの方々に師事させていただきたいのですが」
「お、俺も! 本物の剣王に鍛えてもらえるなんて、一生ものの栄誉だぞ!」
剣聖や魔導師の教官に師事することを選んでいた人たちが、次々と二人のほうへすり寄ってくる。
……より強くなるために、というよりも単に二人に師事するという肩書目当てみたい。
「おお、そうかそうか。いや結構。最近の若者は向上心豊かなようでなによりだ」
「うふふ、頑張り屋さんが多くて嬉しいわー」
それに対して、二人とも穏やかな笑顔で応対している、ように見える。
一見は、だけど。
「では、最初の試験だ。しっかり意識を保ってみせなさい」
「……え?」
そう告げた、次の瞬間。
全身に鳥肌が立つ感覚。
お父さんから、さっき軍人たちを昏倒させたヒカルより、さらに強い気迫の威圧が放たれた。
例えるなら、猛獣の咆哮。
いや、むしろ達人の突きが眉間に放たれたかのような、鋭い威圧感。
殺気も怒気もなく、敵意もない。
お父さんからしたら、ただちょっと睨んだくらいのものだろう。
「あ……がっ……」
「ごぶっ……」
けど、それでも常人にとっては急に思いっきり殴られたような強い衝撃を受けたようで、意識を保つだけでも困難。
現にすり寄ってきた人たちが、泡を吹いて次々と倒れていく。
……ううん、はたから見てただけの人たちも皆、昏倒するか怯えて震えあがってしまっている。
「ううむ、これくらいで縮こまってもらっては困るのだがな……」
「いま寝てしまった人たちと、そちらで怯えている方々はやめておいたほうがいいと思います。とても私たちの特訓にはついていけないでしょうからね。うふふ」
威圧を解いた後もガタガタと震えながら二人を見ている人たちがブンブンと頭を縦に振る。
確かに、この二人の修業に半端な覚悟で臨んでも、多分ロクなことにならないと思う。下手したら死ぬかも。
でも、どこの班にも入っていない選択をした者たちは、多少顔を顰めはしているけど怯えた様子はない。
誰もが、これくらいでなければ意味がないと言わんばかりに堂々と立って二人のほうを向いている。
「ふむ、こちらの十数人は見所があるようだね。随分若いのに手練れ揃いのようだ」
「鍛えがいがありそうねー。嬉しいわぁ」
こちら側を眺めながらちょっと嬉しそうに呟く二人。
その目はまるで小さな子を見守っているかのように微笑まし気で、かつ獲物を見つけた肉食獣のようにも見える。
……どんな心境になったらこんな顔ができるんだろう。
「……アンタが、ジジイの言っていた新しい剣王か」
「む? 君は、もしやアランシアン君か? おおー、大きくなったね」
「……俺を、知ってるのか?」
「……覚えていないか。10年近く前に小さかった君がスパディア殿と稽古をしている時に少し挨拶したくらいだし、無理もないか」
「そりゃ失礼。てか、アンタのほうこそよくそんなガキのこと覚えてたな」
「ははは、まだ小さかった君がスパディア殿に負かされて、とてつもない大声で泣いていたところは今でも鮮明に思い出せるよ」
「……っ」
ちょっと意地悪な顔で思い出話をするお父さんに、アランシアンが顔を顰める。
お父さん、アランシアンと会ったことがあるんだ。ちょっとびっくり。
「さて、我々が鍛えるのはこちらに立っている彼らでいいのかな?」
「うふふ、どの子もいい顔をしているわぁ。ちょっと生き急いでるようにも見えるけど、楽しみね」
目を光らせながらこちらを向くのはやめてほしい。
ヒカルのレベリングよりも、ずっと過酷な鍛錬が待っている予感がする。
鍛錬が終わるころには、何人か心が死んでいるかもしれない。
……私も、気合を入れて臨まないと。
『いつつつ……貴様があの二人に余計なことを言うからこんなことになったのだ。ああ、傷が痛いのぉ』
「そもそもテメェの飼い主が狩猟祭であんな騒ぎ起こしたのが原因だろうが。なに人のせいにしてんだクソトカゲ」
『ほほう、今この場で二回戦といくか? ん?』
「ああ? やんのかコラ」
あと、窓の外で延々と口喧嘩してる二人はそろそろいい加減にしてほしい。
ガラが悪すぎて見ている人たちが顔を引きつらせてる。……またこの場で暴れる前に止めておこう。
お読みいただきありがとうございます。
>ボロ雑巾にされているが、回復アイテムで回復して―――
最初っから最後まで、自分の手でボコらなければ気が済まないようで、一時休戦。
次の喧嘩はどうなることやら。
>口は災いのもとってやつだな。―――
なお一方的にリンチされて訓練どころではなかった模様。
>そして事情を知ったアルマに両親がしばらく無視されるまでがワンセット―――
そのことを言ったら絶対に面倒くさいことになるでしょうね。
これも反抗期か……! とか言って泣き濡れてそう。
>安定の主人公の自爆ww
でもアルマを殺しかけたことを黙っていたらそれはそれで問題あるという。
八方塞がりである。地獄かな?
>正直、ここはギャグ描写で流してほしくなかったわ
ちゃんとした喧嘩はまた後日。
黒竜もまだまだ本気出していませんのでご安心を。
>第4大陸の魔族幹部、夫婦喧嘩に巻き込まれて死んだのか…。―――
敵本陣で急に喧嘩になり、その巻き添えでいつの間にか死んでいたという不憫さ。
今後の攻略に関してはまた後のお話で。
>初見から一気読みしました――
狩猟祭の時点では二人に娘がいることを知らなかったようで。
そして今回アルマの存在を黒竜から聞かされて胃に穴が開く模様。イ㌔。
>今度はアルマパパが土下座ですね―――
何気に主人公がチクったらそれだけで家庭崩壊の危機という。
土下座でクレーター作ったら謝る相手吹っ飛ばしそうですね。




