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疑い病と侮られた僕だけが嘘を見抜き、村を救って成り上がる  作者: pekomaro


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巡回が早まる年を、記録から言い当てる

「爺さん、オーレン様が村に来た日って記録に残ってますか」


僕は、村の書庫番の老人を再び訪ねた。調律士オーレンは、村の子供たちの目覚めの儀に合わせて決まって村を訪れる。「一年に一度、灯の谷をまわっている」というのが村人たちの共通の理解だったが、宿屋の「視察」の一件から、僕は村を訪れる誰かの周期というものに、以前よりも敏感になっていた。


「来訪の記録か? そんなもの、わざわざ残す決まりはないはずだが……。ああ、でも、目覚めの儀のたびに儀式の日付は書き残してあるな」


老人は快く、古い記録帳のページを何冊もめくり、目覚めの儀の日付を僕の前に並べてくれた。


僕はその日付を一つずつ紙に書き写し、隣に前年の日付との差を書き加えていった。ある年は十一か月。次の年は一年と二か月。またその次は十か月――間隔は決して一定ではなかった。書き写した紙の余白には、月と日の数字が縦に並び、その隣に差を示す小さな数字が並んでいく。


「爺さん、この間隔、ばらばらですよね。一年ぴったりの年、少ないみたいですけど」


老人はもう一度日付を見比べて、眉をひそめた。


「……そうだな。言われてみれば、そうかもしれん」


僕はさらに記録を見比べ、あることに気づいた。間隔が短くなった年は、いつも、その前の年に何かしらの異例があった年だった。獣の氾濫があった年、村で騒ぎがあった年――そういう年の翌年は、次のオーレンの巡回が明らかに早まっている。十一か月の年、十か月の年、いずれも前年の記録の欄外に、何か騒ぎがあったことを示す短い書き込みが残っていた。


(一年に一度、なんて決まった周期じゃない。何かが起きた村には、次の巡回が早く来る)


書庫を出る道で、僕はダレンに会った。


「巡回の記録、少し調べてて。一年に一度って言われてるけど、実際の間隔はばらばらだった。何かあった年の翌年は早く来られてるみたいで」


ダレンは、少し驚いた顔をした。


「……そういえば、俺の儀式の前の年、村で小さな火事があった。あのときも、オーレン様、いつもより早く来られた気がするな」


「本当に?」


「はっきり覚えてるわけじゃないが……。お前の話を聞くと、そういえばって思い出すことが多いな。俺たちは、そういうことに気づかないようにできてるんじゃないか」


その一言は、以前のダレンの口からは、とても出てこなかったはずの台詞だった。


翌朝、井戸端でセルマに、それとなく聞いてみた。


「セルマ、オーレン様の巡回って、いつも一年に一度って本当なのかな」


セルマは、水桶を運ぶ手を止め、僕をじっと見た。


「さあね。そういうものだと、教えられてきたよ。それ以上は、深く考えるもんじゃない」


「でも、記録を見たら間隔がばらばらで」


セルマの表情が、一瞬強張った。


「ノア。オーレン様が、いつ来られるかなんて、こっちが決められることじゃないんだ。来られたときに来られたんだと思って、それでいいんだよ」


セルマはそう言って水桶を抱え直し、それ以上は取り合わずに家の中へ入っていった。


その背中を見送りながら、僕は決めた。大人に聞いても答えは出ない。だったら、自分で確かめる。


家に戻ってから、僕はこれまで書き写した日付と、これまで集めた別の記録を、机の上に並べ直した。宿屋の帳簿にあった名前のない客――決まって三日間だけ泊まる、視察の客。避けられた区画の見張り小屋――半年間一度も獣が出ない、その代わりに床の擦れた跡が残っていた場所。そして、獣そのものが持つ、月に一度・決まった三日間だけの出現周期。三枚の紙を、日付の欄が揃うように上下にずらして並べる。指でなぞりながら、宿の帳簿の三日間と、獣の周期の三日間が、いつも同じ月に重なっているかを確かめていく。何度数え直しても、ずれはなかった。


三日間、という数字が、あちこちに顔を出している。視察の客の滞在日数と、獣の出現周期が、同じ長さだということには前にも気づいていた。だが今、巡回の間隔まで並べてみると、見えてくるものがあった。


(オーレン様の巡回そのものが、一年周期で動いているんじゃない。何かが起きたときだけ、この村の三日間に合わせて早められている。視察の客も、獣の周期も、巡回の乱れも――全部、同じ一つのものが時計になって動いている)


僕は机の隅に置いていた古い紙を、もう一枚取り出した。前に、詰所の灯り台に、普段は使われない灯りが吊るされている夜があることに気づき、意味も分からないまま日付だけを書き留めておいたものだった。その日付を、宿の客の記録と、獣の周期の記録に並べてみる。灯りが吊るされていた夜は、いつも、三日間の始まりの夜と重なっていた。それ以外の夜には、一度も吊るされていない。


次にその三日間が巡ってくるとすれば、いつになるのか。巡回はばらばらでも、獣と視察の三日間だけは、月ごとに少しの狂いもなく繰り返されている。この三日間さえ基準にすれば、次の始まりの夜は計算できるはずだった。これまでの間隔から、僕は日付を一つ数えて紙に書いた。もしこの読みが正しければ、その夜、詰所の灯り台にはまた灯りが吊るされるはずだった。


その夜、僕はダレンに声をかけた。


「今夜、詰所の灯り台が見える場所まで、一緒に来てくれないか。確かめたいことがある」


ダレンは一瞬迷ったが、結局はうなずいた。


「分かった。約束したからな」


僕たちは、詰所を見渡せる丘の上まで登った。夜風が冷たく、草を踏む音が思ったより大きく響いた。灯り台が見える位置まで来ると、僕は紙を取り出し、今夜の日付に丸をつけた。この日が、僕の計算した通りの夜なら――


しばらく待つと、詰所の灯り台に、いつもは吊るされていない灯りが吊るされた。前に書き留めた夜と、まったく同じ吊り方だった。


「当たってたな。お前の勘っていうより、これは計算だ」


ダレンが、低い声でそう言った。


「うん。何日後に灯りが吊るされるか、先に紙に書いておいた。今夜、その通りになった。視察の客の間隔と、獣の周期と、巡回の乱れ方――全部、同じ三日間に合わせて動いてる。これは偶然じゃない」


「じゃあ、次にこの三日間が来るのも、お前なら読めるってことか」


「多分。でも、それが分かったところで、何が変わるのかは、まだ分からない」


丘を下りながら、ダレンはしばらく黙っていた。それでも、以前のような半信半疑の沈黙ではなかった。


家に戻ってからも、灯りが吊るされた日付を書き写した紙が、机の上に残っていた。セルマの言葉が、いつまでも耳の奥に残っていた。「来られたときに、来られたんだと思って」。それは、答えを知らない人の言葉には聞こえなかった。それでも、僕はもう、答えを待つだけの側ではなくなっていた。

セルマのセリフ、今回のいちばんの見どころです。

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