第2話
草原を走る全裸の男、どう見ても変態だ。
「それにしてもこれからどうする?」
『まずは服を着るか、作るか、探して下さい。シュウ恥ずかしいです』
いいたい放題だな。
『前方にイーノを確認』
「くそっ、今はマズい」
方向を変え左回りに迂回しようとした。
『シュウ見つかりました。こちらに向かって来ます』
2頭だけのようだがこちらに向かって来ている。
「逃げきれるかっ」
全力で走ろうとしたその時だった。
また身体の芯から熱を感じる。
全身が熱くなり、急激に加速した。
先までの倍以上のスピードが出ている。
『シュウ、体温が急上昇しています、体温は現在120度まで上昇。微量の放射能の発生も確認』
「なにっ!?」
あっという間に引き離し、森の中に駆け込んだ。
1度立ち止まる。
身体の周りが熱で歪んで見える。
「こ、これは?」
『おそらく先程の注射の効果です。現在起きている現象を考えると、あの注射器の中身は異能系ゲノムです』
「これが異能?」
溢れんばかりのエネルギーを感じる。
しかもまだまだ引き出せるのが本能で分かった。
『能力から推測すると打ったのは【ゾ・ラース】のゲノムです』
「ゾ・ラース?聞いたこと無いな」
『ゾ・ラースは稀少種に分類される怪獣型のモンスターで体内炉心を持っています。先ほどの爆発は計測の結果、核爆発でしたので今起きている現象と整合性が取れます』
「核爆発かよ」
どうりで装備や辺りが燃え尽きてた訳だ。
『シュウ、コントロールして体温を押さえないと辺りが燃えます』
「おっと」
熱を引っ込めるとエネルギーも急速に減るのを感じた。
「あー、稀少種って言った?」
『はい、ゾ・ラースは現在全宇宙で1体しか確認されていません。完全体になる前に討伐されたのでデータも少ないです』
「た、高そうだね」
『値段は付けられていませんが、予想される価格では惑星数十個以上はすると想定されます』
「あー星より高いんだ」
船が残骸になったのはもしかしてそのせいなのか。ゲノムのせいか。
唯一救いがあるのはデータが少ないお陰で、能力を使ってもバレなそうってなくらいか。
しかし、発生する高熱や放射能は問題だ。
能力を使う度に毎回熱で装備が溶けたり、焼けたりしたらいくらお金があっても足りない。
「さっきのイーノ、まだ居るかな」
『こちらを見失ったようですが、先程の場所をうろうろとしています』
よし、アイツの毛皮を貰おう。
俺はそう考えイーノの方へ戻ることにした。
「武器が無くても異能があれば倒せるだろ?」
『はい、引き出すのは10%程の力で充分です。体温の目安は120度を目標にして下さい』
「了解」
加速しイーノに向かう。
数キロの距離をたった十数秒で走る。
とんでもなく速い。
イーノの横で止まると、顔を横からぶん殴る。
軽く殴っただけで頭蓋骨が木っ端微塵になったのが分かった。
続け様にもう1頭も仕留める。
「すっげーな!異能系はやっぱり最強だな!」
カシャッ。
『いいから速く服を着て下さい。公然わいせつ罪です』
「はいはい……」
イーノを2体とも担ぐ。
『皮の服の作り方はお教えします。まずは川へ行きましょう』
ステラの案内で川へと向かうのだった。
あれから数日たった。
俺は今、大森林の基地に戻って来ている。
服は皮を纏っている。
切り株に座って、干し肉を齧りながら、基地の入り口を眺めていた。
今基地から搭乗型の人型機動兵器が隊列を組み出ていくところだった。
ビーム系統の武器を装備しており、基地を出ると空へと飛んでいった。
「狩りかな?」
『そうですね。ただ、この星での狩りはコストの面では割に合わないですね』
「はあ~、やっぱりあるところにはあるもんだね金ってやつは」
惑星の国家レベル並の資産でも無いと買うどころか維持も出来ないだろう。
『しかし、このままだとこの星からなかなか出られませんね』
「うぐっ!」
痛いところを突かれる。
まあ、移動経費をくれる仕事でも探すしかないか。
「よし、行くか」
干し肉を食べ終わると、再び木の台を引きずり毛皮や牙を売りに行くのだった。
換金を済ませると、ハンターズショップに向かう。
「何とか最低限の装備を取り戻したな」
ウサギ族の店員のオススメを買った。
耐火性の防具に、剣と銃。
物資収納用にアイテムキューブも買った。今度のは熱にも耐性があるから溶けることもないだろう。
『あれから数日駆けずり回ったかいがありましたね、巷で原始人の噂が広まってましたよ』
「嫌な覚えられ方だったな」
道中ステラとたわいもない話をしながらリクエストセンターに向かう。
「普通の仕事が欲しいな」
まさかギラティスに遭遇するとは。
『そうそうあることでは無いですよ』
ステラのオススメじゃなかったか?
