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疑い病と侮られた僕だけが嘘を見抜き、村を救って成り上がる  作者: pekomaro


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誰の秘密も暴いてきた僕が、箱の底を見た

行灯の芯を短く切ってから、僕は寝台の下に手を伸ばした。


指先が触れたのは、小さな木箱だった。蓋(ふた)の合わせが少し緩くなっていて、持ち上げただけでかたんと乾いた音を立てる。こうして、わざわざ引き出してくることは滅多になかった。


セルマが寝入った後の家の中は静かだった。竈の残り火が壁に、ぼんやりとした橙色の影を落としている。


蓋を開けると、まず目に入ったのは丸くて、ざらついた感触の石だった。僕はそれを掌(てのひら)に乗せ、行灯の光にかざした。


(裏山で拾った、あの石だ)


風化の仕方が、周りの石とは明らかに違っていた。持ち帰って洗ったとき、規則的な溝が浮かび上がってしばらく声も出なかったのを覚えている。あれから、もう随分と時間が経っていた。


最初にこれを見せたのは、リゼだった。「わたしにも、いつか見せてくれるようになるといいな」——あの一言を聞いたとき、抱え込んでいたものが少しだけ軽くなった気がした。あれから、リゼはずっと変わらず隣にいる。疑うことを恐れず、そのまま受け止めてくれる唯一の人だ。


石の下には、指先ほどの、小さな金属の欠片が入っていた。表面には、うっすらとした刻みの跡が残っている。古木に巻きついていた帯から、やっと切り取れた一片だった。


あの帯を最初に見つけたときは、ただの奇妙な金属だとしか思わなかった。だが、時間が経つほどに、村のどんな鍬や鎌とも違う質感をしていることに気づく。魔物が決まった三日間しか現れないという規則性、そして、その規則がただ一度だけ崩れた月に、流れ者の一団が柵の近くにいたという記録——あの空白の意味を、ガイルははっきりと語ってはくれなかった。


「疑うなってのは、この谷だけの話じゃないぞ、坊主」


彼の声が、今も、耳の奥に残っている。谷を出た先にも、同じ言葉が転がっているのだとしたら——この村の異様さは、村だけのものではないのかもしれない。


僕は木箱を隣に置き、棚の上から、丸めた一枚の紙を取り出した。何度も広げ書き込んできたせいで、端がすっかり柔らかくなっている。自分で描いた村の周りの地図だった。魔物が現れる場所、絶対に避ける区画、見張り小屋の位置——線を引くたびに少しずつ、村の輪郭がはっきりしていった気がする。


灯火祭の夜、あの氾濫を乗り越えられたのも、この地図に書き込んだ規則性があったからだ。あの夜以来、ダレンは変わった。「これからは、お前の話をちゃんと聞く」——最初は負け惜しみのようにも聞こえた言葉が、今ではちゃんとした信頼に変わっている。あいつの持つスキルが他の誰かと妙に似ているという、あの既視感も、まだ答えの出ない棘として僕の中に残っていた。


地図を丸め直しながら、僕は、そのまましばらく壁を見つめた。


思い出すのは、井戸の底で見た、あの金属質の光のことだった。あの違和感が村長さんの帳簿の改ざんに繋がり、そこから初めて疑いが力に変わった夜が来た。「これは呪いじゃない。武器だ」——あの夜の自分の声を、今でもはっきりと思い出せる。


目覚めの儀で使われる、あの聖具。あまりに精巧すぎるその作りに初めて違和感を持ったのも、随分前のことだ。祝詞の語順は地域ごとに違うのに、意味だけがどの村でも一致するという不自然さも、いまだに納得できる説明を持たないまま頭の隅に居座っている。


そして——"無ノ子"。トビンが、その判定を受けたときのことを思い出す。過去にも同じ判定を受けた子供が何人かいたはずなのに、村の記録はその存在を、まるで綺麗に消してしまうように途切れていた。オーレンさんの巡回、面談の妙な念入りさ。トビンが漏らした、あの言葉が今も引っかかっている。目が覚めた瞬間、誰かに見られてるような気がしないか——あの時はただの奇妙な質問だと思っていた。だが今は、あの問い自体が何かの"確認"だったように思えてくる。


トビンは今、村の中で静かに、けれど確かに、自分の場所を見つけ始めている。まだ胸を張れるほどではないかもしれないが、笑うことは前よりずっと増えた。あの子を、これからも見捨てるつもりはない。


カイルは、この一年で大きく変わった。自衛団の腕章を誇らしげに掲げていた顔。「疑わず、決められたことをきっちりやれる奴が、一番強い」——その言葉を迷いなく喜べる場所に、今、カイルは立っている。僕とは見ている方向が違う。それでも、井戸端で見せたあの小さな気遣いは本物だった。


祝詞の一致、聖具の精巧さ、井戸の光——形はまるで違うのに、辿り着く先だけがいつも同じ場所に見えた。まるで誰かが、この村のすべてをあらかじめ一枚の絵として描いていたかのように。


――一つずつ、拾い上げてきたつもりだった。


石、金属の欠片、地図の線、誰かの言葉、誰かの怯え、誰かの変化——全部、僕の中に、確かな形で残っている。


僕はもう一度、木箱の中を見た。空になった箱の底に、木目だけが静かに浮かんでいる。


(誰の欠片も、ちゃんと拾ってきたはずなのに)


その時、ふと、手が止まった。


父さんと、母さんのことだけ、僕の手の中には、何もない。


石も、欠片も、記録も、証言も——何一つ。あるのは、「昔の話だよ」というセルマの言葉と、「まだ話せることが少ない」という先日の一言だけ。それさえも、僕自身が拾いに行ったものではなかった。


胸の奥に落ちてきたのは、いつもの鋭い感覚ではなかった。もっと重く、もっと静かに、沈んでいくような感覚だった。


これだけ、あちこちの違和感を拾い集めてきたのに——僕は、自分の両親のことを、ほとんど何も知らない。


その事実に気づいた瞬間、これまで積み重ねてきた欠片の一つ一つが急に、意味の違うものに見えてきた。誰の秘密でも暴いてきたはずの僕が、一番近くにある秘密には、指一本、触れていなかったのだ。


僕は、空になった木箱の蓋を、そっと閉じた。かたんと、さっきよりも小さな音が鳴った。


行灯の火を吹き消す前に、僕はもう一度だけ、闇の中で呟いた。


「父さんと、母さんは、どんな人だったんだろう」


答える者は誰もいなかった。だが、その問いはもう、簡単には消えない場所に根を張り始めていた。


窓の外で、夜風が乾いた葉を鳴らす音がした。木箱は明日また、寝台の下に戻すだろう。だが、今夜確かめたことは、もう戻せない。


僕は行灯の火をゆっくりと吹き消した。


明日、もう一度、セルマに聞いてみよう。今度は逃げ場を作らせないやり方で。それでも足りなければ——記録を自分の目で確かめるしかない。

今回は少し立ち止まって、これまでの欠片を並べ直す回でした。次回、セルマとの続きの話に進みます。

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