第1話
銀河の外れにある、中規模宇宙ステーション『N352』。
その高級ショップのショーウィンドウに、食い入るように張り付いている男がいた。
背中に長剣、腰にビームガンを下げた開拓士、シュウ(20歳)だ。
「いいな~。火炎操作能力と、こっちはサイコキネシスかどっちも希少なやつだ」
『シュウの日給から換算すると買えるまでは、約8000年ですね』
「ぐはっ!それを言うなよ。解ってるんだから」
モンスターのゲノムを肉体に注入すると誰でも超能力を手に入れる事が出来る時代となったが、貧乏な俺には縁遠い代物だった。
身体能力を上げるゲノムに比べ、異能や超能力を持ったモンスターの核を凝縮したゲノムは希少だ。
「今日こそ稼いでやるぞ!」
『ふっ……』
ステラに鼻で笑われながらも俺は、依頼を受けにリクエストセンターに向かった。
センターの中に入る。
依頼は大きなモノは壁や大画面のホログラムで広告されているが、仕事を受けるのはいくつも並んだ端末からだ。
いつものように端末のホログラムを操作する。
難易度や星毎に調べる事が出来るが、俺にはステラが居る。
ベータテスト応募で奇跡的に当たった、最新型の指輪型高性能ナビゲーションAIだ。
「ステラ俺向けの仕事をピックアップしてくれ」
『ラジャー』
いくつか依頼が表示される。
「水の星で海藻狩りはこの前やったし、化粧品用のスライム狩りは数が要るからな~」
『こちらのボア型の大型生物イーノ狩りをオススメします。場所は森の惑星系カタです』
「生死は問わずか……悪くないな」
依頼を受注し、そのままスペースポートへ向かう。
惑星カタへは定期運搬船が出ている。チケットを買い、製材会社の作業員や様々な異種族に混ざって船に乗り込んだ。
「はぁー、早く自分の船が欲しいぜ」
窓の外、飛び交う船の光を眺めながら呟く。
『到着まで後5分ですよ、シュウ』
「りょ~かい」
船が降り立ったのは、青々とした大森林の基地だ。
ハッチが開くと同時に、強烈な木の香りが鼻をくすぐる。製材所やロボット整備所が立ち並び、かなりの賑わいだ。
「移動するのにバイクを借りないとな」
『乗り物のレンタルは基地の出入り口付近で、方向は右手の奥です』
借りたバイクを走らせ、目的地へと向かう。
「こっちでいいんだな」
『はい、あと1時間程で到着です』
着いたのは草原だった。
「居たな」
イーノの数頭の群れが固まって移動している。全長5メートルほどの巨体だ。
バイクを走らせる。
「このまま突っ込むぞ。バイクの運転は任せる」
『了解です』
イーノ達がこちらに気付き歩みを止める。
背中の剣に手を掛けると、加速したバイクとすれ違い様にイーノに斬り込んだ。
白銀の煌めきと共に鮮血が上がる。
まずは一頭目。
頭からお尻まで横一線に真っ二つにした。
最低ランクとはいえゲノムで強化した肉体だ。この程度造作もない。
バイクから飛び降り、イーノに向かって行く。
一閃一殺。
逃げられる前に始末する。
残りの8頭はそれぞれの首を切り落とす。
「楽勝だな」
『ですね。シュウ、狩った獲物は新鮮なうちにキューブに入れて下さい』
「だな」
剣の血を振り払うと、腰に着けていた青く四角いキューブを手に取り、イーノに向ける。
あっという間に吸い込んでいく。
キューブは簡単にいうと携帯型の保管庫のようなものだ。時間の流れを遅くして鮮度を保つ機能がある。
俺のは勿論安物だが、それでもイーノ程度なら数百頭は入る。
「これでよしっ。さて、まだまだ狩らないと」
『次の位置は北西の山中ですね』
「いくぞ」
再びバイクを走らせた。
風が心地いい。
今日は稼げそうだ。
だんだんと日が落ちてきた。
2か所目でも手こずらずに片付ける事が出来た。悪くない収穫だ。
「今日はこの辺りで野宿か」
『シュウ、東に行くと開けた場所に出ます。そこがオススメです』
「オッケー」
そうしてバイクを走らせ、草原地帯に出た時だった。
「なんだあれ?」
雲に巨大な穴が開く。
遅れて響く轟音。
空から火の玉が降り注ぐ。
「おいおい、なんだってんだ」