「今度のは自分で選ぶよ」
『?』
そう言ってパネルを操作する。
「う~ん、良いのが無いな。移動コストを考えるとどれもほとんど利益が出ない」
『……一応オススメを表示します』
ホログラムの横から不貞腐れた様子のステラが選んだ依頼が流れてくる。
「トカゲ族のヴァイキング達の依頼か……アイツら今は傭兵稼業してるんだっけ」
『依頼場所の荒野系の惑星のメバクは、人間族の星で銃火器を撃ち合う程度の技術レベルです。ヴァイキング達は魔法とドラゴンを使い圧倒しているようなので危険性は低いです』
「ふーん、悪くは無いけどな~」
なんか嫌な予感がするのは何でだろ。
『移動経費も出ますよ』
「……行くか」
依頼を受けるとスペースポートへ向かう。
スペースステーションを経由して向かわなければならない。
船に乗るとステーションN352へ向かう。
ステーションを離れて2週間程度しか経っていないが懐かしく感じる。
ステーションのポートで乗り換えると俺達は惑星メバクへ向かった。
大森林の基地と違ってこの星の基地は寂れている。店も少なく、移動用の生き物や機械をレンタルしているところくらいしかまともに機能していない。
船を降りると乾いた砂の匂いと共に、乾燥した空気が全身を包む。
荒野の惑星と言われるだけある。
星の半分が荒れ地だ。
ここでは数少ない緑のある場所に住み、荒野を戦場に何年も戦争を続けているようだ。
『依頼主は東の方に居るようです』
「了解」
乗り物をレンタルしに行く。
「オジサン、このバイクレンタルいくら?」
店員はタバコを吹かし、こちらに目だけを向ける。
「15万クレジットだ」
店員はそれだけ言って視線を外した。
「15万?冗談だろ。レンタル代で中古が買えるじゃないか!」
「……ここでの相場だ」
『シュウ。どうやらホントのようです。この星では燃料の価格が高騰しているようです。あちらに近くまでのバスがあります。そちらにしましょう』
ため息をつき、バス停に向かう。
「これも戦争の影響か」
『そのようですね』
バスに乗り目的地へと向かう。
移動中は戦争中とは思えないほど静かだった。
4時間の移動を終えるとヴァイキング達のキャンプに歩いて向かう。
「フード付きのマントを買っといて良かった」 日暮れが近いからなのか風が強くなる。
風が吹く度に砂が舞い上がっている。
『キャンプはもうすぐ見えてくる筈です』
「何とか日が落ちる前に着きそうだな」
少し上りになっている道を進む。
頂上に着くとみえた。
「流石に凄いな」
眼前に広がっている光景は何とも筆舌に尽くしがたい光景だった。
1つの街ほどの巨大なキャンプにはドラゴンが飛び交い吠える。ある場所では魔法の練習だろうか、炎や電気が一直線に走っている。
巨大なテントから一軒家程のテントが乱雑に建っている。
「ドラゴンか……」
生で見るのは初めてだ。
かなり離れているが威圧感を感じる。
『竜種は珍しくは無いですが、生息している場所や所持している者は少ないですからね』
しばらくの間その光景を目に焼き付けていた。
「とりあえず入り口の奴に話を聞こう」
我に返ると、キャンプの入り口に向かって歩きだしたのだった。
入り口の兵士に受注証明を見せると案内してくれることになった。
キャンプの中には多種族が居るが、1番多いのはやはりトカゲ族だ。
見た目はともかくとして、身長は人間とさして変わらないが、魔法への適正の高い種族だ。
「ハンターさんは魔法は使いますか?」
「いや、俺の星では魔法は研究されてなかったからな縁がなかったよ」
大抵は魔法か、科学かどちらかに偏っている。
雑談しながら1番大きなテントに向かう。
兵士はテントの入り口の守衛と話をすると、
「許可が出た入ってくれ」
そう言って俺に中へ入るように促した。
中に入る。
中は広く明るかった。
ロングハウス調にしているようだ。
長いテーブルが4列に並んで延びている。
1番奥の何段か上がった場所に1つだけ椅子がある。いや、玉座と言ってもいいだろう。そこに座っている男が居た。
風格のあるトカゲ族の男だった。
戦いの傷が称号のように幾つも身体に残っている。
男の玉座には魔法石の付いた大斧が立て掛けられていた。
隣の男が耳元で何かを囁くと、持っていた紙を下ろし、視線が俺に向く。
鋭い眼光だ。
見られただけで背筋が寒くなる。
強い。
身体能力は素でランク5はありそうだ。
「ようこそ、我がクランへ。仕事だな」
「ああ」
「よし、手短に行こう。我らの雇い主と敵対する国が傭兵を雇った。くそ忌々しいイタチ共だ。奴らは魔法が効きにくい上、ドラゴン用に何やら兵器を買ったらしい」
「イタチ族か」
「ああ、お前の仕事は簡単だ。イタチ共の野営地を破壊しつつ奥へと潜入し、その秘密兵器を壊してこい。1人で行けとは言わない、もちろん俺達の兵も一緒だ」
内容はシンプルな方だ。
「分かったら下がれ。仕事は明日からだ、今日の宿は用意させた。後で案内が来る」
俺は一礼するとその場を後にした。
入り口で案内係の兵士に連れられ宿に向かう。
その途中で、キャンプの影で項垂れた様子の1人のトカゲの兵士が見えた。
「こちらです」
「ああ……」
少し気にはなったが俺は案内されるままに自分のテントに向かうのだった。