『あれは……大破した宇宙船の残骸です』
2キロ程先で大小様々な残骸が衝撃と共に地面にぶつかり、強風が吹き荒れる。
「こりゃまたバラバラだな」
『シュウ。もしかしたら残骸に使えるものがあるかも』
「確かにな」
悪くない。後で回収屋が来るだろうが多少モノが無くなっても、燃え尽きたと思われるだろう。
急いで現場に向かう。
あちこちの残骸がまだ熱を持っていて蒸し風呂状態だ。
「ステラどうだ、使えるのはあるか?」
『いくつかの貨物コンテナやポッドが無事なようです』
「よし、それじゃあーー」
次の言葉を話そうとしたその時、ポッドの1つのドアが吹き飛ぶ。
「なっ」
煙の中から2つの緑色の光が見えた。
『マズい!ランク3のモンスターです』
「ちっ」
剣と銃を構える。
1歩前に出てくる。
実物を見るのは初めてだがコイツを知っている。ヒト型昆虫系モンスター【ギラティス】だ。
身長は2メートル程で、両手に伸縮する鎌があり、闘技場などの賭け試合で重宝されているらしい。
ギラティスと目が合う。
「ジーーーーーー!」
『来ます!』
目の前で剣から火花が散る。
速い。
もう少し構えるのが遅ければ首が飛んでいた。
振り向き様に銃を撃つが、ギラティスは横に走りあっさりと躱す。
『左前方!』
「くっ」
両手の鎌から斬撃が縦横無尽に迫りくる。
全力で弾く。
目の前では終わり無く火花が散っている。
長い。
終わりが見えない。
『下です!』
一瞬反応が遅れた。
辺りに鮮血が散る。
脇腹が燃えるように熱い。
ギラティスが身を低くして飛び込んで来て、すれ違い様に斬り付けたのだ。
「かはっ」
思わず膝をつきそうになる。
『シュウ!』
歯をくいしばりながら銃を構える。
ギラティスがニヤッと笑った気がした。
「当たらないのは知ってるよ」
銃を撃つ、だが足元に。
弾は閃光弾だ。
辺りを強烈な閃光が覆う。
「ステラ、回復するものはどこかに無いか?」
脇腹を抉られた傷をすぐに治せるような高級な回復薬なんて持ってない。
『いくつか可能性のある場所がありますが……
』
「1番近くのでいい。外れたらそれまでだ」
閃光弾が効いてるのも数十秒程だ。悠長に探している時間はない。
よろめきながらも案内された方へ向かう。
『こっちです!ロックは壊れています』
開閉スイッチでは開かない。
剣を隙間に差し込み無理矢理開けた。
注射器がいくつかあるがどれがなんなのか分からない。
何もしなければギラティスに殺されるか失血で死ぬ。
「クソッ、一か八かだ」
1番高そうなやつを手に取り首に注入した。
「クソッ外れか!」
何も起きない。
もう一つ注射器を取ろうと手を伸ばした時だった。
身体の芯から強烈な熱を感じる。
「ぐっあああああああああ!」
次の瞬間、世界が真っ白に染まる。
凄まじい爆発が起きた。
光と熱が辺りを焼き尽くす。
数秒程熱の放射が続いたが徐々に収まる。
熱気と煙の中1人の人影が立ち上がる。
「ゴホッゴホッ、ステラ?無事か?」
俺を中心に爆発したようだ。クレーターが出来ている。
まだ凄い熱気だ。残骸がの熱なんかとは比べ物にならないくらい。
『シュウ?シュウ!聞こえますか?』
聞きずらかったステラの声がだんだんとハッキリ聞こえてくる。
「ああ、聞こえてる」
大爆発の中無事だったのか、 流石は高性能ナビだな。
「そうだ脇腹は……って俺全裸だ!」
傷は治っているが装備も何もかも消し飛んでいる。
キューブも無いし、ギラティスもおそらく消し飛んだだろう。
キューブの中の現金やモンスターの死体が無いと星から出ることも出来ない。
「あー、ステラ。キューブはやっぱり?」
『安物ですからね。間違いなく消し飛んでますね』
命は助かったが一文無しになってしまった。
「あ、バイク」
『勿論弁償ですね』
一文無しかつ債務者か。
『なんにせよここを離れた方がいいかと』
「だな」
そう言って俺は全裸で焼け野原を走って行くのだった。
この出来事がその後の俺の人生を大きく変えるとはまだ、知るよしも無かった。




